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ハロウィンの余韻に気をつけて☆
「まぁ…こんなものだろうね…」
碧摩蓮(へきま・れん)はアンティークショップレンのディスプレイを見て、満足そうに小さく笑った。
そこには、砂糖菓子、チョコレートアイス、板チョコの模様にされた、アリア・ジェラーティ、デルタ・セレス、ファルス・ティレイラの姿。
店の外から飾り付けを眺めた後、蓮は店内に戻る途中、入り口にたてかけてあった、【アフターハロウィン・フリーマーケット】の看板を取り外した。
話は数時間前に戻る。
「蓮さん、飾り付けはこんな感じで大丈夫ですかぁ?」
ファルスは少し離れたところで店内の飾り付けの様子を眺めていた蓮に声をかける。
「ああ、いいんじゃないかい?」
答えは素っ気ない。
しかしファルスは気にする様子もなく、ふわふわのスカートをひるがえすと、次の作業にとりかかる。
アリアはお菓子を並べながら、アイスをおいたら売れるだろうか? とけるのが先か。しかし店内全部を氷にしてしまえば大丈夫じゃないのか、と本気か冗談かわからないような事を本気で悩みつつ、アイスバーの棒を奥歯でかみかみする。
「これはここにおいてっと」
嬉しそうに仮装服をトルソーに着せていくデルタ。
普段扱っている彫刻に着せても良かったのだが、持ってくるのが大変なので諦めた。
ここはアンティークショップレンの店内。
ハロウィンの売れ残りをフリーマーケットで売りさばこう、と集まった面々である。
アリアはお菓子。デルタは仮装服。ファルスと主催者の蓮がマジカルグッズを販売。
開店すると、ある程度の安値をつけていたものは売りさばかれ、残りを値下げするかどうか悩み出す、そんな時間に、蓮がひょいっと取り出したものに3人の視線が集まった。
「…なんですか、それは?」
アリアに問われ、蓮は答える。
「本の中の出来事を体験出来る魔本さ」
「本の中の出来事?」
いまいち理解し難くて、デルタが尋ねると、蓮はにやっと笑い、使ってみればわかるよ、と意味ありげに言うと、本を棚の上においた。
「これが終わったら使ってみるといいよ」
君子危うきに近寄らず、という言葉があるが、この蓮の笑顔をみた時点でやめておくべきだったと思うが、好奇心は猫も殺す、という言葉もある。3人は誘惑に勝てなかったようだった。
「……どこなんでしょうか、ここは?」
見上げたファルスの目の前には、お城の門が鎮座していた。
門の前には奇妙な格好をした兵隊のような二人が立っている。
その門を、これまた奇妙な格好をした人々が何かを兵隊に見せながらお城の中に入っていく。
「ハロウィンパーティーみたいですね」
あたりをきょろきょろ見回しながら、デルタはどこから取り出したのか、リンゴを一つ、丸かじりした。
「とにかく行ってみましょうか」
りんご食べる? とデルタに聞かれて、いらないです、と答えながら、アリアは門を指さした。
ここのいるのは3人だけ。蓮は本の外で見送っていた。
そう、ここは魔本の中。
そして今、魔本の中のお城では、ハロウィンパーティーのラストを迎えようとしていた。
「駄目だ駄目だ駄目だ!」
門に近づくなり、兵隊に侵入を防がれるように目の前に交差した槍。
「招待状無き者は誰も入れぬ。例え女王陛下であられてもだ!」
「それにお前らは仮装もしておらぬではないか!」
左右の兵隊が、兵隊らしからぬ格好で居丈高に叫ぶ。
「…仮装はなんとかなりますが、招待状はなんとも…」
とやはりどこから取り出したのか、デルタは3着も仮装服を持っている。
「それなら」
とアリアは兵隊の前にどかどかとアイスを積み上げていく。
「招待状のかわりに、パーティーへの献上品を差し上げます」
「…ふむ、それなら認めるとしようか…しかし、入るなら仮装した後だぞ!」
さっさとアイスを確保すると、交代の兵隊がきたのを見て、さっさと2人の兵隊は城内に消えていった。
兵隊に言われた通り、3人はデルタの出した仮装服に着替える。
アリアは魔女。デルタは……アリス。ファルスはサキュバスのような悪魔。
着替えた後は、咎められる事もなく城内に入ることが出来た。
「うわ〜、すごいお菓子だね♪」
嬉しそうに背中の羽をぴこぴこさせながら、ファルスは目を輝かせる。
今日はハロウィンパーティーの最終日。城内ではお菓子のパーティーが開かれていた。
色とりどりのお菓子。そして仮装した人々。
アリアは一歩引いた位置で二人の保護者のように試食をしながら眺めている。
年齢的にはアリアが一番年下なのだが。
デルタとファルスは嬉しそうに城内のあちこちでお菓子をほおばる。
それを見ていたアリアの視界を、大きな仮装した何かが横切った。
そのほんの一瞬。
瞬きくらいの合間に、2人の姿を見失ってしまった。
「どこ行ってしまったんですか…」
まさか、会場を凍り付けにして捜すわけにはいかない。アリアは途方に暮れたような顔で籠から棒キャンディーを取り出すと、口の中に突っ込んだ。
「ここはどこでしょうか?」
デルタに問われて、ファルスは小さく小首を傾げた。
「アリアさんもいないですねぇ……あ、人がいるみたいだよ」
ファルスの指さす方向に、台座のようなものに乗せられて運ばれる、可愛らしい仮装をした少女達の姿が見えた。
「行ってみましょうか」
言ってデルタは少女達が向かった方向へ歩き出した。
それにあわせて、ファルスもついていく。
しばらく歩くと、甘い香りが強く鼻についた。
少し蒸し暑い。
察するところ、ここはキッチンなのだろうか。
「あの〜、お邪魔しま……す?」
覗き込んだファルスの目に飛び込んできたのは、先ほどの少女達が魔法やお鍋、機械のようなもので次々とお菓子にされていて、そのお菓子は会場へとどんどん運ばれていた。
「ここ、危ないよ」
パッと隠れたファルスは、デルタに小さな声で告げると、デルタもごくん、と喉を鳴らして唾を飲み込み、小さく頷いた。
「あれはなんだ!?」
隠れたはずのファルスの背中の羽が、ぴこぴことキッチンの入り口を叩いていた。
「あ」
逃げようとしたときには時既に遅し。
2人はすっかり囲まれてしまい、少女達と同じようにお菓子にされてしまった。
一方、2人の姿を捜していたアリア。
手にはいくつものお菓子がもたれているが、あくまで試食である。
そこに、ヒンヤリとした冷気を感じて振り返ると、どろどろのチョコレートアイスと化したデルタの姿見え、その後ろには、ファルスの姿が浮き出た模様の板チョコも見えた。
「二人とも!?」
びっくりして駆け寄ると、キッチンから2人を運んできたらしい、これまた珍妙な仮装をした小人らしき人物が嫌な顔をする。
「これは大事な一品。邪魔しないでもらいたい」
じろり、とねめつけられて、アリアは言葉を探す。
どうしたら穏便に2人を受け渡して貰えるか。
まぁ、最悪全部凍らせて、2人をつれて逃げてしまう、という強硬手段も出来るが、2人をつれて逃げるには重労働。
あまり疲れる事はしたくない。
「…この二人は友達で…かえしていただきたいのですが…」
淡々と言うアリアの背後から、アイス以上の冷気を吹き出す。
「何を言っている。これは本日の主賓に捧げるおか……」
さっさと2人のお菓子を運んでいこうとした小人は、後ろ頭に冷気を感じて振り返り、アリアの笑顔を見て言葉をとめた。
「このまま、黙ってかえして貰えると嬉しいのですが」
にっこり笑う背後で、来客やお菓子が凍り付いていく。
「あ、あわわわわ、わ、わかりました! おかえしいたします! というか持ち帰ってください。そしてもう来ないでくれ」
最後は本音だだもれ。
お菓子の2人とアリアは、ぽいっと城内を追い出された。
「これって、本の外に出たら、元に戻るのでしょうか…?」
アリアの疑問は、すぐに解決された。
「1日もすれば元に戻るだろうよ」
こともなげに蓮は言う。
本の世界から戻っても、二人はお菓子のままで。
アリアが相談すると、蓮は興味なさげに言って、読みかけの本に視線を落とした。
「これって、食べられるのでしょうか?」
ふっと気になって、デルタのチョコアイスを溶けている本体と離れたところを指先で絡め取ろうとした瞬間、2人の中に潜んでいた、動く魔法の液状チョコレートがアリアを覆った。
「!!!???」
「……おや」
びっくりして声にならないアリアを、蓮はちらっと見て呟く。
アリアはあっという間に砂糖菓子に変身してしまった。
「……全く、食べるわけにはいかないねぇ」
パタン、と本をとじると、蓮は面倒そうに立ち上がり、3人のお菓子を動かし、店の内側に飾り、外からその姿を眺める。
「売ってくれ、なんて酔狂なヤツが現れたらどうしようかねぇ」
含みのある笑いを浮かべつつ、蓮は看板を店内に入れると、自身も中に入り、扉を閉めた。
扉はまだ【OPEN】のまま。
Trick or Treat?
お祭りの後の、余韻にはくれぐれもお気をつけ下さい。
【ライターより】
ハッピーハロウィン♪(激遅
ご依頼ありがとうございました。
満足いただけると嬉しいです。
我が家ではハロウィンは行いませんでしたが、初めて、近所の子どもの同級生がやってきました。
うちではお菓子を買い置きしないので、たまたま買ってきた飲むヨーグルトのヤクルトサイズをあげました。とても喜んでくれて、良かったですが、その後、うちは訪問先ではなかったらしく、お母さんから連絡が入り、それ以上のお菓子を頂いてしまいました(笑)
子どもは楽しくても、親は大変だなぁ、と思った出来事でした。
さて、アリア、デルタ、ファルスに買い手が現れたのか!?
私のみ知るところ、というところで、失礼させていただきます。
毎日寒いですが、風邪などめされませんようご自愛くださいませ。
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