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<東京怪談ノベル(シングル)>


―― 白き牙 ――

「……あたしは、どこまで強くなれたんでしょう」
 海原・みなもは自分の手を見つめながら、ポツリと独り言のように呟く。
 彼女は長い時間をかけて、装備を整え、スキルも強化して、彼女自身も腕を磨き、努力は怠っていない。海原自身が出来る努力はしており、あとはキャラクターの強化。
 キャラクターの強化をどうするか、と考えている時に、瀬名・雫から聞かされたのは『転職』と呼ばれるものだった。
 現在の武闘術師の能力では、これから先を生きていくことは出来ない――……と考え、海原は今の職業からの転職を考えていた。
(転職には特殊アイテムとレベル……地道にやってきているから、レベルが足りないということはないでしょうけど、問題は特殊アイテムですよね)
 今まで普通にゲームを進めてきたけど、転職なんて言葉は瀬名から教えてもらうまで、誰からも聞かなかった。
 考えられるのは、知っているけど教えてもらえなかった、知っている者がいなかったから教えてもらえなかった、の2つのみである。
 けれど、前者は限りなく低い可能性だと海原は考えていた。
 何故なら、彼女が今まで出会ったプレイヤーは瀬名を含めて初期に選べる職業、もしくはその上位職業でしかなかったのだから。
 プレイヤーがいれば、相手のステータス画面を見る事が出来る。けれど、その中に瀬名から聞いた夜のみ活動出来る術師、昼のみ活動出来る術師、そんな職業の名前をも持つプレイヤーはいなかった。
(……いえ、今はそんなことを考えている場合ではありませんよね、あたし自身の転職、それだけを考えなくちゃいけないのですから)
 海原はジッととある洞窟の前に立っていた。
 ここには動物系の職業に転職するアイテムが眠っていると、瀬名に調べてもらっていた。
 ただ、ここは高難度洞窟にも指定されており、今まで最深部に到達した者はいないとされている。
 転職アイテムは原則1人で挑まねばならない、だから瀬名は調べることしか手伝えない。
「……みなもちゃん、大丈夫?」
 瀬名が心配そうに海原の顔を覗きこみながら問いかける。
「大丈夫です、あたしだって今まで何もしなかったわけではありませんから」
「……うん、そうだよね。今のみなもちゃんはそこらのプレイヤーよりステータス凄いし」
 瀬名は苦笑しながら呟く。
 防御面を優先してパラメーターをあげていたせいか、攻撃面では普通のプレイヤーより少し上な程度だが、防御面では結構な凄さを見せている。
(あたしが狙っているのは、四獣シリーズで、モンスターではなく『職業』としての虎か
朱鳥…もちろん、玄武や青龍でも嬉しいんですけどね)
 ごくり、と喉を鳴らしながら海原は洞窟の中に足を踏み入れた。

※※※

「汝が求めるは、どんな力なりや」
 洞窟に入った途端、巫女風の衣装を身にまとったNPCが現れた。
「え?」
「答えよ、己の答え次第で四獣の性質を見極める」
(もしかして…)
 海原の頭の中に、1つの予想が過ぎる。
(ここは、四獣のどれかに転職するアイテムがあるのではなく、すべてがある…?)
 答え次第で四獣の性質を見極める、ということは海原自身に合う四獣への道に繋がるということなのだろう。
「答えよ、生半可な覚悟では先に進めぬと知れ」
「……あたしにはやらなければならないことがあります。それを終わらせないまま果てるわけにはいかないのです、そのために生存能力も重要だけど、戦闘に打ち勝つ力も欲しい」
 贅沢な答えと言われるかもしれないけど、それが海原の心からの言葉だった。
 防御面だけを鍛えても、攻撃面が並程度では、じり貧になってしまい、負ける可能性だってある。攻撃に特化した敵に会えば、防御を高めていてもやられてしまう、逆に防御を特化した敵にあったら、こちらの攻撃が通じないかもしれない。
 だから、あえて海原は両方を望んだ。LOSTの異変を解決するために。
「……主を呼びたるは確固たる意志を持ち、穿つ牙を持つ白虎殿、進むがよい」
「え?」
 てっきり戦闘があるかと思っていたのに、先に進め、と言われて海原は目を瞬かせる。
「ここは心の試練を行う場、生半可な答えを持つ者は妾が消し去るのみ。主は強き心を持ち、白虎様に認められた、故に道が現れたのじゃ」
(最深部に到達できない人ばかりだったのは、この人に認められなかったから…)
 プログラムされているデータのはずなのに、誰も認められなかった。
 ……つまり、LOSTにはプログラムの他に何か別の力が動いているということになる。
(いえ、今はそれを探る時ではないでしょうね、今は転職アイテムを持ち帰らなくちゃ)
 最深部に到達した海原は、白く輝く宝玉が置かれている部屋に通される。
「白蓮・穿牙士(ビースト)に転職する宝玉……」
 攻撃面に特化しており、一撃必殺の技を多く有する職業――。
(今は、これを持ち帰りましょう。転職するかは瀬名さんと相談して決めないと……)
 淡く輝く宝玉を手に持ちながら、海原は洞窟を後にした。
 いつかまみえる敵に、その牙を向けるために――……。


―― 登場人物 ――

1252/海原・みなも/13歳/女性/女学生

NPCA003/瀬名・雫/14歳/女性/女子中学生兼ホームページ管理人

――――――――――

海原・みなも様>
こんにちは、いつもご発注をありがとうございます。
今回は転職アイテムを入手する話でしたが、いかがでしたか?
気に入って頂ければ幸いです……!

それでは、今回は書かせて頂きありがとうございました!

2014/11/13