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仕返しは注意深く
並べられた色とりどりのカラトリー。
乗せられるお菓子を心待ちにしているプレート。
窓際の涼しい場所に飾られた可愛らしい女の子の姿のお菓子。
チョコレートアイス、板チョコ、砂糖菓子。
とけてしまう前にアイスを食べようかしら。それとも砂糖菓子? 板チョコを大きく割って食べるのもいいわね。
ぺろりと舌が唇を小さくなめる。
どれもこれもおいしそう。今日のパーティーにピッタリ。
お菓子と同じ年くらいの少女達は、思い思いのプレートを手にとり、お菓子に手をのばした。
刹那
お菓子はまばゆい光を放ち、それがおさまると、台座の上には3人の姿が。
お菓子パーティーを開いた少女達の驚愕とした顔に、台座の3人も呆然とした顔で見回した。
「……蓮さん…」
アリア・ジェラーティは小さく呟いた。
「おや、無事だったのかい」
アンティークショップ・レンを訪れたアリアに、店主である碧摩蓮(へきま・れん)は読んでいた本から少し顔をあげて興味なさそうに言うと、また本に視線を落とした。
「無事だったのか、じゃないですよ…」
アリアの不満そうな声にあわせるかのように、店内の温度が急激にさがる。
でもそれは一瞬。
気持ちを持ち直すが、顔はふてくされてぶすーっとしている。
ハロウィンの終わり。魔本の中でアリア達は大変な目にあい、その上、お菓子にされてしまった。
100歩譲って、蓮がお菓子にならなかった事は仕方ないとする。一緒に来ていなかったのだから。
しかし。
お菓子になってしまった自分たちを、お菓子パーティーをやろうとしている少女達に格安で売ってしまった事が大いに不満である。
すんでの所で大事には至らなかったが、万が一食べられていたら。
いや、もしあの少女達がお菓子になってしまったら。
現にアリアは戻ってきてから、巻き込まれてる形でお菓子になってしまった。
アリアは立ち並ぶアンティークを眺めつつ、蓮にどうやって仕返しをしようか考えていた。
建前はどうでもいい。
蓮の本で危険な目にあい、その上売られて再び危険な目にあった。
しかし、蓮は何も被害にあっていない。
同じようにお菓子にしてしまおうか? …どうやって?
アイスになら出来るかな?
蓮の隙を窺いながら、手元にあった人形にふれる。
「…ひゃあ!?」
いきなり噛みつかれ、不意をつかれたアリアは奇妙な悲鳴をあげる。
布で出来ているので痛くはないが、驚いた。
「あー、悪戯防止してあるから、迂闊にさわらんでくれよ」
本から視線をあげず、蓮は言う。
ぐるっと店内を見回すと、曰く付きの怪しい品々が無造作に陳列されている。
商品を使って何かするのは無理そうだ。
蓮の持っている魔本は、全部蓮の後方に置かれていて、自然に近づくのは無理そうだ。
やはりここは自分の能力でやらなくては。
ぐっと拳を握って、アリアはぐいっと顔をあげて蓮をみた。
「…美女の氷漬け、って高値つきそうですよね…」
「…ん?」
蓮が顔をあげた瞬間、店内の温度が一気に下がる。
「そういえば最近仕入れたもので、面白いのがあってね」
蓮の吐く息が白い。でもそんな事気にしている様子もなく。
笑む。
「様々な冷気を跳ね返すらしい」
言って取り出したのはレインコート。
艶やかなチャイナドレスの上にさらっとそれを羽織る。
「え、ええ!? えええええぇぇぇぇぇ」
叫んだ姿のまま、アリアは氷漬けになる。
蓮の周りのものも凍り付いているが、蓮はさして気にもせず、レインコートの下におさめていた本を取り出すと、再び読み始めた。
「あ、周りのもの、ちゃんとなおしていけよ」
一瞬氷漬けになったものの、さすがに自分の冷気。アリアは肩で息をしながら元の姿に戻る。
言われたとおりにあたりを元に戻すアリアの顔は、店に訪れたときと同じぶすくれた顔。
「……年の功には勝てないって事ですか……」
「!!!」
ポツリ呟いたアリアの言葉が一番効いたらしい。
本を乱暴にとじると、蓮は立ち上がる。
それにアリアは小さく「やった」と言うと、慌てて店を飛び出した。
仕返しは成功したような感じだが、当分アンティークショップ・レンへの出入りが禁止になったのは言うまでもないだろう。
「…勝負に負けて、試合に勝った、って感じ…かな? あれ、でも出禁だから、試合にも負けてる……?」
アリアの問いに応える声はなかった。
【ライターより】
いつもありがとうございます。
大体丸投げ、という事だったので(笑)
このような結果になりましたが、いかがでしたでしょうか?
楽しんでいただけたら幸いです。
年度末・年度初め、色々忙しくなる時期ですね。体調にお気をつけ下さいませ。
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