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<PCシチュエーションノベル(ツイン)>


夜桜の対価

 時間は夜桜鑑賞の前、ビニールシートを広げジュースやら食べ物やらを準備するところまで遡る。
 着々と花見の準備が完了していく横で、絵美が桜の木を見上げていた。
「ただいま。お姫様?」
「相変わらずね。庵」
 後ろから声をかけた庵の方を振り向きもせず絵美の声がそう返す。そして、車椅子ごとくるりと庵の方を向いて微笑んだ。
「元気そうでなによりね。お帰り」
「お姫様こそ元気そうでよかったわ。そういえば、部活やるって聞いたわよ。弟ちゃんも頑張るわね」
「ええ。でも、また、みんなで何かをやりたいって言ったのはあたしなの」
 そう苦笑する絵美。
 絵美が言うには、元中等部のメンバーでまた何かやりたいと思いながら、写真を眺めていた時、つい思っていたことが呟きになって出てしまったらしい。それを一番下の弟が漏らさず聞いていて、どうせなら3年間一緒に活動できるように部活を作ろうという流れになったらしい。と言っても、その時点では部の内容は未定だったらしいが。
「あの子らしいわね。愛されているじゃない♪」
「そうね」
 そう笑う庵に、膝の上に乗っている2体のライオンのぬいぐるみを撫でながら穏やかに絵美が微笑んだ。
「あぁ、そうそう。お姫様にお土産があるのよ。その子達には負けちゃうかもしれないけど」
 そう言って、絵美に数体の動物のぬいぐるみを見せる。
「どの子も可愛いわね。大切にするわ。ありがとう」
「じゃあ、袋に入れて弟ちゃんにでも渡しておくわ。お姫様の膝はその子達の特等席みたいだから」
 茶目っ気たっぷりに庵がそう言うと、2体のぬいぐるみを撫でながら絵美はクスクスと笑った。
「そうね。お願い。その子達は家に飾っておくわ」
「それにしても、綺麗よね」
「えぇ。昼間も綺麗だけど、夜も綺麗ね」
 そう2人が桜の木を見上げた時、準備が出来たようで、2人にお呼びがかかる。
「行きましょう、せっかくの再会だもの。みんなで楽しくやりたいじゃない?」
「確かに」
 絵美が庵に同意して、2人は他のメンバーと夜桜鑑賞を楽しんだ。


 そして、時は庵が入部届けにサインをしたところまで流れる。
 依頼を受けていないのに明日から活動開始とはどういうことだろうという話になった時だ。
「実はもう依頼はあるのよ。入学式にいつも有志でやっていたアレを作るの」
 そう、絵美が口を開いた。
「アレねぇ」
『アレ』というのは初等部から大学部の教室の窓をステンドグラス風に飾るというもの。庵自身も初等部から何度も見てきたものではあるが、作る側にはなったことがなかった。理由は簡単だ。純粋に骨折り損のくたびれもうけだからである。
 入学式たった1日の為に、そうたった1日、新入生を迎える為だけに初等部から大学部までの教室全部だ。
 毎年テーマでも決めてクラス毎、綺麗さを競わせるとかもう少しやりようはあると思うのだが、何故か毎年有志を募ってやっていたのを庵は思い出す。その有志も年々数が減っているのだと絵美は言う。
「まあ、アレは……ねぇ」
 授業の関係から作業が行えるのは春休みの間だけ。入学式が近づくにつれて学校に泊まり込んで夜遅くまで作業しているのを見たことがある。頑張っているなと他人事のように思っていたのだが、まさか自分がやる側に回るとは思ってもみなかった。
 もしかして……嫌な予感がして庵が口を開く
「アレ、ミー達HS部だけでやるの?」
「先生が言うにはそうみたい」
「…………」
 無言がその場を支配した。こう漫画で言うならヒューという風の吹く文字が入って、後ろで桜が散りそうな、いや、実際そうなったけれど。
「絵美ちゃん、もう一回確認していいかしら。ミー達6人でやるの?あと1週間で?」
「ええ、どうして?」
 さっきの絵美の発言が聞き間違いであることを切に願いながら庵は恐る恐る確認する。が、その願いは絵美の言葉と、なにか問題があるのか?という表情によって瞬殺された。
「あと一週間よ?いくらミー達でも難しくない?」
 これからやる工程を考え、庵は軽いめまいを覚えた。
「大丈夫よ。図案はもう考えてあるし、あとは実行するだけ」
 どの辺が大丈夫なのか詳しく聞きたいところではあったが、突っ込んではいけない気がして庵はそれ以上の追求を止めた。
 どれだけ、追求しようが、やらなくてはいけないことは間違いない事実のようだ。とやかく言っても仕方ないと半分位諦めも入っていたが。
「というわけで今日から泊まり込みだから」
 絵美が追い討ちをかけるように言う。
「え……?」
 庵の顔がひきつる。
「それはそうよ。庵が言ったとおり1週間で完成させなきゃいけないの。図案は学校側の承認がおりているから後は作るだけ。でも、6人で普通にやっていたらいくらなんでも間に合わないわ。大丈夫、泊まり込みの許可もちゃんともらってあるから」
 さも当然のように言う絵美に庵は何も言えなくなっていた。
「久しぶりよね。みんなでこうやって何かをするの」
「そ、そうね。もしかして、今日から泊まり込むからこの花見もOKでたの?」
「そうよ?どうして?」
 不思議そうに首をかしげる絵美に引きつった笑顔を向けるしかない庵。
 闇夜に浮かぶ桜の下、宴はまだ続く。


 To Be Continued……