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<東京怪談・PCゲームノベル>


とあるネットカフェの風景
 〜 クリスマスにキミと 〜

1.
 何度となくその扉を開く。
 しかし、見まわしてみても今日も彼女の姿は見当たらなかった。
「忙しいのかな…」
 がっかりした気持ちはあるものの、自分が来る時にいつだって彼女がいる訳じゃないことはわかっている。
 約束しているわけじゃないんだし…。
 工藤勇太(くどう・ゆうた)はこれまた何度となく開いたスマホの画面を開く。
 登録してある彼女のメルアドを開くと、そこで手が止まる。
 彼女…SHIZUKUとは偶然オカルト関係で知り合い、少しずつ友達になった。
 11月の学園祭には執事喫茶に招待して…あぁ、まぁ、それはあんまり思い出したくないな。恥ずかしい。
 なんだかんだ言って気の合うヤツだなと、勇太はそう思うようになっていた。
 だから、その延長線でちょっとクリスマスの予定を聞いてみようと思っていた。
 …やましい気持ちはない。ちょっと友達とクリスマスに遊びたいだけだ。
 なのに、なぜか毎回メールの送信ボタンを押すのをためらう。
 なんでだろう?
 文面はシンプルにただひとつ。

『クリスマス、なんか予定ある?』

 ただそれだけのメールなのにな…。
 モヤモヤとした心のなにかが、そのメールを送るのを拒んでいる。
 友達に予定聞いて何が悪いんだ?
 自問自答して大きく深呼吸すると、勇太は「よし!」と気合を入れて送信ボタンを押した。
 『送信中』の文字が画面に踊る。…これでよかったんだろうか?
 またモヤモヤとした気持ちが湧き上がって、今更ながらにメールを送ったことに後悔してみた。
 だが、時すでに遅し。
 画面には『送信完了』と表示された。
「…だ、大丈夫だよ…な…」
 別に悪いことは何もしていないのだが、スマホの画面に向かって思わず疑問形の言葉が浮かぶ。
 返事、来るんだろうか?
 そんなことを思いつつ、スマホをポケットに戻そうとしたところでメールの着信音が届いた。
「!?」
 慌ててスマホを見ると、それはSHIZUKUからだった。
 まさかこんなにすぐにメールが返ってくるとは思わず、慌ててスマホを操作してメールを開く。
 SHIZUKUからのメールは、彼女らしい元気なメールだった。

『ひっさしぶり〜!
 クリスマスはね、コンサートやるんだ
 年末年始はそのコンサートツアーで潰れちゃう感じだよ(^^;
 なに? もしかして何かいいネタ仕入れた??』

 メールにも拘らず、SHIZUKUの声が聞こえるようで思わず頬が緩んだ。
 しかしその内容に少し肩を落として、勇太は返信を打つ。
『いや、暇だったら遊ばないかなと思っただけ
 コンサート、頑張れよ。仕方ないから、見に行くよw』
 今度は送信ボタンを迷わず押した。期待した答えは返ってこなかったけれど、久しぶりにメールとはいえ会話できたことが嬉しかった。
 勇太のメールに、またすぐに返事は来た。

『来てくれるならチケットあげるよ!
 どうせなら、いい席で楽しんでよね♪w』


2.
 電車は、コンサート会場のある駅へ近くなればなるほど人が増えていく。
 駅に着くころには満員で、雪崩のような人ごみに押し流されながら勇太はコンサート会場へと向かった。
 迷うことはなかった。人の流れは全てコンサート会場に向かっていた。
 …なぜわかったかというと、人々がSHIZUKUの顔入り缶バッチやら団扇やらを身につけていたからである。
 意外と人気あるんだなー…。
 そんな実感の沸かないまま、コンサート会場へと流れ着いた。
 コンサート会場はそこそこ有名なホールで、会場の周りには『チケット譲ってください』と書かれた段ボールを掲げ持つ者も少なからずいた。
 ふと、手元のチケットを見る。
 メールを交わした後、ネットカフェにコンサートチケットを預けたというSHIZUKUからのメールの通りに勇太はチケットをSHIZUKUから受け取った。
 小さな紙きれ1枚。勇太はありがたく受け取ったのだが、あとから値段を調べてびっくりした。
 コンサートチケットは結構財布に打撃を与えるような値段だった。
 あのダンボールを掲げる人たちは、さらにその値段の倍で買うという。
 …すべてはSHIZUKUのコンサートで、SHIZUKUに会いたいがために…。
「………」
 チケットを大事にポケットにしまって、入り口が開くのを待つ列へと並ぶ。寒空の下で、みんなSHIZUKUに会いたくて待っている。
 なんだか俺って実はすごい奴と知り合いだったんだろうか?
 こんなにたくさんの人が彼女1人のためにここに集まり、ステージの上の彼女を見に来ている。
「ただいまより、開場します。前の人を押さないようにゆっくりご入場ください!」
 メガホンを持ったスタッフジャンパーを着た男がそう叫ぶと、ゆっくりと列が流れ出した。
 勇太も、その列の流れに沿って会場に入っていった。

 会場内は外が冬などということを忘れそうなほどの熱気に包まれていた。
 まだ幕も上がっていない状態だというのに、客席を埋め尽くすファンたちは其々にSHIZUKUのファングッズを手に持ちながらウォーミングアップする。
 なんだか自分だけ席に座って待っているのがおかしい気がしてきた。
 俺、ここにいていいの?
 そんな不安が巻き起こるが、ここで席を立つのもおかしな話だ。
 こういう時はスマホに逃げていよう。そうしよう。
 スマホを取り出して、適当にマナーモードにしたり天気予報なんかを見たりと間を潰す。
『ブーーーーーーッ!』
 突然会場に響き渡る大きなブザー。その音と共に、聞き覚えのある声が聞こえてきた。
『みんな! 用意はできたかな!?』
 その瞬間、会場全体が揺れるような大歓声が上がり、思わず勇太は身をすくめた。その大歓声が呼んだかのように光の渦が巻き起こり、華やかな舞台の幕が上がる。
『みんな、元気だったー? 会いたかったよー!!』
 光の舞台の中にいるのはSHIZUKUだ。ふわふわとした衣装を身にまとい、マイクを持って舞台から呼びかけてくる。
 あれは…俺の知っているSHIZUKUなんだろうか?
 勇太は目をパチパチと瞬かせて舞台を食い入るように見る。
 大歓声にも消されぬ彼女の歌声と、オカルト話と、ファンへの笑顔。
 どれもこれもが勇太の知るSHIZUKUであり、また、SHIZUKUとは違う。
 ホントに…アイドルなんだな。
 そんなことを改めて突き付けられて、勇太は席から動けずずっと座って見ていた。
『今日は本当にありがとう! 次がラストの曲だよ!』
 SHIZUKUのその声に勇太はハッとした。
 何となく…今日はこのまま帰った方がいい気がした。
 忘れ物がないかを確認して席を立とうとした時、勇太は腕を掴まれた。


3.
「工藤勇太さんですか?」
 腕を掴んだ女性はそう訊いた。
 誰だ? と思いながら、勇太が頷くと女性は勇太の耳元で早口に説明をし始める。
「わたくし、SHIZUKUのマネージャーをしております。SHIZUKUより工藤勇太さんがこの席にいたら楽屋の方へ連れてきてほしいと頼まれています。一緒に来ていただけますか?」
 予想外の出来事に、勇太は思わず聞き返した。
「俺が? 行っていいんですか?」
「はい。是非」
 ニコリと笑う女性に、勇太はハッと我に返った。
 俺、今帰ろうとしたところなのに…。
 しかし、女性は勇太の問いを肯定ととらえたようで、勇太の腕を取ると素早く移動を開始した。
 あれよあれよという間に会場を出て、バックヤードへと入っていく。バックステージパスなんて、初めて見た。
 ステージではアンコールの歓声の後、SHIZUKUの歌声が響く。
 それをステージ脇から勇太は見る。先ほどまでいた会場を全く違う方向から見ることになるとは…。
「このアンコールが最後になります。もう少しお待ちください」
 女性はそう言うと、楽屋へとSHIZUKUの楽屋へと勇太を案内した。
 ごちゃっとした様々な小物や衣装が乱雑におかれた部屋、華やかな舞台の裏での大変な苦労が垣間見える。
「あまり見ないであげてくださいね。SHIZUKUも一応女の子ですから」
「え、あ! す、すいません…」
 マネージャーの見透かしたような笑顔に、勇太は焦る。
 …実はこの人も能力者とか…ってのはないよな?
 色々な修羅場をくぐってきたであろうマネージャーの洞察力のなせる業だが、緊張気味の勇太にはそこまで頭が回らない。
 やがて、大きな歓声とともに場内アナウンスが流れる。
『本日のプログラムはすべて終了いたしました。お気をつけてお帰りください』
 ざわざわとした空気の動きと、たくさんの雑音が動いていく。
「終わったようですね」
 マネージャーはささっと何やら動き始める。
 先ほど通ってきた舞台の方向からガヤガヤとした大勢の声と足音が聞こえる。
「お疲れ様でしたー!」
 パチパチと拍手を背に、SHIZUKUが楽屋に戻ってきた。
「あ、勇太君! よかったー! 来てくれてたんだね」
 ひらひらとしたステージ衣装と、少しだけ濃い化粧、額の汗がキラキラと眩しい。
「お、おう。お疲れさま」
 ぎこちなく上げた手にSHIZUKUはふふっと笑う。いつもの笑顔だ。
「SHIZUKU、お疲れ様。化粧落として。はい、飲み物」
 手際よくSHIZUKUを鏡の前に座らせて飲み物を置き、マネージャーはそう言った。
「はぁい」
 SHIZUKUもそれに従う。どうやらいつものことのようだ。
「勇太君、どうだった? あたしのコンサート」
 飲み物を飲みながら、SHIZUKUはそう訊いてきた。
「あ…うん…スゲー人気なんだな。びっくりした」
「…それだけ!? ほらほら、こぉんな可愛い衣装着てるのに?」
 SHIZUKUは突然立ち上がり、勇太の前でくるりんっと回ってみせる。
「ま、馬子にも衣装…」
 思わず目を逸らしながら勇太がそう言うと、後ろでマネージャーがプッと小さな声で噴き出した。
「アイドルに向かって『馬子にも衣装』って…」
 ふくれっ面したSHIZUKUの顔を横目で見ながら、勇太は少し顔を赤くして口を覆う。
 …誰が可愛いなんて真正面きって言えるんだよ!
「SHIZUKU、早くメイク落としちゃいなさいったら」
 マネージャーの言葉にSHIZUKUはようやく諦めたようで、ブツブツ文句を言いながらも化粧を落とし始めた。
 マネージャーに助けられた。勇太はホッと胸を撫で下ろした。
 椅子に座って他愛もない話をしながら、SHIZUKUはアイドルSHIZUKUからいつものSHIZUKUに戻っていく。
 そうして、最後に服を着替えると勇太の知るSHIZUKUに戻っていた。
「ふふ〜っ、お待たせ!」
 SHIZUKUがいつもみたいに笑った。


4.
「ねぇ、マネージャー。今からちょっと出かけてもいい?」
 SHIZUKUが猫なで声でマネージャーにそう訊いた。
 え? っとSHIZUKUとマネージャーの顔を見比べる勇太に、マネージャーは微笑む。
「元からそのつもりなんでしょ? 派手な行動はダメだからね? …楽しんでらっしゃい」
 マネージャー、話はやすぎね?
「よっし! 勇太君、いこ!」
「お、おい!」
 SHIZUKUに腕を引っ張られ、マネージャーに見送られつつ勇太たちは街へ繰り出す。
 街はクリスマスカラーに彩られて、なんだかキラキラして見えた。
「こういう風に歩くのは初めてだね」
 温かそうなマフラーを巻いて、帽子をかぶったSHIZUKUが笑顔でそう言う。
「…そっか?」
「そうだよ。いつも何か調査してる時だけじゃない?」
「そうかなぁ」
 勇太はよくよく考えてみるが…確かにそうかもしれない。
「あれ、SHIZUKU…?」
 すれ違ったカップルにそう訊かれ、SHIZUKUは振り向いてにっこりと笑う。
「違いますよ〜♪ 人違いです♪」
 あまりに堂々というSHIZUKUに、慌てた勇太はSHIZUKUの帽子を目深に被せる。
「すいません! いっつもこいつお調子者で…!」
 なぜか謝ってすたこらさっさとSHIZUKUの手を引いて走り出す。
 小さな公園を見つけて、そこのベンチに2人して座り込んだ。
「…あんな堂々と否定しなくたって…俺、スゲー焦ったよ」
「だって、下手に誤魔化したら逆に怪しまれるじゃん?」
 そう言って顔を見合わせると2人でクスクスと笑いあう。
 ふと、勇太はSHIZUKUと手を繋ぎっぱなしなのを思い出すとパッと手を離した。
「!」
「?」
 一瞬、きょとんとしたSHIZUKUだったが、こちらもハッとしたように自分の手を引っ込めた。
 ちょっとした沈黙が2人の間を流れる。
 …ちっちぇー手だな…。
 細い指と柔らかな手の感触が、SHIZUKUが女の子だと勇太に再認識させる。
 手…手か。
 不意に、昔の記憶がよみがえる。
「そういえば、お前にスマホを川に投げられたことあったな」
「!? な! なんで今その話になるの!?」
 慌てたようにSHIZUKUが勇太に向き直る。
「いや、まさかスマホを投げるようなヤツと友達になるとは思わなかったから」
「あ、あたしだって…その…わ、悪かったわよ…あの時は」
 もにょもにょとバツの悪そうなSHIZUKUに勇太は微笑む。
 色々あったけれど、今ここにいることは幸せだなって思えた。SHIZUKUとここにいられることが…。

 思い出話に花が咲く。
 いつしか、街に白い小さな雪が降り出した。
「今夜は積もるかもね」
「ホワイトクリスマスってやつか」
 見上げた空がどんより暗い。そろそろ別れの時間だ。
「あ、そうだ。これ。クリスマスプレゼント」
 そう言って、SHIZUKUはポケットから小さな箱を取り出した。

「メリークリスマス!」
 
 そう言って、SHIZUKUは恥ずかしげに勇太にプレゼントを押し付けると駆け出した。



■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■

【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

 整理番号 / 工藤・勇太 (くどう・ゆうた) / 男性 / 17歳 / 超能力高校生

 NPC / SHIZUKU / 女性 / 17歳 / 女子高校生兼オカルト系アイドル


■         ライター通信          ■
工藤・勇太 様

 こんにちは、三咲都李です。
 ご依頼いただきましてありがとうございます。
 クリスマス〜♪ クリスマスコンサート!
 アイドルは忙しいですからねぇ…。アイテム『SHIZUKUのクリスマスプレゼント』を付与させていただきました。
 中身は…開けてのお楽しみってことで!w
 ご依頼ありがとうございました!