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<東京怪談ノベル(シングル)>


新たなる任務に向けて







「……あれが、本当の白鳥瑞科、なんだね」

 録画されていた悪魔と瑞科の戦いに、唖然とする研究者達。その多分に漏れず、瑞科の戦闘服を作り、その動きをモニタリングしてみる予定であった瑞科の先輩である彼女もまた、その戦いにはすっかり見入ってしまった。
 戦闘服の性能を見るだけであったのだが、思わぬ収穫であったと言える。

「……はは、楽しくなってきちゃったよ。瑞科ちゃん」

 ぞわりと身体を武者震いさせた彼女は、瑞科の戦闘能力を基準にした戦闘兵器の開発にその思考を巡らせ、笑みを浮かべる。




 前夜の苛烈とも言える戦闘は、その映像のままに戦いを終えた。

 本気を出した瑞科のその動きは、すでにモニターにも捕らえる事は困難になっており、そのせいで断片的な映像しか残っていないと言える。
 それを見るだけでも、瑞科の戦闘能力はすでに規格外である事を十二分に知らしめたと言っても過言ではないだろう。

 モニターから台座の上へと視線を移した彼女は、そこに横たわる折れた銀の剣を見つめる。

「……退魔の銀剣も、瑞科ちゃんには役不足って事ね」

 武装審問官の対悪魔戦闘用に作られた銀の剣。
 瑞科の希望に沿って強度をあげていたにも関わらず、瑞科の強烈な一撃は悪魔を切り裂き、そしてこの銀剣を砕いてしまったのだ。

 これまでに銀剣を戦いの中で折ってしまう様な真似はしなかった瑞科であったが、これには研究者である彼女も驚かされた。

 しかし映像を見て確信する事になるのであった。

 本来戦いの中で銀剣を駄目にしてしまうのは、剣の扱いが下手な素人が、おかしな力を加えて叩いた場合に見られる傾向だ。
 悪魔との戦いでさすがの瑞科も苦戦したのかと考えた彼女であったが、その映像を見るまでは納得がいかなかったのも事実であった。

 瑞科が悪魔を切り裂いたその一撃は、どんな剣閃よりも美しく真っ直ぐであり、そしてあまりに速い一撃であった。

 銀剣ではあまりに役不足。
 ただただそんな現実だけを突き付けられる結果となったのだ。






「ま、何にせよ……。戦闘服はどうだったかな? 瑞科ちゃん」
「えぇ、完璧でしたわ。嬉しい贈り物ですわね」

 そう答えるのは、銀剣をここに持って来て修理を頼むついでに、服のお礼を伝えようとしていた瑞科その人である。モニターの中で戦っている存在が目の前にいる事に、やたらと感動している者すらいる様だが、瑞科はそれを気にする様子もない。

「それは良かったよ。厳しい任務だったね」
「いえ。ただいつもよりほんの少し、楽しい任務でしたわ」

 くすりと笑みを浮かべる瑞科が感想を告げる。
 いつもなら「退屈だった」とでも言わんばかりの表情を浮かべる瑞科が、楽しい任務だったと口にする事など滅多にない。

「珍しいねぇ。楽しめた、って事?」
「えぇ、今回は」

 瑞科のその言葉に、彼女は逡巡する。

 白鳥瑞科。
 その類希な戦闘能力を有し、美貌を持ち合わせていながら武装審問官としてこの世界に生きている彼女。
 悪魔と戦う事に恐怖を抱いてもおかしくもない、年頃の女性。だと言うにも関わらず、ただただ楽しかったか退屈だったか、そのベクトルのみで見ている傾向がある。

 それはあまりに危ういのではないか。
 そんな事を考え、彼女は問おうと口を開きかける。

 ――何故武装審問官として、戦いに身を置くのだ、と。

 こういった世界に身を置いている者は、その過去を話したがらない。
 瑞科も然り、そして自分もまた然り。

 詮索すれば、お互いに深い付き合いにならざるを得なくなる。
 それは彼女にとっても望む所ではない。

「まっ、気に入ってくれたなら何よりだよ」
「えぇ、有難うございます。それじゃあ私はこのまま任務達成の報告にも向かいますわね」
「うん。剣も改良するから代用品は支給しておくけど、また新しいの出来たら声かけるから」
「えぇ。楽しみにしてますわ」

 研究所を後にする瑞科を見送りながら、彼女は小さく笑った。

「ガラにもないよね……まったくさ。
 さー、みんなー! 張り切って強化するよー!」

 どこか感傷に浸るような言葉を吐き捨て、彼女は動き出す。
 新たな任務で、瑞科がしっかりと戦える様に。






 一方、司令室。
 瑞科からの報告を聞いた神父は、その結果に鷹揚に頷き、瑞科を見つめた。

「いつもながらに、よくやったな、白鳥」
「今回は私も楽しませてもらいましたわ」

 神父もまた、瑞科のその言葉には思う所があるのだろう。僅かに表情を緩ませ、改めて咳払いをして険しさを取り戻す。

「それにしても、悪魔が現世へと自力で渡ってこれるようになるとはな。白鳥、単刀直入に聞こう。今の他の武装審問官達で、昨日の悪魔と同等の者と戦えばどうなると考える?」

 真っ直ぐ瑞科の顔を見つめて尋ねる神父に、瑞科もまた小さくため息を漏らし、そして答える。

「十中八九、壊滅ですわね。何人かは戦えますけど、一対一となれば話は別ですわ。あれはもう別格ですわ」
「やはりそうか……」

 神父は重いため息を吐くと、改めて瑞科を見つめた。

「これから、お前の負担が大きくなるやもしれない。頼めるか、白鳥よ」
「そんな事、言われるまでもなく当然ですわ」

 瑞科は胸を張り、髪を手で払って答える。

「相手が悪魔だろうと、私は負けませんわ」

 これから始まるだろう熾烈な戦いに、これまで以上の期待と昂揚感を抱きながら、瑞科は自身の胸に手を当て、決意を新たに答えるのであった。








FIN





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ご依頼有難うございます、白神怜司です。

今回は7話連続でのご依頼でしたので、
全てをなるべく繋げられる様に書かせて頂きました。

お楽しみ頂ければ幸いです。

今後が続きそうな感じですが、
一応はこれで今回の連作は終了ですね。

それでは今後とも宜しくお願い致します。

白神 怜司