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<東京怪談ノベル(シングル)>


●石像の罠

 ──ここは都内、オーナーの解体費用がなく放置されて閉鎖された高級ホテル。エヴァ・ペルマネントの隠れ家である。
 設備が丸ごと残っている事を良いことにエヴァは、インフラを勝手に繋いで暮らしていた。
 そしてある魔女の呪いで野生化したイアル・ミラールと偶然出会い、正気に返るまで世話をしていたエヴァ。
 その時の恩を返すべく暫くエヴァと一緒に暮らす事に決めたイアルは、
 今日もせっせとメイドのように掃除に精を出していた──
「そういえば野生化中のイアルは、よく……」
 真っ赤になるイアルを楽しそうにからかうエヴァ。

 一日の仕事を終え、広いバスタブを独り占めにして、手足を伸ばすイアル。
(エヴァは悪い人ではないのですが、ああやって何度も人を茶化す癖は何とかして欲しいですね)
 やれやれと溜息を吐いた背中に、
「入るわよ」
 イアルの返事も待たずにエヴァが入ってきた。
 慌てるイアルに女同士恥ずかしがる事はないと言うエヴァ。
「それは、そうなんですが……」
「それに……まあ、珠にはイアルが頑張っているから、背中でも洗ってあげようかと思ったのよ」
 いけない? と言うエヴァ。
「そういう事ならわたしもエヴァの背中を洗ってあげたいです♪」
 仲良く交代で背中を洗いっこするイアルとエヴァであった。


 ***


「何を読んでいるんです?」
 TVに飽きたイアルが、ベットの上で何かの資料を読んでいるエヴァを振り返る。
 次のターゲット。
 都内の郊外にある小さい美術館の女館長の情報だと教えるエヴァ。
「顧客の好みに合った美少女や美女を捕らえては石像に変え、自分の美術館で展示した挙句、売っているみたい」
「石像に変える?」
「なんでも上に載った者を石像に変える『魔法の台座』というのを持っているらしいわ」
 石化より開放されるまで数百年を要した事を思い出し、ぶるっと身を震わせるイアル。
 一緒に行くというイアルに、一人で大丈夫だというエヴァ。
「わたしが目指すのは、最強の霊鬼兵。敵に倒されるのであれば、それはわたしが弱いからよ」
 ──そんな話をした翌朝。イアルが目を覚ました時、エヴァの姿は既になかった。




 それから一ヶ月──イアルは、毎日エヴァを探し続けていた。
 漸くエヴァが向かった美術館を見つけたイアル。

 イアルは、その塀を躊躇することなく乗り越え、敷地内に入った。
 鉄格子がはまった窓の隙間から中を覗き込むと女性の像が見えた。
 エヴァが言っていた被害者だろう。

 どこか入れる所がないかと探るイアルが、敷地の外れにぽつんと置いてあった少女の像を見つけた。
 イアルは、目を一瞬疑った。
「エヴァ?!」
 だが、その顔も、その姿も、紛れもないエヴァの石化した姿であった。

 一ヶ月も帰ってこなかったのだ。
 何かあったと思っていたが、石像にされているとはイアルも思わなかった。
 普段クールな癖に、どこか単純で子供っぽいエヴァの事を考えると、
 敵に挑発され、落とし穴か何かで捕まる事はありえる話だった。

「こんなに汚れて……」
 蜘蛛の巣を払ってやるイアル。
「必ず元に戻してあげるから待っていてね?」


 鍵が掛かってない小窓を見つけたイアルは、館内に入り込んだ。
 そこは、少女達の像が並ぶ倉庫だった。
 ぱっと見たところ台座に変わった様子はない。
 下手に触るよりも女館長を締め上げ、解除方法を確認するのが一番だろうと考えたイアルは、女館長の姿を探しに倉庫を出た。

 暫くしてイアルは、下へと続く階段を見つけた。
 そろそろと進み暗い部屋へと音もなく滑り込ませたイアル。
 目が闇に慣れるのを待ち、壁伝いに移動しながら中の様子を伺った。

 部屋の中には、倉庫で見た台座と檻、棚があった。
 檻の中に一人のスリップ姿の少女がおり、側に燭台を持った館長らしい女が立っていた。
 泣いている少女に何かを囁き続ける女館長を静かに見つめるイアル。
 暫くすると少女は泣き止み、楽しそうな笑みを浮かべていた。
 それを確認した女館長は檻の鍵を開け、少女に外に出るように促した。

 少女が台座に上り、その上でくるくるとダンスをするように回る。
 一瞬だった。
 ぱっと輝きを放った台座の上には、スリップの裾を翻し踊る少女の立像があった。
(被害者に催眠術を掛けて台座に乗せていたわけですね)

 満足げに少女像に触れる女館長を後ろから飛び掛り、腕で首を締め上げるイアル。
「少女を元に戻す方法を教えなさい」
 バタバタと暴れる女館長を見て、
「ああ……首を絞められていては、答えられませんね」
 パッと腕を離すイアル。
「さて、どうやって戻します?」
「それは……」
 専用の薬剤を使うと言う女館長。
「では、それを急いで用意してください。勿論、今まであなたが石像に変えた女性全員分ですよ」
 ブツブツと不平を言いながら棚の中から小瓶を取り出した女館長は、イアルの側に、わざと床にビンが落ちるように投げた。

 慌てて身を乗り出すイアルの足元が、消えてなくなった。

 落とし穴から音がしないのを確認し、近づいてきた女館長が穴の中を覗き込む。
「残念でした。落ちてなくって」
 魔法銀製のロングソードを落とし穴の壁に突き刺し、館長が近づくのを息を潜めて待っていたイアル。
 体に大きく反動をつけ、落とし穴の外へと飛び出すと女館長にロングソードを突きつける。
「わたし、そんなに怒ってなさそうに見えました?」
 にっこりと凄みのある笑顔を見せるイアル。



 ──こうして女館長から魔法の解き方を聞いたイアルは少女達を解放し、
 女館長と顧客を空いた『魔法の台座』に載せたイアルは、エヴァを連れて帰っていった。




 石像と化したエヴァを風呂場に運び込んだイアル。
 埃を洗い流し綺麗にすると柔らかいタオルで優しく水気を取っていく。
「お待たせ、エヴァ。綺麗になったわよ」
 小柄の体を優しく抱きかかえ、ゆっくりと台座より下ろすイアル。
 石化が解除され倒れこむエヴァを優しく抱きかかえ、
「おかえりなさい、エヴァ……」
 エヴァの頭を撫でるイアル。

「借りを作っちゃったみたいね」
「そんな事は、ないわよ。イアルもわたしを助けてくれたでしょ?」
「じゃあ、貸し借りはなしね」
 少し残念そうに「でも……」と続けるエヴァ。
「でも?」
「これからは、もうイアルに掃除を押し付けたり出来ないのね。残念」
 エヴァの言葉にくすりと笑うイアル。
「時々だったら手伝ってあげますよ」
「本当?」
「但し、アルバイト代は頂きます」
 信じられないという目でイアルを見るエヴァ。
「親しき仲にも礼儀あり。何がいいですかね〜」
「判ったわよ。頼む時は、お駄賃考えとくわ……」
「うふふ。たまにここのお風呂貸してくれるだけでもいいですよ」
 そういってウィンクするイアルだった。




<了>




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登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【7523 / イアル・ミラール / 女 / 20 / 裸足の王女】
【NPCA017 / エヴァ・ペルマネント / 女 / 不明 / 虚無の境界製・最新型霊鬼兵】


ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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 発注文にありましたエヴァの落とし穴は、文字数的に厳しかったので省略させていただきました。
 楽しんでいただければ幸いです。