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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡現象〜異界〜>


sinfonia.27 ■ 沸き立つ諸君へ絶望の葬送曲を







 IO2東京本部での決戦は、日本各地のIO2と、親交あるアメリカはニューヨーク本部。そして中国、韓国などでもニュースとして流れていた。
 それだけ関心が高くもなるというものだ。

「……虚無の境界が日本という島国を狙ったのは、ある意味じゃ妥当な狙いだ。だが、さすがはディテクター率いる日本のIO2か。あんな隠し玉まで用意しているとは、な」

 ニューヨーク本部。
 当時のテロリズム対策委員会という立場に冠している一人の青年に向かって、男が声をかける。

「ディテクターか。島国の誇ったサムライスピリットの持ち主かと思ってはいたが、あそこまでの実力を見せてくれるとはな。予想外だ」

 日本のこれからの反撃は、間違いなくあの四人が台風の目になるだろうと予測して、男は続けた。

「ジャッシュ、覚えておくと良いぜ。日本はこの騒動の後、あの虎の子をどうにか飼い慣らそうとするだろう。ユウタ・クドウ。あいつは間違いなく日本の懐刀になるぜ」

「それはどうでしょうね」

「あん? 他に何かあんのか?」

 ジャッシュと呼ばれた若い男はその問いかけに、眼鏡をくいっと指で押し上げて答える。

「タケヒコなら、彼を手元には置かないでしょう。おそらくこちらに送って来ると思いますよ」

「タケヒコ?」

「えぇ。私が日本にいた頃に出会った一人の友人です。彼ならきっと、あの少年を日本には置きたがらないでしょうね」

 それがディテクターだとは言わずに、男はそう告げると部屋を後にした。
 まるで未来を予見しているかの様なジャッシュのこの一言が、後に彼を上層部に若くして食い入る為の足がかりとなるのは、当時の彼らもまた知らぬことである。







◆ ◆ ◆ ◆ ◆






 暗い洋風の屋敷だろうか。
 絨毯の敷き詰められた屋敷のホール。壁際にはランプが置かれ、弱々しい灯りが室内をボウッと照らしている。
 そんなホールから先に進んだ一室で、勇太と同い年ぐらいであろう二人の男女が言葉を交わしていた。

「はぁー、マジ勘弁して欲しいッスわ、ファングの旦那。あんな人間兵器、冗談じゃないッス。そんな人間兵器が負けるとか、それこそただの兵器ッスわ。
 マジそういうパワーインフレ勘弁ッスわ。核ミサイルでも通用しないんじゃないッスか?」

 男は頭にバンダナを巻き、目元まで覆っている。犬歯が長く、まるで吸血鬼かの様だ。金色の髪がバンダナの下から見えている。
 目元は見えないが、表情の動きは豊かだ。

「ごちゃごちゃうるさい。黙るといいよ、永遠に」

 対する少女は、アンティークドールの様だ。
 クルクルと縦巻きになった金色の髪に翡翠色の瞳。黒いゴシック&ロリータ調の服に、黒い日傘を折り畳んで手に持っている。唇にさされた赤いルージュは、色白な肌の上で存在感を強調している。
 会話の最中だと言うにも関わらず、一切表情を変えようとはせずに、淡々と言い返すのみだ。

「ちょっ、マジひどいッスわ。オレのピュアハートに生々しい傷が刻まれたッスわ。
 傷物のオレに愛の手を差し伸べてくれる天使様とか所望するッス」
「そういう事なら一回死ねば良いよ。天使様に会うついでに、そのまま現世にお別れするといいよ、永久に」
「ウェル、シャル。待たせたわね」

 二人に向かって声をかけたのは、暗闇の奥から姿を現した金髪の少女、エヴァ。
 ウェルと呼ばれた少年と、シャルと呼ばれた少女は短く返事を返してエヴァへと振り返り、姿勢を正した。

「エヴァ姐さんマジパネェッス。キレッキレじゃないッスか、その空気」
「黙ると良いよ、永劫に」
「ウェル、シャル。そのじゃれ合いも適当な所で止めなさい。話が進まないわ」

 エヴァにピシャリと言い放たれ、二人は口を噤む。

「知ってると思うけど、新宿を見張っていたファングがやられたわ。手負いのまま今は逃走しているみたいだけど、その後の連絡も特にない。余程の重傷を負ったかもしれないわね」
「あー、エヴァ姐さん。そいつらに俺タチが行けって言うのはマジ勘弁ッス。そんな兵器とぶつかるなんてホント願い下げッスよ」
「分かってるわ。だけど、あのまま野放しにしておいたらマズい相手なのよ。そこで、一つ策を打つわ。直接ぶつからずに――――」

 冷笑を浮かべたエヴァが、言葉を続けた。








◆ ◆ ◆ ◆ ◆







「――叔父さんが狙われるかもしれない……って?」

 IO2東京本部。
 武彦に連れられた三人は、作戦司令室でそんな話を聞かされていた。

「あぁ。ファングを撃退した以上、ヘタに戦力を割いて来る程、虚無の連中はバカじゃない。これからは身内、味方。そういった存在を利用してくる可能性がある」

 武彦は淡々とそう告げる。

 この条件下で狙われる可能性があるのは、唯一家族が近くにいる勇太。
 そして、凰翼島に祖父がいる凛の二人だ。

「すでに凰翼島にはエストと数名のエージェントが向かっている。あっちは心配する必要もないだろう」
「エスト様が?」
「あぁ。今回の騒動は本来、彼女が関わるべき範疇ではないしな。だったら戻ってもらって後顧の憂いを払ってもらった方が良いしな。問題は勇太、お前の方だ」

 武彦のその言葉に、勇太の顔が強張った。

「お前が関わってる事も、全て話す。そうしないと、協力してもらえないだろうからな」
「……ッ、そう、だよね」

 勇太とて、弦也にそれを伝えるのは忌避感を抱えている。
 弦也は自分の為に、これまで色々な苦労をしてきた。それをまた巻き込む形になると思うと、申し訳なくも思ってしまうのだ。

「とにかく、エージェントを送って回収させるつもりだ。詳しい話をする程の時間はまだないが、手配だけはしてあるそうだ」
「……ちゃんと、話しますよ」

 これだけの騒動に発展している以上、もはや隠しておくだけでも無駄だろう。勇太は腹を括り、武彦の目をまっすぐ見つめて強く頷いた。

 そこへ、一人のエージェントが慌てた様子で武彦の横に駆け寄ってきた。

「ご報告です。護衛対象とエージェントが接触に成功。しかし、何者かが襲撃をかけ、現在交戦中との事。恐らく……」
「チッ、手が早いな……!」
「――ッ! 叔父さん……! 草間さん、俺が行く!」

 最悪の展開だ。そう武彦は歯噛みする。
 この状況で勇太を戦線から外してしまえば、そのタイミングできっと虚無の境界は何かを仕掛けて来るだろう。結果として勇太を前線から外してさえしまえば、虚無の境界の作戦は成功なのだろう。

 そう考えると、勇太を前線に残し、誰かに弦也の保護を頼むのが妥当だ。
 とは言え、勇太がそこで割り切れる様なタイプではないと、武彦はそう判断している。

 どちらに転んでも、影響が出ないとは言えない。
 ならば、弦也の安全を確認させて、不安を取り除くのがベストだろう。

「仕方ない。勇太、お前達で――」
「――ほ、報告します! 新宿警戒中の部隊が敵勢力と衝突! 霊鬼兵、エヴァ・ペルマネントを確認! それと、見知らぬ能力者が4名!」

 武彦が指示をしようとした所で、さらに別の伝令が駆け込み、そう告げた。

「クソッ、同時攻撃か……!」

 ファングを倒した事が、そのまま仇となったと言えた。
 均衡を保ち、沈黙していた虚無の境界が再び動き出したのだ。

 どちらにしても、今の状況では下手に戦力を割ける状況ではない。
 勇太を弦也の方へと差し向けても、そちらの勢力の細かい情報も入っていないのだ。同時攻撃による戦力分散。的確にIO2の戦力不足を見抜いてきている証拠だ。

「問題ないわ」

 思考を巡らせる武彦へと、百合が告げる。

「勇太、アナタは家族のもとへ行きなさい。エヴァ達は私と凛、それにディテクターでどうにかする」
「でも……!」
「勇太ばかりに、負担をかけさせるつもりはありませんよ」

 沈黙を続けていた凛が、百合の言葉を後押しする様に勇太へと告げた。

「エヴァと私は因縁もある。あっちは私がどうにかするわ」
「では私は、百合さんの因縁を邪魔する者を排除しましょうか」
「……百合、凛……」
「ったく、それしかねぇな。俺も柴村達をサポートする。勇太、そっちを片付けたら、すぐ合流しろよ」
「……はい! 百合も凛も、ちょっとだけ待っててくれな」

 勇太の言葉に、二人は強く頷いて応えた。
 その姿を見て、勇太は弦也のもとへと向かうべく、施設の中を駆け出した。



 この武彦や勇太達の判断が、東京奪還への一手を大きく後退させる事になるなど、この時はまだ誰も知る由もなかった。








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