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ExtraSTORY ■ かめれおん武彦
《あぁ、俺だ》
仕事の最中にかかって来た、このオレオレ詐欺みたいな電話をしてきた相手。
実は彼はIO2の最高のエージェント、〈ディテクター〉の名を欲しいままにしている男。
草間武彦だ。
今はフリーの私立探偵という立場にいるけれど。
私にわざわざ電話してくるなんて、何かあった?
《聞いてくれ。実はな、冥月のヤツ、困った位に凄いんだ……》
…………。
《おい、違うッ! ちょ、ちょっと話を聞け、切ろうとするなッ!》
いきなり夜の相性について異性の私に相談しようなんて、どうかと思う。
武ちゃんがいきなりそんなセクハラに走るなんて、思いもしなかったよ。
《だから違うっての……。俺達は別にまだそんな関係じゃ……》
はいはーい、ごちそーさまー!
私忙しいんですけどー! って言うかこれでも偉い立場なんですけどー!
そんなのろけ話聞かされるぐらいなら、削りに削ってる睡眠時間に回したいんですけどーー!
《……だから、能力の話なんだよ。ほら、冥月のヤツ、能力がなくたって自分のテリトリー内に入ったら気配でそれを察知するし、能力さえ使ってればそれこそ数百メートル範囲で把握出来るだろ?》
ん、なんだ。
思ったより真面目な話だね。
確かに冥月ちゃんの能力は探知系にも向いてるし、それは当然だと思う。
そもそも彼女は普通じゃない。
生きてきた道が違うし、育ってきた環境が普通じゃないんだから、それは素人とは比べ物になるはずがない。
そういう点では、武ちゃんもあまり人の事言える範疇に入ってないと思うけど、私は優しいから敢えて口にはしない。
黙っててあげるのも私なりの優しさ。
《……そうだよな、確かにちょっと育ちが違うのは納得だ。ホント、どんな育ち方してああなっちまったんだか……》
……それは一人でお酒でも飲みながら独り言ちると良いと思うよ、武ちゃん。
電話されてるこっちの身にもなって欲しいなぁ。
それで、結局どうしたって言うのさ。
生い立ちを誰かと語り合いたいのかな?
《そうじゃねぇんだよ。
良いか? 俺だってそりゃ腕に自信はある。知ってるって言うなよ、まぁ聞けって。
そんな俺でさえ、冥月に気取られない様に近付くってのがどうしても出来ないんだよ。
そこで、お前の番って訳だ。あの『猫耳セット』を作ったお前なら、あると思ったんだ。
ん、何がって。姿と気配を100%消す道具だ》
……武ちゃん武ちゃん。
私、別に未来からやってきた耳をかじられてる残念系青ネコ型ロボットじゃないんだけど。
一体何を勘違いしてくれちゃってるのかな、まったくもう。
それで、何する気?
べ、別に楽しくなってきたとか思ってないんだけどね?
《……何するって、そりゃお前。後ろからこっそりと近付いてだな……》
…………ん、痴漢ごっこ?
《そんなマニアックなトコに飛び火しねぇよ! ただその、「だーれだ」的な……って、おい待て! 切るな! お前にしか! お前にしか頼めないんだよ!》
……確か、恋愛経験が浅い人って初めて出来た相手に加減とか出来なくなっちゃうって言うのは聞いた事あるんだけど。
分かった、分かったよう。そういうことなら力になってあげるから、ちょっと電話切るからね?
……はぁ。それにしても武ちゃん、そんな手遅れになってたなんて。
そういう事なら私が人肌脱いであげようじゃないか!
楽しくなんてない! また録画しようとか思ってなんてないけどね!
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
気分はスパイ映画の主人公だ。
やってる内容が内容ではあるが……。
あのマッドサイエンティストとも言えるIO2の頭脳であるチビ娘から送られてきた、その名も『かめれおんスーツ』。
光学迷彩を超える相変わらずのオーバーテクノロジーなアイテム。
もともと対能力者を視野に入れて開発していたと言われる、全身を覆うボディースーツ。効果時間は三十分程度だ。
――俺はミッションを遂行しようと動き出していた。
作戦はこうだ。
その僅かな時間で、俺はこれからあの鉄壁の防御を誇った冥月に接近し、恋人同士のマストアクション、「だーれだ」を遂行するつもりである。
わざわざ冥月の部屋へ来る為だけにアイツの研究室からスイッチを入れてきたせいで、残り時間は僅か15分程度。あまり時間はない。
確か冥月はシャワーを浴びてゆっくりしていると言っていたはずだ。
鍵は一応俺も渡されている。
今なら部屋に忍び込むチャンスだろう。
さぁ、行動開始だ――――。
◆
部屋に入り、やたらと鼓動の早い心臓の鼓動が息を乱す。
ちょうどシャワーから出てきた冥月がシャワールームから出て――――
「……ッ!?」
「む……?」
――あぶねーー! あぶねぇぇ!!
シャワーから出てきてタオル一枚で姿を現した冥月の姿に動揺した俺が息を呑んだ瞬間、俺の方に冥月が振り返った。
僅かな動揺にも気付くってのか……!
しかし、しかしどうする、この状況……。
俺が期待している以上に嬉しい――もとい、「だーれだ」なんてやろうものなら、俺は必然的にこのタオル一枚の姿をしっかり見ていた事に気付かれる事になるんじゃ……!
で、出るに出られねぇ……ッ!
いや、大丈夫だ。
俺と冥月の間にはすでにしっかりとした想いがある。
正直に話さえすれば、おかしな話にはならないだろう。
クールになれ、俺。
何もやましい姿を見ている訳じゃない。
これは不幸な事故だ。
ゆっくりと冥月に背後から忍び寄る――――。
大丈夫だ、まだ気付いていない。
まだ――――あ。
「……武彦、まだ戻って来ないのか……」
ベッドに座った冥月が小さな声で呟いた。
私めならここにいらっしゃいますが!
いかん、これ以上時間がかかってしまったら、スーツの時間が切れる。
背後に回り込もうにも、ベッドに乗ったら軋んでバレる。
どうする、落ち着け。
こうなったら正面から……――――
――――あれ、冥月がこんなに気を抜いてるのに俺が「だーれだ」なんてやったら、反射的に殺されんじゃね……?
…………やばい……ッ!
『残り時間、3分を切りました』
……なん……だ、と……ッ!?
いや、落ち着こう。落ち着こうじゃないか、草間武彦。
俺は誰だ?
これまで数多くの修羅場をくぐって来た男、草間武彦だ。
何を今更恐れる必要がある。
幸い、タオルが巻かれているんだ。何も裸って訳じゃない。
今ならまだ何とかなるさ。
正確に言えば、もう逃げる時間もないんだよ……ッ!
最悪の展開は、このまま尻込みして見つかるパターンだ。
俺はこのまま敢行してネタばらしした方が安全と見た!
探偵としての俺の勘が唸る……ッ!
そうと決まれば、ゆっくりと冥月に近付き、このままそっと手を伸ばして――――
「さて、服を着るか……ん?」
その時、真正面に立ってゆっくりと伸ばしていた俺の手が、立ち上がった冥月のどこか柔らかな場所に触れた……。
「…………姿を現せ。殺す」
――――俺の甘い計画は、失敗に終わったのであった。
◆ ◆ ◆
私はまたもその様子をしっかりと録画し、そしてその映像をリアルタイムで見つめていた。
「プフーッ! 武ちゃんタイミング悪すっ! おなか、おなかいたーーーい!」
盛大に笑わせてもらったよ、武ちゃん。
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ご依頼ありがとう御座います、白神です。
さて……。
悪乗りとかしちゃうから私もそうなっちゃいまして(
というか、そもそも冥月さんなら殺しにかかりそうですよね、
「だーれ……ガハッ……」みたいな……w
自分の能力を超えてきた=手練の敵=反撃
危うく武彦もこのパターンになる可能性が……w
ともあれ、お楽しみ頂ければ幸いです。
それでは、今後ともよろしくお願いいたします。
白神 怜司
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