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無人島ｄｅ夏休み！
― うっかりしてたら命が流星するよ！？ ―
１．
「知り合いがさ、無人島に行かないかって…晶君どう？」
工藤勇太（くどう・ゆうた）がそう切り出したので、晶（あきら）・ハスロは驚いた。
「い、いいんですか！？」
「友達誘ってもいいって許可は貰ってるし、大勢で行った方が楽しいだろ？」
勇太はにこにこと楽しそうに誘う。
「予定あるなら、無理にとは言わないんだけどさ」
そんな勇太の言葉に晶は慌てた。
「行きます！ 是非！」
「そっか！ 誘ってよかった」
勇太の笑顔が喜びの色を見せる。
と、聞き覚えのある声が後ろから聞こえた。
「あら、晶さん。こんなところで会うなんて偶然ですね」
「あ！ 杏樹さん」
勇太が立ち上がりぺこっと挨拶をしたのは東雲杏樹（しののめ・あんじゅ）。
「楽しそうでしたけど、何のお話をしてたのですか？」
にっこりと笑う杏樹に、晶がとめる間もなく勇太はこう言った。
「無人島に遊びに行こうって話をしてたんです。あ、杏樹さんもご一緒にどうですか？」
そうして、晶と杏樹、勇太とＳＨＩＺＵＫＵは無人島へとやってきた。
「意外と素敵なところですね」
杏樹は可憐な笑顔で景色を楽しむ。無人島でも杏樹の服は変わらずゴスロリでしっかり固められている。
晶は物珍しげにあたりを見回した。
「東京から近いのに…こんなところがあるんですね」
「すげえな！ 来てよかった！！」
勇太はそう叫んだ。
「勇太君、ちょっと！」
ＳＨＩＺＵＫＵが船の上から勇太を呼んだ。甲板の上の会話が晶たちのところまで聞こえてきた。
「船長さんがこれ持って行けって…」
「なに？ これ？ 船長さん、これ何が入ってんの？」
「この島で必ず必要になる物デ〜ス！」
…ん？ 今、聞き覚えのある声が…？
「あ、俺も手伝います」
晶はそれらを運ぶのを手伝う。なかなかの量を勇太と２人で運び出した。
「おも、重かった…」
勇太がそういうとＳＨＩＺＵＫＵが口をとがらせた。
「なっさけないわねー」
そんなＳＨＩＺＵＫＵと対照的に、杏樹は優しげに勇太と晶を労う。
「暑いのに大変でしたね。ごめんなさい。お役にたてなくて…」
「そんな！ 女の子なんだから、こういう時は男に任せてよ！」
勇太の言葉に杏樹は優しいまなざしで笑う。
…と、何かの機械音が聞こえる。振り返ると…
「ふ、船が！？」
島を離れ行く船の姿。そして聞こえる船長の声。
「明日また会いまショ〜！ よいサバイバルを〜！！」
ちらりと見えたピンクの長い髪…まさか…まさか！？
「シーユートゥモロー！」
マドモアゼル都井（とい）が運転する船は、情け容赦なく無人島を離れていった…。
２．
「置いて…かれた？」
呆然とするＳＨＩＺＵＫＵに、真っ青な顔した晶は絶望した。冷静そうな杏樹に勇太がハッと我に返る。
「さっきの！ さっきの荷物！！」
勇太の言葉に晶たちは先ほど船から降ろした荷物を開封する。中から出てきたのは意外な物だらけだった。
「なんで…なんで鎧とか盾とか…武器とか入ってんの？」
「ＲＰＧゲームの勇者の装備みたいですね」
「これが船長さんのおっしゃる『必要になる物』ですか？」
どういう…ことなんだろう？ あの人はいったい何を考えてこれを…？
「…食料は！？ 水は！？」
勇太が荷物の中を探しまくったが、それらしきものは一切発見できなかった。
「つまり…サバイ…バル」
「そういうことなのでしょうね。私、ナイフとフォークよりも重いもの持った事がないんですが…」
杏樹が困ったようにそう言った。
東京から数時間しか経っていないこの場所で、なんでこんなことになっているのか？
それは誰にもわからないが、とにかく、明日までこの場所に居なければならないことは確実なのだ。
晶は息をのむ。絶望を無理やりにでも希望に変えなければ。
「そういや、ＳＨＩＺＵＫＵはこの島の地形って知ってるのか？」
勇太の言葉にＳＨＩＺＵＫＵは即行で首を横に振る。
「…ってことはまず地形を把握した方がよさそうだよな」
「それなら、二手に分かれるのはどうかしら？ 島の海岸沿いにぐるっと回って会える地点が必ずあるはずです」
黒い日傘をくるりと回した杏樹の言葉に、ＳＨＩＺＵＫＵは頷く。
「そうだね、日が暮れる前になんとかしたいし…勇太君、あたしとこっちに行こう」
「え！？ 俺とＳＨＩＺＵＫＵで行くの！？」
驚いた勇太にＳＨＩＺＵＫＵはなにやら耳打ちをする。
何を話しているのかはよくわからない…が、何やら誤解されている気がしてならない。
「…いいから、行こう！ じゃ、杏樹ちゃんと晶君も頑張って！」
ＳＨＩＺＵＫＵに手を引かれ、勇太たちは歩き出した。杏樹と晶はそれを見送り…ふと杏樹を見るとにやりと晶を見て笑っている。
その笑みの理由は…いったいなんだろう…？
晶と杏樹は勇太たちが歩いて行った方向と反対の方へ歩き出した。
しかし、杏樹は少し行くと小さな木陰を見つけて座ってしまった。
「杏樹…？」
「太陽の日差しがきつすぎて、ちょっとクラクラする。晶、悪いけどこの先は１人で行ってきて」
そう言って目を瞑り、杏樹は額を抑える。
「大丈夫？ もしかして熱中症！？ それはいけないな…水を探してくるよ」
晶はそういうと杏樹を残して砂浜ではなく森の中へと入っていった。真水なら森の中の方が見つかる確率が高いはず。
…昔父から教わったサバイバル術の知識が、まさか役に立つときが来るなんて…。
必死に記憶の底から父の声を思い出す。
でも父さん…。父さんのサバイバル術はこんなところでも役に立つのでしょうか？
晶は見上げた。それは遠くから見ていただけではわからなかった森のでかすぎる太い幹と高すぎる樹高。
明らかにここは普通とは違う。本当に日本なのだろうか？
そんな不安に駆られながら、ふと足元を見ると草が生えている。これは確か…解熱作用がある薬草だ。
そしてその草の根元にはちょろちょろと小さな水の流れがある。
晶はその草を採ると、水の流れてくる方向を辿っていく。
…あった！ 急いで水をすくい軽く口に含む。
刺激もなく、純粋な真水だ。よかった。これで飲み水は確保できた。とりあえず目印になるようなものを置いておこう。持っていたハンカチを木に括り付ける。
さて、どうやって杏樹のところまで運んだらいいだろうか？
晶がキョロキョロしていると大きな葉っぱが肩に触れた。丁度いい。晶はそれを器用に折って入れ物を作った。
「よし、これで何とか運べるでしょう」
ほんのり葉の匂いのする真水を持って、晶は杏樹の元へ戻った。
３．
「早かったな」
木陰で杏樹は変わらず気だるそうに座っていた。
「水を見つけてきたよ。さぁ飲…」
晶が言うよりも早く、杏樹は手の中の水をひったくって飲んでいた。
「…少ない」
「持ち運べる器がなかったんです」
晶の言葉に杏樹はふむっと考え込む。
「確か船から降ろした荷物の中にバケツのようなものがあったな…俺はここで待っているから持って来い。あぁ、眩暈が…」
「…わ、わかったから安静にしてて！」
晶は走り出した。杏樹に必要なのは水だ。たくさんの水なのだ！
勇太たちと別れた場所まで引き返すと、いくつかの物が無くなっていた。きっと勇太たちが持って行ったのだろう。
晶はガサゴソと荷物を探る。と、やはり杏樹の言った通り折り畳みのバケツが出てきた。しかも３個も。
これで水を運ぶことができる！
急いで杏樹の元に戻り、水を汲んでくると伝えると杏樹は立ち上がった。
「俺も行く」
「…でも、熱中症が…」
「森の中の方が太陽の日差しもよけられる。それにバケツ３個もどうやって運ぶ気だ？」
…言われてみれば、晶に手は２本しかない。となると、杏樹の申し出は必然的に必要なことなのだ。
「具合が悪くなったら、すぐに言うんだよ？」
「………」
杏樹は無言で歩き出す。大丈夫だろうか？
不安を胸に晶もその後に続いた。
目印をつけておいてよかった。
晶たちは直ぐに水のありかへと辿り着いた。
「ふぅん…湧水…か」
杏樹が何かを考えているが、それが一体なんなのかはわからない。
晶はバケツに水を汲む。杏樹は特に手伝うでもなく、辺りを見回している。
ふと、杏樹が晶に言った。
「晶、さっき持ってきた葉はどこで採ったんだ？」
「え？ そこに…？？」
肩に当たったのだからその辺りにその葉っぱの木が生えているはずだった。しかし…
「ないぞ？」
「…え？」
葉っぱはここに有る。木はここにない。上を見上げてもそれらしい葉っぱは見えない。
ふふっと杏樹が小さく笑う。
「水辺は霊が寄りやすいというが…まさか…な」
「れ…！？」
絶句した晶に、杏樹はさらに追い打ちをかけた。
「水は霊の憑代。霊のいる場所の水を飲むと…憑れることもあるというが…いやいや、まさかな」
杏樹の笑顔が遠くなる。
飲んじゃった…よ…。
薄れていく意識の中で、なぜか杏樹の笑い声を聞いた気がした…。
４．
なぜか少々焦げたＳＨＩＺＵＫＵと弓矢を持った勇太と落ち合い、それぞれの収穫について情報を交換した。
「水源を確保しました。晶さんのおかげです」
柔らかな笑顔の杏樹に、ＳＨＩＺＵＫＵが喜んだ。もちろん勇太も。
「こっちはいい具合に甲殻類の…丸焼きをゲットしたよ」
「甲殻類？」
首を傾げた杏樹に勇太は苦笑する。
「まぁ、動かせないから一緒に来てよ」
そして見たのはでっかいヤドカリもどきの丸焼き。偶然の副産物である。
「美味しそうな匂いですね」
やや青ざめたままの晶はお腹を押さえた。こんな時でもお腹は空くものなのだ。
「よし、明日のためにみんなで食おう！ いっただっきまーす！」
『いっただっきまーす！』
美味しく焼けたそのヤドカリもどきは、カニのようだがカニでないジューシーな美味さだった。
サバイバルも悪くない。
「あ、鋏はあたしの！」
「早いもん勝ち！」
「女の子に譲りなさいよー！！」
「２個あるんだから、そっち食えばいいだろ！？」
「そっちの方が大きいもん！！」
ＳＨＩＺＵＫＵと勇太のやり取りに晶と杏樹が笑う。楽しい夕食だった。
しかし、時間は待ってくれない。
「あ、寝る場所確保しなきゃ！」
ＳＨＩＺＵＫＵが立ち上がると、晶も勇太も「あっ」と声を出した。すっかり忘れていた。
しかし、杏樹は１人にっこりと笑う。
「それならいい場所を見つけておきました。ご飯を食べたらそちらに移動しましょう」
「いつの間に…」
晶の呟きに杏樹は答えず、ただ笑っていた。
こうして、ＳＨＩＺＵＫＵと勇太の活躍により夕食を。
晶の活躍により水を。
杏樹の活躍により寝床を確保し、無事に夜を過ごすことができた。
たった１日だったが、なんだかすごい体験をしたものだ。
夏の思い出としては大きすぎるほどの思い出ではないだろうか…。
５．
迎えの船は意外と早く着いた。
「アハハハハ〜！ 皆さん、お元気そうで何よりデ〜ス」
相変わらずのテンションのマドモアゼルの船に揺られて、東京の港についた晶たち。
昨日今日のことは忘れないようにしよう。人生どんなときにどんなことがあるかなんてわからないものだ。
父さん、サバイバル術を教えてくれてありがとう。
父さんはやっぱり偉大な人だと思いました。
そして、工藤さん。俺なんか足元にも及ばないくらいすごい人だ。
将来、俺も頼れる男になりたい。頼られる男になりたい。
…なれるんだろうか？
ちらりと杏樹を見る。杏樹は唇に微笑みを浮かべて、優しく勇太やＳＨＩＺＵＫＵを見つめている。
複雑な思いを胸に、夏の思い出が刻まれる。
潮風に吹かれて、とび立つカモメの群れが白く光った…。
━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号 ／ ＰＣ名 ／ 性別 ／ 年齢 ／ 職業】
1122 ／ 工藤・勇太 ／ 男性 ／ 17歳 ／ 超能力高校生
8584 ／ 晶・ハスロ ／ 男性 ／ 18歳 ／ 大学生
8650 ／ 東雲・杏樹 ／ 女性 ／ 999歳 ／ 高校生
NPC ／ ＳＨＩＺＵＫＵ ／ 女性 ／ 17歳 ／ 女子高校生兼オカルト系アイドル
NPC ／ マドモアゼル・都井 ／ 両性 ／ 33歳 ／ 謎の人
ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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晶・ハスロ 様
こんにちは、三咲都李です。
この度は流星の夏ノベルへのご参加ありがとうございました。
…何やら複雑な人間模様（？）。晶様…純粋すぎて…泣けます…。
晶様のバッドエンド（？）は杏樹様に託します。
少しでもお楽しみいただければ幸いです。
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