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<東京怪談ノベル(シングル)>


Rainbow Candle Panic

●貰った蝋燭
「こんなお店、昨日通った時には無かったと思うんだけど……」
 なんでも屋の仕事を終えて家路に向かうファルス・ティレイラは、怪しげな露天商の前を通りがかった時、店番をしている老婆に声をかけられた。

 お代はけっこうだから、蝋燭をもらっておくれ。

 そう言うと、老婆は様々な形、色とりどりの蝋燭を詰め込んだ皮袋をティレイラに手渡した。
「本当に、お代はいいんですか?」
 無言で頷き、皮袋を手渡した老婆はさっさと店じまいをすると、逃げるようにその場を去っていった。
「奇妙なお店とお婆さんだったけど、タダで蝋燭もらえたからいいかな? 何か、すごくいい匂いがする……」
 何の香りだろう? と袋から漂う匂いを嗅ぎながら、ティレイラは家に帰った。

 家に着くと、あたりはすっかり暗くなっていた。
 さっそく蝋燭を使おうと、寝室で譲り受けた蝋燭に火を灯す。
 1本だけでは周囲が暗いので、蝋燭を多めに使い、いろいろ試してみることにした。
「うわぁ……これ、ラベンダーの香りだ。いい香り……」
 薄紫色の蝋燭に火を灯すと、周囲にラベンダーの香りが。気分が落ちついたことで、仕事の疲れが吹っ飛んでいった。
「これは何の香りがするのかしら?」
 橙色の蝋燭からは、オレンジの香りが。
 他にも試そうと、全部の蝋燭をつけることに。
 赤色の蝋燭は苺。
 藍色の蝋燭は潮の香り。
 黄色の蝋燭はレモンの香り。
 青色の蝋燭は絵の具の匂い。
 緑色の蝋燭は草木の香りがした。
 自宅にいながら苺畑、地中海、レモン畑、美術館、草原にいる錯覚に陥ったティレイラは、蝋燭の香りに酔いしれた。

●蝋燭の暴走
 そんな気分を堪能していると、突然7色の蝋燭が一斉にカタカタと動き、火がついたまま寝室内を飛び回ったり、壁にぶつかったりと大暴れし始めた。
「な、何!? どうなっているの!? 家事になったら大変!」
 7本の蝋燭の中には、1本だけ意志を持った魔法の蝋燭が紛れ込んでいた。残りの6本は、それにつられて動き出しだのだろう。
 意志を持つ蝋燭がどれだかわからないが、翼と角と尻尾が生えた竜族本来の姿になったティレイラは暴走に対抗しつつ、7本すべての蝋燭を捕まえようとするが、火の熱で溶けた蝋が熱く、容易に触れることができず。
 ならば、すべての蝋燭を火の魔法で一気に溶かそうと考えた。その時、赤色の蝋燭が、自らの意志で生み出した魔法の蝋をティレイラの腕に絡ませた。
「熱いっ! やだ! タコの足みたいで気持ち悪いっ!」
 赤色の蝋燭は、魔法を使い、他の蝋燭にも意志を持たせ、ティレイラに蝋を浴びせるよう仕向けた。
 すべての蝋燭は、一斉にティレイラの腕に蝋を浴びせる。
 纏わりつく感触とともに、瞬時に蝋が固まるので手を動かし、壊そうと頑張るも、気が付いた時には、飛び散った蝋が前髪に垂れ、白い蝋が固まり、蝋の氷柱が何本か垂れていた。
 前髪で視界を遮られながらも火の魔法を使い、蝋燭の猛反撃を避けながら腕を伸ばすが、指先からも前髪同様、蝋の氷柱が垂れ下がる。
 蝋燭の火と、ティレイラの魔法で寝室内の温度が上がったので、氷柱が垂れる速度は速かった。
(このままじゃ、私、蝋燭にされちゃう。その前に、何が何でも全部やっつけないと!)

●七色の蝋燭娘
 垂れ下がる蝋に屈することなく必死に抵抗するも、蝋燭達は思うように捕らえられず。
「待ちなさい!」
 得意の魔法で一気に焼きつくせば解決すると思ったが、冷静になって考えると、それはかえって逆効果であることに気付いた。
 そう考えると、魔法を使うのをやめ、地道に捕まえるほうが良いと判断した。
(全部捕まえて火を消せば、蝋を浴びせることができなくなるわね。全身が蝋で固まらないうちに、早く捕まえないと!)
 そう思った時、たまたま視線の先にあった三面鏡越しに見えた自分の姿を見えてしまった。
 鏡に映った自分の姿を見たティレイラは、逃げ腰姿勢で、服やスカートが真っ白な上に、裾の先から床まで氷柱が伸びて垂れ、自身が等身大の蝋燭のような姿に驚きの声を上げた。
「な、何これ! こんな姿、嫌!!」
 半泣き状態になったティレイラに、蝋燭達は勝ち誇ったように頭の天辺に火をつけ、暫く動きを止め、周囲を照らしながら、その様子をあざ笑うかのように見ているような仕草を。
 馬鹿にしないでよ! と怒りつつ抵抗しようとするが、寝室の温度が下がったからなのか、ティレイラの全身に浴びせられた蝋が固まる速度が速まり、しばらくすると、全身が
氷柱が垂れた氷像のような姿になってしまった。
 蝋で全身がこわばっているので、思うように動けず。全身だけでなく、口も動かせないので泣き言も恨み言も言えず。
(なんでこうなるのよ……。蝋燭達、燃え尽きたら、ひとつ残らず壊すからね! くっ……!)
 七色の虹のような色の竜族娘の蝋燭は、魔法の蝋燭達の火が燃え尽きるまで、寝室の一角に置かれることに。
(絶対に蝋を何とかして、蝋燭を壊してやるんだから!)

 蝋燭達がじっと見る中、蝋燭と化したティレイラは心の中でもがくように呟くのだった。

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【3733 / ファルス・ティレイラ / 女性 / 15歳 / 配達屋さん(なんでも屋さん)】

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■         ライター通信          ■
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 ファルス・ティレイラ様

 いつもお世話になっております。たいへんお待たせ致しました。

 蝋燭の蝋は白、というプレイングでしたが、白一色だと物足りない気がしました。
 可愛いお嬢さんですので、それに似合うような七色の等身大蝋燭に、という展開にしてみました。
 室内での魔法使用は家事につながりかねませんので、このお話では、魔法を使うのを控えさせていただきました。
 元の姿に戻ったら、蝋燭たちに逆襲するのでしょうか?

 毎度のごとく手短ではありますが、これにて失礼致します。
 ご発注、まことにありがとうございました。

 氷邑 凍矢 拝