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<東京怪談ノベル(シングル)>


慈悲なき鉄槌―U







 圧倒的なまでの実力を魅せつけた瑞科の戦闘映像。それをモニター越しに見つめていた【教会】の上層部に位置する者達。そのあまりに圧倒的な瑞科の実力に見入っていた彼らは、口々に瑞科の戦闘力について感嘆を示した。

「あれが最強の武装審問官、か……」

 騒然とする室内で一人の白髪の男性が確認する様に呟いた。

「白鳥瑞科。これまで数多くの危険な任務に単独で乗り込み、そして無傷で任務を成功させてきた武装審問官です。性格も柔和で、周囲からも慕われています。
 とは言え、これだけの実力と近寄り難いカリスマ性からか、あまり深い付き合いにまでは発展していないようですが」

 修道女にしては少々派手な服。ボディラインをくっきりと表に出す瑞科とは対照的ではあるものの、意匠に関しては拘りが感じられるその修道服に身を包んだ初老の女性。彼女は瑞科についてそう説明した。

「多くの武装審問官を見てきたキミの目に、彼女はどう映る?」

 白髪の男性が、初老の女性へと改めて問いかける。気が付けば室内のざわめきは二人の会話に飲み込まれ、その成り行きを待つ様に鳴りを潜めていた。そんな変化に気付いたのか、女性はクスっとその口を歪めると、改めて口を開いた。

「賞賛を求めて強さを追求する様な、オーソドックスな悦楽に身を浸すという危うさは彼女にはありませんわ。自らの中に信念を抱き、そして自身を磨く強さを持つ。その心の強さと、身体が持って生まれたポテンシャルは一般人とは程遠く、決して揺らぐ事はないでしょう」

 女性の言葉に周囲は再び僅かに騒然となった。

「キミにそこまで言わせるとはね」
「あら、何も差別しているつもりはありませんわ。あくまでも区別。実力の光る者に一目を置いているだけに過ぎませんわ」
「……そういう事にしておこうか」

 白髪の男はその言葉を受け止めておく事にしたようだ。

 ここにいる者達は、【教会】の中でも各部門でのトップ。武装審問官の実力の全てを把握しているこの初老の女性は、厳しく、贔屓を一切しない事で有名である。
 そんな彼女がここまで褒める、一人の武装審問官。そこに贔屓目もなく、純然たる実力の結果だと言い切らせる程の実力。

 それらを鑑みれば、瑞科がどれ程彼女にとっての秘蔵っこであるのかが理解出来る。

「それにしても、どうして白鳥の動きをテストする様にモニタリングを?」

 初老の女性の眼光は鋭く剣呑さを増し、白髪の男へと向けられた。

 確かに女性の言う通り、瑞科の実力を今更モニターで見る必要はない。彼女の実力を今更疑う必要はなく、心が悪に染まる可能性は皆無と言っても過言ではない。心配になる要素はないと言える。

 瑞科がこれまでに行ってきた任務は、その全てが常人とは逸脱した任務であり、その全てが無傷での成功という奇跡を描いている。
 それが一度や二度ならば疑う気持ちも解らなくはないが、というのが女性の心情であり、事実として彼女は瑞科の実力を評価し、心配は不要であると確信している。

 こうして【教会】の上層部が一堂に会する必要はないと言える。
 そんな女性の心情を察したのか、白髪の男は深く嘆息すると、その目をモニターへと向けながらぽつりぽつりと語り出した。

「……昨今の悪魔召喚によって、この現世と悪魔達の世界の均衡が崩れつつある。このままでは、召喚者という術者を媒介に現世へと降り立っている悪魔が、その媒介を持たずにこの現世に降り立つ可能性があるのだ」

 白髪の男の言葉に、周囲にいた者達は口々にその言葉に質問を投げかけた。
 思いもしなかった最悪の事態が近付いているのだ。それを危惧した彼らとて、黙って言葉を待っている事など出来る訳がない。当然、それは白髪の男も理解していた。

 そんな中で、白髪の女性は考え込む様に閉じていた目を静かに開き、その周囲の不安によってあがる声を断ち切る様に静かに口を開いた。

「……それはつまり、悪魔に対して白鳥ならば対抗出来得るのか否か。それを確認する意味合いも兼ねてこうして私達を呼んだ、と?」

 白髪の男はその問いに、黙ったまま頷き、肯定を示すのであった。






◆ ◆ ◆ ◆ ◆






 その一方で、敵拠点へと乗り込んだ瑞科は相も変わらずの余裕を浮かべたまま敵を屠り、その足を奥へと進めていた。

 悪魔召喚を行ったとされるその場所は、普通の人間にとっては害でしかないだろう。妖気が立ち込めるその場所は人間の精神を病ませ、そして心に生まれた悪意や嘆きが隙となり、そこに悪魔を棲まわせる。

 そういった場所にいながらも、一切の心を揺らしもしない瑞科は、それを体現する様にカツカツと踵を踏み鳴らしつつ、奥へ奥へと淀みなく歩いていく。

「っらぁぁぁ!」

 無機質な建物内を進んでいた瑞科へと、短刀を握りしめた男tが肉薄し、刃を突き立てようと振り下ろす。瑞科はそれをふわりと嫌味のない香水の臭いだけを残して避けると、その持っていた短刀の柄を蹴り落とす。僅かに魅せる足はそのまま地面へと着地すると、今度は軸となって瑞科の身体を回転させる。
 回転した瑞科の腕から、鞘に収まったままの剣が男の後頭部を打ち抜き、男は数メートル先へと吹き飛ばされていく。

 瑞科はそのままその胸を僅かに揺らしながらその場に佇み、その倒れた男の姿を見つめながら舞った髪を手櫛で横に掻き上げると、何事もなかったかの様に再び歩き出した。

 死角から飛び出した攻撃だったというにも関わらず、瑞科にはかすり傷一つすら負わせるに至らなかった。そんな現実を鼻にかける事もなく、当然であるかの様に瑞科は歩いていくのであった。




「……これは……」

 最奥に近づくにつれて周囲に立ち込める独特な空気。妖気であるその濃度に僅かに顔をしかめた瑞科は、その先から漂ってくる血の臭いを嗅ぎ取ると、鞘に収めていた銀の細い剣を抜いた。僅かな照明に照らされた銀色を斜めに携え、瑞科は奥へと進む。

 奥にはガリガリと砕かれる様な音を奏でながら、赤い池の上で座り込む人の姿。抱きかかえられる様に横に項垂れている身体からは既に力はなく、その身体は音と共に僅かに動いている。

 瑞科の足音に気付いたのであろうそれは、その動きを止め、瑞科に向かって唐突に振り返った。
 真っ赤な瞳。そして口の周りには、真紅がてらてらと光っている。

 低い唸り声の様な声をあげたそれに向かって瑞科は全てを察したのか、銀の先端を向けて言い放つ。

「お食事中に失礼。早速で申し訳ありませんが、早々に退場願いますわ」

 それは人ではない。
 そう判断した瑞科が告げた言葉に異を唱えるように、それは獰猛な獣の様に雄叫びをあげて瑞科を威嚇した。






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