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<東京怪談ノベル(シングル)>


―― 強き力を求めて ――

「え? それって、大丈夫なのかなぁ……」
 瀬名・雫が海原・みなもの言葉を聞き、少しだけ困ったような表情を見せた。
 雫はすべての事情を知っているからこそ、素直に頷けない部分もあるのだろう。
「けど、力の底上げをしなければこの先をやっていけないと思うんです」
 みなもが提案した事、それは呪具・獣の証の効果でスキル構成を考えてみるというもの。瀬名にとってLOSTはただのゲームだが、みなもにとってはそうじゃない。
 LOSTを進めていくたび、強くなるたびに『侵蝕』されていくものなのだから。
「もちろん地道に戦ってレベル上げをしたり、新たなスキルの取得が前提の話ですけど」
「……そっか、まぁ、みなもちゃんの場合は強くならなくちゃいけないんだもんね」
 瀬名はみなもの決意に震える瞳を見て、小さくため息を吐く。
 みなもの理解者だったはずなのに、いつのまにか自分の方が臆病になっていた、と――。
「分かった、サポートは任せて! みなもちゃんが思う存分出来るようにあたし頑張る!」
「ありがとうございます、雫さん」
 みなもにとって、その言葉はとても心強く安心できるものだった。
「新しいスキルって言ってたよね、だったら…このクエストはどう?」
 パソコンの画面に瀬名が表示させたのは、老人を助ける、という救助クエストだった。
「雫さん、このクエストは……? あたしはスキル取得もしくは威力アップがいいんです」
「ふっふっふ、これはただのクエストじゃないんだよー」
 瀬名はカタカタとキーボードを叩きながら、自分のキャラのステータスを見せてきた。
 けど、その辺に疎いみなもは瀬名が何を言いたいのか分からず、首を傾げる。
「このクエストをクリアすれば、スキル同士の合成をする事が出来るんだよ」
「……スキル同士の合成?」
「そ、獣の瞳と獣の知恵を合成したり……とかね」
 瀬名の言葉を聞いて驚く。
 もし、それが可能になれば今まで以上にスキルアップを出来るのだから。
「あたしも何度か使ってるんだけど、結構イイもんだよー」
 だけど、その言葉を聞いてみなもは首を傾げる。
「……雫さんが何度かしか使ってないって事は、何かデメリットがあるんですか?」
「鋭いね。スキル合成をすれば、元になるスキルはなくなっちゃうし、スキルレベルも1に戻っちゃう、しかも思い通りのスキルが出来るとも限らないんだよね」
「……そうですか、やっぱりそんな簡単に強くなれるものでもないですよね」
「どうする? 今日は普通にスキルアップのためにLOSTに行く?」
「そうですね、このクエストの件は少し考えさせてもらいます」
 みなもは柔らかく微笑みながら答える。
「こっちのクエストで出来る合成は上級になるんだけど、普通に『統合』する事は出来るんだよ、こっちはお試し的なものだから数日で統合したスキルも元に戻るんだけど」
「……なるほど」
「けど、みなもちゃんは『統合』はやめた方がいいんじゃないかな?」
 瀬名は心配そうにみなもに言葉を掛ける。
「え?」
「だってさ、少しの事でも影響受けちゃうんだよ? スキル統合でも絶対影響受けて、スキルが戻った時、その影響も一緒に戻るなんて考えられないんだよね」
 確かにそれは瀬名の言う通りだった。
 効果が切れるから、みなもの侵蝕も元に戻る――……LOSTに関して言えば、そんな都合の良い話はありえないように思える。
「いえ、挑戦しなければ何も分かりませんから」
 けど、みなもの決意は固いらしく、スキル統合のやり方を瀬名に聞く。
 最初は教えるつもりはなかったが、みなもの強い決意を見て、瀬名も教える決意をする。
「みなもちゃん、あたしに出来る事があったら何でも言って。コンピューターに関しては誰よりも詳しいって自負してるし、きっと力になれる事があるはずだから!」
「ありがとうございます、その言葉だけで十分嬉しいですよ」
 瀬名はそう言ってくれるけど、みなも自身は必要以上に頼る事は止めようと思っていた。もし、瀬名にまで侵蝕が進んだら、と考えると怖くなかったからだ。
(……けど、ネットには疎いですし、どうしても力を借りる事になってしまうのですけど)
 みなもは小さくため息を吐きながら、ちらり、と画面を見る。
 そこに表示されているのは統合画面。
 みなもは獣の瞳、獣の本性、獣の知恵、それらを統合して『獣化』に変化させた。
(あれっ、完全獣化になるわけじゃないんだ)
 変化したスキルを少し意外に思いながら、みなもは心の中で呟く。
「…っ!」
 その途端、がくりとみなもが膝をついた。
「みなもちゃん!」
 スキルを変化させたせいか、みなもを侵蝕する『何か』が進んでしまったのだろう。
「やっぱりやめようよ、これ以上みなもちゃんの侵蝕が進んじゃったら……」
 いつもは勝気で自信満々な瀬名も少し涙の混じる声で、必死に説得をしてくる。
「いえ、ここで止めるわけにはいかないんです」
 侵蝕されてしまった自分の手を見つめながら、みなもは静かに答える。
「スキル統合で侵蝕が進むのは予想出来ていました、僅かな侵蝕を畏れられるほど、あたしは浅い場所にいるわけじゃありません、もう後戻りは出来ないんですよ」
 そう、みなもに残されているのは前に進むという選択肢のみ。引き返すという選択肢は、きっと最初から与えられていなかったのだから。
「……そっか」
 瀬名は悲しそうに呟き、パソコンの画面に視線を向け――「あれ」と呟いた。
「どうしたんですか?」
「みなもちゃん、これって特殊スキルじゃない? 着ぐるみ・虎の場合のみ『魔獣化』になるって説明蘭に書いてあるよ」
 瀬名に促され、スキルの説明蘭を見ると、確かにそのように書かれている。
「特殊条件付のスキルって結構珍しいんだよね、ある意味ではラッキーだったのかな? ……って、みなもちゃんには相応のデメリットがあるんだろうけどさ」
 瀬名は苦笑気味に呟く。
「今後、このスキルを試す時……付き合って頂けますか?」
「もちろん! あたしはみなもちゃんのサポート係なんだから!」
 瀬名の言葉に微笑み、みなもは「ありがとうございます」と言葉を返した。



―― 登場人物 ――

1252/海原・みなも/13歳/女性/女学生

NPCA003/瀬名・雫/14歳/女性/女子中学生兼ホームページ管理人

――――――――――

海原・みなも様>
こんにちは、いつもご発注頂きありがとうございます。
今回のシナリオはいかがだったでしょうか?
気に入っていただける内容に仕上がっていれば良いのですが……!

いつも可愛いみなもちゃんを書かせて頂き、
本当にありがとうございます。

また機会がありましたら、どうぞ宜しくお願い致します。


2014/7/25