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ボーイロイド×末ボスでァッァッだ玲奈
1.
「ふーん♪ ふふふふーん♪」
ご機嫌な鼻歌でパソコンのモニターに向かう瀬名雫(せな・しずく)。
ここはとあるネットカフェの一角。休日の昼下がりのせいか、やや人は多めである。
「ふふふふーん♪ ふふふふふーん♪」
ヘッドフォンを装着した雫は、なにやら動画に見入っているようだ。周りの人間がその鼻歌で迷惑しているかも‥‥なんてことは気にしていないようだ。
「あー、でもこれもったいないなぁ。折角いい歌なのにPVも作らないなんて‥‥」
やや不満そうな雫の後ろに、あやしげな気配が‥‥!?
「雫ぅ‥‥あんたならそう言ってくれると信じてたわ!」
「ひゃっ!? れ、玲奈ちゃん!?」
湧き出るように現れたのは三島玲奈(みしま・れいな)。戦艦にして女子高生という変わった経歴の持ち主だ。
「何を信じてたの?」
「んっんっんっ。今聴いてくれたでしょ? あたしの作った歌」
「ファッ!? 歌? 今聴いてた歌のこと!?」
「そうよ、そうそう!」
玲奈の話に、雫は動画を止め一番最初の画面に戻す。作曲者の名前は‥‥
「『Me.シマP』‥‥『三島P』!?」
「いえーす! これで無芸大食の汚名返上よ!」
無い胸を張る玲奈に雫は「これは一大事!」とばかりにキーボードに向かうと何かを打ち込み始める。
検索キー【キモキモ妖画】【ケツデ逝ク】入力!
さらにどこかから音声データと可愛らしい二次元少女の踊り狂う画像を持ってきて、ドッキング!
「そぉれ! 送 信 !!」
「今何やった!?」
「『唸ってみた』でデビュー!」
「なんだって――――!?」
女子ども、ネットカフェではお静かに。
こうして、雫と玲奈のキモキモ妖画生活が始まったのだ。
2.
大きなお友達の例祭最終日のW館。たくさんの人・人・人・人‥‥その数、副都心の3倍にも上る。
「え?! 死んだ!?」
走り回るスタッフの中で、ひときわ大きな声で叫ぶ者がいる。壁際サークルの責任者だ。
「そんな、昨日まであんなに元気だったのに‥‥!」
「天気が良すぎて、頭のお皿の水分蒸発したらしくて‥‥。なんて残念な‥‥」
よよよっと報告するスタッフに、責任者はハッと我に返る。
「まてよ? なら売り子はどうなる? アイツが『ケツデ逝ク』の最新作『ァッァッにしてやるぜ♪』を手売りするはずだっただろ!?」
「いや、そんなこと言われても‥‥他の売り子探すしかないんじゃないですか?」
しれっとそう言ったスタッフは、他のスタッフの手伝いをしに責任者の前を去った。
「ぉぃぉぃ。マジかよ‥‥」
残された責任者は『ヤレヤレだぜ』といった風情で壁にもたれかかるのだった。
一方、同時刻、同場所、徹夜組。
長い列のその先にあるのはゲート。あそこが開けばアンナモノやコンナモノが手に入る予定だった。
日差しが強かった。期待の熱も強かった。汗が飛ぶように蒸発していく。
グテン。グテン。
ドミノ倒しのように‥‥しかし、それは決して倒れているのではなく上半身のみを前後に揺らす。それは列の前から後ろへと伝染していく。
「グーテン‥‥グーテン‥‥」
蒸発した汗が陽炎を作り、あまつさえ蜃気楼さえも作り出す。
それは見間違いなのだろうか? 呟く人々の鼻が赤く伸びているように見える。
いや、それは見間違いではない。確かに、鼻が伸びているのだ。
「グテングテン‥‥グテングテン‥‥」
叫び声は大きくなり、会場を大きく包み込む。
熱を帯びた大群は開場へと殴り込みをかけるのだった‥‥。
そして同時刻、原宿。若者の街。キモファーレはいつもの通り若人でいっぱいである。
雫と玲奈が『唸ってみた』と『Me.シマP』で華々しいデビューを飾って数日後。
この原宿で行われる『キモキモ超学会』へとお誘いを受けた。早い、早いぞ!
玲奈はケツデ逝クの楽曲提供・Me.シマP。覆面被ってちょっとお高くとまってみる。
「キ〜モキモ画♪」
『キモ画ッ! キモ画ッッ!』
剛毛ジャングルなアニキ・ケツデ逝クを上手く操りながら、雫はその歌声を披露する。なんて素敵な公演会。
ケツデ逝クの主なファン層は腐女子。ケツデ逝クのシンボルは大根で、その大根を振り回しながら腐女子たちは歓声に沸く。
『キモ画♪ キ〜モ〜!』
しかし、その時速報が入る。
【ぴんぽんぱんぽーん:大きなお友達の例祭にて徹夜組が天狗の大群と化してW館を襲撃中! くりかえす‥‥】
「天狗の集団って何よ?」
大概のヤツはそんな反応をしていたが、なぜか中継が現場に繋がっております!
『超学会? あー、こちら壁際サークル、壁際サークル。最早、末ボス・蚊林パチ子を呼ぶしかない状態となっております。つきましては承認を‥‥』
「いや待て! パチ子先生居ませんよ、とうの昔にお亡くなりに‥‥」
『死んでるって!? そ、そんな‥‥誰でもいい! 代わりを! コスプレさえすれば誰だって先生に!』
「いやいやいやいや、それは無理じゃ‥‥」
などという現地中継の中、覆面をつけた玲奈が画面を見切れた途端『お前だ!』という、満場一致の声が上がる。
「‥‥は?」
玲奈が素っ頓狂な反応をすると、もうそれだけで盛り上がる。
『そのすっとぼけた感もパチ子先生っぽいと思いました!(29歳OL)』
『コスプレの達人と見た(32歳自宅警備員)』
『まぁ、とりあえず行けばいいと思うよ(15歳魔眼保有者)』
会場は意味もなくテンションが高くなる。そんな時、雫が大勢の観客の目の前に立ち、玲奈を槍玉にあげようとする人々を制止する。さすが友達。玲奈を助けに現れたのだ!
‥‥と思われたが、雫はニヤリと笑って玲奈に言うのだ。
「お前、代役頼む。末ボス・巨大蚊林パチ子出撃だ!」
「何で私が?!」
大抜擢の玲奈は困惑顔。その問いに雫が答える。
「何かブルマとかスク水とか着てるじゃねーか? スク水も巨大衣装も同じようなものだって♪」
「ちょw 巨大衣装は無理・無〜理〜」
しかし、嫌がる玲奈に結局巨大衣装は装着されるのだった‥‥。
3.
W館、待機列。
グテングテンと強襲する感染者たちが辺りをさまよう。
と、そこにいったいどこで仕掛け終えたのか、大きな地響きを立てながら何かがせりあがってくる。
ゴゴゴゴゴッ!!!!
地獄の蓋が開いたのか!?
いや、末ボス・蚊林パチ子の降臨だ!!
「キ〜モキモ妖画♪」
『キモッ♪ キモッ♪』
巨大衣装に巨大大根を振り回し、その風圧は天狗どもを一撃に伏す。
「行け、巨人玲奈ん! 薙ぎ払え!」
「雫、それ違うヤツや」
雫は蚊林パチ子を襲名し、巨大衣装で天狗を蹴散らす。玲奈は巨大ボーイロイドを操って大根を振るう。
まさに阿鼻叫喚。しかし祭りには相応しい!
「パチ子さ〜ん☆」
黄色い声が雫と玲奈を包む。天狗になった連中もいつの間にか正気を取り戻し、お祭りに参加している。
「あたしは玲奈よ!」
「きゃ〜逝クよ〜! 大根振って〜♪」
「私は雫だって」
この際祭りなのだから、誰だっていいのだ。
要は面白く、ノリノリで、この祭りに相応しい人物だと会場が認めたのだ。雫と玲奈を。
「あたしたちのデビュー曲、よろぴくね☆」
そして、華々しいデビューが2人の歴史の始まりを飾ったのだった‥‥。
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