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<東京怪談ノベル(シングル)>


再会


「土砂崩れ…か?」
ここはいつも通る山道。
普段は自分以外の車を見ることも殆どないのだが、この日は妙に混んでいた。
沢山の車のイラつきがクラクションの音へと姿を変えている。
天候は見事な大雨。
この大雨のせいで土砂崩れを起こし、道が封鎖されているようだ。

フェイトはフロントガラスから目を凝らして正面を見たが、前にいる車は結構な数。
ましてやこの止む気配を見せない大雨では、復旧にもまだ時間がかかるだろう。
「迂回路を探すしかないか」
ハンドルに肘をつき、手のひらに顎をのせて、ふぅ、と溜息をついた。


旧道らしき道を走らせていると、古いトンネルが見えてきた。
ずいぶんと使われてない様子だが、迂回路はおそらくここだけ。
だが、フェイトはトンネルに入る直前でブレーキを踏み、目を細めた。
「──霊気?」
まずは肌で憶えた違和感。
そして神経を研ぎ澄まし、確定。
正面に位置しているトンネルからは霊気が溢れていた。

雨のせいで殆どの音が遮断される中、ひとつの排気音がフェイトの耳へと届いた。
バックミラーで確認すると、見えてきたのは一台のバイク。
この大雨の中バイクで、しかもヘルメットをしていない。

「………」
そして顔が確認出来ると、驚きと呆れが入り混じった表情でフェイトの口が開く。
「バカじゃないのか……」
少し遅れて、その唇が音を得た。

フェイトの車の真横に、バイクが停止する。
運転していたのは、少し前に会った男、翔馬だった。
当然ながら翔馬も、車の中にフェイトが見えた瞬間は驚きの表情を浮かべていた。
フェイトがウィンドウを下げる。
「あんたは……」
「よう、偶然だな。 たしか名前は『運命』…だったか?」
「ちが……、フェイトだ。 ヘルメットしろよ、危ないだろ」
「ヘルメットかぶると雨で前が見えねぇんだ」
それは嘘だろう、と思いながらも、フェイトは口を閉ざした。
翔馬が自分から視線を離し、トンネルの方を真っ直ぐに見たからだ。

「霊気か」
翔馬の表情が鋭いものに変わり、バイクから降りてエンジンを止めた。
「そうだね」
フェイトも車から降りて雨の中へ。
そして同じく、トンネルの方へと視線を戻した。
「他に迂回路ってあるのか?」
「ないと思う。 多分、この道だけかな」
「被害が出る前に片付ける必要がありそうだな」
「その方がいいだろうね」
二人はゆっくりと、トンネルの中へ足を踏み入れた。

肌で感じたとおり、沢山の浮遊霊が漂う中、二人は奥ヘと進む。
すると、突然壁が崩れ、中から骸骨が顔を出した。
その瞬間に響く銃声。
襲ってくる暇もなく、フェイトの銃が骸骨を貫く。
「スケルトンか?」
床に崩れ落ちた骸骨を見て、翔馬が呟いた。
「わからないけど、襲って来そうだったから」
フェイトが銃に弾丸を補充しながら、言葉を返す。
「お前、わからないのに発砲すんのか……。 見た目に反して激しい性格してんのな」
「襲われてからじゃ遅いからね」
フェイトは銃を持ったまま、両手を広げて肩をすくめた。

フェイトのその予感通り、間もなく骸骨達が次から次へと襲ってくるが、今回は前回のように親玉がいそうな気配はない。
トンネルの中でフェイトと翔馬は別々に、だが時折互いを助けながら、ただひたすらに倒していった。


***


「はい、大雨のせいで土砂崩れが……、はい…、はい…、わかりました、お疲れ様です」
そこは近くの温泉宿。
更衣室でフェイトが携帯を持ち、IO2と連絡を取っていた。
ことの顛末を説明すると、帰りは明日以降でいいと言われ、ここで一泊することに。
雨のせいか他に客もおらず、殆ど貸切状態。
フェイトは携帯を切ると、天井を見てひとつ、溜息を零した。
今回は親玉こそ居なかったが、その代わりに数が多く、流石のフェイトも疲れたようだ。

「電話か?」
フェイトが浴場へ足を踏み入れると、先に入っていた翔馬が彼を見た。
「ああ、報告をね」
「面倒くさいことしてんのな」
「これが俺の仕事だから」
「その台詞、前も聞いたな」
「そうだっけ?」
湯に浸かりながら、フェイトと翔馬が言葉を交わす。
会うのはこれで二度目なのだが、長い時間一緒に闘っていたせいか、まるで古くからの友達のような状態になっていた。

「そういえば、さっきここの女将に、あのトンネルのことを話したら驚いてたぜ」
その翔馬の言葉に、フェイトが「え?」と、音は乗せずに口を開いた。
「昔よくこの付近で土砂崩れが起こってたんだと。 それであのトンネルを作ったらしいが、人柱として埋まってる奴がいるそうだ」
「人柱って……、トンネルが崩れないように?」
「そうだろうな。 まぁ、それで人柱の幽霊が出てちゃ意味ない気がするけどな。 そのせいで幽霊が出るって噂と、事実、原因不明の事故もあったとか」
「………」
「──? どうした、フェイト」
「いや……、なんでもないよ」

フェイトが言葉を詰まらせるように、そこで会話が途切れた。
コポン、と音を立てて、フェイトは頭てっぺんまで湯に浸かる。
翔馬はそれを首を傾げながら見ていた。

湯の中で、フェイトは薄く目を開いた。
そして、倒した骸骨達の姿を思い出す。

── 俺が今まで戦ってきた相手の中にも、そんな人間が居たんだろうな。
望まぬ未来を辿り、悪霊へと姿を変えた者が。

「(考えても仕方ないか……)」
湯の中から見上げた水面が、ただユラユラと揺らいでいた。

まるでフェイトを包み込むかのように。





Fin



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この度は、ノミネートのご依頼ありがとうございました。
フェイト君と翔馬君に、またお会い出来てとても嬉しいです。
今回はちょっと悩んだのですが、二人が打ち解けていく感じを出せればと思い
前回よりも二人の会話部分を重点的に出してみました。
少しでも楽しんで頂ければ幸いです。
また機会がありましたら、どうぞ宜しくお願い致します。