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<PCシチュエーションノベル(ツイン)>


炸裂する倍返死だ!

1.
 それは今なのか? それともここではないのか?
 赤道を境に南北戦争をする地球。無慈悲な心が飛び交い、赤い大地と涙の海が広がる。
「想定外だぞ!」
 藤田(ふじた)あやこは苛立ったようにそう叫んだ。
 ここは赤道の島。南北両軍が互いに領空侵犯を非難し合い、最前線にして激戦の地のひとつである。
 この度、この赤道の島で双方の交渉の予定が立てられた。
 だが、おそらくこの交渉は難航するであろうことは明白であった。なにせ、席順ひとつで喧嘩するほど一触即発の険悪さ。
 そんなさなか、あやこは南軍に襲われていた輸送船を助けたのだ。
 この輸送船にある人物が乗っていた。
 事象艇航路の安全確保のため、久遠の都がヤングでタフな提督(男)を仲裁役として派遣、この船に乗っていたのだ。
「いやいや、助かりました」
 キラリと歯を見せながら笑うヤングな提督に、あやこは訝しむ。
 迷惑千万な南北扮装を調停する為の提督が非武装中立を態度で示したのか…? リスクを考えてくれ。
「偶然とはいえ、ご無事で何より」
 軽い頭痛と本音を押えて、あやこはヤングでタフな提督を船へと迎え入れた。
 ヤングでタフな提督にはぴったりと引っ付くように寄り添う老婆。まるで恋人同士のように腕を組んでいる。
 老婆はあやこと目が合うと鋭く殺気のこもった視線を投げつけた。
 …これは嫉妬?
 なぜこの老婆に嫉妬などされなければならないのか?
 疑問は数尽きなかったが、ひとまず交渉に入らなければ。
 あやこはそれらの思考は頭の隅に追いやった。
 だが、老婆はつかつかとあやこの方へと足を向けた。
 いったい何なの!?
 そう思っていると、老婆はあやこの前を通り過ぎてその後ろにいた航空事象艇副長・綾鷹郁(あやたか・かおる)の肩を掴んだ。
「息子をたぶらかすな!」
 しわがれた声で突然罵声を浴びた郁は、思わず眉をひそめた。
 この一見意味不明にも思える出来事が、のちに奇妙な出来事になるとはあやこも郁も予想だにしていなかった…。


2.
「論客が疲れた隙に話を纏めるのさ!」
 輸送艦で揺られていた疲れも見せず、ヤングでタフな提督は理知的に頭の回転の良さを発揮した。
 郁はその姿に赤くなった。惚れた。惚れてしまった。
 控えの部屋へと案内する郁にヤングでタフな提督は白い歯を見せて笑う。素敵だ。
「…案内ありがとう。感謝するよ、素敵なお嬢さん」
「お、お嬢さんだなんて…」
 赤くなった頬を押えて郁は身もだえする。
 やばい。これは脈あり!? 脈ありなのかな!?
 閉じ行く扉に見とれて、郁は近づく気配に気づかなかった。
 ふと振り向けば、そこにはあの老婆がいた…。

「面談は綾鷹と俺がやる!」
 鬼鮫(おにざめ)はダンッと机を叩きながら、それを強調した。
「まぁ、そう憤らないの。…気持ちはわかるけどね」
 面白くない気持ちは痛いほどわかったが、久遠の都の意思がどこにあるのかを考えると胃が痛い。
 あやこは頭痛がしそうな気配に眉間を抑える。
 …あれ? 何か物足りないような?
 そう思ってみると、郁が何やら上の空でボーっと突っ立っている。
「郁?」
 あやこが声を掛けると、郁は「え?」と小さく呟く。
「なんだ? 具合でも悪いのか?」
 鬼鮫の言葉に郁は少し考えたあと、言った。
「そう。そうなの。…今日は疲れたわ」
 郁はそういうと、部屋へ戻ってしまった。
 いつもの郁らしくないその言動に、鬼鮫も、あやこも不穏な空気を感じ取った。
 そして、それは起きる。

 客室で、ヤングでタフな提督の傍にいた老婆が急死した…。

「この老婆は私の母で秘書も務めていてくれました。こんなところで図らずも命を散らせてしまうとは…運命とは切ないものです」
 ヤングでタフな提督はそう言った。
「我が船上では、原因究明のために解剖が必要となります」
 あやこが淡々とそう言うと、ヤングでタフな提督は厳しい口調でそれを否定した。
「それは困る。我が家ではどのような場合であっても解剖は厳禁。それが慣習であり、規則です」
「しかし…」
 食い下がるあやこに、タフでヤングな提督は食い下がる。
「我が家の顔に泥を塗るおつもりですか?」
「そういうわけでは…」
 激しい応酬にあやこは折れた。いや、折れざるを得なかった。
「わかってくれてありがとう。あと、申し訳ないが、一晩慰めの通夜を行わせていただきたい。これも我が家の慣習でね。…そうだ。そこのお嬢さんに手伝ってもらいたい」
 タフでヤングな提督が指差したのは、郁だった。
「あ、あたしでよければ…!」
 すぐさま返事をした郁にタフでヤングな提督は満足そうに頷き、他の者へと向き直る。

「この儀式は我が家の秘匿にあたります。申し訳ないが漏えいを防ぐために他者の出入りを禁止させてもらう。もちろん、お嬢さんも他言無用に願うよ?」


3.
 翌日、老母の慰めの通夜を行ったタフでヤングな提督と郁は部屋から出てきた。
 その内容は最初の約束通り、誰にも明かされなかった。
 だが、郁の様子がおかしいことにまず、鬼鮫が気付いた。…いや、鬼鮫でなくても多分誰が見てもおかしいと思うはずだ。
「熱いわ!」
 副長室で隊員との契約更新の面談中に、突如としてブルマ姿になる郁。
「おい…? 綾鷹?」
 発情期か? …いやいや、そんなアホなことを考えている場合ではない。
 どことなくおかしい。いつもならないはずのアレがある。
 そう。『色気』だ。
「熱いよう〜熱いよう〜」
 そう言いながら、さらに脱ごうとする郁を鬼鮫は押さえつける。
「やめろ! 綾鷹!!」
「パワハラ? あたしの下で働くのが嫌なら辞めれば? みーんなやめちゃえば!!」
 陰険でヒステリックな叫びをあげる郁に、困惑を隠せない隊員と鬼鮫。
 そこにタフでヤングな提督と新人秘書が「何事ですか!?」とやってきた。
 郁はその秘書を見たとたんに、さらにヒステリックに叫びだす。
「あなた、彼を寝取る気ね?」
「え!?」
 唐突な叫びに、鬼鮫は見かねて郁を部屋の外へと摘まみだした。
 嫉妬からくる八つ当たり? だが、あまりにもこの変化の速さはいったい…?
 鬼鮫は郁を摘まんだまま、医務室へと向かう。
「頼れるのは貴男だけよ…ねぇ、お願い。あたしを彼の元へ返して…返せったらぁ!!」
 あやこにもこれを報告しなければ。
 だが、鬼鮫が思うよりも、事態はもっと深刻な物であった。

「郁が…老衰している?」
 医務室に運びこまれた郁を寝かしつけ、あやこと鬼鮫は医師からの説明を受ける。
「先ほど、ちょっと興味がありまして先の提督のご母堂の部屋の近くへ行ったとき、ストレス物質を感知しました。それと同じストレス物質が郁さんからも検出されています。…しかも同程度の値です」
「………」
 普通に考えれば、それは関係のありそうな事案である。
 しかし…手が出せない。手を出せばこちらが不利だ。あまりにも決め手が少ない。
「ご母堂の解剖をさせていただければ不審な点も明らかにできるのですが…」
「それは…無理だ。許可できない」
 あやこは目を伏せた。彼女の船でありながら、彼女の管理下にはないのだ。許可が下せるわけがない。
 郁の顔色はみるみる土気色になり、干からびていく。まるでミイラのように。
「郁…」
 あやこは、ただその手をそっと握ることしかできなかった。


4.
 南北両軍の交渉が行われるのは島の議事堂。タフでヤングな提督は意気揚々とその場に行こうと席を立つ。
 しかし、そこに現れたのは憔悴し、老化の進んだ郁。
「行かないで! あたしを置いていかないでぇ!」
 郁の悲痛な叫びにタフでヤングな提督と、新人秘書は宥める。
「ちょっと仕事に行くだけだよ? 大丈夫、すぐに戻るから」
「いやぁ! いやぁぁぁ!!」
 泣き叫ぶ郁を置いて、タフでヤングな提督は新人秘書と共に交渉の場へと向かった。
「郁…」
 あやこの腕の中で郁はどんどん衰弱していく。
 …ダメだ。これじゃ郁の命が…!
 あやこは船医を呼んだ。そして命じた!
「ご母堂の解剖を許可する! 早急に原因の調査を!」
 待ってました! とばかりに船医は解剖を始めた。
 すると、想定外の結果が出た。
「タフでヤングな提督殿はストレスを女に転嫁できる能力者のようです。ご母堂…いえ、正確に言えばかの女性はあの外見で30代の女性で、タフでヤングな提督殿のご母堂ではありえません。おそらく、ストレスから急激に老化したものではないかと…。また…ここからが重要なのですが…」
 そこで一度、医師は言葉を区切る。最悪の事態が想定された。
「ストレスを転嫁する相手が共感能力者の場合、寿命は数日…ではないかと予想されます」
「…なん…ですって!?」
 頭に血が上り、息も絶え絶えな郁を鬼鮫に託すと、あやこは島に上陸した。
 目指すは交渉が行われている議事堂。タフでヤングな提督の元。
「ちょっと!」
「な、なんだ!?」
 ざわめく議事堂の中、あやこは一直線にタフでヤングな提督の前に歩み寄る。
「あなた…郁を殺す気!?」
「…彼女の寿命は誤算だった」
 認めた! やはりこの男が郁をあんなふうにした元凶なのだ!
「郁を元に戻しなさい!」
「今能力を止めれば交渉は決裂するぞ。僕は使命に命を捧ぐ!」
「郁は死にかかってるのよ!? 見捨てるつもり!?」
「子供が大勢死んでる! 1人2人の女が命より、大多数の命を救う方が大事だ!」
 大局論。話にならない。こんな、こんな奴のために…!
 踵を返し、あやこは船へと帰ると船医に命令を出した。
 やられたら…やり返す!


5.
 郁は死んだ。
 タフでヤングな提督は、郁の死を悼み、慰めの通夜を行うと宣言した。
 その為に、新人秘書に通夜を手伝うように強いた。新人秘書はそれに従った。
 やはり、老婆の通夜と同じく秘匿とされ、他の誰の立ち入りも許されなかった。
 彼らが控室へ閉じこもった後、あやこは医務室を訪れた。
「すべての用意はできております」
 船医はそういうと、あやこに1枚の紙を渡した。
「秘書の方には?」
「もちろん、根回し済みです」
「感謝するわ」
 不敵に笑ったその顔に、冷酷なまでの冷たい光が宿る。
 今行われている儀式『慰めの通夜』とは、タフでヤングな提督がストレスを転嫁するための次の女を取り込むための儀式。
 郁はまんまとそれに引っ掛かってしまったのだ。
 …馬鹿な郁。
 あやこは控室へと向かう。
 そして、おもむろに扉をあけ放ち、手に持った紙を捧げ持って叫んだ。

「郁! 起きなさい! イケメン合コンの招待状よ!」

「なんですってぇぇぇぇぇ!!!!」
 儀式はあと少しで終わるはずだった。
 しかし、郁は生き返った。いや、郁はただ仮死状態にされていただけなのだ。
 中断された儀式、郁に溜め込まれたストレス物質。
 それらはまるで副作用のようにタフでヤングな提督に襲いかかる。
「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!」
 壮絶な悲鳴を上げて、タフでヤングなはずの提督が老衰し、衰弱し、その体はボロボロになっていく。
 助けを求めるようにその手があやこに向けられる。
 だが、あやこはその手を振り払った。

「殉死は本望よね? 『使命に命を捧ぐ』素敵な提督さん?」

 笑うあやこの顔が、提督の見た最期の光景だった。
「あれ? あたし…どうしたの?」
 郁がきょとんとしている。あやこはぎゅっとそんな郁を抱きしめた。

「おかえり、郁」