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<PCシチュエーションノベル(ツイン)>


交錯する想い

 激しい爆音が響く。張り詰めた空気の中、四方から銃声の音が鳴り止まない。
 地面を踏む雑踏は忙しなく、逃げ回る人々があちらこちらで銃に撃たれ、前のめりに地面に崩れ落ちていく姿が見て取れた。
 華南国南部。この地での過激派が独立テロ活動を活発にしていた。
 緊張感の続くこの地で、外交関係はないものの人道目的で妖精王国の旗艦が医療援助を行っている。
 その華南の首都では、大勢の負傷者を旗艦の上陸班が救助を行っていた。
「大丈夫? すぐに良くなるわ」
 意味深に微笑み、負傷した華南男の腕に包帯を巻きながら色目を使っているのは綾鷹・郁だ。
「ね? 傷が治ったら、あたしと付き合わない? 悪いようにはしないわ」
「綾鷹」
 隙あらば、だれかれ構わずナンパしようとする郁の背後に、藤田あやこが鬼の如き形相で仁王立ちに立つ。
「何を目的にここに来ているのか分かってないようね。人の目を盗んで手近な男をナンパして恥ずかしくないの。今すぐ薬品を渡して撤退しなさい」
「……」
 しまった、と言わんばかりに顔を顰めた郁だったが、すぐにあやこを睨むように見返した。
「こ、ここにはないわ!」
「見え透いた嘘を言うな。これは命令だ。今すぐ薬を置いて撤退しなさい。早く!」
「ほんとよ! ないの!」
「綾鷹。あなた、自分がみっともないとは思わないの?! 言い訳はいらない。撤退だ!」
 回りも呆れるほどの口論が二人の間で繰り広げられる。郁のナンパしていた男も唖然とした表情で二人を見つめ、周りの負傷者や救護に当たっていた上陸班たちも何が起きたのかと、ポカンと口を開いて二人を見つめている。
「いいじゃない! あたしだって男が欲しいのよ!」
 思いがけず本音を叫ぶ郁に、あやこは情けない……と、嘆息を漏らした。
「綾鷹。私はそれが駄目だと言ってるんじゃない。時と場所を弁えろと……」
 そう切り替えした時だった。ふっと二人の間に影が差し、何が起きたのかと二人が顔を上げると、そこには事象艇があった。そして次の瞬間、郁は抵抗する間もなくその事象艇に誘拐されてしまったのだった。
「綾鷹!」
 立ち去る事象艇を見上げ、あやこは叫んだ。

                       ******

 冷ややかな空気が流れる洞窟。ここは現在テロを引き起こしている過激派の占拠している場所だった。
 郁を連れ去った事象艇は、彼女を誘拐すると迷うことなくここへやって来たのだ。
 後ろ手に縛り上げられて、郁は無理やり洞窟の奥へと連れ込まれる。
「……」
 郁は歩きながら、洞窟の四隅に体を丸め込んで病に伏せっている者が多くいることを黙認した。
「連れてきました」
 ぐいっと前に突き飛ばされ、よろめいた郁の前には過激派のボスがどっかりと腰を据えている姿がある。
「あら……」
 思わず郁は顔を染め、ボスに見入ってしまった。
 男に飢えている郁には、自分と付き合ってくれるなら誰でも良かったが、目の前にいるボスはなかなかの美男子だ。
 熱っぽい視線を送る郁をよそに、険しく眉根を寄せていた過激派のボスは郁を見るなり口を開く。
「艦長に医療援助を頼め! さもなくば命はないぞ」
 脅しかけるその言葉に、郁は短く息を吐くと真っ直ぐに彼に向き合う。
「王国は立場上対等に援助せざるを得ない……。だから私を人質にしたのね?」
 そう問いかけると、男は頷いた。


「過激派に情けは無用!」
 声高らかにそう叫んだのは、女刑事だった。
 ここは警察。誘拐された郁の件であやこが訪ねた矢先の出来事だ。
「今のままじゃあいつらの思う壺よ。疑わしい者は容赦なく尋問するわ!」
 息巻いたまま、女刑事は目の前にいる幼児に向き合い尋問を繰り返す。
「過激派はどこにいるの! 言いなさい!」
「知らない。知ってても言わないっ!」
 そんなやりとりが絶え間なく続く。散々問い詰め、それでも口を割らない幼児に苦々しい表情を浮かべながらも、一度刑事は傍を離れた。
 なぜあんなに必死になっているのか不思議に思ったあやこが刑事に近づいていく。
「随分必死ね。そんなに必死になるなんて、刑事になった動機はなんだったの?」
 そんなあやこに女刑事はちらりと目線をよこすも、すぐに目を逸らして口を開く。
「就任の動機は通学バスを襲う少年兵を見たからよ。子供にあんなことさせるなんて、過激派の連中はまともじゃないわ」
「……そうね」
 あやこが頷くと、しばし二人の間に沈黙が落ちた。が、すぐに刑事はその場を離れた。
「悪いけど、失礼するわ。仕事があるの」
 そう言って幼児の元へ戻っていった刑事を、あやこはじっと見つめていた。
 その後も同じような押し問答が繰り広げられていたが、幼児は容赦ない尋問に大粒の涙を零し始める。
 一部始終を見つめていたあやこは見かねて声を上げた。
「こんなの……もう沢山よ!」
 胸の奥が痛む。こんなやり方は違うと感じていた。
 あやこは警察署を出ると、過激派との交渉を試みようとその場を後にし、まっすぐ旗艦へ戻ったあやこは過激派の事象艇の航跡を逆探知できるか研究した。
「あと一回、敵襲があればデータが揃うのに……」
 あやこはもどかしさに歯噛みした。


「病に倒れるのは、事象艇の欠陥が原因よ。このまま放っておいたらあなたも部下も健康被害で死んでしまう。奇襲はやめるべきよ!」
 事象艇を用いた一撃離脱の奇襲。それを仕掛けるつもりの過激派に、郁は中止を求めたがボスは頑として首を縦には振らなかった。
「それならそれで本望だ」
 そう呟くボスの姿に、郁はただ唖然とするしかなかった。
 何か生き急いでいるような気がしてならない。自分と共に他の人間達をも巻き込むことが本望だと?
「人殺し!」
 唾棄した郁を、ボスはじろりと彼女を見た。
「己が持つ軍事力を振りかざして威嚇し、精神的圧力をかけて自分の良いように進める奴らに苦しめられ、死んだ奴もいる。それは人殺しと同じじゃないのか?」
 郁はその言葉に、思わず沈黙してしまった。
 彼の言い分は間違っていない……。
「とにかく、黙ってみてろ」
 吐き捨てるように言ったボスを合図に、過激派メンバーが次々と旗艦に乗り込んでいく。そして機関部に進入した過激派はTCの少女達を射殺し、爆弾をセットした。
 その異常に、同じ旗艦にいたあやこが気づきすぐに機関部に駆け込んでくる。
「何……爆弾?!」
 目に入った爆弾装置を取り付ける過激派を見つけ、あやこは弾かれるように中に飛び込み過激派に抗った。
「そんなことさせない……っ!」
 必死に抗うが、散々揉み合った末そのまま拉致されてしまった。
 そして郁動揺にボスの前に連れてこられたあやこは、彼を睨み見た。
「あなたが過激派のボスね……。一言言うわ。もう王国と関わるのはやめなさい」
 不干渉論を言い渡すと、ボスはじろっとあやこを睨んだ。
「王国は俺らより酷い。俺達のような無価値な弱者を無視し続けている。そんな目に遭ってもあんたは俺らにただ黙ってみていろと言うのか」
 あやこは思わず言葉を飲み込んでしまった。
 そこへ郁が口を挟んでくる。
「彼は悪い人じゃないわ! 軍に息子を撃たれて……」
 ボスを援護する郁に、あやこは目もあわせずに叫んだ。
「巻き添えは迷惑よっ!!」
「……っ」
 なぜ自分が彼らの思想に巻き添えにならなければならないのか。あやこはそれが我慢ならなかった。
 するとボスは立ち上がり周りを見回す。
「旗艦が沈めば王国が動く。和平の末、俺達は独立だ!」
 そう嘯いたボスをあやこは睨みつけた。
「汚い手口ね!」
 そう叫び、同時にボスの腹を蹴り上げる。その瞬間、まるでそれを読んでいたかのようにボスは手にしていた銃をあやこに突きつけ引き金を引いた。
 ドンっと重々しい銃声が響き、あやこは撃たれたと思ったが射線が彼女から僅かにそれて発砲された。
「ぐふっ……!」
 ボスは大量の血を吐き、そのまま地面に倒れこみ動かなくなった。彼の死因は喀血死だった。
 倒れた彼の背後には、基地探知に成功した刑事の銃口がある。彼の仇を撃とうと銃撃し始める少年兵。
「駄目よ! 撃つな!」
 あやこは女刑事の発砲を諌める。
「もう後継者がいる。終わらせなきゃ……」
 呟くようにそう言うと、あやこは倒れたボスの傍らにいる郁に視線を向けた。
「うわぁああぁぁーっ!!」
 亡くなったボスの傍らで、郁はただ泣き崩れていた……。