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<PCシチュエーションノベル(ツイン)>


幾時を経て

 40世紀。ロサンゼルス郊外にあるウラン廃坑で、19世紀の服を着た天使のミイラが発見された。
 軌跡の大発見。そんな謳い文句が付けられ、巷では話題となっている。
 その情報を聞きつけたあやこと郁は、ロスに急派された。
「これって……」
 噂のミイラを見た瞬間、二人は目を丸くした。なぜなら、そこにあるミイラは郁そのものだったのだ。
「うっそ……これってあたし?」
 心底驚いているようだが、郁の表情はどこか嬉しそうだ。そんな彼女を怪訝そうにあやこが見上げると同時に歓喜の声を上げる。
「やったぁ!」
 顔を紅潮させ、笑みを絶やさない郁。
 不老不死の喪女生活も、いつかは終わる時が来る。それが分かっただけで飛び上がらんばかりに嬉しかった。
 喜んでいる彼女を他所に、あやこは至って冷静に分析を始める。
「出土品も上がっているそうね。少し調べて見る必要があるかしら」
 手にした機械を持ち出し、あやこは出土品にそれをかざしてみる。するとほどなくしてあるデータが掴めた。
「寄生虫と放射能……。これらは雲王星のものね。それにその星の蛞蝓が死因に絡んでいるようだけど……」
「蛞蝓? 蛞蝓がなんで死因に関係が?」
「雲王星の蛞蝓は肉食なのよ。しかも狡猾で擬態が大得意」
 そう話しながら、あやこはデータを保存して機械を懐に仕舞い込む。そして立ち上がると郁を見た。
「雲王星に行くわ」


               *****

 雲王星に到着した旗艦。艦を停め、あやこ、郁含む上陸班が艦から降りてくると目の前には洞窟がある。その洞窟は先ほど検出した寄生虫である蛞蝓が棲む洞窟だ。
 洞窟の入り口まで来ると、あやこはくるりと上陸班を振り返った。
「上陸班は私と共に行く。綾鷹。あなたは上陸班から外れてもらうわ」
 思いがけず班から外される事になった郁は一瞬呆然とするも、すぐに反論した。
「何故? 何であたしが上陸班から外れなくちゃ……」
「何でもよ。これは命令。いいわね」
「良くない! 何が良いのか分からないわ! 運命は騙せないんだからっ!!」
 憤激している郁は意地でも自分も中に入るのだとあやこに抗う。だが、あやこはそれを頑として認めなかった。
 あやこ率いる上陸班が洞窟の中に入って程なく、残された郁はブンむくれた様子で洞窟の入り口に座り込んでいた。
「全く冗談じゃないわ。どうしてあたしが上陸班から外されなきゃいけないのよ」
 納得がいかないとブツブツ文句を言っていたが、ふと何かの気配を察知した郁はその場に立ち上がる。
「……誰かいる」
 大勢のザワザワとざわめく気配がある。それは自分たちとは違う時間軸上の存在を共感能力で察した。
 そして急ぎ中に入っていったあやこにコンタクトを取る。
「事象艇を使えば、彼らと同調出来そうだけど……」
 目の前の洞窟を見る限り、事象艇は入れない。
 郁は何かを思い出したように急造した装置と自分の能力を使い、彼らと同調する。
 白い亡霊たちが、そこかしこに穴の開いている尖塔から垂れている人魂を啜る姿があった。
『幽霊と人魂……それに、白蛇がいるわ』
「何? どういう事?」
 通信を受信したあやこは怪訝な表情でもう一度詳しく話を聞こうとしたが、それっきり何度呼びかけても郁にコンタクトが取れない。
「切れた……」
 愕然としたあやこだが、自分たちとは違う時間軸上の存在と言う物を探す事にした。そしてそれは以外にもすぐに見つかる。
 彼はアトラス編集部の編集者の桂と言う。
 桂はあやこの姿を見た瞬間、ニンマリと微笑みかけてくる。
「来ましたね」
 あやこは怪訝な表情を見せるが桂に先ほどの郁の相談を持ちかけた。
「綾鷹との通信が途切れた。一体何が起きているの……」
「それは話すと長いのですが、一つ言えるのは、あなた自ら危険を冒す定めです」
「何ですって?」
 あやこはますます眉根を寄せた。

              *****

 19世紀のロサンゼルス。風に舞い飛んできた新聞の見出しには「シスコでコレラ発生」と大々的に書かれ、街の中には物乞いが多くいる。
 郁はこの地で追剥に遭っていた。着ている者はレオタード一枚。他には何もない郁は、当てもなくトボトボと彷徨っていた。
「何であたしがこんな目に遭わなきゃいけないのよ……」
 がっくりと肩を落として歩いている郁。
 そんな彼女を見ていた街角の乞食は、郁を貧しい遊女だと思い声をかける。
「お嬢さん。ちょっと……」
 呼び止められて乞食の元にやってきた郁に、彼はカジノ勤務を薦めた。
 それは美味しい話だ。
 そう思った郁はその話を疑う余地もなく、すぐさまあるホテルのカジノへと向かった。そして郁は有り金全て叩き、能力を賭博に用いてたった一晩で一気に富豪になる事に成功した。
「良かった。これで何とか元の世界に戻る機械を造れるわ!」
 ホッと安堵に胸を撫で下ろし、稼いだ金を握り締めて時間補正機に必要な材料を掻き集め、数日かけて何とか造る事が出来た。
「よし、完成。即席にしては上出来ね」
 目の前の時間補正機を見つめて心底安堵した郁は、背後に不穏な影が迫っているのに気づかなかった。


 街の中のとあるホテル。そのホテル内ではある著名人による立食会が行われていた。
 近頃彼の書いた時間旅行に関する本がヒットを飛ばし、その祝いも兼ねた食事会だ。
 そんな彼らの前で、作家は大ヒットした時間旅行の本を手に浪々と語っていた。
「未来人がこのLAで謀略活動をしている。これはノンフィクションではない。フィクションである!」
 その本の関係者や抽選で当たったファン達は、彼の話に魅了されたかのように聞き入っている。
「これが嘘ではない証拠を、私はきっとあなた方に見せましょう」
 確信を得た彼の話は、その場にいる全員を信じさせるほどの勢いがあった。


 その頃、貧民窟では瀕死の乞食から蛇の形をした杖を用いて精気を吸い取っている夫婦の姿がある。
 一見人のように見えるが、彼らは人に化けていた蛞蝓だった。
 彼らは手にした杖を振りかざすと、瀕死状態だった乞食らは次第に動かなくなり、夫婦は不適に微笑んでいた。

                 *****

 程なくしてロスに現れたあやこら上陸班は、桂が晩餐会を催すという情報を手に入れていた。
「桂の晩餐会…。きな臭いわね……」
 この晩餐会に何か重要なヒントがあると察したあやこはその会場へ乗り込むよう決める。
 そしてその日の晩。郁の部屋にある人物が現れた。
 まだ帰宅していない郁。彼女がいない事を確認した上で、その人物は合鍵を使いそっと玄関のドアを開く。
 手にしていた小さなライトに映し出されたのは、先ほど立食会で語っていた作家だ。郁はこの作家に常にストーカーされていたのだ。
 作家は部屋に忍び込むと、郁が造った時間補正機の前に立ちはだかった。
「これだ……。これが決定付ける為に必要なんだ……」
 時間補正機の前にしゃがみこみ郁に無断で弄りだした。が、人の気配を感じ物陰に隠れた。
 

「ちょっとどいて! 緊急事態なのよ。桂に会わせなさい!」
「アポのない人間を通すわけにはいかない!」
 その頃桂の屋敷にけしかけていたあやこら上陸班は、ガードマンと押し問答していた。
 おめおめと引き下がる訳にはいかない。
「押し通ーるっ!!」
 引き止めるガードマンを力任せに押し退け、あやこは屋敷に飛び込んだ。
 騒ぎに駆けつけた桂は、突如目の前に現れたあやこに驚いたような顔を向けていた。
「あなたは……誰ですか?」
「話は後よ。綾鷹郁はどこ?!」
「彼女なら今上に……」
 話を聞いたあやこはすぐに二階へ駆け上ると、そこに驚愕して固まっている郁と作家、そして蛞蝓夫妻と鉢合わせた。
「綾鷹!?」
「あ、あやこさん?!」
 郁とあやこは再会を果たし、互いにホッとする。しかし、それも束の間。切羽詰っていた作家は突如叫んだ。
「お、お前達の化けの皮を剥いでやるっ!!」
 そう叫ぶなり、作家は時間補正機を起動した。
 すると夫婦の杖がぐにゃりと変形し、次の瞬間には蛇に変わる。
「な……っ!?」
 慌てた夫婦は虚空に突如開いた洞窟へ駆け込む。
 郁とあやこはその情景に愕然としていた。
「こ、これは一体……!?」