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<PCシチュエーションノベル(グループ3)>


始まりを告げる桜吹雪

 学園内で一番大きな桜はタイミングを図ったかのように満開で、校舎にぽつりぽつりと付いている部屋の明かりと満月の光で、それはそれは幻想的に照らされていた。
 その下、ビニールシートを広げて、おにぎりやお菓子、ジュースに、簡単につまめるおかずを広げてみんなで夜桜鑑賞と洒落込んでいるのは元中等部生徒会のメンバー。
「よく許可降りたわよね」
「永夜が学校側と交渉したんすよ」
 ジュースを片手に庵がそういうと、永輝がおにぎりに手を伸ばしながらそう答えた。
「交渉……ねぇ。相変わらずね、夜ちゃんは」
 ものは言いようね。と対応した教師を気の毒に思って苦笑気味に笑う庵。
「夜ちゃんと呼ぶなと何度言いましたっけ?」
 そういう永夜の笑顔には影が落ち、声も若干低くなっている。
「あら?そうだったかしら?」
 へらっと笑って誤魔化そうとする庵を、永夜が逃がすはずもなく。
「だいたい……」
 クドクドと永夜のお説教が始まった。庵は慣れているせいか、どこ吹く風だが。
 この説教を聞いてもヘラヘラしていられるのは庵くらいだろう。まあ、その前に永夜に説教されるようなことをするのが、元生徒会メンバーでも、いや、学園に属する者でも、庵くらいしかいないという言い方も出来るが。
「あはは……久しぶりに二人のやりとりがみれた気がするっす」

「まったく、この不良副会長は……まあ、お帰りなさい」
 説教にも全く反省した様子のない庵に永夜は肩をすくめ、コップのジュースを飲み干す。
「そういえば、まだ言ってなかったっすね。副会長、お帰りっす」
「ただいま。そういえば2人にもちゃんとお土産、買ってきたわよ」
「土産っすか?」
「ええ。はい、これ」
 そう言って永輝の前には小説を数冊。永夜の前にはコーヒーと茶葉のセットを置く。
 まず、目を輝かせたのは永輝だった。
「これ、絶版になったやつじゃないっすか!ネットでも高値がついてて手に入らないと思ったやつっす。うわー、こっちは見たことない本っす。あっ、こっちも。庵ありがとうっす!!」
 飛び跳ねんばかりに大はしゃぎする永輝。
「喜んでもらえて良かったわ。今回は何カ国か回ったから、どうせなら、その国の言葉の本の方がいいかなって思ったけど、そんなに喜んでもらえたならミーも嬉しいわ」
「本当にありがとうっす!!」
 早速ページを開いて本を読み始める永輝。
「本当に気に入ってくれたみたいね。良かったわ」
 そう言って目を細めた後、永夜の方に視線を向ける。永夜はというと、何やら考えながら、コーヒーや茶葉の香りを嗅いでいた。
「あら?気に入らなかったかしら?」
「いえ。ちゃんと日本で手に入りにくい国のコーヒーや茶葉を選んでくるあたり、流石だと感心していたところです」
「そんなの偶然よ。自分の舌で味わって美味しいと思ったものを買ってきただけだもの」
「庵さんの味覚は信用してますからね。庵さんがそう言うなら、余計にコーヒーも茶葉も淹れ甲斐のありそうですね。ありがとうございます。部室に置いてみんなで飲むことにしましょう」
「あら。持って帰らないの?」
「ええ。美味しいものならみんなで共有したほうがいいでしょう?それに、部活の性質上、部員以外が来ることも多くなるでしょうから、その時にお茶の1杯も出さないのは失礼でしょう?」
 おもむろに、ノートを取り出すと、何やら書きながら永夜はそう言った。
「何書いてるの?」
 庵の問いに永夜はノートから目を離さず、答える。
「活動にあたって足りないもののリストです。来週位までにでも揃えようかと」
「部活が始まってからでも良い気がするけど、そういうところマメよねぇ」
「部費には限りがあるので、足りないものをその都度買い揃える訳にもいきませんからね。今、足りないことが分かっているものだけでも、もってそうな人に声をかけて譲ってもらうなりなんなりして確保しておけばいいでしょう」
「まあ、ね。そういえば部員って集まりそうなの?」
「あぁ、そうっす。入部届けを書いて欲しいんすよ」
 庵と永夜の話を聞いていたのか、永輝が本から顔を上げ、庵の筆記用具と入部届けを取り出し、庵の前に置いた。
「実はというと、まだ書いていないの庵だけなんっす。最低6人は居ないと駄目なんっすよ。庵がその6人目なんす」
「それ、ミーの筆記用具……いつの間に。まったく、油断も隙もないわね。それに、拒否権はないんでしょ」
 肩をすくめながらも微笑み、入部届けにサインをする庵。
「筆記用具がないと入部届けは書けないっすし、書き慣れたペンのほうがいいかと思って拝借したっす。さて、これで、6人揃ったっすね。後は顧問の先生っすか。誰かなってくれる先生いないっすかね」
「それに関しては大丈夫です。ちゃんと確保してあります。さっきも言ったとおり、足りないものは早めに確保しておくに越したことはないですから」
 筆記用具を庵に返しながら、思考を巡らせる永輝の隣で、ノートにペンを走らせながら、何を今更とでも言うように永夜がそう言った。その言葉に、庵と永輝の2人は、永夜が使える力は全て使う主義であったことを思い出す。
 さしずめ、花見の交渉の時に、顧問の交渉もしたのだろう。心の中で2人は再度、対応した教師への同情を禁じえなかった。
「さてと明日から学園手伝い部、SH部の活動を開始します」
 ペンを持つ手が止めると、永夜がそう言った。
「明日からって、何をするんすか?手伝いの依頼も来てないっすよ?」
「確かにそうよね。部室ももらってないわけだし、ミーの入部届けを出して、部活として正式に登録すれば先生達は分かるかもしれないけど……」
 永輝と庵が首をかしげる。
 確かに、庵の入部届けがここにある以上、部活としてまだ成立していない。勿論、学園手伝い部の存在を知っているのは、部員である元生徒会メンバーと、教師陣を除けば誰もいないといっても過言ではない。
「僕が考えもなくただ、元生徒会メンバーを集めただけだと思ってるんですか?」
 そう言われれば……2人は自分達の心配が杞憂であることに気がつく。
 永夜がそんな短絡的なことをするわけがないのだ。しかも、普通のどこの学校にでもあるような部活ではなく、学園手伝い部なんて言っているのだから、尚更である。
「夜ちゃんに限ってそんな訳ないわね」
「っすね」
『あいつは何考えているかよく分からん。だから怖いんだよ』
 改めて、永夜がそう言われている理由がわかった気がした2人だった。
 もしかして、庵がこのタイミングで帰ってくることすら、計算のうちだったのではないかとさえ思ってしまう。
 そう考えると、本当に、どこまでが彼の計算のうちなのかわからない。
 そんなことを2人が考えた時だった。
 少し涼しいというよりは冷たい風が吹いて桜が闇に舞った。月の悪戯か、ただの偶然か、それは、ただの桜吹雪というには幻想的すぎて、妖艶すぎた。まるで、これからここで、この学園で始まる『何か』を告げる合図のようなそんな、不思議な桜吹雪。
「さぁ、学園手伝い部、活動開始です」
 桜吹雪の中、永夜がそう言った。その時、一瞬、永夜の口角が上がったのは、2人の考えを読んだからなのか、これから活動のことを思ってなのかはわからない。
 だが、少なくとも、そう例え、永夜の手の上で踊らされているのだとしても、暫く退屈はしなさそうだと庵は目を細めた。


To Be Continued……