コミュニティトップへ
高峰心霊学研究所トップへ 最新レポート クリエーター別で見る 商品別一覧 ゲームノベル・ゲームコミックを見る 前のページへ

<東京怪談ノベル(シングル)>


Hello,New full dress


 自身の執務室で、珍しくデスク・ワークにつとめていた白鳥瑞科(しらとり・みずか)だったが、ノックもなしに執務室の扉が開け放たれたのには、さすがに顔を上げて、
「誰ですの?」
「やあやあ、私だよっ、瑞科ぁー!」
 こたえたのは、彼女と仲の良い女性科学者だった。幼い顔立ちに人懐っこい性格のため、落ち着いている瑞科と比べて年下に見られがちだが、実は瑞科よりも年上である。
「どうしたのですか、いきなり」
「ふっふっふ、朗報だよー、朗報。聞いてビックリ見てビックリ。またまた最高の発明品を生み出してしまったのさ!」
「あら、それは素晴らしいことですね。それで、その発明品はどこに?」
「まあまあ、そう焦らないで。まずは私についてきてよっ。さあさあさあ!」
 返事も待たずに、彼女は瑞科の手をとって走りだす。相変わらずですこと、と柔らかい苦笑をもらして、おとなしくついていくと、連れて行かれた先は彼女の研究室だった。
 足の踏み場もないというのはまさにこのことで、物があちこちに散乱していて、どこに何があるのか、研究室の持ち主以外には見当もつかない。
「入って入ってー。ちょっと散らかってるけど気にしないでね」
 いつもの調子で瑞科を招き入れ、女性科学者はひょいひょいと部屋の中を進む。そして、自身のデスクの前で手をにぎにぎさせながら、マッドサイエンティストめいた妖しい笑みを浮かべた。
「今日瑞科に紹介するのはこれっ! 我らが「教会」の持てる技術と叡智を結集させた超超超っ! 最新鋭の戦闘服! もちろん瑞科仕様だよ!」
 大層な言葉と共に取り出されたのは、一見、いつも瑞科が身につけているものと全く同じに誂えられたシスター服だった。
「ほらほらほら、見てるだけじゃこの服の凄さはわからないよー! 百聞は一見にしかず! 実際に着てみないとね! さ、はやく着替えて着替えて!」
 服を押し付けられた瑞科は、きょとんとした表情で女性科学者を見返し、
「あの、今ここで?」
「んー? 恥ずかしいの? 私と瑞科の仲じゃない。私はぜーんぜんかまわないよ。むしろ眼福だし! 目の保養!」
「お気持ちはありがたいのですが、更衣室、使わせていただきますね」
「ああん、つれないなぁ」
 軽くあしらって、瑞科は備え付けの更衣室へ入った。優雅に着ているものを脱ぎ、極上の色気を漂わせる下着姿になってから、感触を確かめるように一つ、また一つと新たな衣装を身にまとってゆく。
 絶妙なフィット感に、着ていることすら忘れさせるほどの軽さ。
 この薄い生地のなかに、どれほど最先端の技術が凝縮されているのだろう。文句のつけようがない、完璧な着心地だ。
 新たな装いで更衣室から出てきた瑞科に、女性科学者はにかっと笑ってみせ、
「どうやら第一段階は満足みたいだね。じゃあ次は実戦テストだよ!」
「よろしくお願い致します」
 二人は訓練室へ移動した。ここでは最新VR機能を使い、限りなく実戦に近いトレーニングを行うことができる。
 瑞科がVR室に入るのを確認し、女性科学者が外のコントロール・ルームからVRトレーニング実行ボタンを押した。当然ながら、難易度は最高に設定してある。
 こうして始まった実戦テストだったが、結論から言うと、五分と経たずにテストは終了した。瑞科があっという間に敵を全滅させてしまったのだ。
「うーん、いつものことだけど、こうあっさり終わってしまうと、見ているほうはどうなのかわからないね! こりゃあ難易度をもっともっと上げる調整もしないとだなぁ」
「あら、それはごめんなさい。でも、わたくしは満足いたしましたわ。本当に、素晴らしい出来。完璧な仕事をどうもありがとうございます」
「そう言ってもらえると嬉しいね。まぁ、私のする仕事だから、完璧なのは当たり前なんだけどねっ! あははっ!」
「ええ、本当に。わたくし、まだやらなければならない仕事がありますので今日のところはこれで……」
「はいはーいっ! またなんかすごいのを作ったら、いの一番に瑞科に知らせるよ!」
「よろしくおねがいします。それでは……」
 女性科学者と別れ、瑞科は執務室へ戻る。その道すがら、瑞科はふと立ち止まり、シスター服の生地を愛おしげに指先で撫で、
「これからよろしくお願い致しますわね。新しいパートナーさん」
 新たな衣装と臨むまだ見ぬ任務へ、期待に胸をふくらませるのであった。