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<PCシチュエーションノベル(ツイン)>


MOON PARTY

「眠れんなぁ」
 月明かりが全てを映し出してしまいそうな綺麗な満月の夜、美魅々は困った表情で自分の家の屋根に座り込んでいた。吐く息も白く、体温は奪われて、肌が白くなっていたが、部屋に入りたいとは思わなかった。まあ、だからといって屋根に座っていても何かあるわけではないのだが。なんとなく、そう、なんとなく冬しか味わえない寒さを感じたかったのかもしれない。深い息を吐き、立ち上がろうとしたその時、彼女を心配するかのように柔らかい風が、ふわりと吹いた。
 そして、風が通り抜けた後、美魅々は、にししと笑って、何処かへ姿を消したまるで風が何かを彼女に囁いたのか、さっきとは打って変わってその表情は楽しそうだった。


 時を同じくして、絵美も月明かりのせいか眠れずにいた。窓を開け、外の空気を浴びながら、ぼんやりと空に浮かぶ月を眺めていると、視界が黒い影に覆われた。
 美魅々がベランダの上から逆さまに絵美の顔を覗き込んだのだ。
「御姫ちゃん、お久しぶりなんねぇ」
「久しぶりね。美魅々」
 気の抜けたへにゃりとした笑顔で言う美魅々に、絵美は驚いた様子もなく静かに微笑んだ。
「美魅々もねむれないの?もしよかったら紅茶でもどう?」
「おっ、ええなぁ」
「じゃあどうぞ」
 美魅々を部屋に招き入れ窓を閉めるがカーテンは締めずにそのままし、電気も付けない。
「カーテン閉めんのぅ」
「ええ。暗い?」
しかし、月明かりで暗さはあまり感じなかった。
「いや、大丈夫ぅ」
「そう。紅茶入れてくるから、テーブルを窓際に持ってきておいてくれる?」
「月夜のお茶会かぁ。相変わらずシャレてんなぁ」
「せっかくなら、月明かりを堪能したいじゃない?」
そう言って絵美は部屋を出ていった。


「寒かったでしょう?ミルクティーどうぞ」
「おっ、ありがとうぉな」
 少しして、すっとテーブルに焼き菓子と可愛らしい柄のマグカップが美魅々の前に置かれた。
「砂糖もあるから使って」
 シュガーポットをテーブルの真ん中に、絵美はティーカップに口をつける。
「御姫ちゃんはマグカップじゃないんかぁ」
「ええ。ミルクティーはマグカップの方が、ストレートティーはティーカップの方が美味しく見えるから」
「ってことは、御姫ちゃんの飲んどるのはストレートなんやねぇ」
「ええ」
 美魅々はミルクティーに砂糖を入れ、焼き菓子にも手を伸ばす。
 一口食べると幸せそうな表情を浮かべ、
「これは弟くんの手作りやねぇ。やっぱり美味いわぁ。ミルクティーとの相性もばっちりやねぇ」
「そう。気に入ってもらえてよかった。弟には明日の朝にでも伝えておく」
「そういえばこの間弟くん達と会った時なんやけどぉ御姫ちゃん愛されてんなぁ……って、どうしたん?」
 ぞくっと背筋が寒くなるような感覚を覚え、言葉を止め、尋ねる。
「いいえ。どうして?」
「いや、寒かったせいかなぁ。背筋がぞくっとな。で、そうそう、二人して御姫ちゃんの事しかはなさないんやもんなぁ」
「そう?でも、美魅々にはそういうこと話すんだ」
 再び何かぞわっとするものを感じ、首をかしげる美魅々。
「大丈夫?風邪なら休んだほうがいいんじゃない?」
「あっ、いや。美魅々の勘違いぽいわぁ。気のせいならええんよぉ」
 美魅々は、首を横に振ってにへらと微笑み、時折ミルクティーを飲みつつマシンガントークでしゃべりまくる。
 それを、相槌を打ちながら、ニコニコしつ聞いている絵美。
「……ってことやったんよぉ」
「そう。それは大変だったね。紅茶のおかわりはいる?」
「ええわ。そろそろ帰らんと太陽の方が先に起きてしまうから、帰るわぁ」
「そう、気をつけてね」
「ありがとうなぁ。じゃあまたぁ。あっ、紅茶とお菓子美味しかったぁ。また食べに来てもええ?」
「構わないわ。でもできれば事前に連絡を頂戴?お菓子も毎日あるわけじゃないから」
「せやなぁ。今日は急に来てごめんなぁ」
「気にしてないわ。お休みなさい」
「御姫ちゃんもちゃんと寝るんやでぇ」
そう言って美魅々は月夜の闇に消えていった。


「あの二人の話、まずかったんかなぁ」
 一人になった美魅々は、そう呟いていた。最初に弟くん二人の話を出した時の絵美から感じたのは、殺気にも似た明らかな負の感情だった。
 美魅々の覚えている限り、絵美からそんなものを感じたのは初めてだった。それで話を止めたのだが、自覚がないのか、それが出ていることすら分かっていないのか、本人は気がついていなかったようだ。
「あれが演技なら相当の狐やけど……」
 その時、風がまた囁いた。苦笑しつつそれを聞き、美魅々は呟いた。
「そうやろうなぁ。無意識かぁ。御姫ちゃんも違う方向に怖くなってんねぇ。あの二人も怖いけどなぁ」
 夜の風がその呟きをかき消すように強く吹いた。もうすぐ日の出なのか、空がしらんで来ている。
「今日は授業中に睡眠やな」
 空を見て寝ることを諦めた美魅々はそのまま、風とともに何処かへと去っていった。



Fin