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<東京怪談・PCゲームノベル>


メモリーズ



 その白い教会の中には、沢山の、あらゆる人の記憶が保管されている。
 何処にどのようにして保管されているのか、何故そのような物が保管されているのか、そのあたりのことは知る人しか知らないし、そこが気になり出してしまったら彼らの話が全く前に進まなくなってしまうだろうから、今は詮索しない方がいい。
 大事なのはそこに保管された記憶たちのことだ。
 持ち主にすっかり忘れさられてしまった記憶も、忘れたくても忘れられない記憶も、何気ない日常のワンシーンも、人や風景や言葉や感情も、全てそこには保管されている。嫌われている記憶もあれば、大事にされている記憶もある。
 大事なのはそんな記憶たちのこと。

 管理人は時々、そこから記憶を取り出しては鑑賞する。
 そして今日もまた管理人は、その中にある記憶の一つを、作為的に、あるいは無作為に取り出した。

 何故その記憶だったのか、であるとか、取り出してどうするのだ、であるとか、むしろ管理人って誰だ、であるとか、そう言う事は、やっぱり今は詮索しない方がいい。
 今ここで語られるべきは。
 管理人によって取り出された、ある青年のこんなある日の話。



××ある助手の証言××



 守野にとって一義・ヨウという人物は、「ちょっと変わった人」という部分にカテゴライズされている。
 なんせ職業がエクソシストだ。
 エクソシストといえば、人間や動物に取り憑いた、悪魔とか悪霊とかを祓うことが出来るという嘘みたいな能力のことである。胡散臭いことこの上ないが、守野は実際に悪魔を祓って貰った経験者でもあるから、「悪魔祓いなんて」と、ここを馬鹿にすることは出来ない。
 実際に悪魔というものは存在し、それを祓う事が出来る「祓魔師」という存在もまた実在する。
 守野は数か月前、それを身を持って体験した。

「ついてるな」
 頬杖をつくような格好で、ぼーっとそこに座る女子の顔を眺めていたヨウが、徐に、それはもう徐に、しかもめちゃくちゃ覇気のない口調で、言った。
 ありきたりな事を口走るような、対して面白くもない話をするかのような、そんな覇気のなさだった。しかも、医者が風邪を診断するかのようになめらかだ。
 斜め後ろに立つ守野には全く持って見えないけれど、彼女の後ろについている悪霊やら悪魔やらが、向かいに座るヨウの目には見えているのだろう。
「え」
「ついてる、と言っている」
 カルテに何事かを書き込む医者かのように、ヨウは対象者の情報を管理書類に書き込みながらまた覇気のない口調で答える。
「そ、それはどんな」
「そんな事聞いても無意味だよ。どうせ、剥がすんだしね」
 管理書類を「戻しておいて」と守野に渡しながら、ヨウは対象者の女性の方に向き直った。
 椅子から立ち上がり、彼女の背後に回る。

「すぐに剥がせる程度だ。通う程じゃないから心配ないよ」
 ヨウは彼女にそう囁くと、そっとその細い肩に手を置き、守野の目から見れば何もない空としか見えない場所に手をかけた。
「力を抜いて、楽にして」
 囁いたヨウの、そのどちらかといえば骨ばった指に力がこもる。
 まるでシールを剥がすかのようにゆっくりとその手が動いた。

「いっ」
 瞬間、女性の顔がゆがむ。
 きっと痛いのだ。と守野は咄嗟に理解する。
 剥がされる痛みは、守野も経験したことがあるため良く分かった。
 そしてその際、ヨウがずっと反対の手で肩を撫でてくれているそれが、どんなにか救いになるかも。

 エクソシストだ悪魔祓いだといっても、ヨウのやり方は、呪文を唱えるだの聖水を振りまくだのといったものとは少し違う。
 悪魔や悪霊を掴み、対象者から剥がすのだ。
 シンプルだけど、気を使うやり方だろうな、とも思う。剥がされている方は大なり小なり痛いわけだし、剥がす方はそれを労りつつ能力も使わないといけないわけだから、疲れる仕事だろうな、と思わずにはいられない。
 助手としてその場に立ち合う度守野は、この見た目はどう見てもやる気なさそーな低体温男の見た目とは違う繊細な仕事っぷりに感心する。

「もう少しで終わるよ」
 薄っすらと額に汗をにじませながら、それでも表情は殆ど変えずヨウが言う。
 やがてじりじりと動かしていた手を、何かを剥がし切ったかのように大きく背後に伸ばした。
 女性の目がカッと見開く。
 次の瞬間には彼女は、かくんと糸の切れた人形のようにその場に崩れ落ちた。

「ジョレイカンリョウ」
 それをさっと支えたヨウの唇が小さく蠢きそんな言葉を呟いた。


× × ×


 先程の対象者は体が軽くなったと言って帰って行き、ヨウはまた次の対象者と向き合っている。
 悪魔や悪霊がついている人間というのは、意外に居るのだ。
 ヨウは毎日毎日、人々の背後についた様々な悪を黙々と退治していく。
 その全くやる気なんてなさそうな覇気のない顔で、この底知れぬ低体温男は沢山の人々を救っていくのだ。

 守野にとって一義・ヨウという人物は、「ちょっと変わった人」という部分にカテゴライズされている。
 そんなヨウの職業は。
 医者でも政治家でも救えない人を救う「エクソシスト」だ。








END






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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 8695/ 一義・ヨウ (いちぎ・よう) / 男性 / 26歳 / 職業 祓魔師(エクソシスト)】