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<東京怪談ノベル(シングル)>


泉の魔女と魔法合戦
●鍾乳洞と魔力の泉
「うわー、思ったより広い」
 魔法で作り出した灯りに照らしだされたその場所を、ぐるりと見渡したファルス・ティレイラ(3733)は、思わず呟いた。

 ──魔力の溜まり場。
 知り合いから魔力の溜まり場となっている洞窟を教えられたティレイラ。
「パワースポット(魔力の溜まり場)って結構あるわよね」
 邪悪な力が溜まる不気味な場所から神社仏閣のように神気が溜まる聖域。
 ポリポリとお土産に貰ったクッキーを齧りながらティレイラは、生返事を返す。
「チッ、チッ、チッ──(指を振る)──違うわよ。
 そこには魔力を讃える魔力の水が湧き出す泉があって、その水を飲めば魔力切れを起こす事がないんだって」
「なんか眉唾だけど、パワー不足やパワー切れの心配がないっていうのは素敵ね」
「でも、その洞窟に何時の頃か魔族が勝手に住み着いちゃったんですって」
 魔法修行中のティレイラである。
 今よりパワーがあれば、使える魔法は間違いなく増えるだろう。
「魔族にばれないように水を取ってくる…ちょっとスリルよね」
 好奇心旺盛なティレイラにとって冒険は、おしゃれや美味しい食事と同義語だ。
 そうと決まれば──と洞窟にやってきたティレイラだった。

 洞窟の入り口は小柄なティレイラでも身体を屈めなくては入れない程狭かったが、暫く進むと洞窟から鍾乳洞に変わっていった。
 そこは、天井が高く、ティレイラが翼を広げ悠々と飛べる広さがあった。

 ティレイラは、大きく翼を広げて飛び上がった。
「うわー、気持ちいい♪」
 奥へとどんどん進むティレイラ。
 鍾乳洞の中は、天井に向かって伸びる鍾乳石の柱や、天井から下がる大きな氷柱。
 地下水が凍りついて出来た氷のカーテン。
 光る苔やキノコが幻想的な光を放つ場所。
 人や動物の姿にも見える鍾乳石が、ティレイラの目を楽しませた。

 ──程なく不思議な光と色を放つ小さな泉を見つけた。
「ん。いかにも魔法の泉って感じよね」
 水を持って帰ろうとバックから水筒を取り出すティレイラに──
「ちょっと待ったぁっ!」
 ──と後ろから声が掛かった。


●魔族の少女
 ティレイラが振り返ると、ティレイラと同じ位の歳の少女が立っていた。
 この少女が、ティレイラの知り合いの話にあった鍾乳洞に住み着いた魔族なのだろう。
「あたしの許可なくこっそり汲もうなんて盗人猛々しいわね、あんた」
 見ず知らずの少女にいきなり『あんた』呼ばわりされた挙句、『盗人』呼ばわりされて、カチンとするティレイラ。
「この水を汲むのに許可がいるなんて、私は知らないわ。この泉は、何時から貴女のものになったの?」
「最近だけど、問題ある? ずっと誰かのものじゃなかったから、あたしが所有して管理してあげることにしたのよ」
「問題あるわ。百歩譲って管理が必要だから管理人に立候補したとしても、そういうのって勝手に決めるものじゃないわ。
 大体、人を『泥棒』呼ばわりするなんて失礼な人ね。
 この泉や鍾乳洞が、自分の所有物だっていうなら立ち入り禁止の立て札でも立てなさいよ。
 でもそんな事したら先生や親に怒られるとか、判っているから出来ないんでしょ」
 まくし立てるティレイラに図星を指されたのか、魔族の少女が一瞬黙る。
 だが、少女も負けていない。
「綺麗ごと言ってもあんただって、結局、この水が魔力の水だから欲しいんでしょ。あたしと同じじゃない」
「違うわ。私は、独占なんかしない。対した魔法が使えないから独占したいのは、貴女でしょ?」
 お互いが水の所有者に相応しいと譲らないティレイラと少女。
「いいわ。どちらが相応しいか魔法で白黒はっきりさせましょう」
「望むところよ!」


●静かなる罠
 ドン! ドン!
 魔族の少女に向かって火の玉を放つティレイラ。
「そろそろ降参したらどう?」
「まだまだよ」
 魔法勝負は、飛行能力を使ったり、
 空間転移、空間の亀裂を上手く利用したティレイラ優位で進んでいたが、地の利がある魔族の少女を追い詰める決定打に欠けていた。
 ティレイラが集中しようとしたり、気配を消して背後から近づこうとすると頭や項に天井からポタリと雫が垂れてくる。
(いい加減、決着つけないと不味いかも…)
 空間を操る魔法は元々疲労が激しく多用できない為、ティレイラも考えながら使っていたのだが、何時もより体が重く、飛ぶのも辛いほどの疲労感が感じられた。
 飛ぶのを止め、ぺたりと地面に座ってしまったティレイラ。
「手も足も石で出来ているみたいに重い…」
 立ち上がるために足に力を込めたが、上手く力が入らない。
 足を見たティレイラが、思わずぎょっとする。

 ティレイラの足が、鍾乳石のように白色化していた。
「何時の間に?!」
 足だけではない。
 先程まで動いていた手までもが白色化していた。
「驚いた? 即効性がないから、痛みもないのよね」」

 勝ち誇った笑顔を浮かべ魔族の少女が、ティレイラの側に立っていた。
「あたしね。魔力を水に込めて動物とかで鍾乳石の像を作るのが、得意なのよ」
 鍾乳洞のいたるところにある水に、徐々に触れたものを石化、封印する魔法を施していたのだという少女。
 心臓を含めた全身が完全な鍾乳石になるまで時間が掛かるが、その分、相手を好きなポーズ取らせることができるのだと怪しく笑う。
「あんたは、どんなポーズがいいかな?」
 少女の手が、ティレイラに絡みつく。
「や、止めてっ! 私の負けよ!」
 ティレイラの懇願を無視した少女は、ティレイラを楽しむようにぎゅっと抱きついた。
「ひっ!」
「あたしは、この瞬間が好き。これからあたしが、あんたにする事を考えるとドキドキするわ」
「何をするつもりなの?!」
 ティレイラは、怯えながらも少女を睨んだ。
「魔族の勝負は、真剣勝負。勝者は敗者を自由に出来る」
 少女の言葉にぞっとするティレイラ。
「表面はひんやり冷たいのに、こうしていると奥の方からあんたの身体の温かさが伝わるの」
 悲鳴を上げるティレイラを楽しむように魔力の水を翼や尻尾に塗り上げていく。
 ティレイラの意思に反して翼も尻尾もゆっくりと動かすことが、出来なくなっていた。
 それでも少女の手は止まらず、魔力の水が塗り広がれていく範囲を広げていく。
「止めて、止めて、止めて!」
 少女の手が、ティレイラの指先から腕へと走る。
「あんたの泣き顔って最高に揚る。一番綺麗に見える姿で固めてあげるね」
 獣のような長い少女の舌が、ティレイラの涙を舐め上げた。

 そして嬉しそうにティレイラの靴先から腿。項から角の先まで。
 全身、くまなく魔力の水を塗りこんでいった。
「何時か貴女をやっつけてあげるわ」
 楽しみだと笑う少女。
「心臓まで石になっちゃう前に誰か来ると思えないけど」
 気が向いたら術を解いてあげるというと魔族の少女は、ティレイラを残し、笑いながら何処かへ行ってしまった。
『うわ〜ん。誰か助けて〜っ』


 ──こうしてティレイラは、幾ら待っても修行の時間にやってこないティレイラを師匠が探しに来る迄の間、鍾乳洞のオブジェの一部と化して過ごす事になったとさ。





<了>




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【3733 / ファルス・ティレイラ / 女 / 15歳 / 配達屋さん(なんでも屋さん)】