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<東京怪談・PCゲームノベル>


限界勝負inドリーム



 ああ、これは夢だ。
 唐突に理解する。
 ぼやけた景色にハッキリしない感覚。
 それを理解したと同時に、夢だということがわかった。
 にも拘らず目は覚めず、更に奇妙なことに景色にかかっていたモヤが晴れ、そして感覚もハッキリしてくる。
 景色は見る見る姿を変え、楕円形のアリーナになった。
 目の前には人影。
 見たことがあるような、初めて会ったような。
 その人影は口を開かずに喋る。
『構えろ。さもなくば、殺す』
 頭の中に直接響くような声。
 何が何だか判らないが、言葉から受ける恐ろしさだけは頭にこびりついた。
 そして、人影がゆらりと動く。確かな殺意を持って。
 このまま呆けていては死ぬ。
 直感的に理解し、あの人影を迎え撃つことを決めた。


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 勇太の目の前に現れたのは、小柄な少年。
 見覚えのある顔である。
 ジャージの上着を羽織り、その手には光る剣を持っていた。
「お前、小太郎か!?」
 勇太が尋ねるのに、少年――小太郎はニヤリと笑うだけであった。

 勇太が身構える前に、小太郎が素早く間合いを詰める。
 そして、剣の届く範囲に入った瞬間、横薙ぎに一閃。
 勇太はよろけながらも、それを避けたが、突然の事に困惑する。
「なんだよ、どうしたってんだ!?」
「ここでは戦うのが当然だろ。戦ってシロクロつけないと、夢から出られない」
 確かに、勇太が数回経験した中でも、勝負がつかないと夢が覚めた事はない。
 しかし、だからと言って急に戦えと言われても……。
「良いか、勇太! よく聞け。俺はこのゲームで勝てば、大金を手に入れられることになっている」
「いきなり何を言い出してるんだ、お前は……」
「その大金を手にし、草間さんへの借金を帳消しにして、なんの経済的負い目もなくなったところで……ユリに告るつもりだ!」
「ホント、何言っちゃってるんだ、お前!?」
 妙なカミングアウトに、勇太の頭はさらにこんがらがる。
 そもそも、夢で勝負したからと言って、現実で大金がもらえるような物なのだろうか?
 それを疑わないのも小太郎らしさと言えば、らしいと言えよう。
「だから、勇太。それとなく、自然に見えるように負けろ」
「はぁ!?」
 だが、その物言いには少しカチンと来る。
「八百長で勝って嬉しいのかよ? それとも、ガチでやって、俺と勝てる気がしないのか?」
「ヘッ、バカ言いなさんな。俺が勇太に遅れを取る要素は一つもない」
「……いいぜ、だったらガチでやってやろう。後で泣きを見ても知らねぇからな!」
「泣いて這い蹲るのはお前だッ!!」
 こうして、少年二人のガチ対決が始まるのだった。

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 小太郎の霊刀に対抗して、勇太が取り出したのは透明の刃、サイコクリアソードと名付けたサイコキネシスの剣である。
 触れる物を切り裂き、かつ刀身が見えないので相手の感覚を鈍らせる事も出来る。
「一応、手加減はしてやるぜ、小太郎。年上のハンディってヤツでな!」
「闘る前から言い訳作りしてんじゃねぇよ!!」
 踏み込んできたのは、またも小太郎。
 霊刀を振るい、上段から切り下ろしてくる。
 勇太はそれを剣で打ち払い、小さく腕を折って手首のスナップを利かせる。
 サイコクリアソードは剣術のスキルを必要としない。触れれば相手を引き裂く能力。その上、間合いは自由自在。
 腕力や遠心力、斬る為の技術なども要せず、振るうだけで相手に致命傷を与えられる能力だ。
 故に、ナイフのように小回りの利く取り回しをしても、一撃で勝負を決められる。
 故に、普通の剣ならば皮を裂く程度にしかならないであろうこの攻撃も、当たれば必殺となる。
 だが、小太郎は器用にも身体を反らし、勇太の剣を辛うじて避ける。
 更にその上、そのまま身体を回転させ、今度は勇太の胴を狙った薙ぎが襲い掛かってきた。
「おぉっ!?」
 小太郎の攻撃には遠心力が乗っている。
 腕を大きく伸ばし、手に持つ剣に最大限の破壊力を加えようとしているのだ。
 霊刀自体に重さは付随させられるらしく、恐らく、この薙ぎの一撃を食らってしまえば、勇太も無事ではすまないだろう。
 だが、避けられない程の攻撃ではない。
 勇太は軽くバックステップを踏んで小太郎との距離を稼ぎ、横薙ぎの一撃を回避した。
「安心しろよ、勇太。刃は潰してあるから、ちょっと鈍器で殴られるぐらいの痛みだ」
「それのどこが安心できる要素なんだよ!」
 小太郎なりの配慮なのだろうか、どうやらズンバラリと切り裂かれるような事はないらしい。
 言葉に続けて、小太郎は勇太との距離を詰めつつ、剣を上段へと構えなおしている。
 恐らく、もう一度打ち下ろしが襲い掛かってくるだろう。
 だが、その瞬間、胴はがら空きになる。
「甘いぞ、小太郎!」
 勇太はその隙を見逃さず、剣を寝かせ、小太郎へ向けて踏み出していた。
 小太郎の脇をすり抜け、そのまま胴を払い抜く。
 完全に入った一撃……と思ったが、手ごたえがない。
「なっ……!」
「言い忘れてたかもしれんが、俺のジャージは特別製だ」
 勇太の剣はジャージに阻まれていたのだ。
 小太郎の言うように、彼のジャージは特別製。霊刀と同じ物で構成されており、そこそこの防御力を誇っているのだ。
「ちっ、胴への攻撃はもう少し強めにしなきゃならないか……」
「俺もどうやら、勇太を見くびっていたらしい。……もう少し本気で行くぜ」
 小太郎は剣を両手上段から片手中段に構えなおし、勇太に対して半身で構える。
 雰囲気が変わったような気がした。
「ピリピリするね……それがお前の本気ってことか、小太郎?」
「まぁ、五割程度って所かな。能力者とは言え、一般人に近い勇太には全力なんか出さねぇよ」
「でかい口叩きやがって……。決めた。お前の本気の本気、見せてもらおうじゃねぇの」
 お互いに間合いを慎重に測りつつ、ジリジリと足を滑らせる。
「勇太だって、それが能力の全部ってわけでもないんだろ? だったらお互い様だ」
「じゃあ、俺が全部の能力を出したら、お前も乗ってくれるのか?」
「さて、それはどうかな」
 言い終わるや否や、三度、小太郎から攻める。

 モーションは最小限に。
 上半身をほぼ動かさず、運足によってのみ勇太との距離を縮めた。
 小太郎の構えた剣の切っ先は勇太を向き、そして少ない動きでそれが突き出される。
「……うっ!」
 少ない動きによって、攻撃の機を見極め損ねた勇太。
 だが、かわせない程の攻撃ではない。
 小太郎の狙いが頭を狙った突きならば、それを避けつつ前進、もう一度小太郎に一撃を加えるだけの余裕が生まれるはず。
 カウンターを決めれば、勝てる。
 そう思って勇太は身をかがめ、小太郎に対して踏み込もうとした……のだが。
 ふと無意識の内に勇太の生存本能が働く。それは小太郎の異常な殺気によって引き起こされた物だった。
 ……フェイントだ。
 小太郎の動きがフェイントである事が、何故だかわかった。
 それはもしかしたら、無意識の内に行使していたテレパスかもしれない。
 勇太は慌てて体制を立て直し、小太郎の攻撃を回避する事に専念する。
「ほぅ……」
 それとほぼ同時、手の内を読まれた事を察した小太郎は、フェイントであった突きをそのまま繰り出し、勇太を退かせる事によって距離を稼いだ。
 勇太がテレパスを使うのと同じく、小太郎にも不思議な目がある。
 これによって、テレパスほど確実な物ではないが、相手の感情の動きを窺う事が出来るのだ。
「あ……っぶねぇ!」
 冷や汗を噴出す勇太に対し、小太郎は笑っていた。
「ははっ、いいぜ、勇太。調子出てきたじゃねぇの! まさか避けられるとは思わなかったけどなぁ……」
「小太郎こそ、何が本気じゃない、だ! 割りとマジだったじゃねえのか、今の!?」
「大丈夫大丈夫。刃は潰してるから」
「鉄パイプで頭殴られたら、最悪死ぬっての!」
 軽口を叩きつつ、お互いに息を整える。
 相手との距離を測りなおし、作戦を立て直す。
 今の攻防だけで二人の意識が変わった。
 生半可では倒せない、と。

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 死を意識するほど切羽詰っていないのは、前に立つ敵が知り合いだからだろうか。
 勇太はゆっくりと息を吐きながら、剣を構えなおす。
 いつものように、身体の内側が焼け付くような、意識が引き絞られるような、崖っぷちの感覚が湧かない。
 それはそれで良い事だと思う。あの感覚を覚え始めると自分で自分を抑えきれなくなる。
 嫌な事を思い出してしまいそうになる。
 だから、このままで闘えるのなら、それはそれで良い。それで負けても、この夢なら仕方ない。
 だが、知り合いであるからこそ、小太郎には負けたくないという思いもある。
 負けても仕方ないとは思うが、出来る事なら勝ちたい。
「だったら、やるっきゃないよなぁ!」
 勇太はサイコクリアソードを手放し、自分の周りに空間が歪むほどのサイコキネシスの塊を、複数個浮かせる。
「本気で行くぜ、小太郎! 負けても怨むなよ!」
「上等だぁ! かかってこいやぁ!!」
 勇太はサイコキネシスの塊を、小太郎に目掛けて飛ばす。
 触れれば大ダメージ必至の塊。三次元方向から襲い掛かるそれらを避けるのは、小太郎でも至難の業だろう。
 小太郎がそれらの相手に手間取っている間に、勇太は精神を集中させる。
「シラフでこれをやるのは……あんまりなかったかな」
 いつもは『覚醒』した時のみだった。
 だが、小太郎に勝つためには手段を選んでいる暇はない。
 勇太は手の中でイメージを膨らませ、その中にサイコキネシスを注ぎ込む。
 だんだんと形作られていったそれは、まさに槍。
 一点突破の究極の形。
 それを手に持ち、勇太は顔を上げる。
 未だ、サイコキネシスの塊との追いかけっこに必死な小太郎。
 それを見据え、移動方向を予測しながら、テレポートの位置を決める。
「……今だッ!!」
 勇太はサイコジャベリンを握り締め、テレポートを使う。
 出現した場所は小太郎の真上。
 小太郎は今、サイコキネシスの塊に四方八方を埋め尽くされ、逃げ場のない状態。
「喰らえッ!!」
 満を持した弓矢の如く、勇太の引き絞った右手からサイコジャベリンが発射される。
 それに気付いた小太郎は、素早く防御の体勢を整えていた。
 流石に反応は早かったが、万全ではないはず。そこに勝機がある。
 虚を突いた攻撃。それを完全にガードする事はほぼ不可能なはずだ。
 サイコジャベリンは小太郎に向けて一直線に降りかかり、小太郎はそれを防御するために、霊刀を防御スタイルに変更させていた。
 二つがぶつかった時、激しい光と、霊子の火花が散った。
 ジャベリンの勢いを殺しきれなかったか、アリーナの地面はひび割れ、せり立つ。
 巻き起こった粉塵があたりを埋め、一瞬、視界が閉ざされた。
「……どうだ!?」
 地面に降り立った勇太は、目を眇めて土煙の奥を窺う。
 そこには……少年の影が立っている。
「……マジかよ、アレはホントに、全力だったんだぞ」
「だったら、俺の方が強ぇってことだろうが!」
 ボロボロではあったが、持ち前の明るい笑顔で小太郎がやって来る。
 全力を出した攻撃が防がれてしまっては、勇太の方も負けを認めるしかない。
「あー、くそ……次は絶対勝つからな」
「ふふん、いつでも待ってるぞ、チャレンジャーよ!」

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 後日、興信所にて。
「そう言えば、小太郎」
「なんだよ?」
「大金はもらえたのか?」
「は? 何の話だ?」


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【1122 / 工藤・勇太 (くどう・ゆうた) / 男性 / 17歳 / 超能力高校生】





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■         ライター通信          ■
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 工藤勇太様、ご依頼ありがとうございます! 『好敵手と書いてライバルと読む』ピコかめです。
 同年代の男の子たちですもん、そりゃ闘うのも燃えちゃいますよね。

 さて、今回は勝敗も好きにして良いって事でしたので、惜敗ですかね。
 一応小太郎は色んな修羅場を潜り抜けてきていたので、普通を追い求める勇太くんとはちょっと経験値の差が出るかな、と思ったのであります。
 力量は競っていると思いますが、そこはスタンスの違いですかね。
 ではでは、また気が向きましたらどうぞ〜。