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無人島de夏休み!
1.
南の島のバカンス…と洒落込みたいところだが、そこまでの時間もお金もない…。
東京・草間興信所は今年も冷房はつけずに扇風機でやり過ごす日々。
黒・冥月(ヘイ・ミンユェ)は所長の草間武彦(くさま・たけひこ)の手伝いをしながらぼんやりと考える。
そんな時、草間が話を切り出した。
「友人が所有している南の無人島に遊びに行かないか? 夏の海…ってのもいいが、たまにはキャンプもいいんじゃないかと思うんだが。この間の無人島のリベンジ…ってわけでもないが、現地調達で食料なんかも採ってさ」
無人島…キャンプ…なんだか心躍る響きだ。
「いつ…行くの?」
冥月がそう訊くと、草間はカレンダーを見上げて「そうだなぁ」と呟く。
「丁度仕事の谷間でもあるし、明日行くか」
「ちょ!? 急すぎない!?」
冥月が慌てると、草間はにやりと笑う。
「妹も丁度仕事でいないし、今のうちがいいだろ?」
そう言われると…そうなのだけど…。
「でも、でも…それなら色々今から準備しないと間に合わないじゃない!」
冥月がパタパタと慌ててキャンプに必要な物を買い出しに草間を連れ出す。
草間はそれに素直に従ったのだが…キャンプで頭がいっぱいになってしまった冥月に付け足しのように呟いた草間の言葉は届かなかった。
「まぁ…ちょっといわく付き物件なんだけどな。でないかもしれないし…ま、いっか」
2.
南の島の風は爽やか。同じ風なのにどうしてこうも東京と空気が違うのだろう?
「武彦、テントはこんな感じでいいかしら?」
島の高台に場所を決め、テントと炊飯用のかまどをしつらえる。強風ではなかったので冥月がテント設営を担当し、かまどを草間が担当した。
あとで海で魚を獲ってくるため、冥月は水着の上からシャツを着ている。草間は山で山菜取りのために長袖長ズボンの重装備だ。
「あぁ、いいんじゃないか? かまどはこんなもんか?」
草間の言葉にテントの陰からひょいっと冥月はかまどを見る。
「もうちょっと何とかならない? これじゃお鍋が傾いちゃうわ」
「…容赦がねぇな」
「だって折角美味しく作っても、こぼれたら意味ないでしょ?」
冥月のダメ出しに、草間はふくれっ面で冥月に近寄ってきた。
「な、何? かまど作り直さないと、ご飯作れないわよ?」
そんな冥月の言葉などお構いなしに、草間はするりと冥月の体を捕える。
「!?」
「飯よりおまえがいいな」
あっという間にテントに引き込まれて、草間の下に組み敷かれた。
「明るいうちに準備することがたくさんあるのよ? ねぇ…」
「久しぶりに2人っきりになれたのに…そんな冷たいこと言うなよ」
2人っきり…確かにそう。あの娘も妹もいない…誰もいない無人島。こんなに広い島で2人っきり。
別に…私だって2人っきりは嬉しいし…それを望んでいないわけじゃない。
「俺は…我慢できない」
冥月の髪に顔を埋める草間の体を、冥月は優しく抱きしめる。
「もう…1回だけよ」
困ったように笑ってため息をつき、唇を重ねる…と不意に誰かの気配を感じた。
「誰だ!?」
草間の顔を押しのけて、冥月はテントの外に意識を集中する。
「むぐっ!! …どうしたんだよ?」
怪訝な顔の草間に冥月は真剣な顔で答えた。
「誰か…見てる…」
「…まさか? 無人島だぜ? それより…さ」
草間の手が冥月の顔に伸びてきたが、冥月はそれを振り切った。
「なんだか気分が乗らないの。ごめんなさい」
外の気配はいつの間にか消えていた。足音すら聞こえなかった。
野生の動物? でも、そんな気配じゃなかった。あれは…人間の気配…。
「私は魚獲るから、山菜をお願い」
「おい、冥月!!」
不満げな草間の声が聞こえたが、冥月は草間の頬にキスをすると海へと向かった。
海風は冥月の髪を優しく撫でる。浜辺を見渡す。誰かが上陸してきたような跡も見つけられない。
思い過ごし…そう。きっといつも誰かがいた環境に慣れすぎて、過敏になっていたのかもしれない。
海で頭を冷やそう。
シャツを脱ぐと、冥月は冷たい海の中へと入っていった。
3.
「海が綺麗だと、魚もいっぱいいるのね」
採れたての魚をたくさん持って、海から上がってきた冥月は上機嫌だった。
「おー、こっちも山菜いっぱい採れたぜ。…中にヤバイの入ってるかもしれないが…」
「…あとでちゃんと見るわ」
苦笑いした冥月は「そうそう」と話を変えた。
「海の中で人工物を見たの。何かしらね? なんだか鉄のようだった気もするけど、だいぶ腐食してしまっていてよくわからなかったわ」
「…え?」
草間の言葉に微妙な間があった。冥月は首を傾げる。
「なにか心当たりでもあるの?」
「いや、別に。さぁ、日が暮れる前に飯作っちまおうぜ」
半ば強引に話を変えた草間に何か引っかかるものを感じながら、冥月は獲れたての魚と採れたての山菜を使い豪華な食事を作り上げた。
その頃には夜空に星が光っていた。綺麗な星空を見ることができる場所。そして、2人だけのロマンティックな夜。
「ワイン、持ってきたの。飲みましょ」
グラスをふたつ、草間の前と自分の前においてワインをなみなみと注ぐ。
白い透明なワインが星空を映して煌めく。
「乾杯」
グラスの音が響き渡り、美味しい料理と共に2人っきりを楽しむ。
積もり積もった話を2人だけで語り合うのはこんなに楽しいものだったのかと、充実した気持ちになった。
ワインが減れば、お互いの距離もだんだん縮まる。いつの間にか料理もなくなり、冥月は草間の肩にもたれかかる。
「こんな時間、久しぶりね…」
「あぁ」
言葉はもういらなかった。2人の唇が段々と近づき…また視線!?
「今度は逃がさん!」
猛スピードで視線を感じた方向へと冥月は走り出す。影のロープを投げつけるも手ごたえがない。
バッと開けた場所へ出た。そこには小さな小型プロペラ機の残骸。その横にぼんやりと黄色く光る人型の影。いったいいつからここに…?
「あー…やっぱ出たのか…」
後から追ってきた草間がやってくると、舌打ち混じりに語りだした。
「ここは戦地だった場所だ。もともと俺の知り合いの所有する島なんだが、この霊がいるせいで処分もできんってことで、一応依頼も兼ねてここに来たんだ。ただ、どういった条件で出現するかは不明だったんで、おまえに説明しなかったんだが…」
「な…!?」
そう言って冥月は絶句した。まさかそんないわくつきのバカンスだったなんて…!
「なんでちゃんと話してくれないのよ…」
「そもそも出るとは思ってなかったからなぁ…」
『怪奇の類・厳禁』の張り紙を貼っているだけのことはある。これだけ怪奇の類に触れてもまだそんなことが言えるのか、この男は…。
「依頼なんでしょ? だったらちゃんと話しておいてくれた方がよかった。なんだか…信用されてないみたい…」
「なんでそうなるんだ!? 俺はそんなことは…」
「だったら! ちゃんと話しておいてくれればよかったの!」
始まってしまった痴話げんかに黄色い影はオロオロする。そして、互いを見据える草間と冥月の間に割って入る。
黄色い影の手が、2人の体を止めた。
それは、ごくありふれた動きだった。しかし…
『うわゎっぁぁぁぁぁぁ!!!!』
盛大な叫び声とともに、黄色い影は赤く燃え上がる。
「きゃっ!?」
思わず冥月は自分の胸を両手で覆い隠し、草間は呆然とその場に立ちすくむ。
「な、なんだぁ??」
「さ……た」
冥月の小さな言葉を草間は聞き逃さなかった。
「おまえ…ひとの女の胸触ってタダで済むなよぉおおおお!!!」
しかし草間の絶叫も虚しく、赤く燃え上がった人影は空へと昇って行ったのであった…。
4.
翌朝、プロペラ機の傍に埋もれていた骨を見つけ出し、草間と冥月は小さな墓を作った。
「昔の若者は女も知らず戦地に赴き死んでいったらしい。だから、供養に女の人形を捧げるんだと。あの世での花嫁の代わりに…」
少しふてくされたような顔をした草間の説明に、冥月は苦笑いをする。
「もう、そんなに不貞腐れないの」
昨晩触れられた感触はなかった。しかし、確かにその黄色い影の手は冥月の胸に触れていた。
純情な青年の心残り。それで成仏できてしまう程、彼は世の中を知らなかった。
「アレは無理だけど」
そう言って、冥月は髪の毛を1本抜いた。
綺麗なレースのハンカチにそれを包んで墓の前に供えて、手を合わせた。
安らかに。次に生まれてくるときは、平和な世でありますように。
「なぁ、冥月」
草間が神妙な声で言う。
「…なぁに?」
「これで依頼の方も片付いたことだし、改めてテントで2人っきりに…」
目を丸くした冥月の手を、草間はそっと握る。
だが、冥月は肩をすくめて草間から逃げた。
「彼にまだ見られてる気がするの…だから、ダメ」
優しく微笑んだ冥月に、草間は吠えた。
「えーーーーーーーー!?」
無人島に響いたその声は、東京にまで聞こえそうなほどの心の叫びであった…。
ごめんね、武彦…。
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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
2778 / 黒・冥月 (ヘイ・ミンユェ) / 女性 / 20歳 / 元暗殺者・現アルバイト探偵&用心棒
NPC / 草間・武彦(くさま・たけひこ)/ 男性 / 30歳 / 草間興信所所長、探偵
ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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黒・冥月 様
こんにちは、三咲都李です。
ご依頼いただきまして、ありがとうございました!
真夏の無人島で素敵なキャンプ…楽しんでいただけたら幸いです♪
ラブラブのおあずけはいいですね!w
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