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夏のプールで一悶着！
「……軽率だった」
うだるような暑さ、とはこのようなものなのだろうか。
例年通り、東京の気温は夏の日差しの中、ぐんぐんと数字を上げていく。
室内でクーラーでも利かせていれば、それは快適な空間であろう。
だが、未だ駆け出しの称号を返上しきれていないユリにとって、クーラーと言う文明の利器は『贅沢』と言う名の敵であった。
更に今年は何かと出費が多かった。
それを考えれば、クーラーに割く電気代は少しでもケチり、楽な涼のとり方を考えたのだが……。
「……まさか、こんな事になるなんて」
それは、暑さゆえに頭が働かなくなったから、であろうか。
ユリは近くのプールにやって来ていた。
波打つ水、跳ねる飛沫、楽しげな声。
その場に一人、と言う状況がこれほどまでに辛いとは、思っても見なかったのである。
「……依頼をこなして涼が取れるなら一石二鳥、と軽はずみに受領した私が悪かったのかな」
今回、麻生も連れてきていない。彼はなんと驚く事に、夏季休暇であった。
日ごろ、あんまり働いてないあの男が、である。
ユリの口からも、自然と舌打ちが零れてしまっても仕方がないだろう。
「……いや、大丈夫。適当に依頼を片付けて、プールで泳ごう」
肩を落としながらも、依頼内容を頭の中で反芻する。
『幽霊からの脅迫状が届きました。解決してください』
簡単に言うならこうだった。
プールの運営は当然、悪戯だとして取り合わなかったが、幽霊事件を放置して混乱が広まるのはIO2としても回避したい。
そこでやってきたのがユリと言うわけだ。
件の幽霊の脅迫文には『波のプールで、スゲェ高波を起こす』というモノだったが、それを解決するのが今回の仕事である。
「……頑張る、負けない」
キャッキャと楽しげに笑うカップルの姿が目に入り、ユリは悔しげに眉間にしわを寄せた。
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「ふむ、雑然とした感じが、なるほど庶民のプール感がするな」
「師匠みたいなブルジョワ趣味には合わないだろうよ」
「何を言う。これはこれで趣深いというモノだ。いつぞやの沖縄の海と言うのも悪くはなかったがな」
雑然としたプールに咲く、一輪の黒い華。
周囲の男女を問わず、視線を奪い去るモノキニ姿が燦然と輝く太陽の下にあってもなお輝いて見える。
「あの、冥月さん……ちょっと恥ずかしいんですけど」
「なに、恥ずかしがる事はない。零だって素質は悪くないんだ。着飾れば衆目を集める事ぐらいできるというのを、お前自身に自覚させてやろう」
冥月の横には零。彼女の方はフリル付きのビキニであった。
冥月のセクシーなモノキニとは違い、零は可愛げのあるカラーリングとフリルでキュートめのセンスであった。
そして二人とも美しいし、可愛い。
服を着ている人物自身が、それぞれ魅力のある水着を着てなおさら際立つ。
……その対比として、荷物持ちの少年がいるのも、忘れずに付け加えておこう。
「おら、小僧。適当な場所にパラソルとチェアを用意しろ」
「クソ……師匠め、相変わらず人使いの粗い……ッ！」
小太郎の持っていたのは日避けのパラソルと寝そべる事が出来るほどの大きさのチェア。
冥月はモデルも裸足で逃げだすスタイルであり、その高身長からたたき出される数値に見合ったチェアとなると、小柄な小太郎が持つと更に大きく見えそうだった。
「テメェ、師匠！ 自分の荷物くらい、自分で持ったらどうなんだ！」
「小太郎……お前は本当に甲斐性というモノを知らんな。女性に重いものを持たせるというのが、どれだけ男を下げるか知らんのか」
「女性なら俺だって考えるよ！ でも師匠は師匠だ！ 女じゃない別の何かだ！」
「ほぅ……言ってくれるじゃないか。良い度胸だ」
真夏の炎天下にヒヤリと背筋を凍らせる殺気。
暑さで苛立っていた小太郎も、慌てて口をつぐんだ。
「最初からそうやって、黙って従っていればいいんだ。……おや？ どうした、零」
「あ、いえ……」
ふと窺うと、零がプール全体を眺めて神妙な顔をしている。
「このプール、なにか良くないモノが憑いてます」
「良くないモノ？ 妖怪かなにかか？」
「わかりません、正体がつかめないほどボンヤリとしているというか……。でも確かに思念は感じます」
元オカルト兵器である零のセンサーに、ヒシヒシと伝わってくる『想い』。
暗く、重く、いやな感じのする思念がプール全体に渦巻いていた。
「なんでしょう……嫉妬、でしょうか」
「嫉妬？ あぁ、大方、生前にモテなかった男の霊とか、そのあたりだろう。そんな風にはなるなよ、小僧」
「ならねぇよ！！ ってか、早くこの荷物下ろさせろ！」
「っと、そうだな。適当な場所は……ん？」
冥月が視線を巡らせると、見知った顔が一つ。
「……なにやってるんですか、皆さん」
冥月や零の備忘が衆目を集め、注目の人物たちが大声で言い合いなどしていれば、嫌でも目立つ。
そんな騒ぎを聞きつけて、ユリがやって来ていた。
「ユリじゃないか。お前こそこんな所で何をやってる？」
「……仕事ですよ。どっかの適当な幽霊が、人様に迷惑をかけるつもりらしいですから、それを懲らしめるんです」
「へぇ……。難しい仕事か？」
「……いえ、単純な除霊ですから、それほどは」
「なるほど。じゃあ問題ないな。ゆっくりと観戦させてもらおう」
小太郎が用意したパラソルの下、ゆったり出来るチェアに座り、冥月はユリを流し目で見やる。
「もちろん、すぐさま解決して見せるんだろうな？ 大した事のない相手なんだろう？」
「……当然です。冥月さんに心配されるような案件ではありません」
「だ、そうだ。小僧、お前も手伝うなよ」
「え？ なんで俺に振る？」
急に話を振られ、わずかばかりの休憩を挟んでいた小太郎はとぼけた表情をする。
「俺は別に、ユリの手伝いくらいなんでもないぞ」
「私の荷物を背負っただけでへばってるくせに、何を言う」
「そのパラソルとチェア、何で出来てるんだよ。めっちゃ重かったぞ」
「いざと言う時、バリゲードにはなる」
「んなもん、平和なプールに持ち込んでるんじゃねぇ！？」
冥月に大して挨拶のように噛み付きながらも、小太郎はパッと立ち上がってユリに向き直る。
「さ、行こうぜ。仕事なんか適当に片付けちまって、さっさと遊ぼう」
「……いえ、本当に必要ありません。三嶋さんも冥月さんと一緒に遊んでいてください」
「おいおい、人の好意は素直に受け取っておくもんだぜ？」
「……なら、私の好意を受け取っておいてください。……あっ！ 今の好意ってのは、私の仕事なんか手伝わなくて良いって言う意味のですね……！」
「え？ あ、おう……」
なんだか知らないが、勝手にギクシャクし始める少年少女に、零は苦笑いをし、冥月は隠さずに舌打ちした。
「安い青春劇とかいらないから、ユリはさっさと行ってこい」
「……わ、わかってますよ！ それじゃ」
ユリは背を向けると、そのまま波のプールの方へ歩いて行ってしまった。
「待てよ、ユリ！」
「小太郎！」
追いかけようとする小太郎を、冥月が呼び止める。
「追うな。この件はユリに任せておけ」
「どうしてだよ？ 別に手伝ったっていいだろ？」
「助けが必要なら向こうから何か言うだろう。それに、この程度の仕事を一人でクリアできないような娘だと思っているのか？」
「それは……」
「このぐらい、独力で解決してこそ、下っ端脱却の一歩さ。それよりも、ちょっと背中に日焼け止めを塗ってくれないか？」
「……わかったよ」
ため息をつきながら、小太郎は荷物から日焼け止めを取り出した。
チラリと振り返ったユリが、顔をしかめたのも気付かなかっただろう。
「……ちょっとは追っかけてきてくれてもいいでしょ、小太郎くんのバカ」
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「零のヤツ、ちょっと楽しそうだな」
チェアから眺める流れるプール。
浮き輪に乗っかり、プカプカと流されている零の様子は、年恰好相応の女子に見えた。
「ふむ、やはりプールに来たからには少し泳いでおくべきか」
軽く準備運動をしながら、冥月はその辺のプールを眺める。
零と一緒に流れるプールで流されながら涼んでも良いが、他に何か面白そうなものでもあるかもしれない。
……と思ったら、波のプールの際で一人寂しくたたずんでる少女の姿が目に入った。
「アイツはもう……」
冥月はため息をつきながら、彼女の近くへと寄って行った。
「おい、何を寂しそうにしてるんだ」
「……わっ、冥月さん！？」
寂しそうにしていた少女とは、言わずもがなユリ。
「小僧はどうした？ 一緒じゃなかったのか？」
「……冥月さんが連れて行ったんでしょ？ 私は知りませんよ」
「こちらに来たものだと思っていたけどな」
日焼け止めを塗り終わった後、なんとはなしにどこかへ消えていった小太郎。
少ない甲斐性を総動員してユリに会いに行ったのかと思ったが、そうではなかったらしい。
「……三嶋さんを探しに来たのなら、当てが外れたでしょう。どっか行ってください。私は仕事をしに来たんですから」
「そんなに邪険にする事はないだろう。それに私は小僧を探しているわけではない。単に暇潰しを探してるんだ」
「……それが私ですか」
「ユリがその役目を負ってくれても、私としては一向に構わん」
その言葉に対して、ユリは心底嫌そうな顔をしたが、しかし、逆にその表情を見ると構いたくなってしまう。
「で、どうなんだ、その仕事の方は」
「……弱い幽霊なのか、それとも隠れる事に秀でているのか、居場所がわかりません」
確か、零ですら居場所を特定できないほどであった。
それほど存在が希薄なのか……いや、だとしたら脅迫状を送ってくるような事も出来ないだろう。
だとすれば、隠れるのが相当得意な幽霊らしい。
「ふむ、幽霊だと実体もないだろうし、私が影で探るわけにもいかんしな」
「……私一人に任せるんじゃないんですか？」
「もちろん、そのつもりだ。敵の位置を把握して、ユリだけがわからない状況を傍から見て楽しむ」
「……くっ！ そうやって私がワタワタするのを楽しんでいるんでしょ！」
「さっきも言ったが、私は暇潰しにやってきてるのだよ」
ユリの口がへの字に曲がり、眉間にしわがよってきたところで、ちょっとやりすぎたか、と反省する。
これ以上やると、本当に怒られかねない。
「まぁ、仕事が終わったら何か冷たいものでもおごってやるから、早く片付けて来るんだな。お前だって遊びたいだろ？」
「……そりゃ、まぁちょっとは……。そもそも涼を取りにきたわけですし」
「ん？ 最後、なんていった？」
「……な、なんでもないです！」
「涼みたいなら、前に隠れ家のカードキーをくれてやったろ？ エアコン使い放題だぞ」
「……聞こえてるんじゃないですか！！」
頬を膨らしたユリは、そのまま冥月に背を向ける。
「……私はもう一回りしてきます。犯行予告は波のプールでしたが、他の場所にいるかもしれませんので」
「おぅ、気をつけてな」
と、ユリがその場を離れようとした時。
どこからともなく、声が湧き出てくる。
『見つけた……俺の理想の娘……！』
それは水の中から音が染み出るように、暗く、深く、腹の奥に響いてくる声であった。
冥月もユリも、すぐに周りを確認するが、その姿が全く見えない。
「……冥月さんの声色ってわけじゃないですよね」
「バカを言うな。この場に私の理想の娘はいないぞ」
「……そもそも理想があるんですか」
「まぁ、それなりにはな」
『貴様ら、俺を無視するつもりか！」
軽口を投げつけあっていると、声は幾らか怒りを含んだように大声を出す。
しかし、声の位置は特定できない。
プールの中からのようではあるが、正確な位置を割り出そうにも音が色々な所から響いているように聞こえるのだ。
「面倒くさい相手だな。姿を見せたらどうだ」
『自ら優位を崩すほど馬鹿ではないんでな！』
「……男らしくないとは思わないんですか」
『うるさい！ お前ら女はそうやって、何かと俺を馬鹿にしやがる！』
卑屈な声は怒りの他に、少しナミダを含んだように震える。
『貴様らにモテなかった俺の怨みがわかるか！ 死んでなお、この世に存在し続けるほどの恨みが！』
「理解したくはないな」
「……多少、同情はしますけどね」
『くそぉ！ お前らなんか！ お前らなんかぁ！』
二人の挑発に乗っかった幽霊は、どこからともなくその力を発する。
途端に、プールの水が不自然にうねるように見えた。
「ユリ、力の発生源を追えないか？」
「……水の中、と言うのはわかりますが、大元が特定できません」
「ちっ、とりあえずプールから離れろ」
冥月の号令と共に、二人はプール際から離れる。
すると、水は不自然なうねりを収め、静かになる。
「さて、どうする、ユリ？ ここなら安全圏のようだが？」
「……冥月さんは見ていてください。ここは私がやります」
そう言うと、ユリは冥月の前に一歩出る。
「……冥月さんの言う通り、この程度の幽霊、私一人でどうにかしないと下っ端から脱却できませんから」
「ならば観戦させてもらおう」
『ぐふふ、小娘一人で俺をどうにかできると思っているのか？ 甘い！』
「……そういうなら、プールから出てきたらどうです？ あまり遠くへはいけないようですけど？」
『なめられたものだな！』
声が怒声と弾けると共に、プールサイドに残っていた水の粒が幾つも合わさり、大きな水球となる。
「幽霊の媒介はプールじゃなくて、水そのものか！ ユリ！」
「……あっ！」
不意を突かれたユリは、飛んでくる水に対して反応が仕切れなかった。
そこそこ質量のある水の塊が、ユリの腹部を強か打ちつける。
「……ぐぅっ！」
『このまま水の中に取り込んでくれる！ そして貴様は窒息し、魂を俺と同化するのだ！』
「……誰がっ！」
ユリが反撃しようと能力を発揮しようとするが、それよりも早く、水がユリの頭目掛けて飛んでくる。
最悪、呼吸が出来なくなったとしても、まだ勝機はある。
そう思ってユリは覚悟を決めるが、しかし――
ユリを捕らえていた水の触手が、スパン、と切断される。
『なぁっ！？』
「ユリに手ぇ出すなら、ちょっと見逃せないな」
上から降ってきたのは小太郎。その手には既に霊刀が現れている。
霊刀によって触手を断ち切っていたのだ。
「……小太郎くん」
「大丈夫かよ、ユリ」
水の塊とユリの間に、小太郎が立ちふさがる。
しかし、その様子を見て冥月が声をかけた。
「おい、小僧。手出し無用だと言ったはずだぞ」
「だったらユリがやられそうなのを見てろってのかよ？」
「あの程度、ユリ一人でもどうにかなっただろ。助けるならもうちょっとタイミングを見計らえ」
「……そうです。私一人でも何とかできました」
「え！？ 総スカン！？ 助けたのに！？」
助けたはずなのに、ユリにまで毒づかれて多少涙目になる小太郎。
しかし、助勢が現れたのを見て、水の塊は少したじろいでいるように見えた。
自分が劣勢だと判断したか。
「見ろよ、怖気づいてるぜ」
「……小太郎く……三嶋さんはもう手出ししないで下さい」
「なんで！？」
「……私一人で何とかできますから！」
ユリは小太郎よりも前に出て、自分の力を発揮する。
アンチスペルフィールドは水球の周りに展開され、その力を奪い去る。
すぐさま水の塊はプールサイドにぶちまけられ、その姿をなくした。
「……ほら、私一人でも何とかできます」
「おい、ユリ。まだ終わってないぞ」
「……え？」
力の使用を始めた幽霊は、その存在感を増している。
今ならば見鬼の力を持つ小太郎の目に、その姿がしっかりと見えていた。
『くそぅ、俺の理想の娘までも……やっと見つけたと思ったのに！』
「……まだ、生きてる！？」
「幽霊だから死んでるけどな」
『俺の理想のツルペタ娘だと思ったのに！ お前まで俺を裏切るのか！』
「……誰がツルペタですか！」
ユリは自分の胸を押さえて、プールの方に向かって吼える。
「うむ、しかしそれを否定する事は難しいな」
「……外野！ うるさいですよ！」
後ろで冥月が小難しい顔をして、唸っていた。
「……わ、私だって育ってるんですから。今に冥月さんなんか追い越すんですからね」
「ほう……成長しているという事は、誰かに揉まれたか？」
「……揉まれません！ そんな事するのは冥月さんだけです！」
「なんだ、小僧との仲が一足飛びで進んだかと思ったのに」
「……何を期待してるんですか……」
「二人とも、漫才するのはいいから、今は幽霊に集中しろよ」
あろうことか、小太郎に注意されて二人はプールに向き直る。
『こうなったら、こうなったらこのプールごと全滅させてやる！ カップルなんか全員滅びてしまえ！！』
幽霊の怒りが爆発したか、波のプールに収容されていた全ての水がジワリ、と持ち上がる。
凄まじい力ではある。だが、もう居場所は割れている。
「ユリ、あの水の中心だ」
「……わかりました」
小太郎の指差す先、真っ直ぐにユリはフィールドを展開させる。
ある程度自由の利くフィールドの形状。それを最大限生かして、その辺り全体に発生させたのである。
『な、なにぃ！？』
幽霊は断末魔を残して、すぐに存在が掻き消えてしまった。
「……ふぅ、終わったみたいですね」
「案外、あっけなかったな」
ユリと小太郎が安心したその時、
『まだ……終わらん……ぞ！』
どこに残っていたやら、幽霊の残りカスが水を操っていた。
そして、水は鋭利な刃物になって、ユリへと襲い掛かる。
「危ねぇ！ ユリ！」
「……きゃっ！」
小太郎が間に入るのも、ユリが防御するのも間に合わず、しかし冥月も動かなかった。
その水の刃は――ユリの身体に届かなかったのである。
ユリの身体に触れる前に、水は支えを失って瓦解し、水滴となってプールサイドに消えた。
幽霊は本当に最後の力を振り絞ったらしく、そのまま姿も存在も確認できなくなった。
「……さ、最後の最後まで油断できない相手でした」
「お前は油断してたけどな」
冥月に呆れられつつ、それでも一応事件は解決したのである。
だが、
「ゆ、ユリ！？」
「……え？」
届かなかった水の刃。しかし、届かなかったのはユリの身体までである。
そこまでは到達してしまったが故に、ハラリ、と水着のトップスが落ちた。
「……き、きゃあああああああああ！！」
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なぜ、ああ言う展開になると、男性は殴られるのだろう。
小太郎は頬に季節はずれの紅葉を貼り付けながら、不満に思っていた。
「……ご、ごめんなさい、つい」
「いいよ、別に」
しきりに謝るユリに対し、小太郎は手を振って返す。
不満には思っていたが、不思議と嫌な感じはしない。
「それにしても、小僧の力は便利に進化したものだな」
「だろ？ こう言う時にも役に立つ」
小太郎が発生させたのは、いつも彼が来ているジャージを応用したもの。
最近着続けているあのジャージは、霊刀顕現の力を応用した防御服である。
今回はそれをユリの上に着せたわけだ。
現在は水着のように変形して、彼女の上半身に留まっている。
「あ、でも俺からあんまり離れると、効果が薄くなるかもしれないから……」
「……じゃ、じゃあ仕方ないですね。しばらくは一緒にいてください」
「おう。……じゃあ、どこか遊びに行くか。ユリはまだプール楽しんでないだろ？」
「……はい、行きましょう！」
頷くユリと小太郎。二人は冥月を置いて、零の遊んでいる方へと駆けて行った。
新しい水着くらい、用意すればいいのにとは思ったが、二人が納得しているようだし、茶々を入れるのはやめておこう。
そんな二人の姿を目で追いながら、ポツリと零す。
「確かに育っていたな」
少女の仕事ぶり以外の成長を見て、冥月はチェアの上でしみじみと頷いた。
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■ 登場人物（この物語に登場した人物の一覧） ■
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【2778 ／ 黒・冥月 （ヘイ・ミンユェ） ／ 女性 ／ 20歳 ／ 元暗殺者・現アルバイト探偵＆用心棒】
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■ ライター通信 ■
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黒・冥月様、シナリオに参加してくださってありがとうございます。『ラッキースケベ！』ピコかめです。
プール！ 水着！ 薄着！ と来れば、展開はこう！！
可能な限りエロい目に遭わせようと思ったんですが、ユリの能力が対応力ありすぎて難しかったです……。
結果として不意打ちでラッキースケベに。
ユリは割りと不遇なヒロインポジションですし、これぐらいやっておいた方が属性がわかりやすくていい感じがします。
それでは、また気が向きましたらどうぞ〜。
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