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<PCシチュエーションノベル(ツイン)>


ドジっ娘には放置プレイでお仕置き?

★掃除魔の大失敗!
「ふぅ……。ここにいると、本当に心が落ち着くわ」
 シリューナ・リュクテイア(3785)は自身が経営している魔法薬屋の中にある一室で、うっとりしている。彼女の視線の先にあるのは、趣味で集めた美しい装飾品やオブジェの数々。一つ一つをじっくり見たり、手で触れて感触を楽しんでいた。
 が、そこへ聞きなれた声が飛び込んでくる。
「お姉さまっ! 今日という今日は倉庫部屋を掃除させてもらいますからね!」
「うっ……。ティレ、また気合の入った格好をしてきたわね」
 ファルス・ティレイラ(3733)は既に大掃除をする格好で、この店にやって来た。長い黒髪を結び、頭にはピンク色の三角巾をつけている。そして紫色のエプロンをつけ、両手には白い手袋をつけていた。鼻と口を覆う布もつけており、一目で掃除スタイルだと分かる。
 張り切っているティレイラの迫力に負け、シリューナは渋々倉庫部屋の鍵を持って共に行くことにした。
 シリューナは掃除用の青いエプロンをつけながら、嬉しそうに掃除道具を準備しているティレイラに呆れた眼差しを向ける。
「ったく……。掃除魔の弟子を持つと、心休まる時がないわね」
「私から言わせてもらえば、気に入った物を次から次に買ってくる師匠の方が信じられないです! 新しいのを買ったら、いらない物は捨てる! コレは基本です!」
「何の基本だか……」
 しかし反論してもティレイラは負けずに言い返してくるので、言われた通りにいらない物を集めることにした。
 棚に置かれたガラス瓶を一つずつ手に取り、中身を思い出していく。
「この魔法薬、何だっけ? ……ああ、思い出した。ドリアン変化薬ね。ドリアンは世界一臭い果物だけど甘くて栄養が豊富だから、食べ物にこの魔法薬をかけると全てドリアンの味と匂いになるという……」
「一体どこの誰が作った薬なんですか?」
 需要があまりなさそうな変化薬の説明を聞いて、ティレイラの顔が引きつる。
「ええっと……こっちの魔法薬は確か飲んだ後にオナラをすると、その噴出力で空を飛べるという……」
「何でそんな魔法薬がここにあるんですか? もう説明はいいので、さっさといらない魔法薬は捨ててください!」
「へいへい」
 こうしてシリューナはいらない魔法薬を箱に入れ、ティレイラは掃除道具を両手に持ちながら棚や窓を掃除していく。
 やがて魔法薬が箱いっぱいになって入らなくなり、シリューナは手を止める。
「ティレ、いらない魔法薬、もう箱に入りきれなくなったから外に出してくるわ」
「はぁーい」
 そしてシリューナは箱を持って倉庫を出て行き、ティレイラはふと思い立った。
「お姉さまがいないうちに、床の掃き掃除をしておこうかな。いちいち廊下に出てほしいと頼むよりも、いない今がチャンスね。棚から埃を大分落としたし、床が汚くなっているしね」
 軽く咳き込みながらも、ティレイラはホウキで床を掃き始める。
 しかし棚の範囲を掃き終え、妙なオブジェが並ぶ所を掃き始めた時、ティレイラは何とも言えない複雑な表情を浮かべた。
「……人の審美眼はそれぞれだと分かっているけど、こっちの趣味はよく分からないわね」
 シリューナは赤い瞳を輝かせながらオブジェを見るも、時々理解できないデザインの物もあり、ティレイラはいまいち彼女の趣味が理解できなかった。
「まっ、私には関係ないわね。とりあえず今は掃除ができれば良いし」
 だがオブジェの形が複雑な為、何度かホウキが当たってしまう。
「ううっ……! ホウキは長さがあるから厄介ね」
 何とかして隅々まで綺麗にしようとホウキを伸ばした時、ガツッとイヤな音がした。
 恐る恐る顔を上げて見ると、二メートル近くある正六角形の石板らしきオブジェがグラグラと揺れており、だんだんとティレイラの方に倒れてくる。
「きっ……きゃああああっ!」
 慌てて石板に背を向け、逃げ出そうとしたが時遅く、ズッドーン!と重い音と共に大量の埃が倉庫に満ちた。
 大きな悲鳴と物音を聞いて、シリューナは慌てて倉庫に戻って来る。
「今の音は何? ティレ、無事?」
 扉を開けると大量の埃が舞い散っており、視界を塞ぐ。鼻と口元にハンカチを当てながら、手で埃を払いつつ中に入る。
 すると正六角形の石板が、床に倒れているのを発見した。
「ティレの姿がどこにもない……ということは、まさかっ!」
 シリューナは顔色を変えると、慌てて石板を起こす。すると石板には、情けない顔をしたティレイラが模様になって浮いていた。
「ああ……。やっちゃったのね」
 参ったというように、シリューナは困り顔で額に手を当てる。
『おっお姉さま〜。コレは一体、何の魔法道具なんですかぁ?』
 ティレイラはどうやら動くことはできないものの、しゃべることはできるみたいだ。
「ああ、話せるのは良かった。実はコレ、お仕置き用の魔法道具なのよ」
 シリューナが言うには、元々はとある魔法学校に置いてあった物らしい。
 石板には魔法陣が模様のように描かれており、パッと見は魔法道具と分からないようにされている。その模様は特殊な為に、ティレイラもただのオブジェだと油断して近付いてしまったのだ。
 しかし魔法学校では、お仕置き用の道具とされていた物。悪さをした生徒の体をこの石板に付けると、みるみるうちに飲み込まれていく。そして全身が石板と一体化すると、魔法が使えなくなる。つまり自ら脱出することは、不可能となるのだ。
「よりにもよって、魔力を持つ者だけに反応する仕掛けになっているのよ。まあその石板と一体化しているうちは食欲はないし、トイレも行きたいと思わなくなるみたいよ。だからまあずっとそこにいても、体に害はないと言えるんだけど……」
『害は大アリですっ! ううっ……。どうりで石板が背中に当たった感じが、おかしいと思いましたよ……』
 普通はドカッと衝撃がくるはずが、まるで泥に足が沈んでいくような感じがしたのだ。そして気づけば石板と一体化してしまい、身動き一つできなくなってしまった。
「でもティレ、あなた無理に奥まで掃除しようとしたわね? こういう物は二人がかりで移動させてから、床を掃除すればよかったのに」
『今ならそう思いますぅ〜』
 石板は正六角形と不安定な形をしていたので、少しの刺激も危険だったのだ。
「魔法学校では壁に埋め込んでいたようだから、こういう事故は起こらなかったんでしょうけど……。我が弟子ながら、注意力が足りないわね」
 ブツブツ言いながらも、シリューナはオブジェと化したティレイラに触る。手触りは石そのものだが、ティレイラの体が石板に浮かび上がっているような形になっている為に凸凹具合が結構良い。
「冷たくてツルッとしている……。ティレは可愛い顔をしているし、体付きも良いのよね。コレはコレでなかなか良いものだわ」
『おっお姉さま? 一体何を言っているんですか? 早く助けてください』
「あっ、それは私でも無理」
『ええっ!? 何でそんなあっさり……』
「だって言ったじゃない。<お仕置き用の魔法道具>だって」
 一度魔法が発動してしまうと、一時間はどうやっても同化した者を解放することはできない。
「魔法学校に置いてあった時には、解除の方法を誰かが知っていたかもしれないわね。でも私が購入した時に解除の方法は一切知らされていなかったから、分からないのよ」
『じゃあ何でこんな危険な物、買っちゃったんですか? ……ハッ! まっまさか、私に使うつもりだったんですか? 私をオブジェにする為に!』
 ティレイラの言葉を聞いて、シリューナの口元に笑みが浮かびつつあった。しかしすぐに真面目な顔付きになり、腰に手を当てる。
「そんなワケないでしょう」
『それじゃあ今一瞬浮かべた笑みは、何だったんですかぁ!』
 ティレイラの叫びから逃れるように、シリューナは気まずげに顔をそらす。
「……見間違いよ。それよりこれから一時間はどうあってもティレは動けないから、掃除は中断ね。仕方ないから、私は石化したティレを楽しむことにするわ」
『えっ? それってどういう……いっいやあぁん! どこを触っているんですかーっ!』
 ――こうして怪しい目付きになったシリューナに、石化したティレイラは思いっきり撫でられまくったうえに、じっくりと見つめられる。


 一時間後。満足げなシリューナと、解放されてぐったりしているティレイラが、そこにいた。
 シリューナが言う通り、石化していたこと自体は苦痛ではなかった。
 しかしシリューナにとことん見つめられて触られまくったせいで、ティレイラの気力も体力も一気に減ってしまったのだ。
「きっ今日はもう掃除はしないということで……。何だか疲れました」
「そう? じゃあまた今度ね」
 シリューナは満足いくまで石化したティレイラを堪能したうえに、掃除が中断したことを素直に喜ぶ。
 そんなシリューナの満面の笑みを見て、ティレイラは今度こそ倉庫を完璧に綺麗にすることを心に誓った。


【終わり】