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<PCシチュエーションノベル(ツイン)>


新たな任務は解決へと導く鍵となる

 大きな機械音を立て進む旗艦ウォースパイト。
 この旗艦には今、僚艦の事故現場の海域に向けて遺族を送迎している途中だった。
 暗く、沈んだ艦内。
 だが、それを一転させるような人間がいた。
「聞いてないんですけどっ!?」
 旗艦内にあまたある部屋の内の一つ。そこからキンキンとした金切り声を上げている少女がいた。
 瀬名・雫は、自室で頬を膨らませ、納得がいかないと憤激している。
「せっかくの休暇だったのに、何で急に潰れるかなぁ、もーっ!」
「あやこさんの独断とは言え、何の前触れもなく突然休暇返上はさすがにないわ」
 雫の前にどっかりとソファに腰を下ろしていた郁もまた、腕を組んで眉根を寄せ、大きく頷きながら怒りを露にしている。
「今日は美味しいもの食べて、ショッピングにいくつもりだったのにぃ」
 今更どうこう言った所でどうにもならないのだが、郁と雫はがっくりと肩を落とし深い深い嘆息を吐くのだった……。

       

 波飛沫を上げながら進む旗艦の艦橋では、数人の乗組員が集まり今回起きた事故の原因について色々と話し合っている姿があった。
「いくらなんでも、唐突過ぎる。今回のは事故じゃなくて敵襲なんじゃないのか?」
「俺もそう思ってた。事故にしては不自然なところがありすぎる」
 散々鬱憤を雫と共に晴らして、ある程度スッキリした郁が艦橋の傍を通ったときに聞こえたその会話に、ふいに足を止めた。
(敵襲か……考えられなくもないわよね)
 内心そう考えると同時に、ふと周りの気配に気付いて顔を上げた。
 乗組員達は極力小さい声で話しているが、それ以上に静かな艦内にはその会話は普通に聞こえてしまう。
 周りにいた遺族は彼らの会話をいやがおうにも聞くことになり、皆その面々に「事故ではない?」という不信感を漂わせ始めていた。
 郁は艦橋のすぐ近くにある休憩室に入ったが、中にも不信感を募らせている遺族の存在がある。
「……事故じゃないって本当なの?」
「……事故だって聞いたのに……」
 ヒソヒソと話す遺族の声が聞こえてくる。
 そんな遺族達の話が聞こえてくる郁は、いたたまれない気持ちになる。
 入ったばかりの休憩室から出て行こうと入り口へ向かうと、同時にドアが開いた。
「あ、ごめ……ん?」
 ぶつかりそうになって咄嗟に謝りかけた郁は、中に入ってきた雫の違った様子に眉根を寄せた。
 疑問の視線を背に受けながら颯爽と中に入ってきた雫は、にこりと微笑みながら口を開く。
「皆さん。乗組員の話を真に受けて不信感を募らせていらっしゃるかと思いますが、今回の件は敵襲ではなく、事故で間違いありません。決して皆さんが思うような危険な話ではないので、ご安心下さい」
「え……」
 あの自己中の雫が、まさかこんな事を言うなんて考えられない。
 郁は呆然とその場に立ち尽くしていると、くるりとこちらを振り返った雫の澄んだ瞳で微笑む姿に、更に眉間の皺が増える。
「郁ちゃん。副長室に行きましょ。渡したい物があるの」
「え? あ、うん。分かった……」
 何があったのか皆目分からない内に、雫と共に副長室へとやってくると、彼女は手にしていた物を郁に差し出した。
「何、これ」
「これは戦友の形見なの」
 そんな大事な物を受け取っていいのだろうか? 
 そう思いながら、包んでいた布を開くと中には天使の絵が描かれた一枚の絵だった。
「天使?」
 郁が呟くが早いか、突然眩い光に包まれる。
 咄嗟に目を閉じ、おそるおそる目を開く。そして目の前の光景に郁は目を見開いた。
「うそ。本物の天使?!」
 愕然とする郁の前に、降臨してきた天使は手を差し伸べて微笑んだ。
『あなた方に任務を与えます。共に天界へ参りましょう』
 抗う余地などなく、天使は郁と雫の手を掴むと眩い光を放ちながら天界へと導く。
 ふいに下を見れば、副長室で倒れている自分たちの姿が見える。
「これって、幽体離脱っ!?」
 慌てふためく郁だが、あれよあれよと言う間に天界へと連れてこられた。
 そこには沢山の人間達が暮らしており、おそらく先祖と呼ぶ人間も、そうでない人間もごく普通に過ごしていた。
 そのことに目を瞬いていると、自分たちを導いてきた天使は極上の笑みを浮かべる。
「これからあなたたちに、神様の下で修行をして頂きます」
「は? え? 修行?!」
 度肝を抜かれたような顔で天使を振り返ると、二人は問答無用で引きずられるように神の元へと連れて行かれるのだった。


 その晩。旗艦の遺族控え室では多くの人々が眠っていた。
 静かな室内には異様な事態が発生する。
 眠っている遺族全員の枕元に故人が立ち、軍の隠蔽を暴露するのだ。
『軍は、事故を装っているがこれは襲撃以外のなにものでもない。これを見て』
 見せられたビジョンは、僚艦が突然何の前触れもなく爆発をし、艦内には逃げ惑う人々の姿がある。だが、その中に一人落ち着き払い、不敵な笑みを浮かべ、手には起爆スイッチのような物を持って立っている姿もあった。
『これこそが事実』
 そう告げると、故人たちがふっと姿を消し、遺族達は一斉に目を覚ました。
「なんなんだ、今のは……」
「あの人が言っていた事だもの、間違いないわ!」
「事故は偽りだ!」
 遺族達は各々に叫び、押さえ込まれていた不信感を再び露にした。
 その後すぐに、遺族達は艦長であるあやこの元へと詰め寄った。
「お前らは嘘をついているだろう! 今回は事故じゃなく、敵襲じゃないかっ!!」
 そう詰め寄る遺族達に戸惑っていたあやこだが、すぐに立て直すと毅然とした態度で対応を始めた。
「何を根拠にそのようなことをおっしゃっているんですか。僚艦は事故で……」
「嘘をつくなっ! どこまでもシラを切るつもりなら、降霊会を開け! 故人が全て真実を述べているぞっ!」
 どう取り繕おうとしても話にならないと踏んだあやこは、遺族達の希望で降霊会を開く事にした。


 その頃幽体離脱をした郁と雫は、事故現場にいた。
 下を見下ろせば、悲惨な事故現場に無数の地縛霊の存在が確認できる。
『このままあいつらを置いておくわけにはいかないわね』
『そうね』
 二人は顔を見合わせるとどちらからともなく頷き返し、地縛霊の浄化を試みた。
『神様の元で積んだ修行の成果をみせてやるわ!』


 一方、旗艦の会議室では遺族達全員が集められ、彼らの希望通り降霊会が開かれていた。
 そしてあやこにとって、思いも寄らない方向へ話が流れ始めている。
 降霊会会場はとんでもない騒動になっていた。
「そらみろ! 故人は事故ではないと言っているじゃないか!」
「物的証拠もあるのよ! これでも事故だと言い張れる!?」
 会議室からなだれ込むように遺族達が艦長室へとやってくる。
 戸惑うあやこの目の前に突き出されたのは、旗艦の物と思われる小型の起爆スイッチが突きつけられた。
「一体どう言うつもりなんだ?! え? 説明しろ!」
 あやこに詰め寄る遺族達に、動揺しながらも弁解する。
「ですから、これは……」
 しかしどう弁解しようとも遺族達は聞く耳さえ持ってはくれない。
「本当に事故なのに……。……あれ? そう、かな……?」
 あまりの気迫で迫られて追い詰められたせいもあるのか、あやこは徐々に自信が揺らぎ始める。
 その時だった。甲板に突如として荘厳な教会が出現し、天使になった郁と雫が降臨した。
 その場にいた全員はあまりの神々しさに、吸い寄せられるように甲板へと出ると、郁と雫はふわりと微笑んだ。
『皆様、落ち着いて下さい……』
 郁と雫は共に手を繋ぎ、その場にいた全員に愛を説き始めた。すると、皆平和な気分になり騒動が落ち着きを取り戻し始める。
 艦内各所では任務放棄した乗員達が賛美歌を合唱しはじめ、旗艦は完全麻痺になった。
 そして二人の説教は、あやこを裁く審問へと変わった。
 眉根を寄せたあやこは、「誰かが船の搾取を企んでいる」と推理した。でなければ、色々とおかしいと感じたのだ。
「亡霊に偽証言させるだなんて、巧妙なやり口ね」
 冷や汗混じりにそう呟いた言葉に、郁達は眉根を寄せた。
『え……?』
「亡霊は破局的な自滅を好むわ。なぜなら早く楽になりたいから。なら、目には目をよ!」
 そういい棄てると、あやこは数珠を手に読経を唱えながら機関室へ通じるダクトへと飛び込み、自爆装置目指して走り出した。
 そして機関室へと辿り着いたあやこの前に、郁と雫が両手を広げて飛び出してくる。
『ジサツ、ダメ!』
「うっさいわね! 御託はどうでもいいのよ!」
 阻もうとする二人を振り切り、あやこは思い切り拳を振り上げ起爆ボタンを叩き壊した。
 次の瞬間チカッと眩い光が見えたかと思うと激しい爆風と爆発音を上げて、甲板にあった教会が消滅した。

『何て女だ! 腹黒い人間の船など要らぬっ!!』
 
 激しい爆風の中で聞こえた言葉があやこ達の耳に届く。
 目を開くと、消し飛んだのは不思議と教会だけで船と乗員は全員無事だった。
 旗艦の搾取を目論んでいた異性人が尻尾を巻いて去っていく姿を見届けたあやこ達は、改めて黙祷した。