|
レッツ! 脱出・無人島!!
1.
「青い空、白い雲、透き通る海!」
「…おい」
「波間に踊る煌めく魚の鱗! あぁ、海ヨ! 母なる海ヨ!」
「おい!!!」
草間武彦(くさま・たけひこ)が苛立たしげに、このくそ暑い中でなぜか汗1つもかかずにピンクのファーコートを着た怪しげな人物の頭をガシッと掴む。
「なんで俺らは今こんな状態になってんだ? ここはどこなんだ? どうしてこうなった!?」
「…エー…説明いたしますと、アタクシ・マドモアゼル都井(とい)が草間興信所の皆さんとの親交を深める為に真夏のクルージングにお誘いいたしたわけなのデ〜ス! で、偶然発見いたしました無人島に立ち寄っていたところ、クルーザーが流されてしまった…故に! 置き去り! 名もなき島に置き去り!!」
「バカか!! なんでクルーザーが流されるんだ!? 誰が運転してたんだ!?」
白い砂浜が広がる島で草間とマドモアゼルは言い争う。…太陽がまぶしい。
「運転はアタクシがしてましタ〜♪ ウッカリ錨をおろすの忘れましタ〜…アハハハハハハ〜!!」
「『あはは』じゃねぇ!!!」
怒り狂う草間に、妹の草間零(くさま・れい)がおずおずと発言する。
「あの〜…、とにかくどうにかこの無人島から出ないことには興信所に帰れませんし、明日の午後に依頼のお約束もあるので早めに何とかしたいのですが…」
…零ちゃん、冷静です。
「…そんなわけで、この無人島からネオンの海・東京を目指してどうにか帰り着きまショー!」
「おまえが言うなぁあああああ!!」
2.
島に取り残されたのは草間兄弟の他にもいた。船の中で自己紹介はすませていたとはいえ、ほんの数時間前に会ったばかりの人間とまさかサバイバル体験をする羽目になろうとは…。
黒・冥月(ヘイ・ミンユェ)は長く黒い髪に、黒い水着と揃いのパレオを着てハァとため息をつく。
「こういう時に限って非常食も水も持ち合わせていないとは…」
伊座那・奈美(いざな・なみ)は友人である因幡・白兎(いなば・はくと)と顔を見合わせるとカラカラと笑う。
「何だか大変なことになったなぁ」
「奈美ちゃん、笑っている場合じゃないよ…」
白兎は疲れたように帽子を目深にかぶる。活動的で可愛らしい女の子の服を着ているが、白兎はれっきとした『男の子』である。
「…うん、確かに。楽しみたい気もするけど、弟や妹達が心配するからな。何とかするぞ」
奈美が力強くそういうと、白兎は少しホッとしたような顔をした。
「あんた、大丈夫か? 顔色が悪いが…」
最年長参加者の藤堂・裕也(とうどう・ゆうや)の声に、氷の傘をさし赤いロリータな服を着たアリア・ジェラーティは静かに首を振る。
海上の太陽の光はアリアには厳しすぎた。自身が溶けそうなほど暑い。
「…今はこれが精一杯…」
アリアは天に手をかざし…ぱたりと倒れた。
「お、おい! しっかりするんだ!」
藤堂の声にアリアはうなされるようにこう言った。
「海に、流されたい…」
「気をしっかり持て!」
藤堂は慌てて手近にいたマドモアゼルの帽子をはぎ取ると、それでアリアに風を送った。
その横をすり抜けて、小さな黒い子猫が波打ち際で波と戯れ始める。
「おい、千影! 濡れるぞ!」
千影(ちかげ)と草間に呼ばれた子猫は立ち止まるといたずらっぽい緑の瞳を草間に向ける。
『濡れてもいいもん♪ 海だぁーっ!』
千影は波に突っ込んでいく。無邪気な子供のように。
「武彦、ひとまずアリアを木陰に移動させたいと思う。できれば全員でそこに移動できないか? はぐれるのは得策じゃない」
「あ、あぁ。そうだな。あっちの森の近くに移動するか。荷物があるヤツは手を貸すが…」
草間はそう言って冥月、千影、奈美、白兎、そして最後にアリアと藤堂を見た。
「アリアは俺が運ぼう。歩きながらでも、少しこれからについて話しておこう」
「ご飯とか、この状況からの脱出方法だね」
森へと歩き出した白兎の言葉に奈美がカラカラと笑う。
「気合いで泳ぐか?」
「奈美ちゃん…」
白兎が項垂れる。冥月が苦笑する。
「さすがに気合いで泳いで行ける距離ではないな」
「自力で脱出するよりは助けを呼んだ方が…しかしそれだといつ救助が来るかもわからないから…ぶつぶつ…」
草間が必死で頭をフル回転させている横で、千影がコロコロと笑う。
『あんまり考え過ぎると、おでこがひろがっちゃうんだよ? 武彦ちゃんはしんぱいしょーなんだから☆』
「ち、千影さん!? それは禁句です!」
零が慌てて千影に言ったが、どよーんと濁った目になった草間のショックは計り知れない。
「育毛には…血行促進…」
アリアがうわ言のようにそう言ったのが印象的であった…。
3.
ひとまず手分けして各々が行動を開始した。
白兎と奈美は海の方へ。腹が減っては戦はできぬ、ということらしい。
冥月と草間は浜辺沿いに2人並んで歩いていく。
千影は濡れた体を零にタオルで拭かれている。
アリアと都井と藤堂は、アリアの看病に木陰に残った。
「私のことは、大丈夫…後で追いかけるから…」
「そんな状態で置いていけるわけがないだろう。探索に行った武彦や他の皆が水や食料を持ってきてくれるだろう。それまで体力を温存するんだ」
藤堂は言葉こそぶっきらぼうだが、優しくそう諭した。
しかし、そこにはもう1人いる。そう、マドモアゼルである。
「藤堂サ〜ン! こちらのお嬢さんのご意見もごもっともだと思うのデ〜ス! もしよろしければアタクシがアリアさんに付き添いますので〜藤堂サンは是非! アリアさんの言う通りにしてあげてくだサ〜イ!」
…顔を見合わせる藤堂とマドモアゼル。藤堂の顔が明らかに曇っているのがアリアにもわかった。
「おじちゃん、私もその方がいいと思います…」
アリアの言葉に、藤堂は考え込んだ。そして、藤堂はひとつの質問をした。
「都井、ひとつ訊いておきたい。あんたはサバイバルというものが何だか知っているか?」
「サバ威張る? 海の幸ですカ〜? アタクシ、サバよりはマグロの方が偉そうな気がするのデ〜ス!」
「…わかった。ここに残ってくれ。アリアを頼む」
「もし動けるようになったら、どこかで合流しませんか?」
アリアがそう訊くと藤堂は辺りを見回した。
「うん? そうだな…」
藤堂は海岸沿いの大きな岩を指差した。そして、心配しながらもアリアの元にマドモアゼルを残して海へと向かっていった。
アリアは一息つくと、都井に声を掛けた。
「ねぇ、露天商さん」
「…アタクシのことですカ〜?」
なぜか白を切るマドモアゼル。アリアは首を傾げる。
「今日は、不思議なもの持っていないの?」
「アタクシ、色々やってますので色々忘れてしまいマ〜ス。お嬢さんに溶けない雪だるまを売ったことも覚えてまセ〜ン!」
…しっかり覚えているようだ。
「それよりも、大丈夫なのですカ〜? お嬢さんが溶けてしまいませんカ〜?」
マドモアゼルの心配する声に、アリアは微かに微笑む。
「大丈夫。もう少しで…」
「? もう少しで?」
そう言ったマドモアゼルの上空を黒い雲が覆った。小さな雨雲。アリアたちがいるその場所にだけその雲は発生していた。
「オゥ!?」
マドモアゼルが驚いたのも無理はない。それは突然の雨だった。
もちろん偶然ではない。アリアがちょっと前に空に手をかざしたのはこの為だった。少し無理やりだったが、恵みの雨だった。
「涼しくなってきた…もう大丈夫。みんな無事?」
アリアは立ち上がる。まだ少しフラフラするが先ほどまでに比べると格段に良い。
「…お嬢さんは雨女だったのですカ〜?」
そんなマドモアゼルの問いを、アリアは無視することにした。
4.
冥月たちが見つけた滝で真水の場所がわかった。奈美たちが見つけたペットボトルを持って、その真水を汲んでくる。
その滝の近くで、千影はなぜか野生の西瓜をゲットしてきた。
「おっきな西瓜見つけたのっ」
藤堂との合流地点に旗を立てたアリアは、千影が持ってきたスイカを凍らせ、袖からアイスの液体を出してスイカアイスを振舞った。
「いやー、炎天下のアイス。サイコー!」
釣りを頑張った奈美と白兎は、たくさんの魚を釣ってきた。…残念ながらししゃもはいなかった。
「この枝でたき火を作って、魚を焼きながら狼煙を上げよう」
藤堂は拾ってきた小枝をくみ上げ、草間が持っていたライターを借りると火をつけた。それは明るい灯台の役目にもなりそうだった。
「いい匂いです〜」
零の顔がほころぶ。魚の焼ける匂いに皆のお腹がきゅ〜っと鳴る。美味しそうな匂いだ。
「まだ焼けていない。もうちょっと待て」
冥月は空を見上げて太陽の位置を読む。東はあちら。北はあっちか。
「クルーザーは見つからない? 見つかったなら海を凍らせて歩いて行ける」
アリアがそう言ったが、冥月は首を横に振る。
「この島の半径5q四方にはない。歩いていくのは…無理そうだ」
アリアは「そう」と言って、たき火を見つめる。
「この煙を誰かが見つけてくれるといいんだが…」
藤堂の言葉に、千影が口を出した。
「ねぇ? さっきから何の話です??」
千影に返答したのはマドモアゼルだった。
「アタクシ達は〜現在遭難中〜この島から〜お家に帰りたいのデ〜ス」
「おまえが言うなぁぁぁぁぁ!!」
ドゴォッという音とともに草間の鉄拳がマドモアゼルに直撃し、マドモアゼルは地面にひれ伏した。
「…やだぁ! チカ、それならいい方法知ってる♪」
どこからともなくペンと紙を取り出して、千影はきゅきゅっと『東京』の二文字を書いた。
「?」
皆が見守る中、千影はそれを大きく天に掲げ持つ。
「困った時は、誰かにお願いすれば良いんだよ?」
ヒッチハイクのように親指を立てる。それはきっちり3秒後に起きた。
『東京までか?』
目の前に大きな龍が現れた。
「奈美ちゃん! 龍だよ!」
「ドラ…ゴン…!?」
「コイツぁ凄いな」
「武彦!? な、何? 子猫は人間になって龍を呼べるの!?」
「あー…俺にはもうよくわからん」
「とにかくこれで家に帰れますね」
とにもかくにもこうして千影のヒッチハイクは成功し帰路についた。
1日ぶりの我が家。自分の部屋に入るといつもの声が聞こえる。
「アリア、おかえり。クルージングは楽しかった?」
「…うん。楽しかった」
手のひらに小さな雪だるまを載せて、アリアはまた日常に戻っていった。
−−−−−−
■□ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) □■
【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
2778 / 黒・冥月 (ヘイ・ミンユェ) / 女性 / 20歳 / 元暗殺者・現アルバイト探偵&用心棒
8537 / アリア・ジェラーティ / 女性 / 13歳 / アイス屋さん
3689 / 千影・ー (ちかげ・ー) / 女性 / 14歳 / Zodiac Beast
8580 / 藤堂・裕也 (とうどう・ゆうや) / 男性 / 60歳 / バーのマスター
8680 / 伊座那・奈美 (いざな・なみ) / 女性 / 18歳 / 学生・アイドル
8682 / 因幡・白兎 (いなば・はくと) / 男性 / 15歳 / 学生・アイドル
NPC / 草間・武彦(くさま・たけひこ)/ 男性 / 30歳 / 草間興信所所長、探偵
NPC / 草間・零(くさま・れい)/ 女性 / 不明 / 草間興信所の探偵見習い
NPC / マドモアゼル・都井 / 両性 / 33歳 / 謎の人
■□ ライター通信 □■
アリア・ジェラーティ 様
こんにちは、三咲都李です。
依頼にご参加いただきまして、誠にありがとうございます。
長々とお待たせいたして、申し訳ありません。久し振りの依頼でしたので、かなり手間取ってしまいました。
夏の良い思い出になれば幸いです。
|
|
|