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頼まれ事の受難
●至急の仕事
ファルス・ティレイラは、お得意様である魔法使いの少女に配達を頼まれた。
「頼んだものだけど、大至急、配達してね!」
いつもはこのようなことを言う子ではないのだが、今回に限り、大急ぎで配達してと要求された。
よほど大急ぎで必要なものだとティレイラは、紫色の翼を広げると大急ぎで配達先へ。
いつもは彼女が住んでいる屋敷に届けているのだが、今回の届け先は、別の場所だった。
「ここね」
呼吸を整えてから、指定された場所へ。
「待ってたわ!」
依頼人である魔法使いの少女がティレイラを見つけるなり、抱きついて喜んだ。
「ちょ、ちょっと! どうしたの!?」
「ティレイラちゃん、お願い! 依頼、引き受けて!」
「急にそう言われても……。依頼って何?どういうことか、ちゃんと説明してくれない? そうでないと、引き受けようがないんだけど」
「あ、ごめんなさい」
●お願い事
話によると、魔法使いの少女の一族が蒐集した魔法の品々を盗むだけでなく、周囲を荒らす魔族の少女がいるのだとか。
「そんな酷いことをする子がいるの? 許せない!」
「でしょう? だから、その魔族の子を、ティレイラちゃんに退治してほしいの」
「わ、私が!?」
「私が退治したいのはやまやまなんだけど、奪われた品々を回収するので手一杯で」
一族総出で回収、奪還を行っているので、彼女もそれを手伝わざるを得ない。
「だから、あなたに頼むしかないのよ。なんでも屋さんでしょう?」
たしかにティレイラはなんでも屋だが、それは、あくまでも配達の仕事である。
断ろうとしたが、少女は配達のお得意様だ。無下に断るわけにはいかない。
「……わかった。その魔族、懲らしめてあげるわ」
「ありがとう!」
●依頼決行
魔族の少女を退治する場所は、依頼人がコレクションしている魔法の品々を飾って置いている大きい屋敷だ。
ここは、彼女とその家族が住んでいる家でもある。
「お屋敷というだけあって、随分広いわね。それに、すごいコレクションの数……」
宝石や彫刻と美術品、呪術に使うと思われる不気味な道具と、屋敷には魔法の品が至る所に飾られていた。
依頼決行時間まで、どのようにして退治しようかと作戦を練りながら屋敷を探索。
ここには何度か足を運んだことはあるが、中に入るのは、これが初めてだ。
「ふああ……」
探索と作戦を練りすぎて疲れたのか、眠くなってきた。
「駄目駄目! 眠るわけにはいかないわ。依頼を引き受けたからには、ちゃんとお仕事しないと」
話によると、魔族の少女は深夜にしか出没しないのだとか。
眠気を吹き飛ばそうと顔をパン! と叩いて気合注入。
その時、窓越しに誰かと目が合った。
「「……ん!?」」
2人同時に同じことを言ったので、声が響いたように聞こえる。
「あ、あなたね! ここのコレクションを盗んでいるのは!」
「げっ! 見つかっちまったっ!」
退治してほしいと頼まれた魔族の少女の姿は、全身が黒い鱗に覆われ、翼と尾が生えた竜人間で、闇の中で光る金色の目の瞳孔は、黒猫を思わせる。
「待ちなさい!」
窓を開け、得意の炎の魔法で生み出した火炎球を投げつける。
「へえ、炎使いか。じゃ、あたいも魔法でお返しだ!」
そう言うと、魔族の少女は掌から黒光りする魔法の球を作り出し、ティレイラめがけて放った。
「……っ!」
かろうじて避けたが、その際、冷たい空気がティレイラの顔を掠めた。
(この子、氷の魔法使いね。負けるもんですか!)
●激突!
その後も赤い炎と黒い冷気の魔法合戦が繰り広げられたが、魔族の少女は、隙をついて逃走。
「逃がさないわよ!」
翼を生やし、飛んで逃げる魔族の少女を体当たりで捕まえようとするが、寸でのところで躱され、逃げられる。
追いかけっこのような追撃は、魔族の少女により外から屋敷内に場所を変えられた。
気合を入れ直し、翼を広げ、もう一度飛びかかったその時。
「いいモンめっけ♪ これ、さっそく試してみよう」
小休止していた魔族の少女が、自分の近くにあった白金の置物を触媒にして魔法で白金に輝く巨大な布を作り出すと、それをティレイラに絡ませた。
「きゃっ!」
巨大な布は、勢い良くティレイラに飛び込むと何重にも絡みつき、翼や尻尾の先まで全身を巻きつけた。
「あはは、いいザマだね。あたい最強! えいえいおー!」
ティレイラが声を上げ、もがいている様を上から目線で見た魔族の少女は、勝鬨をあげる。
「くっ……こ、こんなもの……!」
必死に解こうとするが、足掻けば足掻くほど、布は余計に絡みつき、全身に食い込んでいく。
「痛っ!」
「暴れると余計に痛くなるだけだよ。暫く大人しくしてな」
そう忠告すると「仕上げ♪」と封印の魔法を施し、何も盗らず、即座に退散していった。
●結局は……
コレクションを守ることはできたが、魔族の少女を退治することはできなかった。
(私、あの子に怒られちゃう……)
封印の魔法が解けたのは、朝日が昇ると同時だった。
「その調子だと、魔族、退治できなかったようね」
どうなったか気になって様子を見に来た魔法使いの少女は、溜息をつきながら言った。
「ごめんなさい……」
「良いわよ。幸い、何も盗られなかったんだから。次は、ちゃんと退治してもらうけどね?」
にっこり笑っていたが、魔法使いの少女の目は怒っていた。
(やっぱり、こうなるのね……)
トホホ……と涙目になるティレイラだった。
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【3733 / ファルス・ティレイラ / 女性 / 15歳 / 配達屋さん(なんでも屋さん)】
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■ ライター通信 ■
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ファルス・ティレイラ様
お待たせしました。いつもお世話になっております。
今回は、お仕事中に起きた災難、というような内容となりました。
ご依頼のたび、ティレイラ様が可哀想な目に遭っているので大丈夫でしょうか? と心配になります。
それにもめげず、明るく振る舞っている貴女はすごい方だと思います。
手短ではありますが、これにて失礼致します。
ご発注、まことにありがとうございました。
氷邑 凍矢 拝
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