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<東京怪談ノベル(シングル)>


どちらがスカウト?





 白銀の細い銀糸の様な髪はさらさらと風になびく。
 その長い髪を指でそっと耳にかけながら、赤い瞳は何処か艶やかさを感じさせる。

 赤と黒を貴重にしたゴシック&ロリータ。
 白銀の長い髪に整った髪。そして瞳は深紅の赤。
 それはさながら作り物の様な美しさを放っている為、周囲の人々からは視線を集めてしまうのは自然の成り行きと言えるだろう。

「可愛い子居ないかなー」

 その言葉は、決してゴシック&ロリータの服に身を包んだその子に向けて放たれた言葉ではない。
 正確には、その本人が紡いだ言葉なのだ。



 因幡 白兎は俗に言う“男の娘”である。
 薄ら寒さすら感じさせる様なその美しい見た目。長くきめ細やかな銀髪も相俟って、白兎は少女と勘違いされる事が多い。
 幼い頃からそんな環境にいた白兎は、その自分の境遇を卑下するどころか、それを武器にして年上の大人達を手玉に取るという味をしめた。

 例えば、だ。
 大人が子供を叱る時、悪戯がバレてしまった時。白兎はその赤い瞳をうるうると滲ませながらその大人を見つめる。

「……ごめん、なさい……」

 少し震えた声で白兎がそれを呟くと、大人はそれ以上を言及しなくなるのだ。
 それを理解した上で、白兎はそう自分を表現する。

 そしてその効果に抗える者はおらず、白兎は更にそれを楽しむ様になっていた。その効果を最大限活かすべく、自分を磨く事も怠らない白兎のその姿は、見る者が見れば尊敬の念すら抱く事だろう。



 ――閑話休題。


 白兎の堂々たる美少女・美女漁りは一人の女性へと向けられた。
 いくら男の娘とは言え、彼もまた可愛いものが大好きだ。それはつまり、女性にもあてはまる。

 そんな白兎の目に留まったのが、その女性だったのだ。

「おねーさん」
「……あら、どうしたの?」

 クールビューティー系かと思われたその女性も、白兎を見て表情を緩めた。彼女はきっと、白兎が男であるとは露ほども思っていないのだろう。
 白兎はそれを自覚した上で、女性へと続けた。

「僕と一緒に遊ばない?」

 にこぉっと笑みを浮かべた白兎に、女性は思わず我を忘れて呆然としかけ、そこでようやく思い留まる。
 ナンパではないし、自分にとっての目的も果たせる。そう考えた女性は、白兎に向かって笑みを返し、了承を示した。






◇ ◇ ◇ ◇ ◇





 少々小洒落た喫茶店へと入った白兎と女性は、お互いに飲み物を頼んで向かい合う様に座った。最初の女性が白兎に対してあれやこれやと質問してきたので、白兎がそれに対して答えていた。質問からして、いつも通りに自分に夢中になったと考えていた白兎は得意げにそれに答えていた。

「今度はおねーさんの事、聞かせて欲しいなー」
「……そうね。私のお仕事は、これよ」

 そう続けながら机の上に置かれた一枚の名刺を白兎へと出した女性は、その反応を見つめる。
 彼女は今日、この電脳街へとスカウトを目的としてやってきたのである。そこへ声をかけてきたのが、出来れば自分からであっても声をかけたくなる様な美少女だったのだ。
 渡りに船とはこの事だ。そう考えた女性は、この話を切り出す為に白兎と共に話し込んでいたのだ。

「……あ、これってSakiの所属事務所だ」
「あら、Sakiちゃん知ってるの?」

 これは思わぬ好感触だ。スカウトの女性は思わずガッツポーズでも取りたい所だが、それを懸命に堪えながら尋ねる。

 本来、よほど有名なプロダクションであっても、誰が所属しているかなど理解している子はそうはいない。それこそ、大型の当たりを出し続けている事務所でもない限り、だ。Sakiと呼ばれたそれは、この事務所の最近の大当たりである歌手である。
 どうやら白兎はそれを知っていたのだ。それに喜ばずにはいられない。

「凄いね。おねーさんも綺麗な訳だねー」
「わ、私はそんな事ないわ。白兎ちゃんの方がよっぽど綺麗だもの」
「……ふふ、そうかな?」

 不意に魅せたその笑みに、スカウトの女は思わず身を強張らせた。それほどまでに、無邪気で天真爛漫だと思い込んでいた白兎の浮かべた妖艶とも取れる笑みは、彼女にとって強烈な印象を深く刻みつけたと言えた。

 ――これは間違いなく逸材だ。

 スカウトの女性は軽く咳払いをすると、白兎に向けていた視線に鋭さを増した。

「ねぇ、白兎ちゃん。芸能界に興味ない?」

 その言葉はただの質問ではなく、まるで白兎を挑発するかの様な言葉であった。不意に向けられたその言葉に、白兎は表情の笑みを深める。

「興味はあるけど、僕をどうするの?」
「……細かい事は言えないけど、今度売り出すアイドルグループに、アナタの様な存在が必要なのよ。その魅力を、もっと多くの人に魅せてあげたい。そして自分の虜にしたい。そうは思わないかしら?」

 その言葉は、まるで白兎の矜持をくすぐる様な言葉だ。

 スカウトの女性は気付いている。
 白兎は自分の可愛さを理解し、それを磨いているのだ。先述された通り、それは尊敬にすら値する程の徹底ぶりを見せている。

 故に、彼女は白兎を敢えて挑発し、高みへと引き連れようと画策する。

「……僕がアイドルグループに?」
「えぇ。「ボク」っていう一人称も、一つの客層へのアプローチとしては上々よ。向いているわ」

 好感触を確信し、女性は切り出した。

「アナタは、絶対に大物になれる」

 それは彼女が元々はアイドル志望で事務所に入ったという過去があるからこそ、本気でなくては語れない言葉である。しかし白兎がそれを知る由もない。
 だが白兎は、その三日月をかたどった口で答える。

「――やるよ」
「ホント!? じゃあ書類にサインをお願いして良い!?」

 手早く手に持っていたカバンから書類を取り出したスカウトの女性は、慌てて何処に記入するかを白兎に指示する。

 そして指示された通りにサインをしていく白兎を見つめ、彼女は自らの成功を確信し、笑みを浮かべた。





 ――しかしそれは、「はい、どうぞ」と笑顔で手渡された書類を見て凍りつく事になった。





 そこに書かれていたのは、白兎の名前が書かれた横。性別の欄に書かれた、紛うことなき“男”という表記である。
 書き間違えるはずもないその言葉に、女性は凍りついていたのだ。

 そんな女性を見て、白兎は更に笑みを浮かべる。

「……え、あ、これ……」
「僕、自分が女の子なんて一言も言ってないよ?」





「…………ええええぇぇぇえええ!!?」




 店内が一瞬にして静まり返り、そして女性は慌てて咳払いをして白兎に目を向けた。

「で、でも、そんな格好だし、その見た目だし……」
「なかなか気付けないでしょ?」

 ペロッと舌を出して告げる白兎に唖然とする女性へ、白兎は告げた。

「バレるかバレないかのギリギリが楽しいと思ってたけど、今度のゲームは相手が全世界だね。楽しみだなぁ♪」

 そんな言葉を悪びれる様子も一切見せずに告げた白兎に、女性はしばらく呆然としていた。

 余談ではあるが、彼女はこの後、相手には必ず性別を確認する様になってしまった為、若干失礼な人と呼ばれる事になるのだが、この時はまだ誰も知らない。



 こうして、【プロミス】のメンバーがまた一人、ここに誕生したのである。







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ご依頼有難うございます、白神 怜司です。

ついにプロミス3人めの登場、まさかの男の娘でしたねw
これは随分と危険な橋になりそうですww

白兎クンの口調などについては、
細かく指定頂ければもうちょっと女の子っぽくも出来ます。
人前だと徹底しそうですね……w

何はともあれ、お楽しみ頂ければ幸いです。

それでは、今後共宜しくお願いいたします。

白神 怜司