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――悪戯には甘いお仕置き?――
「シリューナさん、どこに行くんですか?」
可愛らしいスカートをひらひらとさせながら、ファルス・ティレイラが問い掛ける。
「知り合いに魔法菓子のお店を開いてる人がいるんだけど、手伝いを頼まれたのよ。結構大変そうだし、貴女にも手伝ってもらおうと思ってね」
シリューナ・リュクテイアはにっこりと微笑みながら言葉を返す。
「でも、私……火の魔法は得意ですけど、他の魔法はまだコントロール出来ない部分があるのに、お手伝いなんて出来ますか……?」
「魔法菓子を作るのは、あくまで知り合いよ。私は魔法菓子の飾りつけ程度を手伝うつもりだし、貴女にはその機動力を生かして配達の手伝いをしてもらうつもりよ」
ファルスの問いかけに、シリューナは苦笑気味に答える。
彼女が火の魔法以外がまだダメである事は、師匠であるシリューナが一番知っている。そのせいか最初から魔法菓子を作る手伝いをさせるつもりはなかった。
「……良かった、私が魔法菓子を作ったらとんでもない事になりそうで不安だったんです」
「まったく、不安にならないためにも日々の精進が大事だって教えているでしょう」
「えへへ、次はシリューナさんの手伝いが出来るように魔法の修行頑張りますから」
シリューナの言葉に、ファルスはやや引きつった笑みを浮かべながら答える。
「さぁ、今日は忙しくなるんだから早く行きましょうか」
「はい!」
※※※
「突然手伝いなんて頼んじゃってごめんね、忙しかったんでしょう?」
魔法菓子店に行くと、店主が酷く申し訳なさそうに話しかけてくる。
「気にしなくてもいいわ、私が忙しい時は貴女に手伝ってもらう事にするから」
「そういう時はお安い御用よ、お弟子ちゃんもわざわざ来てくれてありがとうね」
「い、いえ! 精一杯頑張りますからよろしくお願いします!」
ファルスは丁寧に頭を下げながら挨拶をすると、店主は微笑ましそうに「良いお弟子さんじゃない」と呟いた。
「色々と失敗はしてくれるけど、まぁ、私にとっては可愛い弟子ではあるわね」
シリューナは苦笑気味に答え、それぞれ手伝いを開始し始めた。
「お弟子ちゃんは、倉庫に置いてある配達用のお菓子を届けてくれるかしら? ちゃんとお菓子に地図と届け先の名前も書いてあるから迷う事はないと思うんだけど」
「分かりました、それじゃ私は配達に行ってきますね!」
ファルスは倉庫に向かい、配達用のお菓子を抱えたまま、翼と尻尾を出して飛んでいく。
「頑張り屋で可愛い子じゃない、ああいうお弟子さんなら私も欲しいわね」
「あげないわよ」
「分かってるってば、シリューナはそっちの飾りをお願い。私はこっちをするから」
シリューナが見せる僅かな独占欲を微笑ましく思いながら、店主は自分の仕事に取り掛かった。
※※※
「……ふぅ、とりあえず10軒回って来たけど、少し休憩しちゃおう」
残り幾つかになった所で、ファルスは少し休憩を取る事にした。
「あれ? これって何だろう、配達先の地図とかはないみたいですけど」
倉庫の端に置いてあったのは、地図も何もくっつけられていない箱ばかり。
「それは傷物よ、作ったのはいいけど売り物にならないからそこに纏めてあるの。もし食べたい物があったら、好きな物を食べていいわよ」
ひょっこりと顔を覗かせた店主が、ファルスの問いに答える。
「作ってから時間が経ってるし、魔法効果もない物ばかりのはずだから」
「いいんですか? ちょっと休憩しようと思ってたのでいただきます……!」
傷物とはいっても、箱に入っているのは綺麗なお菓子ばかりでファルスは目を輝かせる。
「私は仕事に戻るけど、あとはよろしくね」
「はい! 全部配達しますから任せて下さい!」
店主を見送った後、ファルスは一際綺麗な箱に入ったお菓子を手に取る。
それも地図や依頼先は書かれていないため、店主のいう傷物商品という事だろう。
「わぁ、綺麗な飴玉……」
箱の中には色とりどりの小さな飴玉が入っていて、見ているだけで楽しくなってくる。
「こっちのチョコを食べて、配達を終わらせてからこの飴玉を食べようかな」
飴玉の入った箱を別な場所に置き、チョコを食べて、ファルスは残りの配達に向かい始めた。
※※※
「あら? やけに機嫌が良いみたいだけど、何かあったのかしら」
倉庫に向かうファルスの笑顔を見て、シリューナは首を傾げる。
「……何も起こらなければいいけど。あの子がああいう顔をするときって、大抵何かが起こる時なのよね」
小さなため息を吐きながら、シリューナは再び飾り付けに取り掛かった。
「綺麗な色、どんな味がするのかな」
一番上にあった紫色の飴玉を食べると、甘酸っぱい味が口の中に広がっていく。
「……美味しい! それに小さな飴玉だから、いくつでも食べられそう」
赤い飴玉、青い飴玉、それらを取ってファルスは次々に口の中にいれていく。
「あれ? 一番下に紙が入ってる……」
飴玉に隠れていた紙を見つけ、それを手に取り、書かれている内容を見て青ざめた。
「え、た、食べた者を少しだけ飴に変えてしまう魔法……!? でも、もう魔法の効果はないものばかりだって……」
その時、生やしたままになっていた尻尾が美味しそうな透明の葡萄色に変わり始めている事に気づいた。
(どうしよう! このままじゃ、本当に飴になっちゃったら……!)
ファルスが慌てている間にも、どんどん飴化は進んいき、ゴトン、と持っていた飴玉の箱を落としてしまう。
「……ファルス? 物音が聞こえたけど、何をして――」
倉庫に入ったシリューナは、その有様に思わず言葉を失った。
何故なら、ファルスの形をした美味しそうで大きな飴が転がっていたから。
「どうしてこうなったのかしら、説明をお願い出来る?」
「……魔法の切れてないお菓子を食べちゃったんだと思う、1日すれば元に戻るから大丈夫なんだけど、お弟子ちゃんには悪い事をしちゃったわね」
「別にいいわ、これはこれで綺麗な彫像になっているから」
シリューナの言葉を聞き、店主は呆れたように肩を竦め、倉庫から出ていく。
「ん、ちゃんと葡萄味なのね。美味しいから食べちゃいたいけど、そうしたら尻尾がなくなっちゃうわね。仕方ないからこのまま持って帰って飴のオブジェを堪能させてもらうとしましょうか」
シリューナは楽しそうに呟き、その言葉通りに魔法が解けるまで、ファルスの飴姿はシリューナによってじっくりと堪能されてしまうのだった――……。
――登場人物――
3785/シリューナ・リュクテイア/女性/212歳/魔法薬屋
3733/ファルス・ティレイラ/女性/15歳/配達屋さん(なんでも屋さん)
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シリューナ・リュクテイア様
ファルス・ティレイラ様
こんにちは、いつもご発注頂きありがとうございます。
今回はシチュノベ・ツインのご発注、ありがとうございました。
内容はいかがだったでしょうか?
気に入って頂けるものに仕上がっていれば幸いです。
それでは、またご機会がありましたら宜しくお願い致します。
2014/7/16
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