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―― 星影宿る癒しの光 ――
「……転職をしようとは決めましたが、どんな職業があるのかさえ分かりませんね」
松本・太一はため息混じりに呟きながら、パソコンの画面を見つめる。
転職が出来るという情報以外に、松本は何も知らない。
色々とネットで調べてみたけど、転職そのものがレアなのか、まったく情報がない。
「困りましたね、何も情報が集まらないのであれば転職は諦めるべきなのでしょうか」
松本が深いため息を吐いた時、1人の少女の存在を思い出す。
(そういえば、こういうゲームに詳しい人がいると聞いたことがあるような気が……)
ネットで検索をかけると、確かに『瀬名・雫』という少女の名前が浮かんでくる。
(……この人に会えば、LOSTの転職についての情報を聞けるでしょうか)
確率だけで言えば、恐らく少なくはない。
それだけ瀬名・雫という少女はその手の情報にとんでもなく詳しいと有名なのだから。
松本は彼女が管理するホームページに書き込み、後日会う約束を取り付けた。
※※※
「こんにちはっ! 瀬名・雫です!」
それから数日後、松本はLOSTの世界の中で瀬名と会っていた。
「まさか転職の質問をしてくる人がいるなんて思わなかったよ。それで、何知りたいの?」
画面越しでも分かるほどに、瀬名は明るい口調で言い、松本は転職の方法、必要なアイテムについてなどの質問を投げかけた。
「はー、あなたって何も知らないんだね。それなのに転職って事だけは知ってるし、なーんか不思議。本当に正規のプレイヤーなのかって疑っちゃうよ」
瀬名の言葉に、松本はギクッとした。
瀬名は松本がログイン・キー保持者である事を知らない。
いや、普通のプレイヤーであれば、ログイン・キーの存在そのものを知るはずがない。
だから瀬名の言う『正規のプレイヤー』に、松本は当てはまらないのだ。
(……色々な情報を知っているというだけあって、中々鋭いところを突いてきますね)
松本は頬を伝う嫌な汗に気づきながら、瀬名に怪しまれぬよう、当たり障りのない言葉を打って、返事をする。
「ま、いーや。世の中には不思議なことだらけだもんね。とりあえず転職についてだけど、どの系統に転職したいか決まってる? それ次第ではすぐに出来るかもしれないよ」
「……すぐに? それはどういう意味なのでしょうか?」
松本は首を傾げながら、瀬名に言葉を返す。
「1番人気なのは剣士系、もちろん競争率も激しいし、入手アイテムも困難な物ばかり。補助系の職業も人気なんだけど、こっちは職業によってはすぐ入手できるアイテムもある」
「戦闘系以外の、僧侶系で上級職といえば、どれくらいありますか?」
松本の言葉を聞き、瀬名は少しだけ驚いたように表情を見せる。
「僧侶系なんだ? 一番強いのは祈癒術師(ビショップ)かな? ほとんどの補助系&治癒系魔法を使えるし、MPも高くて、魔法使い放題な所があるかな。僧侶の上級職で人気がないのは星輪士(ゾディアック)かなぁ?」
ぺらぺら、と瀬名は説明をするけど、松本にはちんぷんかんぷんである。
「星輪士は、星の力を借りて魔法を使う職業なんだけど、星って部分で分かるように、昼間は濡れたマッチなみに無能。けど、星が出てる夜だけは無敵に近い状態かなー。結構クセのある職業だから、それに転職する人がいないんだよねー。攻撃、補助、治癒、結構な魔法がオールマイティに使えるんだけど」
瀬名の言葉を聞き、どれにも短所と長所が存在する事だけは分かった。
「他にも日輪導師(サンフレア)と、星輪士とは真逆。昼間はいいんだけど、夜は無能って職業もあるし、自分のなりたいものを探してから、それに近い職業を探すのもいいと思う」
「……なるほど。とりあえず、簡単に決めてしまうより考えてから探した方がいいということですか」
「それと、1つだけ注意点! 転職して、だめだったから転職――って事は出来ないから。1度でも転職したら、とあるアイテムを手に入れないと次の転職は出来ないの。そのアイテムっていうのが、まだ公開されていないから、実質転職したら、次に転職は出来ないって考えた方がいいかもしれないね」
(……安易に決めるのは危険、ということですか)
転職でこれだけ勿体ぶるのだから、転職から転職、ということも簡単ではないと想像は出来たが、次の転職が出来ないと考えるべきなのであれば、話は少し変わってくる。
(……もう少し、きちんと考えてから転職をするべきか否かを決めましょう)
松本は瀬名にお礼を言った後、ログアウトをした――……。
松本が選ぶ上級職は、一体どのようなものなのか、まだ松本自身も分からないままだった。
―― 登場人物 ――
8504/松本・太一/48歳/男性/会社員・魔女
TK01/瀬名・雫/14歳/女性/女子中学生兼ホームページ管理人
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松本・太一様
こんにちは、いつもご発注頂きありがとうございます。
感想の方も、とても嬉しく拝読させて頂いております。
今回もシチュノベをご発注頂き、ありがとうございました!
内容の方はいかがだったでしょうか?
気に入っていただけるものに仕上がっていれば幸いです。
それでは、また機会がありましたら宜しくお願い致します。
2014/10/24
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