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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


『呪いの血脈』


 彼女の顔は青ざめていた。
 その顔色の悪さに草間武彦は彼女の身を心配する。
 彼女は身重だった。
 武彦の表情から何かを悟ったのか、彼女は武彦を安心させるかのように微笑んだ。しかしその笑みはどうしようもなく憂いに満ちていた。
「私は安井玲子(れいこ)と申します。桐生院家の家政婦として働いています。ええ、主人と一緒に。主人は桐生院家の弁護士をしておりまして、当主の桐生院詩(うたい)さまとは幼馴染で、私の夫、安井守(まもる)もまた、私がこの件をこちらさまに、草間さまにご依頼をするのを賛成してくれています。事の発端は詩さまのおじいさまです。そこから始まるのです。桐生院家の血に流れる呪いが」



 桐生院詩の祖父、桐生院礼(れい)は戦後の混乱期、焼け野原となった東京で安い日雇いの肉体労働に従事していた。
 彼の家族は全員空襲で死んでおり、彼もまた戦争で満州に渡っていて、苦労の連続であった。
 故に彼は人間性に歪みを生じさせ、そして彼は金に執着を見せるようになり、
 日雇いの仕事や闇の仕事、そういったものに従事して、そこで稼いだ金すべてを元手に闇金融業を開業し、彼は財産を増やしていった。
 しかしその彼の会社にひとりの浮浪者が来た時から、事がおかしくなり始めた。
 その浮浪者は彼が持つ高価な懐中時計と引き換えにお金を借りたいと申し出てきて、そして桐生院礼は彼の懐中時計とは不釣合いなほどの小額のお金しか渡さず、
 それに不服を言った浮浪者に、
「なら、この懐中時計はお返ししましょう。ただし、私がこの懐中時計を受け取り、あなたがお金を受け取った時点で契約は執行されており、故に利息分も返してもらわねばならなくなりましたが、それでも良いので?」
 無論、浮浪者の持つお金は桐生院礼に渡されたお金だけであり、利息分など払えるわけも無く、
 浮浪者は暴れ、
 そして会社に常駐するヤクザ上がりの警備員に外に放り出され、その時不幸にも頭を道路にぶつけ、浮浪者は死んでしまった。
 そうしてその夜に桐生院礼の夢の中にその浮浪者が出てきたのだ。
「おまえを呪ってやる。私は私の怨念でおまえを金持ちにしてやろう。そうだ。それだけではない。おまえの嫌う人間は誰であろうと私が殺してやる。おまえの望む女の心も私がおまえのモノにさせてやる。そうだ。私がおまえに富みも名声も、女もくれてやるというのだ。ただし、いいか? おまえが少しでも幸せだと想った瞬間に、私はおまえを殺してやる」



「そして桐生院礼は本当に富みも名声も手に入れ、詩さまのお父上が生まれた時に、現れた浮浪者の霊によって首を跳ねられました………。その呪いは次は礼さまから礼二(れいじ)さまへと移り、礼二さまはそれから逃げるべく奥様が詩さまを妊娠成された時に顔を整形して、桐生院家の執事と入れ替わったのですが、結果は…さらに悪くなるだけでした。詩さまがお生れになった瞬間に礼二さまと入れ替わっていた執事は殺され、そうして今度は礼二さまに騙された執事の悪霊と浮浪者の悪霊の二人に呪われるようになったのです。もうそのような小細工ができないように礼二さまは常に監視されています。ええ、礼二さまは常に監視されていますよ。二人の悪霊に。礼二さまは。そして、詩さまの奥様が、私と同時期に妊娠なされたのです。詩さまも、詩さまの奥様も、そして礼二さまも恐れています。不安がっています。詩さまの奥様がその子を出産した時に、礼二さまも、詩さまも殺されてしまうと。そして今度もまた、その呪いが新たな命に移ってしまうと。ですからどうかお願いします。この桐生院家の血に流れる呪いを、どうにかしてください」
 彼女は切実な顔でそう訴え、頭を下げた。


 ――――『呪いの血脈』――――

【1】
 
 時折、高層ビルが乱立する東京の街中にもぽつんとエアースポットのように地面が剥き出しなったまま放置されている場所が存在する。
 公園にされるでもなくただ有刺鉄線で入口を封じられたそれを通りすがる人たちが見て見ぬふりをするのはそこにありえないモノの存在を感じるからか。
 土地には伝染している。
 呪いが。かつてそこに住んでいた人の想いが。
 あなたはこんな場面を見た事はあるだろうか?
 確かに何も無い場所。
 けれども猫だけはそこを見ている。
 何かを視線で追っている。
 果たして猫が見ているものは? 視線で追っているものは?
 じりじりと熱気が立ち上るアスファルトとは無縁の冷房のかかった高級車の中から一匹の猫が剥き出しの土の上に大の字で寝転がっている少年をじぃっと見つめている。
 それはその土地の前を通る誰もが見ないフリをする光景だった。
 本来ならまだ夏休み前の7月17日、警察官がその光景を見つけたのなら少年に声をかけるのが職務なのであるが警察官ですらその少年に声をかけずに通り過ぎてしまっていた。
 なら、その光景に視線を向ける者が居るとしたら、それはどのような者なのか?
 自動販売機に視線を向けると同時にポケットに手を突っ込んだその男は軽く肩を竦めて自動販売機から視線を外した。
 代わりに無人なくせに冷房がかかったままの車の中で涼しげに下界を見下ろすが如く外界を見ている猫を見て苦笑を浮かべる。
 果たしてあの猫は何を見ているのだろう?
 男は猫が見ている物に視線を向けて口許に浮かべるそれを微笑に変える。
 そうしている男の姿はサングラスをかけたその男から感じる荒んだ雰囲気に比べると随分と優しいものに感じられた。
 有刺鉄線で封じられたそこに男は助走無しで難なくアスファルトを蹴りそれを飛び越える。
 ふわりと肌に触れた空気は随分と優しい物に感じられたと後に男は語った。
「服が汚れるぞ、蓮生」
 左手でサングラスを外し、右手を少年、冷泉院蓮生に差し伸べる。
「草間武彦、か」
 差し伸べられた手を取り、蓮生は立ち上がった。
 けれども不思議な事に蓮生の衣服には土埃はついてはいなかった。
「何してんだよ、おまえは」
「日向ぼっこ」
「日向ぼっこねー。このくそ暑いのに。熱中症になるなよ」
「大丈夫。限界は知ってるよ。なあ?」
 誰にとでもなく蓮生がそう問いかけると、それに答えるように空から舞い降りてきた雀が蓮生の肩や頭にとまりくつろぎだす。
 また彼の足元にも野良猫や野良犬、それにタヌキやネズミといった者たちもが集まり、くつろぎだした。
 ひゅー、と武彦が口笛を鳴らす。
「武彦」
「ん? 顔が、悪い、いや、言い間違えた。顔色が悪い」
「おい。今わざと言い間違えただろう?」
 にぃっと意地の悪い顔で笑う武彦に蓮生は眉根を寄せる。
「どうして俺がわざわざ武彦を思いやって和ませようと言い間違いしたふりを装うとしなければならない?」
 俺、そこまで言ってないぜ? 語るに落ちてるこのツンデレめ。
 ――武彦はそれは口には出さずにただ笑う事で、蓮生の気づかいにお礼を述べた。
「まあ、当てられたんだろうな。創作話なら最高にぞっとしない真夏に相応しい怪談話、呪いの話にな」


【2】
 からんとグラスの中で氷が音を奏でる。
 案内された桐生院家の応接室はしかし、武彦の事務所よりも随分と広いのだが息苦しさを感じさせた。
 部屋に居るのが男5人、というのもあるかもしれないが、しかし、それでも張りつめた空気が重苦しい。
 誰も出された飲み物にも手を付けずにいた。
 時計の針が時を刻む音がまるで死神のノックに聴こえているかのように桐生院家の男2人はそれが響くたびに怯え、俯いている。
 先ほど、男5人、と記したが付け加えよう。
 生きている男5人と、
 悪霊2人が、
 この部屋にいる。
 そして、先ほどからこの部屋に響いている時計の音は二種類。
 この部屋の古い柱時計と、
 それから薄汚い格好をした悪霊が持つ懐中時計の、
 音ふたつ。
 懐中時計の音は最初、柱時計の音とズレて聴こえていたのだが、だんだんそれが柱時計の時を刻む音に近づき始めていた。
 あともう数刻でそれは重なる。
 それがどういう意味なのか、考えるまでもない。
 桐生院家のふたりはそれが近づくたびに爪を立てた指を顔面に突き立て、血で濡れた顔を覆って恐怖に戦き、
 悪霊2人は顔面に浮かぶ笑みを濃くしていった。
 桐生院詩の妻は産気づき、病院に運ばれていた。
「草間さん、これはどういうことですか? 私たち夫婦があなたにこの仕事を依頼したのは桐生院家を救っていただくためで、このような拷問染みた真似をさせるためではありませんよ」
 真っ青な顔で依頼者、安井玲子の旦那、安井守は武彦に非難を浴びせるが、武彦は目の前のソファーに座る桐生院家2人の背後に憑いている悪霊2人を見据えたままそれには答えなかった。
 安井守は苛つきを隠そうとせず舌打ちをすると、武彦の隣に座る蓮生を睨む。
「それにこの子どもは? こんな子どもを連れてきて、あなたはどうするつもりですか? もしも、この子に何かあったら!」
 ふぅー、と武彦がため息を吐く。
「こいつは俺よりも役に立ちますよ」
 訝しげに安井守は蓮生を睨んだ。
 当の蓮生は我関せずで瞼を閉じ、武彦の隣に身じろぎひとつせず座っている。
 この時、もしも冷静にこの場に居る者を観察できる者がいれば武彦の言がはったりではない事がわかっただろう。
 この冷房がかかった部屋にあって汗をかいていないのは蓮生だけであった。
 彼のみが平常心でここに居た。
 まるでそれを予感でもしていたのだろうか? そんな蓮生を心配するように武彦が横目で一瞬だけ見たその転瞬、
 悪霊の持つ懐中時計の時を刻む針の音が柱時計に追いついた。
 瞬間、ずん、と空気が重くなり、
 カーテンによって陽光が遮られていた部屋の暗さが闇の帳によってさらにその闇を増した。
 粘性を持つそれがその場に居る全員に重くのしかかる。
 音は消えている。
「ふはははは。俺は、俺は幸せだなんて思わなかったぞぉー。あの女は性欲と名誉心を満たすためだけに手に入れて抱いていた女だ。じゃなければあんな顔に青あざのあるどブス、誰が結婚するものか。俺があいつの父親の政治の地盤を手に入れるそのためだけにぃ、結婚したんだ。俺は誰も愛していない。ガキだってただできただけだ」
 パチパチと執事の悪霊が拍手をする。
「あなたのお父上に勝るとも劣らぬその外道ぷっり、私、感服いたします。でもね、私はこの元祖悪霊、薄汚く愚かで無能な浮浪者の悪霊とは違うのですよ。私はこの者と同じ轍を踏まぬようによーくあなたを観察しておりました。そして、私は確かにあなたが最初はあなたが言っていた通り打算と欲望のためだけに婚姻した奥方をいつの間にか心の奥底から愛しているのを確認しております。ええ、あなたは生まれ落ちたその時から呪いの恐怖に晒され、崩壊した機能不全家族で育ち、甘やかされ放置され許され赦されず育てられ、その人間性を崩壊させたまま育ち真の愛を知らずに育てられてきた。しかし、そんなあなたを今の奥方は心の奥底から愛してくださいました。そう。そんな奥方の真の愛をあなた様は心の奥底から感じ、悦び、尊び、そうしてあなたは確かに奥方を愛した。その子どもが産まれて心の奥底から今、あなたは喜んでしまった。よって、坊ちゃま。あなた、アウトです。ゲームオーバーです。死刑です。ここで、終わりです」
「でも、そこの浮浪者やおまえはジジイと親父が勝手に!」
「はい、それ関係無いです。よく言いますでしょう? 七代祟る、って。これはそれぐらい時が経たないと血が薄まらないからですよ。でも、私、ずっと続けますよ。桐生院家の血が途絶えるまでね。それほどまでにあなたの身体に流れる桐生院家の血、罪深いのです」
 詩はまるで断末魔かのような悲鳴を上げてその場にうずくまり、血の底から響くようなうめき声を漏らし続けた。
「礼二様。私が殺したいのはあなた様なのですが、あなたはお孫さんの誕生にも何も思わなかったようですね? 本当にあなたは、人でなしだ。まあ、良いでしょう。それでは詩様、始めましょう。死にましょう。殺しましょう、あなた様を」
 執事の悪霊は鎌を振り上げ、その刃を詩に向けて振り下ろし、
 しかし、
 その間際、蓮生がため息交じりに言い、執事の悪霊を真っ直ぐに見据えた。
「ど阿呆。あんた、ずっとそうやって恨みに縛られて桐生院家を呪い続けていくのかよ?」
「坊ちゃん、わかったような口を利くのはおよしなさい。世の中には死んだ方が良い人間が居るのは確かなのですよ。ですから、ね?」
「死んだ方が良い人間が居るのが確かなのかどうかそんなのは知らないが、桐生院家のこのふたり、確かに人が産まれてくることを心の奥底から喜んだのだろう? ならさ、生きている方が良い人間っていう可能性だってある訳だ? なら、生かし続けてやれるように努力だってしてやりたくなるじゃないか」
 組んでいた足を解き、蓮生は立ち上がる。
「いけませんね。あなた、先ほどからずっとここに居ますが、あなただけ確かに私たち悪霊を前にしても怖れている様子を見せなかった。そういうあなたを私は悪霊ながらに厄介で恐ろしい相手だと慄いていたのです。よろしい。ならば、あなたは今から私の敵だ。無関係な者を殺すのはやりたくはなかったのですが、しかし、あなたは私の邪魔をするのですからしょうがありません。さあ、あなたから死になさい」
 鎌が蓮生の首に向けて振り下ろされる。
 しかし、蓮生は微動だにせず、そして、鎌も蓮生の首にその切っ先が触れた瞬間に止まった。
 蓮生の白い肌に浮かんだ赤い珠が滴となってつぅーっと首筋を流れる。
 しかし、蓮生は事も無げに静かな声で、こう問いかけた。
「なぜ、殺さない? 殺るんだろう、俺を」
 執事の悪霊が肩を震わせる。
「うるさい。黙りなさい、坊ちゃん」
「俺が武彦に頼んだんだ。あんたたち悪霊の本当の気持ちを知りたくて。あんた、ずっと悲しそうな目で桐生院家の人たちを見ていたよな。本当は悲しいんだよな。今の呪いに伝染して悪霊になってしまった自分が。桐生院礼二に裏切られ騙された自分が。だから、あんたも救われるべき人間なんだ。俺ならそれができる。どうだ? あんたは本当はどうしたい?」
「私は、わたしは、救われたい。本当は……。ですが、ですが、ですが、悔しい。悔しくて悔しくて悔しくてしょうがない」
 地団太を踏む執事の悪霊に、桐生院礼二が土下座をした。
 言葉を何も発する事は無かったが、しかし、獣のようなうめき声を出しながら彼は額を床に擦り付けて土下座し続けた。
 それを見、執事の悪霊は鎌を手放し、両手で自分の顔を覆った。
「あなた方は本当にズルい。ズルすぎですよ。こなんじゃあ、私は殺され損だ。詩坊ちゃん。私はあなたが産まれた時、本当に喜んだのですよ」
 そう呟きながら両手をおろし、真っ白な顔で微笑んだ執事の肩に蓮生は手を置いた。


【3】

 もう生きていた頃の事は微かにしか覚えてはいない。
 自分が居る場所はなんだかとても暗くて寒くてそれだけがわかるだけだった。
 もう自分の名前もわからない。
 ここに居るその理由も。
 とても寒くて暗い。
 寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い寒い
 暗い暗い暗い暗い暗い暗い暗い暗い暗い暗い暗い暗い
 ――ここは嫌だ
 光が温もりが欲しい
 欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい

 そうしてそれは、目の前にとても温かく眩しい光を見つけた。
 いつの間にか自分の隣にいた同じく暗く寒い場所に居たはずのそれを優しく包み込み、浄化していくその光はとても良い匂いがした。


「いい、匂い」

 浮浪者の悪霊がそうぽつりと漏らし、
 それの顔面にある眼が、
 肌に浮かんだ眼が、
 服が溶け、露わになった全身に浮かぶ眼が、
 蓮生を睨んだ。
 そして、無数の眼がにんまりと嗤い、
 それはドロリと崩れ溶けた。まるで蝋人形がそうであるように。
 それはドロリと溶けてただのゼリー状の肉塊となり、アメーバなどが蠕動運動するように蠕動し、蓮生に向かう。
 それを蓮生は見据えていた。身じろぎひとつせず。
「ちぃ」
 武彦は舌打ちをし、蓮生を抱きかかえるとそのまま窓に突撃してそれぶち破り、
 いつの間にか夜となっていた外に飛び出した。
「良い判断だ。武彦」
「あれは喰らうぞ。全部」
「おい、蓮生。何を涼しげな声で言っている。あれはおまえを狙っているんだろう。執事の悪霊と違ってあれはもうおまえの声が届くとは思えん」
「ああ。届かんだろうさ。だから、喰われてやるのも良いかと思った」
「まったく、おまえは。だが、どうする? 外に出ても逃げ場所は無いぞ」
「そうだな。あれは喰らうからな。人間も何もかも。もう見境は無い。だから俺が喰らわれてそれでお終いにするつもりだったが、今は武彦が居るからな。武彦まで巻き込んだら零に泣かれる。それは嫌だからな」
「あいつはおまえがあれに喰われて死んでも泣くぜ」
「そう言われてもこの様では様にならんな」
「なら、身体鍛えろ。次はお姫様抱っこで逃げるぞ」
「それは、冗談ではないな。考えておこう」
 武彦は蓮生を抱えたまま自分の車まで戻るとそれに乗り込み、エンジンをかけた。
「武彦、昼間、俺たちが会った場所まで行けるか?」
「行くさ」
 アクセルをいっきに踏み込み、ギアを5速まであげて車を発進させる。
 夜の帳の中を赤いテールランプが蝶のように舞う。
 それをいまや醜い肉塊となった浮浪者の悪霊は蠕動運動で追いかけていく。
 深夜とはいえ東京の街中にはまだ人は多い。
 暴走車のような荒い運転で進む車とネオンと車のライトに時折照らし出される肉塊に幾人かの人間が悲鳴をあげるが、肉塊は構わずに車を追った。
 もしも、それが蓮生でなければ肉塊は周りの人間を襲っただろう。しかし、現時点ではそれは蓮生にしか興味を持っていない。そして車は昼間の土地に前から突っ込み、有刺鉄線を破り、土地の真ん中で止まった。
 蓮生は車から降り、それを迎える。
 車のライトに凌辱される夜闇から肉塊が現れる。
「確かに俺1人の力では今のお前は救えないかもしれない。けれども、この土地の精霊たちの力を借りれば、おまえを抱きしめて救ってやれる」
 蓮生は両腕を広げ、力を解放した。


【4】
 
 土地から伸びる白い手が肉塊を捉え、そのまま抱きしめるように手たちは肉塊を捉えたまま戻って行った。
 何も無くなったその場所を武彦は見つめ、肩を竦める。
「あれはどうなった?」
「俺があいつと一緒にいてやれれば良いのだがそうもいかんから、ここに居る精霊たちに頼んだ。ここならあいつももう寒くないし、寂しくもない」
「そうか。しかし、桐生院家はこれから大変だろうな。これまで家を支えていた悪霊の力が無くなるんだから」
「ああ、でも、今日、産まれた命がある。それがこれからの桐生院家を支えていくさ」
「そうだな。さあ、帰ろう。零がきっと、熱い珈琲を淹れて待っていてくれる」
「ああ。帰ろう。もう直に朝が来る」


 ―――END―――


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

3626/冷泉院・蓮生/男/13/少年

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■         ライターより          ■
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こんにちは、冷泉院・蓮生様。
担当させていただきました、ライターの草摩一護です。
このたびはご依頼ありがとうございます。
また冷泉院・蓮生さんを書かせていただけて嬉しかったです。
本当にありがとうございます。