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<PCシチュエーションノベル(ツイン)>


 庵が手荷物の検査を終え、空港検閲を出ると、大勢のお迎えの人々の最前列にヒラヒラと手を振る見覚えのある青い髪が見えた。
「美魅々ちゃん。ただいま♪」
「お帰りなんよぉ。。庵ちゃん」
「また背が縮んだんじゃない?」
「そんなことあらへんよ。。庵ちゃんが伸びたんちゃう?」
「もう、可愛いわね〜」
 庵が髪をくしゃくしゃと撫でると目を細めてうれしそうにはにかむ美魅々。
「ここじゃ話も出来へんし、さっき、ゆっくりできる喫茶店見つけといたんよ」
「気が利くじゃない♪さっすが」

 美魅々に案内された喫茶店は空港内の喧騒はどこへやら。とても、落ち着いた静かな場所だった。
「いつもながらに美魅々ちゃんのセンスの良さには惚れちゃうわね♪あっ、珈琲頂戴」
「にひひ。あっ、えっと……美魅々はオレンジジュース」
 おしぼりで手を拭きながら、慣れた調子で注文する庵に美魅々は感嘆の声を上げる。
「手馴れてるやんな。。色んな所行くと慣れるもんなん?」
「んー、そうねぇ。場数を踏むのは大事だと思うわよ。あっ、そんな美魅々ちゃんにお土産があるのよ」
「お土産?」
「そっ♪」
 庵はがさごそとトランクをがさごそとあさり、数冊の写真集を取り出した。
「おぉ!」
「美魅々ちゃんが好きそうだなって思ってつい買っちゃった♪」
 目を輝かせ、夢中で写真集をめくる美魅々の姿を見て、庵の口角が上がる。
『勉強になりそうなものを選んできたんだから頑張って勉強してね。未来のジャーナリストさん♪』
 心でそう思いつつ、珈琲に口を付ける
「そういえば……」
 思い出したように美魅々が写真集から顔を上げた。
「今回の旅はどうだったん?」
「今回も楽しかったわよ♪」
 庵はそう言って、旅の思い出を話し始めた。たくさんの友人ができたこと。この街では見ることのできない綺麗な景色の話。美魅々が知らない食べ物や文化、風習の話。話題は尽きることなかった。
「詳しく話すと長くなるから、今はこんなところにしておきましょ」
 そう話し終わる頃には、オレンジジュースの氷は溶けて、ジュースの上に水の層が出来ていた。
「ええなぁ、楽しそうやんなぁ。それだけ楽しんだなら暫く行かなくても大丈夫そうやね」
「どういうこと?」
「にしし」
 不思議そうにしながら冷え切った珈琲を一口飲む庵と意味深に笑う美魅々。
「実は伝言を預かってるんよ」
「伝言?」
 少し眉をひそめる庵に美魅々がにししと笑う。
「そんなに警戒しなくてもええよ。元中等部生徒会で部活してみんか?って感じの話なんやけどなぁ、一口乗らん?」
「部活っていってもいろいろあるでしょ?具体的にはどんなことするの?」
 そんなことを言い出すのはあのお菓子主食しかいないと思いながら、庵は訊ねる。美魅々は笑みをそのままに説明を始めた。
 彼女の話によると、高等部の何でも屋を考えているようで、人集めをしているとか。
「それなら、ミーじゃなくてもよくな……」
 そこまで言ったところで庵の言葉は美魅々が庵の口元に当てた人差し指によって封じられた。
「拒否権はなしです。までが伝言なんよ。にしし」
「理由は……さしずめ、面倒なことをやったのですから、その見返りです。ってところかしらね」
「流石やね。大正解」 
 にししと笑みを深くする美魅々を見ながら珈琲を飲みほし、庵は立ち上がった。
「じゃあ早く帰らないといけないわね。行きましょ?」
「え?あっ、ちょっと待ちぃよ」
 慌ててオレンジジュースを飲み干し、立ち上がる美魅々の声を背に庵は精算を済ませ、歩き始める。
「何でも屋……ねぇ。まあ、いいかもね♪」
「庵ちゃんがやりたくないって言ってもさっきも言ったとおり拒否権あらへんからね?」
 追いついた美魅々が隣でそう釘を刺す。
「わかってるわよ。強制入部でしょ?」
「それもあるけど、庵ちゃんが帰ってくるのみんな待ってたんよ?」
「そうなの?」
 言葉とは裏腹に庵の口元には笑みが浮かんでいた。
「そうやよ。そうでなきゃあの弟君が拒否権なしなんていわへんやろ?」
「まあね〜。久しぶりにみんなと楽しくやるのも悪くないし、学園で少しのんびりしようかしらね」
「のんびりできるかは知らんけど、中等部の時みたいにまた楽しくなりそうやね」
「そうねぇ」
 そんなことを言いながら、空港の外に出ると旅に出たときと打って変わって、温かな春の風が吹いていた。
 庵の目がすっと細められる。
「もう春なのね」
「せやね。あっ、ちょうど学園の桜も満開やったよ」
「そう……じゃあ帰って1番最初にするのはお花見かしら」
「お花見!ええなぁ。ちょっと待っとって。みんなにメールしてみるな」
 メールを送る美魅々の隣で、庵は大きく息を吸った。
 温かで、穏やかな空気が庵の中で家に帰ってきたようなそんな独特の安堵感に変わっていくのを感じながら庵は呟く。
「帰ってきたのね……」
 その安堵の呟きは風に紛れて、誰にも聞かれることなく学園の方へと飛んでいった。


To Be Continued……