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<PCシチュエーションノベル(ツイン)>


極刑の是非を問う





 地球。ネオローマ帝国。
 貧困も戦争もなく、恋愛などに関しても開放的な楽園とも呼べる世界が広がっていた。
 しかしながら、その楽園を支えているのは、極端過ぎる程の刑の厳しさが故とも言えるだろう。

 ネオローマ帝国は、『執行人』と呼ばれる立場の者が巡回しており、些細な罪で人を死刑に処するのだ。
 不法侵入でも死刑。万引きでも死刑、といった具合にだ。
 そこまで厳しく管理されている世界だからこそ、人々は清く正しく在ろうとしているのかもしれない。

 しかし、あくまでもこの世界は『管理されている世界』。
 当然支配者の存在がある。

 それが、『神』を名乗る人工衛星だ。
 進化した人類が、次元を超越した存在。それが神の正体である。
 そんな彼らは、超越した自分達を『神』と名乗り、そして地上人を『子孫』と呼んでいた。

 『神』は怒りを覚えていた。

 久遠の都が細菌、自分達『神』の許可を得ようともせずに、この時代の月に無断で入植したのだ。当然これは、彼ら『神』にとってみれば理解し難い行いだ。

 その一方で、妖精艦隊の旗艦は入植任務を終え、地上での上陸休暇を予定中。
 軽く慣習や風土などを調べた結果、自分達よそ者の上陸は問題ないと判断した。

 しかし、取りこぼしてしまった情報があったのだ。
 それに気付いた時には、既に物語りは動き出していた。






「……うぅ……」

 牢獄の中で一人、呻く様に声を漏らした萌は自身の境遇を悲観する。

(……私、このまま死刑に処されて死ぬ、のかな……)

 ジャラジャラと自身の身体に繋がれた鎖が音を立てる。
 冷たく、ジメジメとした牢獄の中で、萌はたった一人、これから先の自身の行く末を案じて、涙を零した。






――――
――





 時は遡る。
 入植者達と共にこの時代へと訪れていた郁は、あやこに向かって詰め寄った。

「私も結婚したい!」

 開口一番何を言い出すのかこのバカは。
 そんな冷徹な表情を浮かべたあやこに向かって、郁は懸命に説明を始めた。

 聞けば、入植者達の中に、仲睦まじい夫婦が多かった様だ。
 それに対して嫉妬の念を抱いた郁が、あやこに対して、地球への上陸。及び休暇を強請ったというのが事の真相である。

 相変わらずの恋愛脳に、普段のあやこであれば呆れていた所だろう。
 しかし今回、艦長であるあやこもまた、郁の意見には特に反対する事もなかった。

「いいわ」
「え……? 良いんですか?」

 あっさりと認められるとは思わなかったのか、郁が改めて尋ね返すと、あやこは改めて許可を下した。
 実際、風土的にも問題はないという判断だ。ならばここで、自分も3人の夫を失くした分、夫を増やしておくのも悪くはないだろう。
 部下の為、という大義名分のもと、自分もこの状況を利用しようと考えたのだ。




「はぁ……」

 萌はその状況に嘆息した。
 結局、萌の母である軍医によって自分も地球へと降り立つハメになったのだ。

 近くを見てみると、すでに郁とあやこはネオローマ人との熱愛を始め、恋人をゲットしている始末だ。その行動の早さに、萌は明らかに引いていた。

「いくよー」

 現地の青年に誘われるまま、萌はボールを投げる。
 しかし気分が削がれていたせいか、そのままボールはあらぬ方向へと飛ばされ、花壇を壊してしまった。

 ――その瞬間、巡回していた執行人が、萌を取り押さえた。

「器物破損は薬殺刑だ。無駄な抵抗をするな」
「え……、ちょ、何それ!?」
「法によって定められている」

 大掛かりな大捕り物となってしまった事、そしてこの理不尽な極刑に、萌は混乱し、不安が募る。
 涙が溢れ、抵抗しようにも抵抗出来ない。
 意味が分からないままに処刑されようとしている自分の状況が理解出来ず、思わず声をあげて泣き始めてしまった。

「――そこまでにしなさい」

 萌の号泣ぶりと異変に気付いたあやこが、執行人に向かって声をかけた。

「私達は異星人。この国にそんな法があったなんて知らなかったわ。その子は私達の仲間。手を放しなさい」
「フン、法の無知が免罪符になるとでも思ったのか?」
「なんですって?」
「法は守られるべきだ。貴様らの都合など知った事ではない」

 萌を抱えて歩き出そうとする執行人に向けて、あやこがホルスターから銃を引き抜き、銃口を突きつけた。

「放しなさいと、そう言っているの」

 あやこと執行人の騒動に駆け寄ってきた郁が、その行末を見守る。
 その時だった。

《――子孫に干渉するな!》

 突如鳴り響いた声。上空を漂う人工衛星が煌々と光を放ち、郁を光で包む。

「え!? ちょっと! 何これ!」

 突如光に包まれた郁が、その中に現れた人のシルエットに連れ去られ、その場から姿を消してしまったのだ。
 突然の介入によって機を逸したあやこ。それに乗じて、執行人に萌まで連れ去られてしまった様だ。

「……ッ、ちょっと来て」
「お、おい……!」

 熱愛していた自分の夫候補を引き連れ、あやこは慌てて旗艦へと戻って行くのであった。





 旗艦へと戻ったあやこは、連れてきた恋人に衛星を見せた。

「あれは何?」
「あ、あれは神です……! 恐らく、神に連れて行かれたのでは……!」

 恋人である男が震えながら告げる言葉を、退屈そうにあやこは聞き流す。
 何が神だ。横暴過ぎる。
 そんな考えがあやこの脳裏に浮かんでいた。

「ずいぶんと野蛮な国なのね。死刑なんて我が国では既に廃れているわ。犯罪者は治療出来る。それをこんな形で罰するなんて」

 唐突な政治批判に対し、恋人は思わずカチンと来たのだろう。
 顔をあげてあやこを睨みつけた。

「そ、それはキミのいた世界の話だろう? ここは違う」
「そうね、違うわ。どうにか出来ないの?」
「……知らない。俺達より賢いんだろ? キミが解決すれば良いじゃないか」

 よほど自分達の文化が馬鹿にされたのが気に食わなかったのだろう。
 恋人の男はまるで拗ねた子供の様に顔を背け、あやこへと言い放った。

「艦長。どうやら郁さんが解放された様です」
「解放された……? 迎えをお願い」
「ハッ」











 艦内医療室。
 萌の母親である船医の女性が、神に憑依された可能性がある郁を検査、介護している。その横顔には焦燥感が漂っている。

「何を焦っているの?」
「……ッ! アナタという人は!」

 突如、その焦りがあやこの一言がきっかけになって船医の怒りを爆発させた。
 あやこの胸ぐらを掴み、殴りつよけようと腕を振り上げるが、あやこがそれを掴んで制止する。

「執行猶予は夕方まで。まだ時間はあるわ」
「うるさい! 郁も萌も私の娘よ! そんな二人が、こんな事に巻き込まれるなんて!」
「過ぎた事を言っても仕方ないわ。いずれにしても、萌は必ず連れて帰るつもりよ」

 あやこと正面からぶつかる形となったおかげで溜飲が下がったのか、船医があやこの胸ぐらから手を離す。

「郁、何か神について分かった事はある?」
「んー……。人類が進化した存在で、超越者だって言ってたけど、私から見たらただ狭量な超人類ね」

 辛辣な言葉を投げかける郁。どうやら郁もまた、今回の萌の件では納得などいっていないらしく、苛立ちを顕にしている。

「……ま、神とは言っても元人間。落とし所もありそうね」
「どうするつもりだ?」

 沈黙を守っていたあやこの現地夫が声をかける。

「決まっているわ。私達は萌を救う義務がある」







――

――――






 思い出し、絶望する萌が俯いて涙を流す。
 もうすぐ自分は、薬殺刑に処されるのだ。そんな現実が、まざまざと見せつけられているかの様な、冷たい牢獄。

 しかし次の瞬間、強烈な爆音と共に、目の前に武装船が姿を現した。
 その中から現れたのは、郁とあやこ。それに、あやこの彼氏だった。

「萌、迎えに来たわ。すぐに出るわよ!」
「……あ…………」

 絶望していた萌を他所に、さっさと身体を繋いでいた鎖を切り落とし、郁が萌を連れて船に飛び込んだ。
 あやこがそれを操縦して動き出そうとするが、船が言う事をきかない。

《死刑を妨げるな! それ以上邪魔をするのならばその船もろとも壊す!》

 『神』の声が響き渡る。
 どうやら『神』は、事象艇に干渉出来る様だ。船が離陸出来ないのもその所為だろう。

 あやこは船から顔を出し、声を上げた。

「戦地に取り残された仲間は、絶対に助ける! それが、私達が守るべき軍規よ!」
「暴力で法を破る前例を作れば、社会は乱れる!」

 あやこに向かって声をあげたのは、あやこの連れていた恋人だ。
 意見は真っ向からぶつかり合い、対立は必至。それでもあやこは気持ちを曲げる事なく、男へと告げた。

「軍規は絶対よ」

 凄むあやこに対し、怒りを感じたのか男はグッと歯噛みし、そして視線を逸らした。

「……勝手にしろ! 文明人であるキミ達は、野蛮人である僕らの社会から逃げたと、そう伝承してやるさ!」
「そう、それこそ勝手にすれば良いわ」

 意見は割れ、男は怒りを顕にしてその場から立ち去っていく。
 あやこはキッと空を見上げ、声をあげる。

「神、いや、全宇宙の生命よ! 聞け!
 法が絶対ならば、そこに正義は存在しない! 我らが生きる人生は、常に例外だらけだ! 縛り、統率するだけで全てが善とはならない!」

 あやこの言葉に、空気が張り詰める。
 『神』がその言葉を聞き、いっそ攻撃してしまおうとでも考えたのだろう。

 しかし、郁もまた事象艇から降りて口を開いた。

「正義なんて色々だもの。別にこの世界の在り方を全部否定するつもりなんてないわ。
 私達は入植を撤収して、ここにはもう関わらない。それで良い?」

 郁の言葉に、『神』もまた落とし所としたのだろうか。
 武装船を拘束していた力が消え、船が動き出す。

「理解してくれたみたいね」

 郁の言葉に、あやこも船に乗り込み、空へと舞い上がりながら答える。

「安い神ね……。失望したわ! 神と名乗るんだから、もっと得られる物があると期待したのに」

 憤るあやこに、萌は安堵と呆れを交えた溜め息を漏らす。

 どうにか死刑の執行から救い出せたあやこ達は、この巫山戯た世界から脱する。
 当初の目的であった夫の獲得は難しかったようだ。







FIN