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<PCシチュエーションノベル(ツイン)>


幾時を経て2

 少し前の話だ。
 上陸班は街で死んでしまったコレラ患者を検死している。
「……これは病死じゃないわ」
 遺体をくまなく確認したあやこは訝しんだ。そして立ち上がると傍に立っていた上陸班の一人に声をかける。
「もしあなたが蛞蝓なら何処で餌を得る?」
 その質問に、その人物はしばし考えた。
「そうですね……。私なら、怪しまれず死人を得られる場所……。例えば病院とか……」
「なるほど……」
 あやこは辺りをぐるりと見回した。
「街中に蛞蝓探知機を仕掛けましょう」
「はい!」
 あやこは皆に指示をし、街中の目立たない場所に探知機を設置して回った。
 時を同じくしたその頃、作家は郁の部屋に侵入し時間補正機の部品の一部をくすねていた。
「これは確固たる証拠だ」
 不適にほくそえみながらくすねた部品を胸ポケットに納めた時、人の足音を感知し物影に身を隠す。
 そこに現れたのは桂と郁の二人だった。
「軍の管轄である郊外の洞窟へ入る方法が何かないかと思いまして……」
「なるほど……」
 二人の話し声が、隠れていた作家の耳にも入る。
 息を潜めて事が過ぎるのを待っていた作家だったが、思いがけない方向へと転がった。
「あら……?」
 郁が何かに気づく。時間補正機を見つめそして部品の一部がない事に感付いた。
「大変! 部品が一部足りないわ」
「!?」
 作家は生きた心地がしない。
「どうしよう。あの部品は有毒なのに……」
 そう溢した郁の言葉に、作家の顔色は蒼白した。そして大慌てで飛び出してくると、二人はギョッとしたように作家を見た。
「こ、この女はカジノや洞窟で不審な行動を取っていたんだ! 変な能力使って操ったり、空間を飛んでこの時代を貶めようとしている! お、俺は悪くないぞっ! 俺は、この女から皆を護るために盗ったんだ! だから俺は悪くないっ!」
 そう言いながら手にした部品を投げ捨て、作家は狂ったように叫ぶ。
「ば、化けの皮を剥いでやるっ!」
 そうして時間補正機の電源を入れたのだった……。

                *****

 洞窟に飛ばされたあやこら上陸班は、蛞蝓の痕跡を追跡していた。
 そこに作家が現れ、奇声を上げ始めた。
「お、お前ら全員警察に通報してやるからなっ!」
 パニック状態でわめきだした作家だが、あやこたちはそれをまるで取り合おうとしなかった。
 黙々と追跡調査を続けていると、ふいにあることに感付く。
「雲王星と此処は繋がっているのね……」
 あやこが眉根を寄せてそう呟いた時、突如銃声が響き渡った。
 その場にいた全員が一斉に振り返ると、そこには作家が銃を構えて立っている。
「お前ら全員逮捕だ!」
 そう言いながら、めちゃくちゃに発砲し始める。あやこと桂は急ぎ岩陰に逃げ、郁もその銃から逃れようとした時だった。
 どこからともなく突如として蛞蝓が現れ、郁が持っていた杖を強引に奪い去るとすぐさま未来へ逃亡を図った。
「綾鷹!!」
 あやこの悲鳴にも似た叫びが響く。
 蛞蝓によって逃げそこなった郁は、流弾の的になってしまった。
「……っ」
 苦痛に顔を歪め、遠のく意識に身を任せて彼女はその場に力なく崩れ落ちる。
「は……ははは……ざまぁみろ……!」
 銃弾を使い果たした作家はその場に拳銃を投げ捨て早々に逃走してしまう。そして藤田と桂はその場に取り残されてしまった。
「綾鷹っ!!」
 静まり返った洞窟内。あやこはその場から駆け出し、倒れた郁を抱き上げた。
「しっかりして!」
「……」
 そう声をかけるが、体中を無数の銃弾で打ち抜かれ血にまみれた郁はすでに息絶えている。
 あやこはボロボロと零れ落ちる涙もそのままに力強く郁を抱き寄せ泣き崩れた。
「綾鷹……っ。お願いよ……戻ってきて……」
 今はもうどうすることもできない郁を前に、あやこは必死にそう語りかけている。そんな姿を静かに見つめていた桂は密かに彼女に惹かれ始めていた。
「あやこさん……」


 どさくさに紛れ未来へ来た作家は旗艦ではしゃいでいた。
「ザマーみろ! どうだ! もう俺を裁けるものは誰もいないぞ!」
 一連の流れを読み取った旗艦乗組員は、そんな彼に取り合うことなく郁のミイラから造ったクローンに共感能力経由で彼女の人格を注入しようと試みていた。
「艦長は、助けられないのか……」
 そう呟く者もいたが、今はあやこを助ける暇はなかった。

 その頃、雲王星の洞窟では上陸班が過去に残った艦長の救出を検討していた。
「どうにか助け出す事は出来ないのか?」
「いや……状態が不安定で、助け出すにしても一人しか送る事が出来ない」
 上陸班たちは顔を突き合わせ、険しい表情で事の重大さをひしひしと感じている。
 一名しか未来に送る事が出来ない……。そうなれば、他を差し置いてもあやこを助ける以外選択肢はなかった。
「艦長は我々にとってなくてはならない人だ。当然の選択だろう」
「あぁ……。そうだな……」
 上陸班達は皆互いの顔を見つめ頷いた。
 あやこを未来へ送った後、事象艇を自爆させ洞窟を塞ぐ。これ以上の被害を出さない為にもそうするしかなかったのだ。
 その爆破が迫る中、倒れていた郁がふいに覚醒する。
「綾鷹……!!」
「駄目……爆破は待って……っ!」


 その頃、未来の医療室では、郁のクローンの覚醒が巧くいかないことに業を煮やしていた。
 覚醒が巧くいかないのはある記憶が阻害していることにある。それは、洞窟の爆破な成らぬと言う伝言だった。


 過去にいる郁とあやこは、その場にいた怒り狂う蛞蝓たちを前に対話する。
「お前らが悪霊の養殖場たる洞窟を爆破したから、俺たちは餓えたのだ」
「そうね。そうかもしれない。でもここは危険だわ」
 そう諭すあやこに、蛞蝓たちはいきり立った。
「ならば、我々はどうでもよいと!?」
 声を荒らげる彼らに、郁は首をゆるゆると振る。
「……ダウナー族を狩れ」
 その言葉に、あやこは目を見開き彼女を見た。
「綾鷹……」
「……それが、藤田艦長の伝言よ」
 小さく微笑むと郁はいよいよ力尽き、やがて動かなくなった……。

                   *****

 作家は、あやこと入れ替わるべく過去に戻された。そしていよいよあやこが未来へ戻る番となる。
 あやこは静かに桂を見上げると、桂も力なく微笑みつつあやこを見つめ返す。
「……二人の交際は、未来まで内緒なのね」
 涙ぐむあやこに、桂も小さく頷いた。
「歴史が狂うから……。でも、すぐ会えるさ」
 そう言うと、どちらからともなく抱き合った。そしてあやこは作家を見つめる。
「あなたともお別れね」
「私の次回作、東京怪談で逢おう」
「えぇ」
 あやこは作家と固く握手をかわすと未来へと戻っていった。
 あやこが去った後、作家は郁の死体を一瞥する。そして19世紀のドレスをそっと着せてやるのだった。
「さすが作家ね。ちゃんと判ってる」
 事象艇から見守る郁。彼女は無事に覚醒できたようだ。
 そして、旗艦に戻った藤田は桂の胸に飛び込んだ。
「やっと来たね」
「何千年も待たせてごめんね」
 時空を越えて抱き合う二人の姿は、実に朗らかなものだった……。