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<東京怪談ノベル(シングル)>


例えばこんな一日

 朝、いつもどおり欠伸をしながら、登校し、下駄箱を開けると、中に詰まっていた手紙が雪崩を起こして足元に散らばった。
「新手の嫌がらせかぇ?」」
 呆れ半分、苦笑半分で頬をかきながら手紙を集め、片手で手紙の束を持つと反対の手で手紙を読んでいく。
「まっこと今日はラブレターが多いねや」
 手紙を全部読み終わり首をかしげる。まあいいかと、教室に入ろうとしたところ、初等部の子があたりをきょろきょろと見ている。
「おまんさん、どないしよった?」
 できるだけ穏やかに優しく言ったつもりなのだが、彼の鋭い赤い瞳は、初等部の子を怖がらせるには十分だったようで、
「あっ……あの……その……」
 怯えたような声でそれだけ言うと初等部の子は泣き出してしまった。
「…………」
 表情に出さないもののこういう時どうしたらいいのか夜見はいまだにわからない。
 大抵の初等部の子は自分を見ると泣いてしまう。もちろん、言葉のかけ方や、気をつけられるところは気をつけるのだが、生まれつきの目つきの悪さまではどうしようもない。
 もう教師もその辺はわかっていて夜見をとがめたりしなくなった。
 咎められないのはいいが、泣いている目の前の子にどんな対応をしたらいいのかわからないのだ。
 優しく言葉をかけても、相手が泣き止むことは少ない。
 ため息をついて
「おらが悪かったがで泣き止きもらえやーせんか?」
そういって優しく頭をなでると、少し落ち着いたのか、まだしゃくりあげているが、泣き止んだようだった。
「偉いやき。いい子やか」
 そう言って教室に入っていく夜見は内心本当にほっとしていた。
 あのままでは、自分が何かしたかのようになってしまう。それに、泣いたままの子を置いて教室に入れるほど非情でもないのだ。


 ―ガッ―
 鈍い音がして、最後の不良が壁に背を打ち付けられ動かなくなった。
 ざっと見ても全員全治2週間はかかりそうだった。
 全く事情を知らなければ、この不良たちを夜見がフルボッコにしたように見える。いや、実際そうなのだが。
 喧嘩や女性が絡まれた時はいつもこうだ。
やりすぎて、相手がぼろぼろになってしまう。夜見はと言えば、傷一つできない。
「……あ、ありがとうございます」
 ペコペコお辞儀する女生徒に、
「女子の敵はおらの敵やきな」
 そう豪快に笑うと後ろ手にひらひらと手を振って夜見はその場をあとにした。

 次の日、学校へ行くと、下駄箱に手のひらサイズの箱が入っていた。
 メッセージカードを見ると
『昨日はありがとうございました。これ、対したものではないんですが、お礼です』
 と書かれている。どうやら昨日助けた女生徒のようだ。
「なき名前を知っちゅうがやろ」
 首をかしげながらも箱をカバンに入れ教室に向かった。
 夜見は知らないし、興味もないが、彼はある意味で有名人である。他の人に特徴を言えばすぐに名前が出てくるレベルには。良くも悪くも目立つのだ。


「やっぱりままさんの稲荷寿司は美味いな」
 そう言いながら一人大柄の青年が屋上でお昼ご飯のいなり寿司を食べている。
 夜見は屋上の開放感が好きなのだが、ここで違う生徒にであったことはない。
 要するに夜見の秘密の場所なのだ。風を感じながら春がもう少しで来るなと思いつつ、いなり寿司を食べ終わると、丁寧に手を合わせ、屋上を去った。

 あとはいつもどおり午後の授業を受けて何事もなければ、家である神社に帰るだけである。
「あぁ、もう言えばバレンタインデーがあったな。お返し考えんと」
 思い出したようにそう呟いて先日の手紙の雪崩を思い起こす。
 気持ちに応えるかどうかはさておき、お礼はしないとと律儀に考えながら、真っ赤な夕焼けを背に帰途につくのだった。



Fin