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<PCシチュエーションノベル(ツイン)>


『ドッキリ 魔法の飴細工☆』


 ピンポーン♪
 ピンポーン♪♪
 ピンポーン♪♪♪
 右手の人差し指の先で押すボタン。ピアノの鍵盤のように軽やかに鳴るよ。チャイムの音色。
 つまんないのは押してもその音色は一つだっていうこと。
 変われば良いのに音色。
 そしたらチャイムを鳴らして待つ間も楽しいのに。
 でも、出てこないな、お姉さま。
 つまらない。呼び出したのはお姉さまなのに。
 ぶー。
 エサを頬袋に溜めるリスのように頬を膨らませたよ。
 でも、すぐにそれを吐き出すの。
 だって、素敵な事を思いついちゃったんだもん♪
 お姉さまはお昼寝かな?
 昼間から寝てちゃだめだよ♪
 でも、昼間から寝るからお昼寝、って言うんだよね♪
 私、知っている♪
「ふふん、ここにスマートフォンがあります♪」
 知ってる?
 スマートフォンって動画も録れるんだよ?
 これでお姉さまの可愛い寝顔を撮影して、いつも意地悪されているお返しをするのさ♪
 玄関の鍵? 
「そんなの関係ありません!」
 とん、と軽く床を蹴る。
 ふわりとスカートの裾が舞い上がって、
 それが軽やかに宙に舞って、
 スカートを両手で押さえたティレイラの足が毛足の長い絨毯の上に舞い降りた時、
 そこは、
「あら、いらっしゃい、ティレ」
「お姉さま! 起きていらっしゃったのですか?」
「起きていらっしゃったわよ?」
 読んでいた装飾の美術雑誌から顔を上げて、ニコリと黒髪に縁取られた美貌に笑みを浮かべるシリューナ。
 ちょっと後ろめたい気分のためにティレイラはそれを上目遣いで見上げるけれど、
「良かった♪」
「何が?」
 なぜか小さな紅葉のような手をぱちんと合わせて嬉しそうに微笑むティレイラの気持ちがわからなくてシリューナは小首を傾げる。
 忙しなく上下する長い睫毛もまたシリューナの白磁を思わせる肌によく似合う。
 ティレイラは小さな手鏡にシリューナの美貌を映し出した。
「お姉さまが今日も美しくて」
「当然」
 ひょいっと軽く肩を竦めて、鉛筆一本なら手で折れるよ? と言うような気安さでシリューナは言い、
 またティレイラも本心からシリューナが綺麗、って言っているから、それで、ティレイラの悪戯計画はシリューナにバレていないよね? っていう心の動揺はうやむやに。
 さて、でも、では、このいつもの魔術の実験をするために自分を呼び出した時に浮かべるその時特有のあの不敵な笑みが浮かんでいない。
 なら、今日の私はなぜ呼ばれましたか?
 頭の中は?でいっぱい。
 ?の海に溺れちゃう。
 だから、ティレイラは深呼吸。
 するとふいに香った甘い匂い。
 これは、
「お菓子の匂い?」
 それは未来の香り。ティレイラの未来予報。
 小首を傾げたティレイラにシリューナは手にしていた雑誌を置き、組んでいた足を組み替えて、ゆっくりと長い睫毛を上下させる。
 肩にかかる長い黒髪をさらりと払い、その手を軽く上げる。
 その手の上に真っ白なフクロウがとまる。
「この子の足に結ばれた手紙が先ほど届いたの」
「手紙ですか?」
「そう。私の知り合いの魔法菓子店のおかみさんからSOSの手紙をいただいたの。お店の子たちが急にお休みになってしまって人手が足りないから手伝って欲しいって」
「お手伝いですか? ふむ」
 なんだか変なの。お店の人全員がお休みなんて。大丈夫かな?
「どうかした?」
「いいえ。それでお姉さま、私が呼ばれたのって」
「ええ。私ももちろん、お店のお手伝いに行くのだけど、機動力も欲しいからティレにも手伝ってもらおうと思って。良くて?」
「良くても何も」
 ティレイラは肩を竦める。
「お姉さまのお願いには逆らえませんわ」
「当然よね」
 シリューナはニコリと微笑んだ。


 ***

 シリューナはにこりと魔法菓子店のおかみさんに微笑む。
「本当にもう、相変わらずみたいね。Sの境界線ぐらいは心得なさいな」
 肩ポンと叩かれたおかみは苦笑を浮かべる。
「ちょっと、配分間違えたんだもーん♪」
「もーん♪ って、それでごまかそうとしないでよ。自分にまで危害が及んだら楽しくないじゃない。悪戯はする側もされる側も楽しくなくちゃ。恋愛と一緒よ」
「もう。相変わらずクールで説教臭いわね。212年も生きているとそんな風になっちゃうのかしらね?」
「あら。あなたも確か私と同じ歳じゃなかった?」
「あたし、永遠の17歳だもーん♪」
「ふぅー。まあいいわ。ああ、この娘、紹介するわね。私の弟子のファルス・ティレイラ。15歳よ♪」
 わざとらしくシリューナはおかみの手を取ってティレイラの肌を触れさせた後に、おかみ自身の肌を触らせてようやく手を離した。ただし、自分の肌は触れさせない。
「ズルい!」
「ふふん。でも、私の肌は小娘なんかには負けないわよ♪」
 手をパンパンと叩き、シリューナは苦笑を浮かべるティレイラとおかみを促した。
「さあ、お店を開くのでしょう。早くしましょう♪」
 配置は適材適所。
 常日頃から美術品に慣れ親しんで装飾には目が肥えているシリューナはお菓子の飾り付け担当。
 15歳のこの中で一番若くて元気のあるティレイラは配達担当。
 おかみはお菓子制作担当兼総監督。
 すでに完成して山のように積み上げられているお菓子の箱にティレイラは悲鳴を上げるが、
「大丈夫よ。お客様も魔法使いの方ばかりだから思う存分に力を発揮しなさい。本領を発揮しても大丈夫だから」
 本領発揮。
 ティレイラの瞬間移動の能力はたった一度の使用でも彼女の肉体や精神に多分な負荷を与えるためにここは体力勝負。
 ティレイラは両拳を握って可愛らしい顔を赤くして腰を振る。
 ぷるんとスカートから飛び出したのは長い尻尾。
 身体をふりふり。背中に翼。
 それをぱたぱたと羽ばたかせて宙に浮かんだ彼女はウインクをする。
「さあ、ここからは私のステージよ♪」
 あっちへ飛んで♪
 こっちへ飛んで♪
 運びましょう♪
 美味しい美味しいお菓子を運びましょう♪
 私は可愛い可愛い宅急便屋さん♪
 残念ながら黒猫はいないし、飛ぶのもほうきではなくて自前の翼だけど、代わりにスランプになる事もないわ♪
 雨の中でも嵐の中でも運びましょう♪
 美味しいお菓子を運びましょう♪
 素敵なお菓子、皆に喜んでもらえて嬉しいな♪
 だって、届けた物を不味いからいらなーい、って言われたら私だって風邪をひいちゃう……
 るんるんるん♪
「ふふん。甲斐甲斐しく良く働く良い娘じゃないか」
「そりゃ、私の弟子ですもの」
 ウインクしてシリューナとおかみは手をパチンとハイタッチして、そして指先を離すと同時にふたりしてくるくると回りながら厨房を移動し、歌って、踊って、お菓子作り♪


 甘い♪
 甘い♪♪
 甘い♪♪♪
 甘いはお菓子♪
 お菓子はみんな大好き♪♪
 泣いているあの子も、
 怒っているこの子も、
 落ち込んでいるその子も、
 憂鬱なこっちの子も、
 一口食べればみんなハッピー♪♪♪
 笑っているあの子も、
 幸せなあの子も、
 恋しているあの子も、
 これを食べればみんなみんなハッピー♪♪♪
 型のいらないお菓子♪
 甘い甘い甘いお菓子♪♪
 型のいらないお菓子♪
 型がいらないから幸せハッピー♪♪♪
 お菓子の家は子どもの夢♪
 大人も夢♪♪
 みんな大好き夢見るお菓子のお城♪♪♪
 お菓子の前に居るあなたの心♪
 それはお夢♪♪
 あら、おかしい♯
 あなたの心 おかしい♪
 夢はお菓子のお城♪♪
 なら、お皿の上にはあなたの心を砂糖でコーティングしたお菓子のお城♪♪♪
 お夢ならお菓子のお城食べてみんなお夢♪♪
 現実もお夢♪♪♪
 美味しいお菓子♪
 夢のお菓子のお城♪♪
 お皿の上のそれはあなたのお夢と現♪♪♪
 それ食べたらお夢と現があなたの心♪♪
 あなたの血肉♪
 ♪♪♪♪さあ、丸々と太って召し上がれー!



 最後のお菓子のお城にチョコレートの飾り付けをして、注文のお菓子の生産を終了させる。
 ワイングラスに上等な葡萄酒を注いで、そのまろやかな液体を舌の上で転がし、喉に流す。
 その濃厚な大地とお日様の味が喉元から胸に広がって満足げにひとつ頷くとシリューナは形の良い顎に右手の人差し指をあてて小さく首を傾けた。
「それにしてもねえ、あなたの今回のお店のスタッフ全員ダウンさせた悪戯って何だったの?」
 そのシリューナの問いにおかみは不敵な笑みを浮かべた。



 私は可愛い運送屋さん♪
 風のようにぴゅんぴゅんと動くの♪♪
 働くの♪♪♪
 黒い猫じゃないよ♪♪♪
 赤いふんどしもしてないよ♪
 私の尻尾に触れるのはやめてよね?
 それは伝説♪ 
 都市伝説♪
 赤いふんどしに触れると幸せになれるよ♪♪♪
 はい、タッチ♪♪♪♪
 ねえ、それ本当?


 歌って踊ってぴゅんぴゅんと飛んで運んで、お客様に喜ばれて、ついでに脂肪燃焼♪
 でも、お胸の脂肪が痩せちゃうのは困っちゃうな♪
 だって、私、ぴちぴちの15歳の年頃の少女だもん♪
 夢見て恋して、そしていつかあのSのお姉さまに復讐するの!
 そのためには栄養補給、心のエナジー補給♪
「おかみさん、優しいです♪ ここにあるお菓子は食べてもいいそうですよ♪♪♪」
 トレーに入っているお菓子はどれも宝石みたい。
 綺麗で可愛らしくて、夢いっぱい♪
 丸ぁるいマカロンをひとつ手に取ってそれを口に頬張って、うーん、頬っぺた落ちそう。
「し・あ・わ・せ♪」
 あまりにも美味しくて幸せで赤くなった頬に手をあててうふふふとティレイラは満面の笑みを浮かべる。
 これが売り物にならないの?
 なんて贅沢!
 これ、みんな食べていいんだって♪
 甘いね♪
 美味しいね♪♪
 太っちゃうね♪♪♪
 うん、でも、いいの。
「太っちゃえー♪」
 甘い誘惑にはかないません。
 しばらく体重計には悪態ついちゃうけれど、許してね♪
 たくさんたくさんたくさんお菓子を食べて、さあ、これが最後。
「あ、でも、お姉さまの分……。うーん、でも、これも綺麗。宝石みたいね。キラキラ」
 飴玉を手に取って口に入れる。
「うーん、幸せ♪」
 それを食べた瞬間、なんともいえない幸せな気分でいっぱいになって、脳内ホルモンいっぱい出て、ティレイラはすっかりとシリューナのことを忘れてお菓子を食べてしまう。
 そうして、それを見つける。
 真っ白い紙。
 そこに書かれた可愛らしい丸文字。


 ドッキリ大成功♪


「はい?」
 小首を傾げる。
 でも、この雰囲気、なんだか既視感、
「デジャブ?」
 と、口にして、あー、とティレイラは理解する。
 だって、この部屋に満ちる魔法をふんだんに含んだ空気と、これから何かの魔法による結果が現れる気配はいつもいつもいつもいつもいつもいつもあのSシリューナの暇つぶしの悪戯をされる時のそれだったから。
「あぁ……」
 そうしてそこに、可愛らしい15歳の少女の飴細工ができましたとさ♪


 ひょいっと肩を竦める。
 シリューナは右手の人差し指で飴細工となったティレイラの尻尾を触って、指先に付いた飴をぺろりと舌の先で舐めた。
「竜の運送屋さんの尻尾に触ると幸せになれる、また新しい都市伝説の誕生ね」
『あーん、お姉さまのいじわるぅー!』
「あらら、でも、今朝、私に意地悪しようとしたでしょう、ティレイラ? その報いね♪ 因果応報♪♪ けど、私は優しいからあなたを私の家で大事に大事に飾って愛でてあげる♪♪♪」
 ちょうど部屋のインテリアに飽きていたの。
「ふふん。素敵♪♪♪♪」
 満面の笑みを浮かべるシリューナに、結局ばれていた今朝の悪戯にひぃーと心の中で叫ぶティレイラ。
 今日もこのふたり、仲良し師匠と弟子は平和♪♪♪♪
 仲良く悪戯しな♪


 −fin-



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

3785/シリューナ・リュクテイア/女/212/魔法薬屋
3733/ファルス・ティレイラ/女/15/配達屋さん

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■         ライターより          ■
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こんにちは、シリューナ・リュクテイア様。
 こんにちは、ファルス・ティレイラ様。
 担当させていただきました、ライターの草摩一護です。
 このたびはご依頼ありがとうございます。
 お気に召していただけましたら幸いです。^^