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<PCシチュエーションノベル(ツイン)>


真犯人を追え!

『これを纏えば太陽の中心ですら平気! これで何も怖いものはありません』
 モニター越しに得意げになってそう謳っている狐国の新型結界装置を目にした郁は目を輝かせた。
 本当にこれを纏うだけで太陽でも普通にしていられると言うのなら、これほど画期的なものはないだろう。
 一目見てそれを気に入った郁は、すぐに狐国にコンタクトを取り、私的で新型結界に関する国際セミナーを開くことにしたのだった。

         *****

「さぁ見て! この画期的な新型結界! これさえあればあの灼熱の太陽でも全くの平気! 暑さなんて屁じゃないわ。焼けることも溶けることもない。例え太陽の中心に迫ったとしてもなんのその! たった一枚、この新型結界たった一枚あればもう何も怖いものなんてありません!」
 女狐は得意げになり、喜々揚々と通販番組でアピールしていた。
 それを見に来ていたのは主催者の狐国女流科学者、そして女エルフ、地球人学者夫妻、龍族の太陽学者らが来ていたが、皆そろって胡散臭そうだと言うまなざしを向けている。
「胡散臭いとそう思っているでしょ。まぁこちらをご覧になって。ほら、我らが発明した新型結界を身に纏い太陽を目指します。そしてほら、ほら見て!」
 実際に太陽まで行き無事に生還したと言う映像を見せると、その場にいた全員から感嘆の声が上がった。
 ほら見たことか。そう言わんばかりに鼻を鳴らす女狐を見る聴衆達の中でキラリと不適な視線が光ったことに誰も気づかない。
「今ならお安く提供致しますわ」
 そう漏らす女狐に、聴衆たちはざわめいた。
「それ、頂こう」
 一番に名乗りを上げたのは地球人学者の夫だった。だが、妻はどこか渋りそれを制した。
「私が頂くわ。太陽を直に観測してみたいの」
 二番手に名乗りを上げたのは龍族の太陽学者だった。
 実際にそれを手に取った龍族はウキウキしながらそれを眺め、喜々として声を上げた。
「これで太陽に行けるのね! ふふふ。どんな結果が得られるのかしら。楽しみだわ」
 心底嬉しそうに観測が出来ると喜んでいる龍族の願いを叶えるべく、郁は事象艇を発進させた。
 事象艇は予定通り装置を起動。結界を張って太陽まで一直線に飛んでいく。だが、そこで思いがけないことが起こった。
「え? 何? ちょっと、やだ!」
 突然取り乱した龍族だった。
 間違いなくバリアを張ったと言うのに、太陽に近づくに従い気温がグングンと上昇していく。
 引き返そうにもとても引き返せない状況に、龍族は事象艇の中でパニックを起こしたがそのままあえなく死んでしまったのだった。
「嘘ー!?」
 龍族の死を見た女狐は顔面蒼白になり驚いていた。
 絶対的な自信があったと言うのに、それがいとも簡単に崩されるとは思っても見なかった。
「ほら、ごらんなさい。だから胡散臭いって言ったのよ」
 傍でそれを見ていたエルフは鼻で笑った。
 急ぎ回収した事象艇と遺体を、郁は入念に調べた。
「特に異常は見られないわ……」
 そう呟く郁に、女狐は声を上げた。
「理論上は完璧な筈よ! 本当、本当なのよ!」
「……」
 そう嘆き続ける女狐だったが、その場にいた全員が冷めた目で彼女を見つめる。
 追い込まれた女狐は心外だと言わん顔でわななき、その場から駆け出した。
 客室に逃げ込んだ女狐はメソメソと涙に暮れていると、エルフが入り口にもたれかかり彼女を睨むように見る。
「泣いて事が済むなら警察はいらないわよね」
 挑発するかのような冷たい発言に顔を上げた女狐は、エルフに食って掛かる。
「何よ! どうせアンタの仕業でしょ! 最低!」
 そう声を上げる女狐に、エルフの表情が途端に怪訝なものに変わった。
「貴様。栄えある王国の御用学者を愚弄する気か!?」
 エルフは女狐に食って掛かり、二人は激しい論争を繰り広げる。それを地球人学者の夫婦が迷惑そうに見つめていた。

 その翌日、女狐は客室で自害し、亡くなっているのが発見された。
「綾鷹。あなたにも責任があるわね……」
「そ、そんな……」
 あやこは冷めた目で郁を見つめ、残酷にも処刑の命令を下した。それを聞いた綾鷹は驚愕に目を見開き、首を横に振りながら一歩後ろへ退く。
「あの女狐の検死をお願いします!」
 検死を願い出たが、あやこはそれをバッサリと却下してしまうのだった。
 追い込まれた郁は、明日の執行までに何としてでも犯人を突き止めるべく手当たり次第当たってみる事にした。
 事情を聞こうとすると、エルフはただ目を剥き一方的に声を荒らげる。
「何? 私が卑怯者だと言いたいのか?」
「そ、そういう訳じゃないけれど……」
「立証も出来ないのに、よくもぬけぬけとそんなことを……」
 頭ごなしに怒られた郁は、部屋を追い出されスゴスゴとその場を後にせざるを得なかった。
 そして郁がやってきたのは、地球人学者夫妻のところだ。だが、やはりここでもエルフと同じように憤激される。
「何だね。君は私達夫婦の仲を壊す気か? それは嫉妬かね?」
「ち、違うわ。そんなつもりは……」
 取り合ってくれる余地などないと言わんばかりに、跳ね除けられる郁は途方にくれてしまう。
 どうすればいいのか分からず肩を落とすと、妻が郁に声をかけてきた。
「そういえば、昨日客室であの女狐とエルフが口論しているのを聞いたわ。物凄い声で怒鳴りあっていたから、迷惑だと思っていたんだけれど」
「口論?」
「えぇ。アンタの仕業でしょうとか何とか……」
「……」
 それを聞いた郁は二人に頭を下げるとその場を後にした。


 焦げた事象艇。それを見ていた智子は傍にいた郁にふと漏らした。
「穴が開いてるわ」
「穴?」
「えぇ。この結界、中から穴が開いてるの。ほら見て」
 智子が指差す箇所をよくよく覗き込むと、確かにうっかりすると見落とすほどの小さな穴が開いていた。
「狙撃されたのね。たぶん、後に死んだ女狐の死因が原因になるんじゃないかしら」
 肌にぴったり吸い付くような薄手のゴム手袋を外しながらそう言い置いた智子に、郁は顔を上げる。
「やっぱり、そう思う?」
「たぶんね」
「……女狐の死因を確認したいのだけど、でも、これ以上罪を重ねたくないし……。どうしたら……」
 郁は落胆しながらそう言うと、智子は外したゴム手袋をその場に投げ捨て郁を見た。
「毒を食らわば皿までって言うでしょう? いまさら怖がることなんて何もないはずよ。身の潔白を晴らしたいなら踏み込むべきだわ」
 智子の激に背を押され、郁はきつくこぶしを握り締めると小さく頷いた。そして誰に許可を得るでもなく、女狐の検死を強行するのだった。
 一人部屋に入り女狐の死因を調べていると、郁はあることに気がついた。
「……こ、これは」


             ******


「誰が許可をしたと言うの!? 自分勝手な行動を慎みなさい!」
 強行した検死がバレた郁は、頭ごなしに叱られた。処刑される身分でありながらこれ以上の罪を重ねてどうするのかと激しく叱責された。
「でも、あたし気づいたの! これは……」
「これ以上何か言うのであれば、あなたの処刑は早まるばかりよ」
「……っ!」
 郁は自分の意見を聞き入れてもらえないばかりか、自分の命が危ういと感じその場から駆け出した。
「綾鷹!」
 声をかけるあやこに郁は振り返ることもなく事象艇に乗り込むと女狐の新型結界を起動して太陽へと逃げ出した。
『綾鷹! 戻りなさい! 命令よ!』
 事象艇にあやこの怒鳴り声で指示が入るが、郁は完全に無視する。
「理論は成功していたの! 話を聞いてもらえないなら私が実証する! 真犯人は……」
『……!』
 一瞬ブレたモニター画像に、あやこは目を見開いた。
 ブレた先にいるのは真剣な表情をして操縦桿を握る郁と、その背後に突如として現れた龍の姿だ。
『綾鷹!』
 そう声をかけるが早いか、モニターが切れる。
「すぐに事象艇を出して!」
 あやこは声を荒らげ周りの乗員に指示を下した。

 その頃、龍に襲われた郁は壊れたモニターのすぐ傍で相手を睨みつけていた。
 龍もまた郁を鋭く睨みつけ、唸るように話す。
「死んだふりを見破るなんて、陰険な子だね……。そんな執念深いと男が引くよ」
「うるさい! あたしはあんたのおかげで命まで失いかけたんだ」
「ずいぶん威勢がいいな。だがすぐにあの世へ送ってやるさ!」
 そう言うなり、龍は郁のこめかみを思い切り殴りつけた。
 突然のことに昏倒してしまった郁に、龍はニタリとほくそえむ。そして自爆信号を発信するボタンを押した。
「こんな巧い儲け話を、他の奴らに取られちゃ堪らないからね。おとなしくこのまま死んでおくれ」
 鼻を鳴らしてほくそえむ龍。自爆信号を送り爆沈を装いながら、この事象艇を乗っ取り逃げることが目的だ。
 倒れた郁を押しのけ、操縦桿に手をかけると、突如として目の前に別の事象艇が現れる。龍は驚愕に目を見開いた。
「な、何……?!」
 その事象艇の先には、真っ赤に燃え盛る太陽を背に砲を構えてビキニ姿で立っている綾子の姿がある。
「なぜここに? その砲は……っ! そうか結界を……」
 苦々しくそう呟き、後がないことを察すると龍はあやこに命乞いをし始めた。
「た、頼む。命だけは……。そ、そうだ! この結界の利益を折半しよう。だから……」
 そう言った龍の言葉に、あやこは眉間に深い皺を刻んで足元に砲を放った。その玉は龍の足に直撃し、思わず前のめりに倒れこむ。
「悪いけど、金よりも名誉の方が大事なのよ」
 そう吐き捨て凄むあやこに、隣にいたエルフは大きく頷いた。


 こうして今回の事件の真犯人である龍を捕らえ救い出された郁は、犠牲者となった女狐の墓前に立っていた。
「あなたの発明したこの結界は正当な扱いで活用するわ……」
 郁は墓前にそう誓うのだった。