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<PCシチュエーションノベル(グループ3)>


やれば出来る子にやる気を出させる方法

 とある夕暮れ。絵美の部屋に弟2人が集まってノートやら教科書を開いて難しい顔をしていた。
「もう無理です……」
 ノートの上に突っ伏して先にギブアップしたのは若命・永夜だった。
 永輝も、頭を抱えている。
「大変なことになってるわね」
 テスト勉強を頑張っている(主に永輝に教えるという意味で)2人にお茶とお菓子を持ってきた絵美は呆れたようにそういった。
「あっ、姉さん。お茶、ありがとうございます」
 3人でつかの間の休憩。
「だいぶ苦戦しているみたいね。教えるのは苦手?」
「……すみません。姉さん、ヘルプお願いします」
「テスト嫌いっすー」
「やれば出来る子なのに……」


 テストまであと1週間。
 苦手科目の授業をほとんど睡眠に費やしている永輝にとっては地獄の時期である。だからといって、姉さんや弟の前で1人だけ、低い点を取るのは姉さんや弟の顔に泥を塗るようだし、男としても、カッコ悪い。大好きな姉さんの前で出来るだけは男として、いいカッコをしたいというのが、永輝の考えだった。
 その為には、
『授業をちゃんと聞けばいい』
 その単純な答えは十分すぎる程、わかっている。だがしかし、苦手教科は興味がないから、苦手になるわけで。
 面白くもない苦手教科の教師の授業は眠りの呪文のようで、まぶたが勝手に下がってきてしまい、眠りの誘惑に勝てなくなってしまう。授業中に寝てしまうので、もちろん、そこがわからなくなる。するとテスト前に困る。完全に、ダメな生徒のパターンである。
 一応、テスト範囲が発表されてから数日、自力で勉強し、苦手教科以外はなんとかなりそうなレベルまでできるようになったのだが、苦手教科がちんぷんかんぷん。このままでは、テストの点数が危ないと、永夜に苦手教科を教えてもらっているのだが、教えてもらうにつれて、わからないものが余計にこんがらがって、わからなくなり、頭の上にハテナしか浮かばない。質問しようとしても、何がわからないのかわからない状態に陥っているので質問のしようもない。
 どうやら、永夜に教師を頼んだのは失敗だったようだ。と永輝は後悔した。弟は頭はいいが、教えるのは苦手なようだ。
「姉ちゃーん、勉強教えて欲しいっす!」
「ごめん、永輝に教えるの手伝ってください」
 2人の泣き言に苦笑して絵美は講師を引き受けるのだった。


 永輝が覚えているかはわからないが、この漫才のような掛け合いをテストの度にやっているのだから、最初から自分に頼めばいい気もする絵美なのだが、
「大好きな人にテスト勉強を手伝ってもらうなんてかっこ悪くて出来ないっす」
 というのが、永輝の言い分である。
 最終的に頼むのだから変わらないだろうと突っ込んではいけない。
 努力した結果、仕方なく頼むのと、何もせずに、最初から頼むのでは、彼の中では何かが大きく違うらしい。
 前に一度、永夜が
「本は好きなんだから、その感覚でノートを読んだらどうですか?」
 そう提案したことがあったのだが、
「読書と勉強は別どころか、真逆位違うっすよ。ノートや教科書は本とは別の何かなんっす」
 そう断言したことがある位、勉強が嫌いな永輝であった。


「とりあえず、テストに出そうなところは、ノートにまとめてあるから読んで分からないところを訊いて」
 そう言われて渡されたのは特に苦手な数学と日本史、世界史のノートだった。
 とりあえず、日本史のノートを手に取り、真剣にめくっていく。が、数ページめくったところで、永輝はノートをそっと置いた。
「どうしたの?」
「文字が……読めないっす」
 永夜がノートを手に取り、パラパラと、眺め、半泣きの永輝の肩をポンと叩いた。
「僕も同意見なので大丈夫です」
「そう?そんなに字汚い?」
「逆っす。姉ちゃんの字、達筆すぎて読めないっすよー」
 首をかしげる絵美。自覚のないのが一番怖いと、2人はその時思った。そして、学校の教師を少しだけ哀れに思った。ノートを提出されるたびに、解読にかかる時間とその苦労を考えて肩を落としげんなりする教師の姿が目に浮かぶようだったからだ。


 絵美のノートの解読をしていると、いくら時間があっても足りない。仕方がないので、永夜のノートを見ながら、絵美が教えることになった。こういう時、同じクラスだと便利である。
 絵美の教え方がうまいのか、もともと永輝に実力があるのか、その両方なのか、1時間もすると基本的なところは理解出来たようだった。しかし、それからしばらくして永輝がそわそわ、うずうずし始めた。
「どうしたの?」
「い、いや。なんでもないっすよ」
 そういいながらも、視線は窓の外とノートを行ったり来たり。
 兄の心情を察したのか、永夜が永輝に近づきそっと、耳打ちした。
「それ、嘘じゃないっすよね?」
「はい。本当です」
 永夜がそう微笑んだ途端、永輝の目つきが変わり、凄まじい集中力を発揮し始めた。理解のスピードもさっきまでとは比較にならないくらい早い。
 それを見て、絵美と永夜はアイコンタクトして微笑んだ。


 そして、運命のテストが返却される日。緊張の面持ちで、返却を待つ永輝。
 そして、永輝の名が呼ばれ、教師の前へ
「授業態度のわりに頑張ったな」
 教師はそう言ってテスト用紙を渡す。
 永輝がドキドキしながらそれを受け取り、恐る恐る点数を見る。次の瞬間、彼の顔がぱぁと明るくなった。


 放課後、得意満面の永輝がいた。
「2人に教えてもらったおかげでいい点が取れたっすー」
 小躍りして喜ぶ永輝と、それを見て微笑む2人。
 机の上に並べられたテストの点数はどれも、平均点以上。2人には及ばないが、かなりいい点数の教科もあった。
「約束っす。姉ちゃんいきたいところとかないっすか?」
「私の行きたいところでいいの?」
「良いっすよ。姉ちゃんの行きたいところに行くっす。行くのは今度の日曜でいいっすか?」
「そうね」
「わーい。今から楽しみっすー」


 デートの前の晩、絵美の部屋に永夜が訪れていた。
「やっぱり、兄さんは出来る人でしたね」
「そうね。耳打ちが効いたんじゃない?」
「あぁ。あれは、姉さんの協力があったからです。ありがとうございました」
 あの時、永夜は
『テストで良い点を取ったら、姉さんが2人でデートしてもいいって言ってましたよ』
 と、耳打ちしたのだ。
「兄さんも、姉さん命ですからね。何はともあれ、デート楽しんできてください」
「そうね。一人で留守番させるけど、よろしくね」
「任せてください。おいしいお菓子でも作っておきますよ」
「それは楽しみね」
 そう言って、退室する弟の姿を見送って絵美も、就寝の準備を始めた。
「やっぱり、永輝は出来る子だったわ。ね、シャルル、シャロット」
 終身の準備ができると、そう弟たちからもらったぬいぐるみに微笑かけて電気を消した。


 一方、永輝の部屋。
 永輝が、明日着ていく服を考えながら、てるてる坊主を大量に作っていた。
「明日はお願いだから晴れてくれっすよ?」
 窓にてるてる坊主を飾り手を合わせてお願いする。
 せっかくのデートなのだ。晴れてくれなくてはテンションも落ちてしまうし、車椅子の姉さんは大変だ。
「さて、明日は何を着ようか悩むっす」
 服をいろいろ出しては、一人ファッションショーを始める永輝。
「姉さんはきっとあんな感じの服っすから……俺も合わせたほうがいいっすよね……うーん」
 その晩、悩める永輝の部屋の電気は遅くまでついていた。

Fin