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<東京怪談・PCゲームノベル>


海の家【マドモアゼル・アクア】 − 虹色の扉 −

1.
 夏の太陽がギラギラと輝く。砂浜が熱い。水着からほっそりと伸びる白い足が眩しい。
「勇太君、ラーメンと焼きそばとおでんとフランクフルト。どれがいい?」
「‥‥一緒に行くよ」
 SHIZUKUに無邪気に顔を覗き込まれて、工藤勇太(くどう・ゆうた)は少しバツが悪そうに笑った。
 この夏、思うところあって海にSHIZUKUを誘ってみた。2つ返事でOKを貰った。
 決心が胸の中にあった。もしかしたらSHIZUKUと過ごすのは最後になるかもしれないと‥‥。
「‥‥ていうかさ、アイドルがそんなに肌出していいのかよ? 日焼けするぞ」
「日焼け止めは塗ってあるよ? 夏に海来て、可愛い水着見せびらかすのは女の子の特権でしょ」
 ふふんと鼻で笑うSHIZUKUは、とてもアイドルとは思えない。普通の女の子だ。
 ひらひらとした可愛らしい水着はSHIZUKUにとても似合っている。
「‥‥馬子にも衣装」
「なんですってぇ!?」
 そんなじゃれ合いをしつつ、海の家に‥‥
「え? ‥‥え!?」
 思わず絶句した勇太。目に飛び込んできたどぎつい看板に嫌な予感がよぎる。
 【海の家 マドモアゼル・アクア】
「イエス! 海の家デ〜ス♪」
 暑苦しいピンクの長い髪を揺らしながら、バカでかい麦藁帽をかぶった謎の人は大きな声で客を呼び込む。
「よってらっしゃ〜イ、見てらっしゃ〜イ! 海の家においでヤす〜♪」
 いつかの夏の思い出が脳裏に鮮明に思い出される。
「あ、怪しすぎる‥‥」
「もしかしてヤドカリが出てくるのかな?」
 勇太の視線に気が付いたSHIZUKUも警戒している。見覚えのある謎の人‥‥確か名前はマドモアゼル都井。
 何となく関わっちゃいけない系の人だと思う。しかしあいにく海の家はここしかないようだ。
 店の手前にあるのはお馴染みレンタルアクア用品。浮き輪に足ヒレ‥‥それはいい。それよりも気になるのはそれに紛れてなぜか大きな人間ほどの魚が横たわっている。さらに奥に行くと普通の桟敷席。更衣室、シャワールームとあって、さらに奥に謎の色とりどりな扉が‥‥?
 ふと、勇太の肩にふわっと何かが触れたような気がした。
「‥‥あれ? 人‥‥違い?」
 振り向くとそこには見覚えのない青年と、その横にちまっと一見にして双子と分かる少女たちが佇んでいた。
「お兄ちゃんじゃないですね〜」
「うん、お兄ちゃんじゃないね〜」
 双子にそう言われて頭の上に盛大に『?』が乱舞する勇太に、青年が首を傾げている。
「‥‥音が似てるんだけどなぁ」
「??」
 青年は何かを考え込むように、目を瞑ってしまった。
「このお兄さんは八瀬・葵(やせ・あおい)っていう名前だよ。私は山丹花(さんたんか)っていうの」
「山茶花(さざんか)です。姉とお兄ちゃんを探しています」
 双子がぺこりとお辞儀をした。双子ならではのタイミングばっちりなお辞儀に勇太も思わず礼を返した。
「あれ? 工藤さん?」
「勇太?」
 聞き慣れた声がした。金髪のメガネ美人と咥え煙草のメガネ中年がこちらに歩いてくる。
「セレシュさん、草間さん!?」
「偶然やねぇ。デート?」
 セレシュ・ウィーラーがニコリと笑ってど直球ストレートをかます。その隣で探偵・草間武彦(くさま・たけひこ)がにやにやしている。
「ち、ちがっ!」
「違います!」
 否定する勇太の隣、SHIZUKUからも強い否定の言葉が出て勇太は少しだけ傷ついた。
 そこまで強く否定しなくてもさ‥‥。
「オゥ!? 団体様ですカ? 団体様ですネ!?」
 ワイワイと話し込んでいた勇太たちにマドモアゼルが顔を輝かせて近寄ってきた。
 しまった! 知り合いに会って気が緩んでいた!
「団体様なら個室にご案内いたしまショー! 虹色の扉にご案内デース♪」
「え!?」
 多勢に無勢‥‥という言葉が全く通じないマドモアゼルに背中を押され、勇太たちは虹色の扉に押し込まれたのだった‥‥。


2.
「いってててて‥‥」
 押し込まれた拍子にこけてしまった。
 真っ暗な部屋の中、一寸先も見えない闇。みんな無事だろうか?
 手をついて起き上がろうとすると、ぐにゃっとした感触に「うわっ!」と声を上げて思わずのけぞる。
 このパターンは‥‥まさか、彼女の胸に触っちゃうパターンか!?
「‥‥やっぱり同じ音なのに‥‥」
 勇太の期待を裏切るように、聞こえてきたのは葵の声だった。
「うわぁ、すみません! 大丈夫ですか?」
 謝る勇太に、葵の声はどことなくのんびり返ってくる。
「‥‥ここ、音がしないね」
「え?」
 勇太は喋るのをやめて耳を澄ませる。‥‥確かに、痛いくらいの静けさがそこにある。
「さっき居た場所とは違うところみたいです」
 少女の声。これは双子の声だ。ただ、どちらの声かまではわからない。
「‥‥俺と、あんたと、その子の3人しかいないみたいだ」
「!? SHIZUKU? セレシュさん!?」
 勇太は叫んでみたが、2人から返事はない。
「『その子』じゃなく、山茶花です。‥‥困りましたね」
 こちらもどこかおっとりとした口調だ。
「あ、俺『工藤勇太』です。‥‥って、冷静ですね、2人とも」
「そんなことないです。巴‥‥山丹花ちゃんを探さないといけませんから」
「‥‥音がない空間は悪くないけど、落ち着かないね」
 冷静な口調で返されて、勇太はやや冷静さを取り戻した。
「ひとまず、どうにかしてここから出ないと」
 勇太はそう言って辺りを見回したが、辺りは闇。そこにいるはずの山茶花や葵の姿すら確認することはできない。
 この状態で使える能力は‥‥テレポート?
 しかし、それでは葵と山茶花を置いていくことになる。
 だとすると、サイコキネシス?
 何を動かすんだ? 動かせるものがあるのかもわからないのに?
 考えれば考えるほどドツボにハマる。SHIZUKUの安否が気になるのに‥‥!


3.
「‥‥迷路に迷った時は壁を見つけて、それに手を添えて一方向に歩くといいんだって」
 葵の声が聞こえた。迷路? この暗闇が?
 すると、山茶花が少し嬉しそうな声を上げた。
「まずはみんなで手を繋ぐのはどうでしょう? そしたら少し心強いですよね」
 女の子と手を繋ぐなんて‥‥そんな言葉が頭をよぎったが、今は非常事態。きっと許されるはず!
「よし。そうしよう」
 闇の中、お互いの声だけを頼りに3人は手を取り合った。
 暗闇の中を壁を探して彷徨う。四方八方暗闇で、落とし穴があっても気が付かないかもしれない。それでも、じっとしているよりはましだ。
「あ、壁がありました」
 山茶花の声に、勇太も手さぐりにその壁を見つける。
「‥‥音が吸収されるね」
 多分同じように壁を触ったであろう葵がそう言った。
「この壁壊したら外に出られるかな?」
 勇太も壁を叩いてみたが、叩いた音すら吸収する壁に、少し不安になる。こんな壁は今まで見たことがない。
「壁の向こうも壁‥‥ということは、ない気がします」
 山茶花の声に勇太は試してみることにする。
「山茶花ちゃん、葵さん。少し後ろに下がって」
 手を引っ張って2人を壁から下がらせた後、勇太は力を集中させた。
 壁だって物質だ。これにサイコキネシスの力を使えば、壊れるかもしれない。
「‥‥音が早くなった」
 葵の声が聞こえた気がしたが、勇太はそのまま壁に集中をした。

 ピキッ

「光が!」
 明るい光が暗闇に慣れた目に刺さる。それは希望の光。
 さらに勇太が集中すると、その亀裂は大きくなり、光は世界を包み込む。
「‥‥いろんな音が溢れてきた」
 境界はどこだったのか。あの壁はどこに行ったのか。
 光に慣れた目に映ったのは‥‥波に戯れるSHIZUKUとセレシュ、双子の片割れ。
「どこに行ってたんだ!? 探したんだぞ!」
 そして、草間の顔だった。


4.
「ソーリーソーリー! お詫びにこちらのBBQをご提供いたしマース!」
 あくまでも『不慮の事故』と言い張ったマドモアゼルは、魚の肉がたっぷりのBBQセットを用意してくれた。
 店に戻っていくマドモアゼルを背に火の番を買って出た勇太は、魚を焼きながらSHIZUKUの無事にホッとしていた。
「‥‥あんま食べる気せんけどな」
 セレシュが苦笑いをしている。何かあったのだろうか?
 とりあえず、食事をしながらお互い扉に入った後の状況を交換してみたが‥‥どうも不可思議だった。
「じゃあ、そっちは扉に入っても別に変わりなかったってことですか?」
「そそ。まぁ、少々人魚的なハプニングはあったんやけど」
 セレシュがちらっと山茶花と共に波打ち際に遊ぶ山丹花を見る。人魚的‥‥??
「まぁ、とりあえず元に戻れてよかったじゃないか」
 草間が呑気にそう言う。どことなく機嫌がよさそうだ。
「‥‥草間さんは水難事故の依頼が解決したんで、気が大きゅうなっとるんよ」
 ひそひそっとセレシュが耳打ちした。なるほど。草間はここに依頼で来ていたのか。
「BBQがタダで食べれるんだし、結果オーライじゃない?」
 SHIZUKUが勇太の肩を叩く。心配したのに、SHIZUKUは何ともないような顔をして魚を一切れ取っていく。
「あのさ、これからもしなんかあったら‥‥俺が出来ることであれば、助けに来るから‥‥俺を呼べよ」
 勇太はこそっとSHIZUKUの耳元で囁いた。セレシュにも草間にも聞かれないような小さな声で。
「‥‥う、うん」
 SHIZUKUが返事をして、魚を食べた。その頬はほんのり赤くて‥‥。
 少し、カッコつけすぎたかな。
 目が合うとSHIZUKUは、赤くなりながらもにっこりと笑った。それに釣られて勇太も笑う。
 ぐぅ〜とお腹が鳴った。それでようやく勇太もお腹が空いていることに気がついた。
「俺も食べよっかな」
 そう思い、さらに魚を一切れのせた時、後ろから声を掛けられた。
「オー!? 美味しそうなお魚ですネ〜?」
 振り向けば‥‥マドモアゼルがいた。やっぱり笑っていた。
「美味しそうって‥‥今、あんたが今持ってきて‥‥?」
 そして勇太は見てしまった。

 マドモアゼルの肩越しに、店の中に入っていくもう1人のマドモアゼルの姿を‥‥。

「ここはもしかして‥‥」
 セレシュが草間の首根っこを引っ付構えて、店の奥に消えていったマドモアゼルを追う。
「何かありましたカ〜?」
 目の前のマドモアゼルが首を傾げて不思議そうな顔をしているが、それに答える気分ではなかった。

「‥‥勇太君、助けてくれる?」
 SHIZUKUの言葉に、勇太は苦笑いしながら頷いた。 


■□  登場人物(この物語に登場した人物の一覧) □■

【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

 1122 / 工藤・勇太 (くどう・ゆうた) / 男性 / 17歳 / 超能力高校生

 8538 / セレシュ・ウィーラー / 女性 / 21歳 / 鍼灸マッサージ師

 8757 / 八瀬・葵 (やせ・あおい) / 男性 / 20歳 / フリーター

 8721 / ―・山丹花 (ー・さんたんか) / 女性 / 14歳 / 学生

 8722 / ―・山茶花 (ー・さざんか) / 女性 / 14歳 / 学生


■□        ライター通信         □■
 工藤勇太 様

 こんにちは、三咲都李です。
 この度は『海の家【マドモアゼル・アクア】 − 虹色の扉 −』へのご参加ありがとうございます。
 SHIZUKU指定のほんのりラブな感じで、このオチか‥‥的状況へ。
 きっと皆さんで力をあわせて脱出できたと信じております。えぇ。全力で。
 少しでもお楽しみいただけたなら幸いです。
 ご参加ありがとうございました!