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<PCシチュエーションノベル(ツイン)>


副長、混沌に咆哮す

 それは今の時代では存在しない国、関われない筈の時空――での話。

 世界の大半を支配する『混』と呼ばれる国が存在した。
 この混国は、紀元五千年の月世界、晴れの海の『久遠の都』との同盟を望んでいた。久遠の都は環境保護として『ドワーフ・アシッドクラン』の侵略に繋がる宇宙開発の芽を摘む事と時間移民政策を推し進めており、各地各時代へと航空事象艇クロノサーフを派遣している事で、密かにその筋では知られた存在でもある。

 そして今、妖精王国の辺境伯である気高きエルフ、藤田あやこを艦長とする航空事象艇クロノサーフ連合艦隊USSウォースパイト号、旗艦。
 極秘で来訪していた混国大使が、沌国め! と息巻いていた。

 …沌国。
 それは――混の国が世界の大半を支配する中、独立を保っている軍事国家『沌』国の事である。沌国は混国が久遠の都との同盟を求める事に危機感を覚え、反対の立場を示した。が、混国は聞き入れる事無く、沌国の反対を押し切る形で極秘裏にこの旗艦に来訪した、のだが。

 そこには肝心の艦長が居なかった。
 いや、居ない――どころでは無い。艦長の藤田あやこは、恋人――と周囲から目されている神霊使いの村雲翔馬と仲睦まじく食事中に――何者かに拉致された、のだと言う。場所と状況からして二人の方にも油断があったのかもしれない。そうでないかもしれない。が、少なくとも今この状況でこれだけ強引な真似をやってのけそうな輩となると、沌国しかない――それで混国大使の、沌国め! と言う激昂に繋がる訳である。…交渉相手が居なければそもそも交渉のしようが無い。

「くそっ、こうなったら――」
「武力はだめ!」

 と、先回りして大使を制止したのは――男好きしそうな媚びた風貌の、十代半ばに見える少女。尖った耳に羊顔、肩まであるふわふわのウェーブヘア。ダウナーレイス――久遠の都に棲む女性だけの天使族、の一人である綾鷹郁である。
 艦長不在のこの旗艦で、副長である彼女が代理として混国大使を迎えていたのだが――そんな中でも勿論、彼女は艦長とその恋人の事が心配で仕方無い。本音を言えば混国大使なんぞ放っておいて今すぐにでも二人を救出に向かいたい。

 が、今回のコレは、そもそもが混国と沌国の軋轢が生んだ問題、でもある。
 そうなると、この大使を置いてどうこう、とも行かない。
 ならば相手がどんな手段を使って来ようと、混国と話をしている――即ち近付いている、と見做されるだろう今――自分たちがすべき事は、まずは、交渉。



 沌国首相官邸。

 官邸の主は少々無茶な方法で捕らえた久遠の都の使者二人――藤田あやこと村雲翔馬の扱いについて熟考を重ねていた。…混国が久遠の都との同盟を強硬に進めようとしている理由。大々的に組織された艦隊を引き連れ現れた久遠の都の使者――航空事象艇クロノサーフをあらゆる時代に派遣する久遠の都のやり方。

 …混国と組んで我らを滅ぼす気か?

 独立した軍事国家である沌国が――沌国首相が、そう疑心を抱いてしまうのも無理からぬ事で。



 沌国某所、監獄。

 そこには藤田あやこと村雲翔馬の二人が放り込まれていた。碌な詮議も無いままに、首相に冤罪で裁かれた結果がこれ。…いや、そもそも何の罪を着せられたのかさえはっきりしない。そのくらい、いいかげんな裁きだった。そしてそんないいかげんな裁きである以上、当然、そう簡単に釈放されるような目も、無い。

「…でも、負けないわ!」
「ああ、その通りだ!」

 あやこの宣言に、翔馬もまたすぐに呼応し、力強く同意する。…二人とも元気だ。共感能力を持たずとも心は同じ――と。

 不意にガチャリと重々しい金属音がした。直後、おい、と憚るような看守の声が掛けられる。今の音は――まるで、鍵を操作したかのような音。そして今まで、ここには鍵が確りと掛かっていた筈で。
 あやこと翔馬は、軽く驚いて看守――である筈のその人物を見る。

 どうやら、この看守は――。



 ウォースパイト号、艦橋。

 副長の郁と混国大使は既に、ごく細い沌国首相とのパイプを駆使し、艦長藤田あやこと村雲翔馬を返すよう交渉を試みた。…否、交渉術としてそもそも沌国が二人を拉致したとはっきり言い切る訳にも行かない。だからこそ、表立っては言葉に出さないながらも裏側に拉致の件をはっきり織り込みつつ、交渉を展開する――が。

 沌国は頑なに交渉に応じないばかりか、二人の殺害まで示唆して来た。…その時点で公然と拉致を認めたも同然である。郁は目を丸くした。混国大使はやはり武力行使しかあるまいと更に息巻く。…それも、何処か得意げに――まるで、ちょうど都合のいい口実が出来たとでも言いたげな。

「ほら、沌国のバカどもに話が通じる訳がない。力で屈服させる以外に初めから道は無かったのだ!」
「…久遠の都は国家間の対話を重んじています。二人を救出する為に出来る事はまだある筈! 武力行使はだめ!」
「頑固だな。…ここまで言っても駄目か。なら仕方ない、少し顔を貸せ」

 密室で話そう!

 …混国大使は、郁に何故かそう持ち掛けて来た。



 沌国辺境、荒野。

 …混国のスパイであった看守の計らいにより、藤田あやこと村雲翔馬の二人は無事監獄から脱出出来ていた――とは言え彼らが居るのはまだ沌国内、予断を許さない状況でもある。このまま国境に向かい、そこにある某酒場で混国軍と合流出来る手筈になっている――と聞いてはいるが、そこまではまだ距離がある。その間何かの手違いで離れてしまっては大変だろう、と看守はあやこと翔馬の間を3mはあるだろう頑丈な電線で結びさえした。互いが離れてしまう事の無いよう――簡単に千切れはしないだろう、頼り甲斐のある電線を。

 そう、こんな局面にあっても心ある他者から差し伸べられる救いの手がある。自分たちはまだ負けてはいない。…力強く荒野を歩む中、言葉にしなくとも、お互いがそう信じ己に言い聞かせている事がわかってしまう――何故か、そんな気がしてしまう。

「きっともうすぐだ、あやこ、大丈夫か」
「私もお腹減った!」
「! …あやこ、お前…!」

 言われた言葉に、翔馬は驚く。腹が減った。それは――翔馬が心の中で思っていた事そのままだったから。まさに心境を読まれたかの如きタイミングで、私『も』とあやこが口に出していた事実。あやこの方でも己の発言の意味に気が付き、俄かに惑う。…あやこには共感能力など無い筈。なのにこれは――まさか、さっき結ばれたこの電線のせい!? これで互いの心が通じてしまっているのか――そう思いはするが、言葉に出して確認する事はしない。しないが、互いにそう思っている事は、もう実感としてわかってしまっていて――。

「っと…まぁ、こんな事もあるわよ。大丈夫大丈夫気にする程の事じゃないわ! それより早く混国軍と合流しないとね!」
「ああそうだな。大丈夫だ。…何があってもあやこは俺が守る」
「…えっ」
「あやこが強い事は知っている。だがもっと俺を頼ってくれていい。今は一人じゃないんだ」
「…翔馬」

 あやこが翔馬の心境を代弁してしまったように、今のあやこが強がりを言っていた事も、翔馬には筒抜けで。当たり前のように励まされて。…いつも、守る側に立つ事に慣れてしまった自分。それが守られてもいいのだと、翔馬の言葉で――そして電線から伝わって来る翔馬の心に言われてしまい。

 3mは離れていた二人の距離が、少しずつ、縮まって行く。
 やがてあやこと翔馬は寄り添うようにして、二人、荒野を歩いて行く事になる。



 密室――もとい、密談の場として混国大使が選んだ客室。

 何やら、大使の方に何処からか急の連絡が入ったようで郁は少し待たされた。が、その後に戻ってきた大使の纏う雰囲気は――心なしか、がらりと変わっているように感じられた。何故か先程までは無かった自前の大袈裟な防犯装置を配備した中、自信に満ち溢れたドヤ顔で朗々と声を上げている。

「無事脱走したよ」
「…? どういう事?」
「そちらの艦長たち二人の事だ。沌国に潜ませていた我が混国の工作員の尽力でな!」

 艦長たちとは国境の酒場で混国軍と合流予定だ。…混国大使は郁にそう言ってのけ、郁は混国大使の迅速な行動に驚くと共に、感謝の言葉を述べようとする――が。
 その、前に。

 …この大使、艦長生還の暁には便宜供与を、とぬかしてきた。

「は?」
「聞こえなかったか。我が混国がそちらの大事な艦長を助け出したのだぞ、そのくらいの心遣いはして然るべきとは思わんか」
「…」

 そう言われた時点で、郁の中から感謝の気持ちは消え去った。…そもそもがこの一件、混国と沌国の小競り合いが事の原因。更には混国が求めなければ久遠の都の艦隊はここに来ていない。…それは艦長の側に何の落ち度もなかったとは言わない(付け込まれる隙的な意味で)。が、ここで混国側が嬉々としてそういう言い方をして来るとなると見当違いの強請り集りも同然である。何も求めて来なければ好印象を与える材料として暗黙裡に考慮される事にもなったろうに、わざわざ自分から台無しにしている辺り、底が浅い。
 …いやそもそも、そういう話なら先程の混国大使の主張が成立しない。何もわざわざ武力行使に出る必要は全く無かった事になる訳で――つまり。

 …ふぅん、混国は沌国潰しの為に久遠の都との同盟を利用したいだけ、とそういう事な訳?

 呆れた! この大使、碌な事考えてない。
 …もう少しくらいはまともに話が出来る相手だと思っていたのに、幻滅。



 国境付近、沌国側――国境の川を望める位置。

 そこには沌国の国境警備兵と思しき兵員がうようよと展開していた。あやこと翔馬は国境の酒場を目指してここにまで来たものの、これでは目的地に近付けない事だけは言い切れる。どうせあやこと翔馬が脱走したと言う情報も届いているだろうし――いや、だからこそのこの警備兵の数かもしれないか。
 ともかく、まともに目的の酒場に向かえる状況じゃない。

 …仕方なく、あやこと翔馬はひとまず国境を迂回する事を選ぶ。
 即ち、沌国警備兵の監視の目を逃れながらの、予定外の逃避行、となった。
 そして――何とかして国境を越える事が出来ないか、と当て所も無く歩く中、野宿までする羽目になる。…警備兵のものと思しき声や姿が幾分遠くなった頃、何とか見付けられた取り敢えず落ち着けそうな草葉の陰。

 そこで、あやこと翔馬の二人は不自由な一夜を過ごす。
 いや、不自由だとは言え――その不自由さこそがまた、二人の距離を近付けているとも言うのだが。…電線のせいで――おかげで、何も言わずとも通じ合えるこの状況。即ち、心の方に限っては不自由どころかあまりにも自由で。ただそれは、意思の疎通を計るのに都合がいいと言うだけではなく、互いに知られたくない事、隠しておきたい事、言ってはいけないと決めている事までも相手に読み取られてしまう、と言う事でもあって…。

 これでは何を隠しても意味が無い、といいかげん逡巡した末に、翔馬は吹っ切るようにしてあやこを見る。
 あやこの方も、翔馬がそうする事をわかっているように、その顔をじっと見返して。
 …翔馬はそれでもやっぱり躊躇いつつ、口を開いた。

「あやこ。…俺は…お前が…好きだ」
「…。…ええ。私もよ」
「…ああ」
「これは友情よね…?」
「…」

 あやこから釘を刺されて、翔馬は俄かに口を噤む。…あやこは未亡人。翔馬が躊躇った理由はそれ。あやこが釘を刺した理由も同じ。電線を通じてお互いの心がわかっていながら、言葉の上ではそう壁を作らざるを得ないジレンマ。周囲からは疾うに恋人と目されていても、どうしても最後の一線は――…。



 ウォースパイト号、艦橋。
 碌でもない密談を終え――紆余曲折あった翌日。混国大使とウォースパイト号副長の二人が対峙する。
 …先に発されていたのは、混国大使の疑心に満ちた胴間声。

「艦長たちが消えた。さては貴様ら沌国とグルか!」
「…は?」

 …混国大使曰く、艦長たち二人と軍の合流が失敗したらしい。
 その事自体は理解したが、だからと言ってあたしたちが沌国とグル? 何がどうしてそんな結論になるのか。郁としては意味がわからない。

「そんな事して何の得があるのよ! 拉致されてるのはうちの艦長!」
「だがこの件を知っているのは沌国を除けば貴様らだけだ!」
「………………言いがかりも大概にしぃや! あーもう埒が明かんわ! 沌国に直談判しちゃる」

 もう説明するのも面倒になり、郁は前回繋いだほっそーいパイプを介しての沌国との通信を指示。受けた技官は程無く、再び正面の大型ディスプレイに沌国首相の姿を表示させる。

(…ん? 何だこれは、ッ、あの久遠の犬と繋がっとるのか、誰が繋げた!? ああン――)
「首相。見苦しわ。もう繋がっとるんやまともに話しぃ」
(…? お前、本当に先日話した副長か? 喋り方が…)
「何や文句あるん? いや、んな事どうでもええわ。それよりなァ、とっととうちの艦長返してもらおか」
(知らんと言ったろうが、もし知っていたとしても混国と同盟を考えるような輩の話など聞く耳を持つと思うか!)

 切。

 殆ど一方的に通信が切られ、大型ディスプレイはブラックアウト。前回交渉時と状況全く変わり無し。それを認めてから、どうよ、とばかりに郁は混国大使をじろりと睨む。…が、大使の方の疑念は――全く消えた様子が無い。

「下手な芝居をしても無駄だ!」
「じゃ沌国首相直接ここに呼ぶわ」
「っ」
「何驚いてるん。アンタが言うに、かおると沌国グルなんやろ」

 なら簡単な話やないん? 郁は大使にそう嘯き、副長としてウォースパイト号の機関員へと次なる指令を出す。行き先は沌国首都、目的は首相の身柄――指令するが早いか、ウォースパイト号は航空事象艇としての性能を如何なく発揮し、殆ど瞬時に沌国首都、首相官邸上空に到達。程無く、沌国首相をウォースパイト号艦橋にまで猫の子のようにあっさり連れて来た。…その間、数分と掛かっていない。
 郁は作戦司令用のデスクを間に挟む形にし、沌国首相を混国大使の正面に座らせる。…沌国首相は、拉致も何もそもそも何が起きて今何処に居るのかもわかっていないようで、動揺が激しい。

「なっ、なななな、な何を!!」
「これでもう、通信切ってはいさよならとは行かんぜよ!」
「…ッ…!」
「混国の大使も! 言いたい事があんなら正面切って話すんが筋やなか?」
「ッ…あ、ま、まさか…こんな事が…」
「…」

 グルだの武力行使だのと勇ましげに好き勝手言っていながら、混国大使の方もまた異様に動揺している。まさかいきなり御大当人が降臨するとは想像していなかったらしい。何やら涙目にまでなっている。

 …ああもう、男は頼りない!



 沌国国境。

 幾らあやこの左目――あらゆる危難衰運を察知する邪気眼――があるとは言え、さすがにずっと逃げ続けていられる程に沌国警備兵の目は節穴では無い。やがて、あやこと翔馬の身柄は警備兵に見付かってしまい、付かず離れずで追撃され…殆ど休む間もない決死行が続く羽目になる。
 どう足掻いても多勢に無勢、このままでは、保たない。どちらからともなく考えたところで、また、新たな追撃が来る――…

「ここは任せろ!」

 新たに追撃に来る警備兵の姿を見、言い切る翔馬の声。同時に、あやこと己を結ぶ電線を引っ掴み、捩じ切るように握り持った。そして、力尽くで引っ張る――自分がこの追撃を阻み切り、あやこだけでも逃がすべく二人を結ぶ頑丈な電線の切断を試みる。ただの生身でこれを引き千切るなどさすがに無謀だが、村雲家に伝わる神霊スサノオを降ろしている状態の自分ならこのくらい可能だろう――そう見込んでの試みだったの、だが。

 途端、あやこが絶叫し、悶絶した。

 反射的に翔馬は電線を掴んでいた手を離す――そうしたらあやこの身体からも一気に力が抜けていた。翔馬はそんなあやこを咄嗟に抱きかかえる――まるで、たった今凄まじい苦行から解放されたばかりのような尋常でない息の荒さ。大丈夫よ、とあやこは力無く囁くが――これもまた、翔馬には電線を介して大丈夫ではない事がわかってしまう。…どうやら電線の切断は命に関わるようだ。だがこのままではもう、警備兵の追撃から逃れ切れるとは思えない。

 なら。

 一緒に死のう!

 …どうせこの世で結ばれぬ定めなら、せめてあの世で添い遂げよう、と。
 覚悟した二人の心が呼応する。



 ウォースパイト号、艦橋。

 …と言うか、混国大使と沌国首相の「子供の喧嘩」の場。いい年した大人が益体も無く繰り広げているそれらを暫し黙して聞いていた郁だったが――さすがにそろそろ、聞くに堪えなくなって来た。…ばんっ、と強くデスクの天板を叩き、「子供の喧嘩」中な二人に威嚇するように立ち上がる。

「な、何だ!」
「じゃ、邪魔をする気か!」
「…アンタらが仲悪いんはようわかった。…が、それとこれとは別の話や」

 艦長に何かあれば我が艦隊が踏み込むわ。二人とも嫌でしょ?
 だったら、今すぐにすべき事くらいはあなたたちでもさすがにわかるわよね?



 沌国国境付近。

 せめてあの世で、とあやこと翔馬の二人が覚悟を決めたところで。
 どういう訳か、警備兵たちの間に暫し動揺の色が見えたかと思うと――不意に追撃の手が止んだ。

 …助かった、のか?

 二人が頭上に疑問符浮かべつつそう思う間にも、警備兵は何やら二人を呼んでいる。それも投降を呼びかけると言うより「お願いだから出て来て下さい」と懇願して来ているような呼び方で。随分な掌返しと言うか何と言うか…つまり何がどうなったのか、よくわからない。



 ウォースパイト号、旗艦。

 紆余曲折の後、艦長の藤田あやこと神霊使いの村雲翔馬の身柄は、無事、沌国首相から副長の元に引き渡されていた――つまり、その気になって一声掛ければこのくらいは簡単に出来る立場と状態にあった訳で、郁側――久遠側としては茶番に巻き込まれたようなものである。…同盟を求められれば交渉の席には一応着く。着くが――勿論、きちんと見極めた上で、同盟の相手は選ぶ。

「この時代は未だ混沌し同盟する価値無しと報告するわ!」
「そ、そんな…艦長の身柄は返したのに」
「――はぁ? まだそないな見当外れな事言うとるん?」

 もう、何と言うかこうなると――艦隊率いてここまで来た事自体が、ただの徒労だ!



 それから。

 日常に戻った翔馬とあやこは、旗艦にて再び仲睦まじく二人で食事中。あやこは、あーんおいしー、とばかりに嬌声を上げつつ舌鼓。…翔馬の手料理は、いつも最高である。
 そんなあやこの声に返るのは、包み込むような翔馬の微笑み。

「ねぇ、好き?」
 私の事。
「…もう電線は無いんだ」

 翔馬から返る言葉は、それ。…それはあやこも承知している事であって。友情だと。そう、釘を刺したのはあやこ自身。
 …それでもあやこの眼には悲しさが過る。勝手だとは承知でも。…でも、膝枕くらいは友情の内よね、と自分に言い聞かせて、すぐに翔馬に膝枕をする。そうされて、あやこ、と名を呼ぶ翔馬の声。翔馬、とあやこもまたその名を呼んでいる――と。
 あたしも友達にしてー、とゆるふわ女子、もとい副長の郁がそんな二人の間に飛び込んで来た。郁には共感能力がある――即ち、二人の言う「友情」が何を指しているかもわかっている。だからそう言って、郁も翔馬にぺったり甘えてみた。あやこの膝枕に、ぺったりと甘えて来る郁の二人に挟まれて翔馬は俄かに両手に花。そうよ友情なのよと言質を取るようにしてあやこもまた翔馬に甘える。おいおい、と困ったような、けれど決して嫌では無いのだろう笑みを含んだ翔馬の声。

 仲良い声が、室内に響く。

【了】