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<PCシチュエーションノベル(グループ3)>


風の噂

 いつもの場所でいつものお昼ご飯。ただ一つだけ違うのは、いつも一緒にいるはずの二人にとっては最愛といってもおかしくない位、大切な姉がいないことだった。
「わかってはいるっすけど姉ちゃんいない昼飯はどこか味気ないっすね」
「授業の前準備なんだから仕方ないでしょう。それに、味気ないなんていつも作ってくれる姉さんに失礼ですよ」
「そんなつもりじゃないっすよ。ただ姉ちゃんがいたほうが美味い気がするってだけっす」
「まあ、それは同感ですね」
 男二人でそんなことを言いながら食べていると、木の葉が一枚、二人の前に風に乗ってひらりと舞い落ちてきた。
「「木の葉?」」
 紅葉の時期はとっくに過ぎている。首をかしげる二人。
 木の葉に遅れること数秒。今度は聞きなれた声が落ちてきた。
「あー! 三日ぶりやねぇ」
 木の上を見上げると、樹の枝に青い髪の少女が逆さまにぶら下がって手をひらひら振っている。


 彼女の名は井宮美魅々。彼女に掴めない情報はないというくらい、彼女の情報網は凄い。三人で最も情報に敏い永夜でも掴めない情報をさらりと、そうまるで風のように仕入れてしまう。
「俺は久しぶりっすね。永夜はこの間、会ったって言ってたっすけど」
「そうやったね。元気そうでなによりーなによりー」
「そういえば、今日はどうかしたんすか?あと、女の子が樹にぶら下がったりしたらダメっすよ?」
「なんでー」
「……スカートの中に短パンを履いててもやっぱり問題あると思うっす」
 照れたような、バツの悪そうな表情で視線をそらし指摘する永輝。頬が少し赤く見えるのは、永輝もやはり若い男の子ということか。
 それに対し今気がついたと言わんばかりのびっくりした表情をする美魅々。
「そっかー気をつけるわー」
 まるで、忘れ物を友人に指摘されたかのような軽いノリで返す美魅々。
 絶対わかってないし、今後も気を付けないだろうと永輝は思いつつも釘を刺す。
「もう少し自覚したほうがいいっすよ?女の子なんすから」
「せやねー。あー。自覚したほうがいい、で思い出したけどそういえば、この間二人で出かけた時やったけー、街でスカウトされとったなぁ。あの話なんで断ったん?あの雑誌の専属モデルって言えばかなり……」
「興味ありませんから」
「興味ないっす」
「それこそイケメンの自覚あるんかー?持ったいないなぁ」
 美魅々は肩をすくめ、
「それなら美魅々が撮って代わりに応募しといたるわぁ。ちゃんと将来のことを考えたら、そういう道もあると思うでぇ」
 そう言いながら、古い一眼レフで、二人をパシャパシャ撮っていく。その言動にすっと、永夜が目を細めた。
「その話がだいぶ広がっていますが、美魅々さんのせいでしたか。相変わらずの狐ですね。安心しました。でも、応はしないでくださいね。そのカメラ、今壊してもいいんですよ?」
「いやー♪ 褒めても何もでないでぇ。あと壊すのも勘弁してほしいわー。これ形見ですっごく大事にしてるんよー。あ、そういえばアレ……役に立ったみたいやねぇ」
 ひひっと歯を見せ笑う美魅々。
「まあ、感謝してるっすよ」
「本当にありがとうございました」
「夜くん取れない情報は美魅々の情報網にひっかるんよぉ」
「本当に狐ですね。でもその嘘を僕が見破れないとでも思ったんですか?僕が取れる情報も、僕らの動きも、何もかも全部掴んでいるんでしょう?出なければあんな絶妙なタイミングで売ったりできませんからね、これ」
 懐から写真を出して永夜がそう言う
「本当、今日は褒められてんなぁ。でも何も出ないのは変わらんでぇ」


 いじめが始まって数日経ったある日、永夜は独自の情報網で犯人を突き止めようとしていた。
 しかし。高等部だけでも、女生徒は山ほどいる。同学年であることまでは絞り込んだものの、それでも単純に考えても学年の半分近くは女生徒。中等部や、小等部から上がってきた女生徒なら、姉さんにラブレターを渡してくれなんて言わないだろう。しかし、高等部から入った(命知らずの)女生徒も多い。
 姉さんがいじめであると自覚していなかったから、気づくのが遅くなってしまったと後悔の念が永夜を焦らせる。
 早くしないと、いじめがエスカレートして姉さんに何かあったら……そう考えるだけで背筋が凍った。しかし、これ以上のことが自分にできるとも思えなかった。
「手詰まりか」
 自室のパソコンの前で、考え込む永夜。そこへ、コンコンと窓をノックする音がした。眉をひそめ、何者だろうと警戒しながら窓を開ける。すると闇に溶けるような下で結んだ青髪のツインテールと、対のように存在を主張するような白いリボンを風になびかせた、美魅々がそこにいた。
「美魅々さんですか。こんな遅くに何か用ですか?」
「せやねー。そろそろ手づまる頃かと思って、来てみたんよー。今、これ欲しいんと違うー?」
 そう言って見せられたのは数枚の写真。
 どれも、いじめの決定的証拠になるような写真ばかりだった。
「どこで嗅ぎつけたんですか?」
「風が情報を教えてくれるんよぉ。」
「……情報源はわかりませんが、今回は色々言っていられませんからね。報酬はいつもどおりでいいですか?」
「ええよ。じゃあーまた受け取りに来るから用意しとってぇ」
「わかりました」
 そう永夜が言って写真を受け取ると、先ほどより強い風が吹いた。永夜が一瞬目を閉じると、まるでさっきのが夢であったかのように風と共に美魅々の姿は消えていた。さっき受け取った数枚の証拠写真だけが、美魅々がそこにいたことを証明していた。


 その後、すぐに永夜と永輝は動いた。
 その証拠写真から犯人を突き止め、呼び出し、鉄槌を下した。
 彼らの愛おしい姉に対し酷い仕打ちをした相手に罰を与えたのだ。
 それはまた別のお話になるので、割愛するが、それが相当効いたのか、犯人の女の子達とその取り巻きは三人に近づかなくなった。姉は友人が減ったと少ししょんぼりしていたが、
「いじめをする人間なんてロクな人間じゃないですよ。付き合ってもいいことはありません」
「そうっすよ。姉ちゃんにはもっといい友達ができるっす。俺たちも力になれることがあったらなんでもするっすよ」
 そう二人で慰めると、少し元気になったようだった。


「では、これが報酬です」
 そう言って永夜が小さな紙袋を渡す。中身を確認し美魅々が慢面の笑みを浮かべた。
「何がはいってるんすか?」
 不思議そうに尋ねる永輝。
 しかし、紙袋の中身に夢中なのか美魅々は答えない。
 ため息をついて永夜が代わりに答えた。
「手作りのお菓子ですよ。美魅々さんはどうも僕のお菓子のファンらしくて」
「だって美味しいんやもーん」
「あぁ、そうなんすね。でも美魅々の気持ちはわかるっす。永夜のお菓子美味しいっすよね」
「だよねー」
 永輝と美魅々が意気投合したところで、予鈴が鳴り始めた。
「二人ともそろそろ行かないと次の授業に遅刻しますよ」
「ちょっ、ちょっと待つっすよ」
 いつの間にか、お弁当を片付け終わった永夜が立ち上がり美魅々に一礼してから歩き出したのを見て、慌ててお弁当を片付け追いかける永輝。
 その後ろ姿が見えなくなってから、一人残された美魅々は心配そうに呟く。
「あの二人、御姫ちゃんを失ったらどうなるんやろうなぁ」
 しかしその口元は少しだけにやりとどこか楽しげだった。
「さて、授業いかんとなぁ」
 そう美魅々が言うと、まるでそのセリフを待っていたかの様に強い風が吹いた。その風が収まるとそこには誰もいなくなった。
 そこにあるのはひらりと舞い降りた一枚の木の葉だけ。




Fin