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<PCシチュエーションノベル(グループ3)>


錆びた銀河.2

 鋼鉄地球。それは機械化した地球のことだ。
 霊鬼兵がステインに帰還した際に生じた混乱に乗じて、綾鷹姉妹がこの鋼鉄地球に君臨している。
 先ほど取り囲まれたあやこと共に鋼鉄地球に降りた上陸班らは、牢獄に拘束されていた。
 そんなあやこの元にやってきたのは、郁の妹とそして郁本人だった。
「私が今回の混乱を収拾したのだ! 私の命には従え」
 ステインの指導者であると言う郁の妹は声を高らかに、以前自我を授けたステインが戻ってきたことで歪み出した群体をまとめたと叫んだ。
 その様子を見ていたあやこは眉間に深い皺を刻む。
 あやこの持つ邪気眼は、綾鷹姉妹がステインを操る共感波をすでに看破していた。
「……ステインたちに自我を授けたの?」
 牢獄の中からそう問いかけると、郁の妹は目を見開きあやこを睨みつけると声を荒らげる。
「零を送還した貴様の仕業だろう!」
 鼻息も荒く、どこか興奮気味に逆ギレした妹に続き、郁がゆっくりとあやこの前に歩み出た。
「CTでの日々は無駄だった。私はもう、お前の人形じゃない!」
 そう叫んだ郁だったが、その目は正気そうでどこか虚ろなようにも見える。
 あやこはそれに感づいたが、今はどうすることも出来ない。自分は今捕らえられている身だ。
「あなた達に未来はないわ」
 そう言葉を漏らしたあやこに、綾鷹姉妹は鋭く睨みつけてきた。
「お前を手術室へ連行する」
 郁の妹はそう言うと、あやこを牢獄から引きずり出し強制的に手術室へと連れて行った。目的は、彼女の持つ邪気眼だ。
 あやこは牢獄を出る直前にここに残る上陸班に目を向けると、彼らは取り乱した様子もなく微かに顎を引く。
 ここに捕らえられてから、脱獄と獄卒の捕縛を彼らは立案している。獄卒の持つ共感能力を逆用して、ステインを束ねている綾鷹姉妹の妨害を目論んでいるのだ。
 彼らはあやこを黙って見送ったあと、その計画について話し始めた。
 手術室に連れて来られたあやこは有無も言わせずに突き飛ばされるようにベッドに押し倒され、太い注射で麻酔を打たれた。
 遠のく意識を留めることが出来ず、そのまま深い眠りへと誘われていく……。
「はじめるわ」
 完全に眠ったあやこを前に、郁の妹はそう呟く。
 そしてステインによりそれは手際よく進められた。
 あやこの脳髄を電脳と交換する処置。その手捌きは神業と言わんばかりの手際のよさだった。
 そして手術を開始してそう時間も経たない内に、それらの処置は終わった。
「この邪気眼さえあれば私たちに勝るものは何もないわ」
 歓喜にむせぶ妹に、郁はただ黙って傍に立っている。
 術後間もなく目覚めたあやこは、邪気眼から強力な共感波を放ち、全ての機械と生物を操る。
「見て! 素晴らしいわこの力! 私たちの天下よ!」
 妹はあやこの邪気眼の力の凄さに興奮していた。


 その頃、牢獄にいた上陸班たちの計画が実行に移された。
 鉄格子の傍にいた上陸班が奥にいる仲間に目配せをすると、合図を受けた男性は突然胸元を押さえて苦しみ始める。すると彼に目配せをした男が血相を変えて声を上げた。
「誰か! 誰か来てくれ! 仲間が大変なんだ!」
 そう声を荒らげると、傍にいた獄卒はギョッとしたように目を見開きうろたえながら駆け寄ってきた。
 彼らにしてみれば、献体である捕虜を損なうと重大な責任問題になってくる。
 青ざめた顔で近づいてきた獄卒は、これが罠だとは疑いもしていないようだった。
 牢獄の前まで獄卒が来ると、鉄格子前の男はガッチリと獄卒の腕を掴んだ。
「押さえろ!」
 近づいた獄卒の隙を突き、傍にいた全員が彼を無理やり地面に抑え込む。そして彼らの共感能力に強制的にアクセスを試みた。
「悪いがあんたらの共感能力使わせてもらうぜ」
 獄卒の共感能力を逆用し、郁に掛けられた洗脳に訴えかける。
 そのシグナルを受け取った郁はピクリと体を動かし、誰もいないはずの後方を振り返った。
「何……これは……」
 完全に支配されていた心に、少しずつ自我が戻ってくる。すると先ほどまでの自分の行動に大してじわじわと罪悪感が芽生え始めてくる。
 それに感づいた妹は郁を振り返った。
「まさか……」
 驚愕の目で郁を見つめる妹の目は、酷く強暴だった。


                  ******


 あやこに指導権を委ねられた玲奈は旗艦を追う敵を玲奈号で遮り、太陽へ導くために奮起していた。
「あたしはファイティングキャリアー玲奈! なめんじゃないわよっ!」
 新型結界を玲奈号に纏い、そのまま玲奈はコロナに突入する。後から追いかけてくるステイン艦を衝撃波で丸ごと焼殺するつもりだ。
 玲奈号はもちろんのこと、敵艦も同様に新型結界を張り玲奈を追いかけてくる。
「さて、どうやって衝撃波を起こすかね……。爆発が起きればそれなりの衝撃波もあるでしょうけれど……」
 コロナに飛び込んでいる以上、自然の爆発を待っているわけには行かない。それならばこちらが爆発をするように仕掛ければ良いのだと玲奈は顔を上げた。
「さぁ……覚悟しなさいよ」
 灼熱の太陽の中で敵との我慢比べの末、玲奈はコロナ目掛けてミサイルの銃口を向けた。
「いっけええぇえぇぇっ!!」
 玲奈の掛け声と同時にミサイルが発射される。そしてそのミサイルは予測通りコロナに大きな衝撃を与え、その数秒後に強い衝撃波が遅い来る。
 太陽の底から溢れる強烈な衝撃波は、玲奈以外の敵の殲滅に見事成功した。
「やったわ! ザマーみろよ!」
 玲奈は指を打ち鳴らし、歓喜の声を上げた。


 玲奈がステインの懺滅に成功したその頃、鋼鉄地球の首都地下では、綾鷹姉妹の支配を逃れたステインを率いる零がいた。そんな彼女の元に牢獄を脱した上陸班たちが詰め掛ける。
 上陸班たちに零はいきり立ち声を荒らげる。
「私をまだ苛む気?」
 そう凄む零だった。だが、目の前にいる人間達を知っている。かつて、自分に自立心を植えつけたのは彼らだ。
「このままじゃ艦長が危ないんだ。頼む。抜穴があるなら教えてくれ」
「お前達が私に自立心を与えたせいで仲間は混乱し、綾鷹妹の圧制を許したんだ!」
「それは……」
 上陸班が言葉を濁すと、それまでいきり立っていた零は肩から力を抜き、ぼそりと呟くように声を漏らした。
「……だが、恩があるのは事実。恩人である藤田の為なら……教えてあげるわ」
 零はそう言うと政庁への抜穴を教えた。


 その頃政庁では、洗脳が薄れた郁が胸に湧き上がる罪悪感に挙動不審になっていた。
 そんな彼女に妹は言葉巧みに郁に語りかけてくる。
「完全な共感能力を得れば男は意のままよ。姉さん」
 勝ち誇ったかのように訴える妹の言葉に、郁は言葉が出てこない。
 男を得る。それは郁にとってとても魅力的な言葉であり強く望んでいることだ。だが、こんな手段は間違っていると言う思いが拭えない。
 郁はただ恍惚するばかりだった。
「うふふふ……。見て、この邪気眼の力。まるで麻薬的な快感ね! もっと、もっと共感能力を分けてぇ!」
 もはや目の前の妹は狂ったようにしか見えない。
 郁はぎゅっと拳を握り締め、目の前で踊るように舞う妹を見据えた。
 その時、抜穴からTC達が急襲してくるのが見えた。それに反応した郁がそちらを振り返ると、強気の妹は声を上げて郁を睨んだ。
「姉さん。私を殺せば叡智を失うけど良いのね?」
 どこまでも勝気にほくそえむ妹に、郁は目に涙を浮かべ彼女を振り仰いだ。
「あんたは……間違えてるわ!」
 そう叫び、郁は泣いて馬謖を斬った。
「ふ、ふふ……。馬鹿な姉、さん……」
 急所を貫かれた妹は不適に微笑みながら郁を見る。
 そして目の前にくず折れる妹を見て、TCの後に続いてきた零は目の前で指導者を失って落胆した。
「これからどうしたら……」
 落胆している零の隣に、解放されたあやこもまた暗い表情で声をかける。
「泣きたいのは私だわ……」
 頭に五分刈状の電極を生やしたあやこ。その横には、小脇に玲奈号を抱えて玲奈は泣いていた。
 妹を見下ろしていた郁は、そんな彼らを睨むように振り返る。目には大量の涙が溢れていた。
「あなたたち既婚者はまだいいわよ!」
 共感能力を完成させたはいいが、男を得る目論見が潰えたことに郁はただ号泣するしかなかった。
 そんな彼女に歩み寄ったあやこはぽつりと声をかける。
「綾鷹……これからどうする? このままステインに残る?」
「……」
 そう問いかけられ、郁はむせび泣きながらもしばし考え込んだ。そして熟考の末、艦隊復帰を願い出る。
「あたしは、艦隊に復帰したい……」
 あやこは郁の願いをしっかりと受け入れ深く頷いた。
 郁は流れる涙を止めることが出来ず、ゆっくりと天を仰ぐと玲奈が彼女の傍に近づいた。
「……ブス女3人で頑張ろう」
 玲奈が慰めるように声をかけるが、天を仰いで泣く郁には届いていなかった。