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<東京怪談・PCゲームノベル>


限界勝負inドリーム



 ああ、これは夢だ。
 唐突に理解する。
 ぼやけた景色にハッキリしない感覚。
 それを理解したと同時に、夢だということがわかった。
 にも拘らず目は覚めず、更に奇妙なことに景色にかかっていたモヤが晴れ、そして感覚もハッキリしてくる。
 景色は見る見る姿を変え、楕円形のアリーナになった。
 目の前には人影。
 見たことがあるような、初めて会ったような。
 その人影は口を開かずに喋る。
『構えろ。さもなくば、殺す』
 頭の中に直接響くような声。
 何が何だか判らないが、言葉から受ける恐ろしさだけは頭にこびりついた。
 そして、人影がゆらりと動く。確かな殺意を持って。
 このまま呆けていては死ぬ。
 直感的に理解し、あの人影を迎え撃つことを決めた。


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 セレシュの目の前に広がるのは、朽ちゆく神殿の遺跡。
 石造りの部屋の中に、瓦礫のように岩が転がり、見据える先には部屋の入り口が開いている。
 そこに立っていたのは小柄な人間が一人。
「まさか、人間一人でやってくるとは」
 染み付いた関西弁が抜けていた。しかも無意識である。
 今回の舞台は、そういう夢と言う事か。
「傲慢だな、人間。一人きりで私に勝てるとでも思ったのか?」
 セレシュは金の剣を抜き放ち、切っ先を侵入者に向けて問うが、相手は答えない。
 出で立ちを見ると、暗い色をした動きやすそうな服装、そして手に持っているのは短めの剣。
 アイテムパックらしき物も幾つか携行している。
 多少軽装ではあるが、遺跡に探索しに来る冒険者としてはありがちな雰囲気だ。
 しかし、その立ち振る舞いに少し違和感を覚える。
「すこし、試してみるか」
 そう言って、セレシュは侵入者を睨みつける。
 魔眼の発動である。
 セレシュの魔眼は見たものを石化させるもの。決まれば大概、そこで決着となる。
 それを知っているのだろう、空かさず、侵入者は物陰に身を隠した。
「ほぅ……」
 その身のこなしにため息が出る。
 埃の溜まったこの部屋で、ほとんど塵を巻き上げずに移動し、その間にほぼ音も立てない。
 驚くほど綺麗な回避行動であった。
「こちらの切り札は筒抜け、その上、そこそこの手練と言う事か」
 一人でここにやってきたのにも、それなりに自信があってのことなのだろう。
 しかし、だからと言ってこちらも易々とここを通すわけにはいかない。
 物陰に隠れながら移動を続けているらしい侵入者を目で追いかけながら、セレシュも移動を始める。

 どれだけスニーキングが得意な者でも、全く気配や音を断ち切ることは出来ない。
 セレシュは長年ここで培った経験と感で、相手の位置を把握する。
 この部屋の中の岩などはちょっとやそっとでは動かない。
 だとすれば大体の隠れられそうな場所は把握できる。
 そこに侵入者の位置に大体のアタリをつけ、気配を探れば相手を見つけることは可能だ。
 だが、そこまでしなければ相手を見つけられない。
 それほどに今回の侵入者は潜伏が上手いと言えるだろう。
「ということは、狙いは不意打ちによる一撃か」
 侵入者が移動している経路も、こちらの背後や死角を取ろうとしているのがわかる。
 だが、それがわかれば対応もしやすい。
 相手が接近しづらいように、潜伏状態を継続しづらいように、こちらも体勢や位置を変えてやればいいだけのこと。
 こちらに地の利がある以上、相手の好きなようには進行させない。
「……だが、これは……?」
 何かおかしい。
 セレシュの頭の中に浮かんでいる部屋内の地図。
 それを無視するかのように、侵入者は移動しているのだ。
 最初に確認したあの体格。
 あの身長ではどう頑張っても通り抜けられないような隙間を潜って、更にこちらへと接近しているようである。
 そういう能力の使い手か、それとも音も立てずに障害物を破壊しているのか、どちらにしろ、警戒するべきだ。
「……来るか」
 そして、その時が来る。
 侵入者が物陰から飛び出し、セレシュへと切りかかってきた。
――と、思ったのだが。
 正面から飛び出してきたのは人形。魔法のかかった自立型のモノである。
 自由に変形する粘土の影武者。道理で通行が困難な場所も難なく通ると思った。
「しまった……ッ!!」
 セレシュにとってはこれが不意打ちである。
 いつの間にか、侵入者と人形が入れ替わっていた。
 ならば、本体は――
「御首、頂戴――」
「甘いッ!」
 気付かぬうちに、セレシュの裏側に回っていた侵入者。
 恐らく、侵入者はセレシュが人形に手間取られると思ったのだろう。
 人形とは言え、武装した自立人形。当然、セレシュには攻撃するように命令してある。
 しかし、セレシュは人形に構わずに振り返ったのだ。
 それには侵入者も驚いただろう。
 二人の剣は火花を飛ばせ、甲高い音を立てて弾きあう。
 侵入者は止めを刺しそこなった途端に飛び跳ねるようにして物陰へと隠れた。
 セレシュの後ろで人形は石になって崩れ去っていた。
「……おかしい」
 侵入者が隠れていった場所を睨みながら、セレシュは呟く。
 今現在、魔眼は発動している。
 故に一瞥でもくれてやった人形は、石になって崩れた。
 だが、ならば何故、あの侵入者――声から察するに少女か。
 あの娘は石にならなかったのだろう?

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 今度は間違えないように、侵入者の気配を探りつつ、セレシュは思考をめぐらせる。
 確かに石化の魔眼はメジャーな能力である。
 それに対応する魔術も多くある。
 だとすれば、少女が石化しなかった理由として考えられるのは対抗魔術がかけられているか、他に見当たらないが仲間がいるか。
 後者は考えにくい。
 この部屋の近くには侵入者を察知する魔法は幾つもかけられてある。
 それに引っかからずに侵入してくるのは難しいはずだ。
 だとすれば前者。
 こちらの魔眼の能力も事前に知っていたようだし、対応策を打ってくるのは自然といえる。
 この場合、こちらが取れる方策と言えば相手の対抗魔術の効果が切れるのを待つか、もしくは魔眼に頼らずに戦うか。
 セレシュとしては、出来れば距離を取って魔眼を使いたいところだ。
「だが、そうも言っていられないか」
 相手がどうやって魔眼の力をキャンセルしているのかもわからない現状、後手に回り続けていればジリ貧である。
 こちらから攻める事も考えなければ。

 一方、侵入者側も面を食らっていた。
 セレシュの魔眼があれほど強力だとは思っていなかったのだ。
 人形にも一応、魔眼に対抗する策は打っておいた。
 だが、それを軽がる凌駕して、魔眼の呪いは発動してしまった。
 つまり、セレシュの魔眼は少女が想定していたよりも強い。
「……大丈夫、だろうか」
 侵入者の少女は胸元を押さえ、心配そうに呟く。
 たとえダメだったとしても、退く事は出来ない。
 長く深く息をつき、剣を握る手に力を込める。
 だが、ふと気付く。
 頭上に見慣れない物体が漂っていた。
 瞬間、背筋に寒気が走る。
 それとほぼ同時、浮いていた物体は弾けると共に内部から魔術の光球を拡散させた。
 床に触れた光球は途端に轟音を上げて爆ぜる。
 アレに触れれば少女の軽装では防御しきれないだろう。
「クッ、聞いてないぞ! あの女は魔眼にさえ気をつければいいはずじゃ……」
 文句を言っても光球が止むわけではなく、宙に浮く物体はその数を増やしつつある。
 少女はそれらを回避しながら、移動を始めた。

「さて、いつまで逃げ続けられるかな」
 宙に浮いていたアレは、当然セレシュの差し金。
 索敵と攻撃に便利な魔道具である。
 持ち運ぶ時は小さく収まり、使用時には風船のように膨らんで宙を浮く。
 複数携行するのも可能な、便利な魔道具である。
 しかし、回避能力は戦闘が始まってすぐに見せ付けられた。
 恐らく、そうそう光球が当たる事はないだろう。
 とすれば、次の策も打っておかなければならない。
「あとはヤツがどうやって魔眼を防いでいるかを見極めねばな」

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「そろそろ警戒魔道具もなくなってきたな」
 複数携行が可能とは言え、消耗品には違いない。
 宙を浮く魔道具が少なくなってきたのを見ると、侵入者の方にも動きが窺えた。
 あの魔具との追いかけっこでスタミナを相当削られたか、尻に火がついたのだろう。
「粗い攻めだ。追い詰められたと見える」
 侵入者が障害物から姿を現す。
「今度こそ――」
 意気込む少女の姿をセレシュが見ても、やはり石化が発動しない。
 侵入者は物陰から飛び出した瞬間に、短刀を二本、こちらへ向けて投擲してきた。
 それと同時に、高く跳躍。
 短刀は布石、本命は侵入者本人による攻撃だろう。
 セレシュは落ち着いて短刀二本を打ち落とし、すぐに上を見上げる。
 上空からはもう一本、短刀が飛んで来ていた。
「小賢しいっ!」
 手に持った剣で難なく打ち落とす。
 カツン、と音を立てて石の床に短刀が突き立った。
「かかったなッ!」
 だが、その時、侵入者の声も聞こえた。
 侵入者が狙ったのは投擲による目くらましではなく、その打ち落とされた短刀の位置。
 最初に放たれた短刀二本は、セレシュの後方の床に突き立ち、もう一本はセレシュの前に落ちている。
 短刀三本はセレシュを納めた三角形を作り出していた。
 そして、気付くと短刀の柄には札がそれぞれ括りつけられている。
 それらは魔封の札。三角形を作り上げた事により、魔封の結界を作り上げる。……はずだった。
「小賢しいと言った!」
 しかし、柄に括り付けられた札は、それぞれ石化を始めている。
 それによって発動するはずだった結界が発動せず、セレシュの行動には全く制限もない。
 だが、侵入者の方も既に引き返せない。
 飛込みから剣を上段に構えて振り下ろそうと構えている。
 それに対し、セレシュは足元に落ちた短刀を蹴り上げ、それを手にとって侵入者へと投げつける。
 真っ直ぐに飛んでいった短刀を、侵入者は器用にも空中で身をよじって回避した。
「見えたぞッ!」
 しかし、その回避は不完全であった。
 首筋を狙って投げられた短刀は、侵入者の胸元を掠めたのだ。
 鋭く研がれた刀身は、触れただけで侵入者の衣服を切り裂いた。
 それによって、胸元に隠されていた宝石が晒される。
 宝石は侵入者の肉体に直接埋め込まれているようであった。
 恐らく、それが石化の呪いを無効化する魔法のかけられた装飾品だろう。
「位置が見破られたからとて、どうする事もできまいッ!」
 セレシュに降って来た侵入者は、その手に持っていた剣を振り下ろす。
 脳天に振り下ろされた一撃は、しかし結界によって阻まれる。
「結界などッ!」
 セレシュの張った結界は次の瞬間にガラスのように貫かれる。
 侵入者は恐らく、結界破りの道具も持ち込んでいるのだろう。
 しかし、攻撃の勢いは殺した。
 既に死んだ刃を無理にもう一度振ろうと馳せず、侵入者は一度着地、腕を畳んで剣の切っ先をセレシュへ向ける。
 屈んだ体勢から、下方からの突き。狙いは頭部、いや、首だろうか。
 セレシュはその切っ先を、手に持っていた剣で払う。
 侵入者の剣は手を離れ、遠くでカランと音を立てて地面を滑る。
 それでも侵入者の殺気は薄れない。
「剣を失ってもまだ衰えぬか。見上げた闘志だ」
「……クッ!」
 侵入者は更に踏み込み、後ろ溜めに溜めた左拳を突き出す。
 苦し紛れの一撃、かと思いきや。
 侵入者の左腕にはガントレットがあり、よく見ると隠し刃が収められている。
「これで……ッ!」
 侵入者としては奥の手なのだろう。
 頼み事をするかのように声が漏れ、暗器がセレシュの顔目掛けて突き出された。
 セレシュからしてみれば、防御は難しい。
 完全に間合いの内側に入られたが故に、剣を防御に使う事も出来ず、咄嗟に腕でかばうこともできない。
 侵入者の脳裏に勝利が掠めただろうか。

――だが、そこで彼女の意識は途切れる。

「惜しかったな」
 セレシュは剣を収めながら、ため息のように呟く。
 彼女の目の前には、石となった侵入者が。
「貴様の敗因はその宝石を私に見せた事だ」
 侵入者の胸に埋め込まれていたのは、やはり石化防止の装飾品。
 セレシュは魔具の鑑定により、装飾品にかけられた術式まで看破し、更に術式自体を無効化したのだ。
 侵入者としては、まさか自分が石化されるとは思っても見なかったのだろう。
 脳裏にちらついた勝利を表情ににじませ、口元が少し上がっている。
 左腕を突き出したポーズで制止し、勢い余って地面に転がっていた。
「さて、侵入者には相応のペナルティを与えよう」
 そう言って、セレシュは新しく出来た石像に魔術を掛け、文字を刻む。
 刻まれた『emeth』の文字は石像に力を与え、少女の石像はグラグラと音を立てて立ち上がった。
「新たなゴーレムよ、この場所の守護、任せるぞ」
 言葉もなく頷いた石像は、弾かれた剣を拾い、その場に佇むように立ち止まり、入り口を睨みつけた。
 それから彼女はどれぐらいの時間、この状態を続けるのか、セレシュには知る由もない。
 そして、それほど興味もなかった。

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 自宅のベッドで目覚めたセレシュは、ちっぽけな自分の城を眺める。
 今はこの場所の守護者らしき事をやっているが、ふと疑問に思うこともあるのだ。
「ウチの存在理由ってなんなんやろな……」
 朝のアンニュイに任せてそんな事を呟いてみたが、その気分のまま二度寝を決め込む事もできず、モソモソと朝の準備を始めるのだった。


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【8538 / セレシュ・ウィーラー (セレシュ・ウィーラー) / 女性 / 21歳 / 鍼灸マッサージ師】


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■         ライター通信          ■
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 セレシュ・ウィーラー様、ご依頼ありがとうございます! 『デラッベ、デラッベ』ピコかめです。
 最近見たアニメの影響で、侵入者のビジュアルがどうしても長いポニーテールの小柄なニンジャになっております。

 今回は快勝でしたね。
 基本的に格下相手になってしまったので、こう言う結果でした。
 まぁ、石化防止の魔具の力にあぐらをかいていたので、当然ですかね。
 では、また気が向きましたらどうぞ〜。