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<PCシチュエーションノベル(ツイン)>


徴兵部隊、時空を駆ける


 流行の取り入れと各自のこだわりを上手く両立させるのが、女の子の正しいファッション道というものである。
 こだわり過ぎて方向性を見誤ると、それはそれは痛々しい事になってしまう。この2人の少女のようにだ。
「服装規定がまた変わりゆうがよ! アンタのせいで変わりまくりじゃき!」
 綾鷹郁が喚きながら、片足を跳ね上げた。銀ラメの見せパンから、アンスコのフリルがひらひらと覗く。
 あられもない回し蹴りが、三島玲奈の細身をズドッとへし曲げた。
「一体何の恨みがあって、かおるのファッション道の邪魔ぁしゆうぞなああああ!」
「なっ……何よ、貴女のはねえ、ファッションじゃなくてコスプレって言うのよッ!」
 玲奈が、Tバックで郁の首を締め上げる。
「貴女がねえ、わけのわかんないコスプレばっかしてるから! 服装規定がどんどん厳しくなって、あたしたちが普通にオシャレする事も出来なくなってきてんのよ!」
「あ、アンタのはオシャレともコスプレとも違う! 出来の悪い仮装大賞じゃき!」
「……若さが有り余っているようだな、2人とも」
 艦長が、ニコニコ笑いながら聖剣を抜き、少女2人に突き付けてきた。郁も玲奈も、凍り付いた。
「暇なら仕事をあげよう。我が軍はこの度、大規模な徴兵を行う事となった。各時代から新兵どもを狩り集め、その全員を調練キャンプで徹底的に鍛え上げる……それを、貴官ら2人にやってもらう」


 オカルトが大好きである。
 オカルト以外のあらゆる物事に関する知識が、今一つである。
 そんな瀬名雫であるが、赤ん坊が、例えばコウノトリが運んで来るといったオカルト的な現象によって誕生するものではないという事くらいは知っている。
 男と女がいなければ、子供は生まれないのだ。
 なのに、ここ久遠の都には、女性しかいないという。
 子供など生まれるはずがないのに、ここ数百年間、人口は順調に増加し続けているようである。
「これは、立派なオカルトだねっ……ゴーストネットOFFの名にかけて、何が何でも取材しないと!」
 気合いを入れながら瀬名雫は、久遠の都・入国管理局の受付嬢に、つかつかと足取り強く歩み寄った。そして言葉をかけた。
「初めまして、こないだ取材申請したゴーストネットOFFの瀬名雫です! まあ結局、取材許可は下りなかったんだけど気にしなーい。で本題に入るけど、久遠の人たちって赤ちゃん、どうやって産んでるの? どこから仕込んでるの? どっかから男さらって来て、用が済んだら煮て食べちゃうとか? 密林のアマゾネス部族みたいな……いやあれ結局ガセだったんだけど、それはともかく赤ちゃんよ赤ちゃん! まさか生殖用のイケメン性奴隷とか密かに飼ってんじゃないでしょーねえ、隠さず言いなさいっ」
 顔を赤らめて狼狽する受付嬢に、捲し立てながら迫ってゆく。
 そんな雫の首根っこを、通りすがりの女艦長が掴み寄せた。
「知りたかったら、体験入隊をしてみると良い。体験して知った事を、ホームページに掲載する許可も与えよう……生きて帰る事が出来たら、の話だがな」


 荒れ狂う台風15号。荒波うねる津軽海峡の真ん中で、連絡船が木の葉の如く翻弄されている。
 修学旅行中の女子高生たちが、船に揺られ波飛沫を浴びながら、悲鳴を上げていた。
 船の転覆が時間の問題なのは、この揺れ具合からも明らかだ。
 乗客の全員を助ける事など、出来はしない。
「それなら……艦長に言われた通り、女の子たちだけでもっ……」
 女子高生らに紛れたまま玲奈は、苦渋の思いを噛み締めながら鞄を開いた。
 開いた鞄から、金属の塊が出現し、巨大化した。
 持ち運び可能な弩級時空戦艦・玲奈号。
「みんな、早く乗って!」
 自身の制服を破き、翼を広げながら、玲奈は女子高生たちを戦艦内へと導き入れた。


 第二次大戦末期、日本。
 沖縄が米軍の手に落ちるのも、時間の問題であった。
 男たちは、勝手に戦争をやらかして殺し合っていればいい。郁は、そう思う。
「馬鹿は、死ななきゃ治らんぞね……」
 助けなければならないのは、その巻き添えとなる少女たちだ。
 海中で、ビキニ姿のTC部隊が、郁に率いられ待機している。
 近くでは事象艇が、海底の岩に偽装しつつ潜伏・停泊中だ。
 やがて、何かが続々と海中に飛び込んで来た。複数の人影。
 崖の上から飛び降りた、女学生たちである。
 郁は岩陰から泳ぎ出しながら、さっと片手を上げた。
 TC部隊が、水死しかけた女学生らを手際よく回収し、事象艇へと運び込んで行った。


 中世ヨーロッパ。キリスト教が、最も悪用された時代である。
 暴力と殺戮の嵐が、欧州全土を吹き荒れていた。
 男たちが、教会の手先となって暴虐を働いていた。
 彼らが、罪のない乙女たちを魔女と決めつけて拉致連行し、教会の広場に集め、もはや表記不可能なほどの乱暴狼藉に及ぼうとしたその時。
 時空戦艦・玲奈号が、そこに出現していた。
「……お前ら、滅びろーっ!」
 激怒した玲奈の号令に合わせ、時空戦艦が全艦砲をぶっ放し、男たちを教会もろとも灼き払った。
 そして乙女たちだけを救出し、時空の渦へと消えて行った。
「魔女……いや、悪魔……!」
「いや、これこそが神のお怒り……」
 人々は腰を抜かしながら、それを見送るしかなかった。


「あの、まさかとは思いますけど……」
 ずっと気になっていた事を、瀬名雫はとうとう口に出さずにいられなくなった。
「赤ちゃんが生まれないのに、久遠の都の人口がちゃんと増え続けてるのって……こうやって、いろんな時代から女の子さらって来てるから? じゃないですよね?」
「さらって来るとは人聞きの悪い。救出して来ているのだよ。皆、感謝の気持ちに溢れているのが見てわからないか」
 艦長の言う通り、なのであろうか。
 第二次大戦末期から拉致、いや救出されて来た女学生たちは、バリカンで頭を刈られながら、
「これから久遠のお国のために働くのですね……」
 などと言いながら目を閉じ、両手を合わせている。
 魔女狩りの時代から連れられて来た乙女たちも、
「女神様の思し召しなら……」
 そう祈りを捧げながら跪き、剃髪の仕打ちを受けている。
 だが比較的、新しい時代から来た女子高生たちの扱いは、そこまで容易いものではなかった。
「ちょっと、何よここ! 何で私たちが丸坊主にならなきゃいけないのよォ!」
「帰りたい! 帰してよ、帰しなさいよ!」
 喚く彼女たちに、大量の蚤取り粉がブワァーッと浴びせられる。
 そこへ郁が、TCたちが、バリカンを鳴らしながら歩み迫る。
「はいはい、あんたたちはもう死んじゃってるんだから……そういう事に、なっちゃってるんだから」
 逃げ惑う女子高生たちに、郁が獣の如く襲いかかり、手際よく麻酔注射を打ち込んでゆく。
「暴れない暴れない、下手に動くと死んじゃうよー? 大丈夫、人間やめてダウナーレイスになるだけだから」
 ぐったりと動かなくなった女子高生たちが、バリカンで髪を刈られ、培養液に放り込まれる。
 その様に雫は、呆然と見入るしかなかった。
「あの、あれって……」
「海難事故で死ぬよりも、ずっと幸せだろう。何しろ天使になれるのだぞ、彼女たちは」
 言いつつ艦長が、指を鳴らした。
 バリカンを手にした女兵士たちが、雫を左右から捕え、連行した。
「え? あ、あたしも……!? いっ嫌、禿はいやーっ!」
 じたばた暴れながら遠ざかって行く雫を、艦長はにこやかに見送った。
 少し離れた所では玲奈が、助けた少女たちに衣装を手渡している。
「はい、これがTバックと褌。あとビキニね」
「え? 何、ですかこれ……着るんですか? こんなの……恥ずかしい……」
「で、でも素敵……」
「ちょっと玲奈ちゃん! そんなのより、こっちが先でしょうが!」
 郁が、ずかずかと歩み寄って来た。そして戸惑う少女の1人に無理矢理、スクール水着を着せてゆく。
「何言ってんの。郁さんだって、これを忘れているじゃないのっ」
 張り合うように玲奈が、別の少女にレオタードを着せた。
「こ、これ、未来のブルマーですか?」
「うっふふふ。まだまだ、未来のファッション道はこんなもんじゃないのよん。ほい、クロッチ式のボディスーツ」
「じゃ、テニスウェアにチアドレス」
「アンスコに銀ラメ! これは譲れんぞね」
 救出して来た少女たちを使って、思う存分「着せ替え人形遊び」を楽しむ玲奈と郁。
 いつの間にか、仲直りが出来ているようである。
「雨降って地固まる……というのとは、少し違うか?」
 セーラー服を着せられ、楽しげにスカートを翻す少女たちを、艦長は微笑ましげに見守った。