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<東京怪談ノベル(シングル)>


懐かしの学園ハロウィン


「ん〜、懐かしいなぁ」
 とある学園の門前に、白衣のような長い外套を羽織った女性が立っていた。
 セレシュ・ウィーラー(8538)だ。
「久々に帰ってきたでぇ。東京もええけど、やっぱこの学園もええわぁ」
 ぶんぶーん、と乙女の必需品とか着替えとかを詰めたバッグを回して学園内に歩を進める。在学時には何度も通った門。何度も笑い、何度も怒り、何度も何度もかけがえのない――。
「あ、ごきげんよう。……トリック・オア・トリート、です」
 心地良く足を上げて懐かしの空間に一歩入ったセレシュ、いきなり呼び止められた。
 学園生風の少女がいたが、なぜか赤ずきんちゃん風の衣装をまとっている。
「あ、そっか。ちょい早いハロウィンやね?」
「はい。楽しんでくださいね♪」
「学生さんは、もしもいたずらするならどんないたずらするんや?」
「私は……」
 嬉しそうに話すセレシュだが、女学生は恥らった。抱えたお菓子かごにはすでにたくさんのお菓子が入っていた。
「私は、今年はお菓子をあげるの専門ですから」
「ん、ちょい待ち。このかごの中、キャンディーかと思ったら包みは全部一口サラミとか一口チーズとか酒のつまみばっかやん」
「その、こういうのが好きな可愛らしい先生が……」
 セレシュに言われてさらに恥らう女学生。
 ここで聞き覚えのある声が。
「こら。仮装行列はまだ外に出る時間じゃないだろ」
 はっと振り返る女学生。
「せ、先生。私にトリックしてくださいっ!」
 女学生が夢見る少女そのままに目を力いっぱい瞑ってお菓子かごを差し出した。その先に、明らかにこの少女よりも若いのではないかと思われる外見ながら、堂々と立つ姿があった。
 先生と呼ばれた少女……いや、女性がセレシュを見て目を見開いた。
「ん? お前は……セレシュか?」
「ロリ先生……」
 セレシュの方も瞳を大きくして見返していた。
 旧知であるらしい。
 ああ、感動の再会。
 が、しかし。
「……その胸でバニーガールは止めといたほうがええで。歳も歳やし」
 セレシュ、ロリ先生を指差してぼそりと言った!
「余計なお世話だ! 暴言の罰としてセレシュも仮装な!」
 というわけで、罰を受けることになる。



 日が落ちて、学園生のハロウィン仮装行列は町に繰り出した。
「トリック・オア・トリートです♪」
「ハッピーハロウィーン!」
 魔女や吸血鬼らが通りを歩き、いつも学園生を温かく見守る商店街の人たちがお菓子を贈る
「……どうだ、セレシュ。久々の学園は」
 ロリ先生、セレシュを振り返った。
「最高や。今いる東京じゃこういう姿にも戻れへんしなぁ」
 セレシュは頭髪の先が金の蛇、背中に白い翼を持つゴルゴーンの仮装……いや、彼女本来の姿に戻っている。もちろん石化能力を抑える眼鏡は掛けたままだが。
「それは何よりだな」
 ロリ先生、苦労しているのか、などとは聞かない。
「それより……変らんなぁ。相変わらず甘いお菓子に交じって酒のつまみが飛んでくる」
「そういや、セレシュも飲兵衛に見られて酒のつまみばっかりもらってたなぁ」
 遠い目をするセレシュに、周囲に手を振りながらくすくす笑うロリ先生。
「ちょい待ちぃ。あれは飲兵衛のおばちゃんやおじちゃんばっかやったからやん」
「ま、バカ騒ぎだからな。酒も飲んでるだろう。そのおすそ分けだ。……いい町じゃないか」
「酒飲みだらけがいい町かいな?」
「いまセレシュのいる町は酒飲みだらけか?」
 ロリ先生、真顔で聞いてきた。
「んー……。そうとは限らんけど、楽しゅうやっとるよ」
「なら、いい。いまはここで楽しくやれ」
 微笑したセレシュに笑みを返すロリ先生。最後にセレシュのお尻を叩くと駆け出して町の人に「トリック・オア・トリート」。いたずらが望みだったらしく、鼻を洗濯ばさみでばちんとつまんでやったりしていた。
「センセも楽しゅうやっとって、ええな」
 セレシュ、ホッとしつつ自分も楽しむべく駆け出した。

 そして場所は学園の寮に。
「いいな、セレシュは」
 ロリ先生がそう言って酌をしてくる。酒の銘は『江戸紫』。
「ええって、何?」
 受けて酒をちびりと飲むセレシュ。ちなみにこの酒、セレシュの東京土産だったりする。
「あの時のままで変わりがない」
「ああ……センセもうちも寿命長いもんな」
 納得してつまみに手を伸ばす。
「そういやセレシュ、さっき東京ってところでエステしてると言ってたな?」
「エステやないねん。針灸院や」
「ほほぅ。お手並み拝見してみたいものだな。……まずは脱げばいいのか?」
「わー、ちょい待ち。そんなんせんでええから」
 がばっ、と上着を脱いだロリ先生。すでにバニーガール姿から着替えて普段着に戻っている。
「なんだとー。私の脱いだ姿は色気がないだとー」
「んなこというとらんて」
「この年になっても男がいないのはどーせ男が手を出したら捕まってしまうようなこの外見のせーだ、どいつもこいつもかくごがたらん、つかまってしまえばいーではないかー」
 口調も怪しく膝を立てて拳をぐぬぬ。
「あああ、センセがまた大トラに……」
「なんだとせれしゅー、おまえの酒量がたらんのが悪い。おまえものめ、もっとのめ」
「ちょ、ぐいぐいぐい呑み押し付けんといてやー」
「ええい。むかしのせれしゅはせいじゅんでじゅうじゅんでかわいかったのにー、あのころのにんぎょうのようなせれしゅにもどれい!」
 ぐにむにと押し合いへし合いしていたが、ばっと離れたロリ先生が人形化の術をっ!
「はっ!」
 セレシュ、もろにこれを受けた!



 が、人形化したのはロリ先生の方だった。
「……こんなこともあろうかとあらかじめ呪詛返しを仕込んどいてよかった」
 セレシュ、ホッとしつつ胸の前を惜しみなくはだけた。胸の谷間から、役目を終えた人形(ひとがた)のネックレスがぼろりと崩れ落ちる。
「センセにうまく返ったようやね」
 四つんばいになって着衣が乱れたまま固まっているロリ先生の前に行き、目の前で手を振ったり体を突いたりして確認してみる。
 まったく反応はない。人形化している。
「やれやれ……ん?」
 嘆息しつつ先生の服を直していたが、ふとハ ロウィンな事を思い出す。
「トリック・オア・トリート?」
 恐る恐る効いてみるセレシュ。もちろん反応はない。
「トリックかー。仕方ないなぁ」
 というわけで、いたずら開始。
「センセ、もうちょっと色っぽくならんかなぁ?」
 先ほどの話を思い出し、いろいろやってみる。
 例えば、とブラウスの前をはだけて白いブラのピンクなリボンを露出させてみたり。
「あ、あかん。胸にふくらみがないのが致命的や」
 失礼なことを言いつつ自らの鞄から着替えを出す。
「あったあった。ブラを変えて……でもって、中に何か詰めて……」
 ブラウスの腕を抜いて腰まで下げると自分の着替え用ブラを着けさせる。圧倒的に隙間が空くので、まずはハンカチを詰めてやる。
 が、片方はどうする?
「これでええかな? ちょい失礼するで」
 ロリ先生のストッキングを片方脱がし、丸めてもう一方のブラの中に詰める。
「これでええ。ブラウスは上げて乱しなおして、腰はこうしなだれて……スカートはギリギリまでめくって片方生の足は内股をすりすりさせむっちりと流して。……お、ええね。酔うとるからちょうど火照ってるやん。息が上がってるようにあごを出して、人差指をくわえて、目元はマッサージしてうっとりしたように……」
 すっかりロリ少女のお色気ポーズ作成に夢中だ。ひとりできゃっきゃ楽しんでいる。
 が、セレシュも良く飲んだ。
 後の記憶がない。寝てしまった。



「セレシュ。人形化しても記憶が残るの、知ってるだろ?」
 目覚めた時、怒髪天を突いているロリ先生の姿があった。背後に赤ずきんの女学生が心配そうに隠れている。
(はっ!)
 セレシュ、息を飲んだ。というか、声が出ない。身動きもできない。人形化している。
「びっくりしました。朝のご挨拶に来たら先生、すっごいポーズでしたから」
 どうやら赤ずきん学生が事態に気付き、先生を助けたらしい。で、セレシュにお仕置き中。
「罰の仮装、ここでしてもらったからな」
 どん、と姿見を前にするロリ先生。
 そこには――
(ひぃぃ)
 バニーガール姿で両手を頭の後ろにして髪を上げ、胸をそらしてうっふんしているセレシュの姿があった。
「そういえば胸を大きくされたな……。詰め物でもしておくか」
「はい、先生!」
 赤ずきん学生がセレシュの脱いだ下着を手に取り胸の部分に詰める。
(き、きつい〜)
「しばらくそのままな」
――ばちん!
 最後に洗濯ばさみで鼻をつままれ、セレシュのハロウィンは終るのだった。