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<PCシチュエーションノベル(ツイン)>


〜Mistery or Hysteria??〜


 場所は旗艦――対峙するのはふたりの女性だ。
 ひとりは、凛とした雰囲気を保ちつつも、既に生命を使い尽くしそうな弱々しいたたずまいの女性、碇麗華(いかり・れいか)、そしてもうひとりは、現在首脳会議の警備に向かう途上にある艦の艦長の藤田あやこ(ふじた・あやこ)である。
「若気の至りで軍隊へ歩んだ君を再び助手に迎えたい」
 碇は、細い声で、はっきりとあやこにそう言った。
 このふたりはかつて共に人類の起源と存在理由を究めた間柄だったが、あやこが軍隊へ入ってしまったので、碇がその生涯を賭け、ひとりで理論完成の一歩手前まで持ち込んだのだった。
 その集大成ともなる最後の証拠を得るため、碇は今回、あやこを発掘調査に誘ったのである。
 しかし、あやこは今任務中だった。
 碇の求めるところはすなわち、「この艦を貸せ」ということだ。
 今遂行中の任務を放り出すことは、あやこにはできない相談だった。
 あやこは断固として拒否した。
「そんなの、無理に決まってるでしょ!」
 翻意が不可能だとみるや、碇は顔を真っ赤にし、憮然とした表情で罵声を浴びせた。
「大発見による名声は得難い物だ! そう、お前は考古学者からオタクに落ちぶれた!」
 足音高く艦を降りて行く碇の背中を、あやこは何を考えているかわからない無表情で、見つめていた。
 
 
 
「薔薇星上空! 碇女史の艦が襲われています!」
 その一方を受け取った綾鷹郁(あやたか・かおる)は、すぐさま薔薇星に急行した。
 碇の艦は狐人の攻撃を受け、崩壊寸前にまで追いつめられていた。
「撃てーーーーーー!」
 郁は主砲を使って狐人たちの艦を威嚇したが、その弾が敵艦の横を通りすぎる前に敵艦が爆発した。
「え? 今の、なに? どういうこと?!」
 郁を含め、艦の面々が一斉に呆けた。
 自艦の弾は当たっていないはずだ。
 ということは、
「自爆、したの?」
 郁は不可解な顔をしたまま、あやこに碇の救出に向かう旨を伝達した。
 
 
 
「悪かったわ…私も言いすぎた…」
 狐人たちの攻撃にさらされた碇は、瀕死の重傷を負い、あやこの艦の医務室のベッドに横たわっていた。
 誰の目からも明らかだったが、彼女の怪我はもう治りそうにない。
 あやこはボロボロと涙をこぼしながら、碇の言葉に必死に首を振った。
「気弱なことは言わないでよ! 大丈夫、こんな怪我…」
 言いかけたあやこの肩に、医師の手がかかった。
「もう亡くなっておられます」
 あやこはその場にくずおれた。
 
 
 
 しばらくして艦橋に戻って来たあやこは、滂沱の涙とともにこう宣言した。
「彼女の遺志を継ぐわよ!」
「え、会議は…?」
「そんなの、無視するに決まってるでしょ!!」
 郁の問いをあっさり切り捨て、あやこは狐人に奪われた資料の断片を郁に押し付けた。
「さっさと解析して! 今すぐよ!」
「はぁーい」
 仕方なく電算室へ向かう郁の目に、資料の文字が躍る。
「なにこれ。乱数の羅列? さっぱり意味がわかんないわ」



 郁が資料の解析をしている頃、旗艦は碇の足取りを元に雄鶏星に赴いた。
 しかし、あやこたちが到着したのと同時に、地表がだんだんと茶色に変色していくのが見えた。
「植物が…全部枯れてる…?」
 その速度は誰にも止められず、あやこの目の前で、雄鶏星は死の星と化した。
 一方郁は、机に頬杖をついたまま、考え込んでいた。
「うーん、どうして狐人たちはこの資料がほしかったのかなぁ…」
 パラパラとめくると、乱数と思しき文字ばかりが目に飛び込んでくる。
 何度も何度もその行為をくり返し、ふと郁はあることに気がついた。
「あれ? これって…DNA?」
 郁は自分の予想をベースにして解析を始めた。
「やっぱりそうみたい…!」
 その資料に書かれている文字は乱数などではなかったのだ。
 DNA構造をひたすら連ねたものだったのだ。
 さらに詳しく解析を進めていくと、ある事実にたどりついた。
「要するに、全宇宙の生物にいくつかの共通の遺伝子があるんだわ。それが何だかは今はわかんない…暗号のパズルらしいわね」
 そのうちのいくつかを、碇は見つけ、この資料に記した。
 しかし、欠けたパズルを埋めなくては結論は導けない。
 旗艦はある女性教授の日記に登場していた唐黍星へと向かった。
 そこで彼女は何かを採取する予定だったようだ。
 旗艦が着くや否や、先客を発見した。
 楓国の戦艦が2隻と妖精王国の空母が停泊している。
「目的はきっと同じよね」
 あやこは目星をつけ、それらの国々と会合を持つことにした。
 結果的に、楓国は唐黍星の、要請王国は雄鶏星の遺伝子を採取済みらしい。
 碇の資料の断片と、彼らの持つ遺伝子を照らし合わせると、最後の欠片がどこにあるのか見当がついた。
「蛸星だわ!」
 郁が叫んだ。
 すべての欠片がそろったとき、何が手に入るのかは誰にも想像できない。
 だからだろう、楓人が一足先にさっさと蛸星に向かい、抜け駆けした。
「そんなことだろうと思ったのよ♪」
 郁がにっこりと笑い、あやこに鯱鉾星に向かうよう進言した。
「蛸星になんか何もないわ。最終目的地は鯱鉾星なんだもん」
 旗艦はすぐに鯱鉾星に到着した。
 だが、そこにも先客がいた。
 龍族だ。
 一歩先んじて、干上がった海に落ちている魚のミイラを回収しようとしていた。
 どうやらずっと旗艦の後をつけられていたようだ。
 狐人たちの艦も、彼らが沈めたのだろう。
「ここは主砲で対応するわ! あなたは地表に降りてDNAを回収して!」
 あやこは艦橋で郁に指示を出す。
 艦橋は一気に戦端を開き、騒乱のさなかに巻き込まれていった。
 郁は龍族、そして到着したばかりの、さっき郁に出し抜かれて怒り心頭の楓人たちに見つからないように地表に降り、サンプルを採取した。
 
 
 
 郁がすべての採取を終え、ノートPCに暗号パズルの最後のピースをはめこむと、画面に美しい女性たちが映った。
「造物主だわ!」
 彼女たちは和音のように声を発し、碇が追い求めた研究の結果を滔々と語り始めた。
 それは、将来への不安から宇宙全土に命を播種し、多様性担保の為に雄を創造し、遺伝子に戒めを刻んだ、という事実だった。
 そして最後に、たった一言、その答えを口にした。
 音声は、PCのスピーカーから、周囲の宇宙へと伝播した。
 戦いの手を止め、すべての種族がその声に聴き入った。
『すべての種よ、偕老同穴であれ!』
 それを聞いたあやこと郁は、一瞬の後に笑い出した。
 他方で、ふたり以外の種族は、がっくりとうなだれていた。
 造物主たちが残した遺物は、古代の軍事技術などではなかったのだ。
 奪い合いは不毛に終わり、彼らは肩を落としながらその場を去って行く。
 だが、あやこと郁はまだ笑っていた。
「そうよね! 世の中、そうじゃなくちゃ!」
「そっか、カレシなんて、できなくてもいいのね!」


 ――本当にそれでいいのかは、造物主(神)のみぞ知る。


〜END〜