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―― 無明の光 ――
「……やはり、現実世界と何ら変わりないのですね」
松本・太一は疑似体験で『女僧侶』として、新たな街の散策に乗り出していた。
店で買い食いをしたり、装備品を試着購入してみたり、普通にLOSTをプレイしている時や現実世界で生活をしている時とまったく変わらない感覚に、少しだけ驚いていた。
「念の為、回復薬なども購入しておきましょうか」
疑似世界とは言え、モンスターから攻撃を受けると普通に痛みが走る。傷を受けたまま現実世界に戻ると、攻撃を受けた部分が少しだけ赤く腫れていた。
がっつりの影響は受けずとも、やはり松本自身がLOSTに侵蝕されている事は間違いなさそうだ。
それでも疑似体験のおかげか、傷をそのまま現実に持ち帰る事はないのだけれど。
恐らく、この疑似世界で死んだとしても、現実で死ぬ事はないのだろう。
「……死んだ時の影響……どれほどのものになるか、さっぱり予想がつきませんね」
もしかしたら生きているだけで、死なない――……植物状態のような状態にならないとも限らない。
確かに命はあるけど、それで生きているとは言えないから、やはりなるべく傷を負わない、命に係わる事はしない――と言った方が身のためだろう。
それに、松本は相手がモンスターであるとは言え、攻撃するのを躊躇う節がある。
攻撃しなければ自分の身が危ういのに、必ず躊躇してしまうのだ。その優しさが松本の長所であり、恐らく短所でもあるのだろう。
(攻撃しなければこちらがやられる、というのは分かっているつもりですけどね……ログイン・キーの事がなくても、死に戻り体験なんて絶対にしたくありませんし)
僧侶用の杖を手に持ち、それを握る力が強くなる。
「多少『侵蝕』されようとも、職業変換して、生存能力を高めた方がいいのかもしれませんね……しかし、どうやって職業転換すればいいのやら……」
松本はLOSTインフォメーションで職業転換に関する情報を調べる。
すると『転職屋』に行けば、好きな職業に変換できるという事が書いてあった。
それと同時に、特殊なアイテムを用いる事で、レアな職業に転換できる、という事も。
「……レアな、職業?」
インフォメーションには一部の例が書かれてあり『人狼の牙』という物を見つける事で『ワーウルフ』という特殊職業になれるとあった。
ワーウルフは攻撃力とHPがダントツに高く、攻撃面では最高職業だと書いてある。
「攻撃面では……という事は、他にも魔力面でダントツの職業、素早さでダントツの職業、それぞれに特化した職業がある、という事ですよね」
松本は口元に手を当て、うーん、と小さな声で唸る。
「とりあえず、職業転換を目指して、色々と情報収集して職業転換アイテムを入手できるようにしましょうか、しかし、どんなアイテムで、どんな職業になれるのでしょう……」
特殊職業転換の項目には、プレイヤー次第で無限の職業が存在する、と書いてある。
つまり、自分の願うような職業に転換できるアイテムもあるという事なのだろう。
「まずは、疑似体験で職業転換をしてみて、それで上手くいくようでしたら、本来のデータの方での職業転換も視野に入れてみましょうか」
疑似体験で選んでいるのは僧侶、回復面では役立つ職業だが、打たれ弱さもダントツなので、それをどうやってクリアするか、というのが当面の悩みになる。
「お金を貯めて、僧侶用の防具を買い揃えなくてはいけませんね。あとはスキル屋で魔法も購入して……しばらくはお金稼ぎの簡単なクエストばかりをしてみましょうか」
職業転換が、もしかしたらゲームを有利に進める事に繋がるかもしれない。
そう思うと、少しだけ松本の心が弾んでくる。
「……しかし、プレイヤーの願いを吸い取るように、色々な事象が引き起こされていく。一体、このゲームは誰が何のために作ったのでしょう……」
大勢の人を楽しませようとしている風に見えるけど、その中身からは底なしの悪意が見え隠れしているようで、松本は少しだけ気持ち悪くなるのを感じていた。
「……考えても仕方ない事ですね、答えの出ない考えなどやめましょう」
LOSTにどんな思惑があったとしても、巻き込まれた側は進むしか出来ないのだから。
(私は、私なりに考えましょう。LOSTを生き残ってクリアするために)
松本は小さく拳を握り、まずはお金を稼ぐためにクエストを受けようと歩き始めた。
―― 登場人物 ――
8504/松本・太一/48歳/男性/会社員・魔女
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松本・太一 様
こんにちは、いつもご発注ありがとうございます。
いつも色々とLOSTの話を書かせて頂き、
ありがとうございます……!
今回の内容は如何だったでしょうか?
気に入って頂ける内容に仕上がっていればうれしいです。
それでは、またご機会がありましたら
どうぞ宜しくお願い致します……!
2014/10/08
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